▲(C)2013MaryMcCartney

ポール・マッカートニー、御年71歳。改めて年齢を聞いてギョッとなった。「もうそんな年なの!?」と。ギョッとなったのはそれなりに理由がある。昨年12月にニルヴァーナ再結成のニュースが流れた。ニルヴァーナはヴォーカルのカート・コバーンが'94年に亡くなったのをきっかけに解散し、以来、ライヴを行うこともなかったのだが20年振りのステージをハリケーン・サンディのチャリティーコンサート「12-12-12」で見せるという。そのヴォーカルを務めたのがポールだった。

◆ポール・マッカートニー~拡大画像~

意外な組み合わせにも驚いたが、ポールのフットワークの軽さに驚いた。それまでポールはニルヴァーナのことをよく知らなかったのに、カートの代役を引き受けるなんて、やるなぁ、カッコいい……と。年齢も音楽性も違うのに、そこにポンッと入り込んでしまえる柔軟さ。まさかその時すでに70歳だなんて思わなかった。「俺は大御所だ!」と、ふんぞり返っている人には出来ないだろう。彼は根っからの音楽人なんだ。そういえば、ロンドン五輪の開会式では、わずか1ポンドで出演を請け負っただけでなく、本番でプレイバック(事前に録音したオケ)が流れているにも関わらず生演奏をはじめてしまった。再び繰り返すがカッコいい。


▲(C)MaryMcCartney

そして、本題は、『追憶の彼方に~メモリー・オールモスト・フル』以来、6年振りのポールの新作『NEW』である。疾走感のあるヘヴィでいなたいギターサウンドの「Save us」からアルバムはスタートする。泣きのあるメロディは2曲目「Alligator」まで続く。いきなり重い幕開けに戸惑っていると、「On My Way To Work」からやや空気が変化する。ポールの穏やかな歌声が淡々とした日常を語っていく。サウンドもリリックに合わせて淡々としている。閉塞されたそんな日常を打破するように、4曲目の「Queenie Eye」がはじまる。「人生はゲームだから、いちかばちかやってみよう」「ロマンスが起こることが稀なのを状況のせいにするな」などなど、停滞している「今」に喝を入れるようなメッセージが並ぶ。サウンドはポールらしいキャッチーさがちりばめられている。そして続いての「Early Days」はアコースティックギターの音色やポールの美しいファルセットにうっとりする。リリックで唄われているのは、若かりし日のポール自身なのだろう。夢を持って音楽をはじめたばかりの日々。甘美な思い出が綴られていて、聞いているだけでゾクゾクする。最後のほうになんとなく「Let it be」を思い出させるようなフェイクがあり、今のポールが昔の自分に向けたリスペクトを感じた。

アルバムのタイトル曲である「NEW」は、「ペニー・レイン」を彷彿させるようなサウンドと評されていたが、「なるほど」とうなった。これぞポールな王道。あくまでもこれは主観に過ぎないが、「Early Days」が古き良き音楽の時代を唄っているとすれば、これは現在の音楽シーンに当てはめることも出来るのではないか。インターネットを経由して音楽を買う時代になり、ポールの前作は発売前にアルバム全曲がインターネット上に流出してしまうという事件もおこった。音楽にとっては良いこともあるが、受難の時代でもある。「世界は新しくなった。なんの保証もないけど、失うものもない。自分の思った通りにやりたいことをやればいい!」と、挑戦する勇気をこの曲からもらう。

そして、ここからはポールの新たな挑戦を感じる曲が続く。グニャッと歪んだようなサウンドが特徴的な「Appreciate」。「Everybody Out There」は、群衆に向かって演説しているようなリリック。ライヴでは拳を突き上げたくなるような力強さだ。「Hosanna」は神を賛美するヘブライ語だ。タイトルも聞き慣れないが、サウンドがまた不思議。逆回転のような音からはじまり民族的な雰囲気で、アウトロまで良い意味で奇妙な聞き心地だ。「I Can Bet」は、バンドでコピーしたくなるようなシンプルなロックサウンドだが、随所にヒネリが加わっているところに円熟味を感じる。「Looking at her」はポールならではの甘い声が魅力的。聞いていてメロディにキュンとするなぁと思ったら片想いの恋の歌だった。日本盤のアルバムにはボーナストラックも三曲含まれるが、本編は「Road」で終わる。まるで映画のエンドロールのような重厚さ。


▲(C)2013MaryMcCartney

タイトルの通り、道をズンズン進んで行くようなリズム。暗いトンネルの中から光を目指して進んでいるような力強いサウンド。「Heading for the light(光を目指して...)」と、前向きな言葉でリリックは締めくくられているが、サウンドの雰囲気は不穏で、未知数の未来を予感させるような余韻いっぱいのエンディング。そして、アンコールのように始まるボーナストラックの「Turned Out」「Get Me Out Of Here」「Struggle」に救われる。

ポールほど音楽経験が豊富なアーティストが新しいことに挑むというのは並大抵ではないだろう。しかし、音源を聴いていると、サウンドは重厚だが、ポール自身、音楽に対して飽きるということがないんだろうなというワクワクした空気が感じられる。自分の色を残しながら絶妙に新たな色味が今作に加わったのは、エイミー・ワインハウス等を手がけて来たマーク・ロンソンや、アデルのヒット・メーカーでもあるポール・エプワースなど、若手クリエイターとの作業によるものも大きいだろう。でも、何よりもやはり、冒頭にも書いたようなポール自身の柔軟性や音楽に対しての探究心が「NEW」に新鮮さを与えているのだろうと思う。守りに入らず挑戦するポールの姿勢は、この作品を聴いた若手クリエイターにも勇気を与えるだろう。

文●大橋美喜子

『NEW』【SHM-CD】
2013.10.14発売
UCCO-3048 \2,600(tax in)
1.セイヴ・アス / Save Us
2.アリゲイター / Alligator
3.オン・マイ・ウェイ・トゥ・ワーク / On My Way to Work
4.クイーニー・アイ / Queenie Eye
5.アーリー・デイズ / Early Days
6.NEW / New
7.アプリシエイト / Appreciate
8.エヴリバディ・アウト・ゼアー / Everybody Out There
9.ホザンナ / Hosanna
10.アイ・キャン・ベット / I Can Bet
11.ルッキング・アット・ハート / Looking At Her
12.ロード / Road
13.ターンド・アウト / Turned Out
14.ゲット・ミー・アウト・オブ・ヒア / Get Me Out Of Here
15.ストラグル / Struggle

<来日公演 アウト・ゼアー ジャパン・ツアー>
11月12日(火)大阪公演
11月15日(金)福岡ヤフオク!ドーム
11月18日(月)19日(火)21日(木)東京ドーム