▲(C)2013MaryMcCartney

70年の初ソロアルバム『マッカートニー』から、ウイングスを含む現在までのポール・マッカートニーの活動の中で、まず聴くべき作品はどれとどれか。そう問われれば、本当は「全部」と答えたいところで、しかも時系列で聴いていただければ、ロックンロール史上最高の天才の一人が生んだ豊かな音楽的世界遺産をたっぷり楽しめるのだが。そんな時間もお金もないし、という方のために、駆け足でポール・マッカートニーの40年以上に及ぶ活動の中の見どころ聴きどころを紹介したいと思う。とはいえポールの全作品は現在アーカイヴス化が進行中で、旧カタログが一旦市場から消えているので、特に70~80年代の作品は手に入りにくいものも多数存在する。逆に言えば、聴ける作品が少ない今こそ、ポール・マッカートニー入門編に適した時期なのかもしれない。何事も、目覚めた時が適齢期なのだ。

◆ポール・マッカートニー~拡大画像~

まず70年代では、『ラム』『バンド・オン・ザ・ラン』の2作が手に入りやすい上、内容的も最高級の逸品であるのは間違いないところ。『ラム』はおそらくポールの全作品中最も「1曲ごとのバラエティが異常に豊か」なアルバムで、アイディアが多彩すぎてサウンド的に荒っぽい部分もあるが、ロックンロール、カントリー、ファンクやソウル、イギリスの伝統音楽のルーツなど、ポールの最大の特長である「何でもミクスチャーしてしまう」特性が良く出た傑作。そして『バンド・オン・ザ・ラン』は、ビートルズの面影を強く残すタイトル曲を筆頭に、緊張感あふれるバンドサウンド、心踊るメロディ、しっかりと練りこまれたアレンジが一体となった名曲がズラリと並んだウイングス最大のヒット作。今もライヴで演奏する曲が多数含まれているという意味でも、これを聴かねば始まらない代表作だ。そのほか、『ラム』に匹敵する超バラエティ娯楽作『ヴィーナス・アンド・マーズ』や、ウイングス後期のバンドの充実ぶりを示す『バック・トゥ・ジ・エッグ』など、ウイングスには佳作が多い。アーカイヴス化が進んだあかつきには、ぜひすべて手に入れていただきたいと思う。


▲(C)2013MaryMcCartney

ウイングスと共に過ごした70年代が終わると、ポールは再びソロへと回帰。80年代の代表作は『タッグ・オブ・ウォー』(スティーヴィー・ワンダーとのデュエット「エボニー・アンド・アイボリー」収録)が筆頭で、ビートルズを支えたジョージ・マーティンの緊張度の高いプロデュースのおかげもあり、1曲ごとのクオリティと充実度がハンパじゃなく高い。

ここで少々脱線すると、ポールはその天才ゆえの気まぐれか、時折気を抜いたようなラフな作品を出す癖があり、70年代の『ワイルド・ライフ』、80年代の『マッカートニーII』などがそれに当たる(それはそれで楽しめるのだが)。それゆえ「ご意見番」としてのプロデューサーの存在が大事なのだが、ジョージ・マーティンほどそれに適した人はいなかった。このコンビは次作『パイプス・オブ・ピース』でも引き継がれ、それからさらに30年が過ぎた今、最新作『NEW』にジョージの息子、ジャイルズ・マーティンがプロデューサーで参加していることを思うと、大河ドラマ級の長い物語に胸が熱くなる思いがする。

80年代の終わりには『フラワーズ・イン・ザ・ダート』という良質な作品もあったが、『タッグ・オブ・ウォー』と共にこちらも現在手に入りにくいため、先を急ごう。90年代の代表作は、何といっても『フレイミング・パイ』。この時期はちょうどビートルズの『アンソロジー』シリーズの作業を終えた頃で、そちらにも参加していたジェフ・リン(ELO)をプロデューサーに迎えた、シンプルなロックンロールと愛らしいポップスを収めた心ときめくアルバムだ。アルバムタイトルもビートルズ時代のエピソードに基づくもので、そう考えるとソロになってからのポールの傑作はすべて「ビートルズに回帰したもの」という言い方をしたくなるが、実際そうなのだろう。ジョン、ジョージ、リンゴはビートルズから離れることで自分の世界を作ったが、ビートルズが自分そのものだったポールは、その世界から離れることはできなかった。『フレイミング・パイ』も入手困難だが、ノスタルジーいっぱいのややレイドバック気味のロックサウンドと、ポール独特のジェントルで美しいメロディが詰まった名作だ。

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