【インタビュー】森広隆「なんとなく聴いていても、それだけで何かが伝わる。そういうふうに聴いてもらえたら幸せです」

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5月にリリースされた森広隆のアルバム『いいんです』が、とてもいい。しなやかでグルーヴィーなブラック・ミュージックの要素と、キャッチーで口ずさみやすいポップスのエッセンスが融合した、ゆっくり何度も聴きたくなる優しいアルバムだ。ゲストの川本真琴、三浦拓也(DEPAPEPE)や、作詞で参加した小室みつ子など、森広隆の音楽を愛する同志たちのサポートも強力だ。リリースにともなって今年後半のライヴ活動は活発で、mellow tonesと名乗るバンド形態と弾き語り、さらに10月20日からは“JAM ADDICT”と題した新たなイベントもスタート。デビューから12年の時が過ぎたが、もしかして今が最も自由で自然体なのではないか? 森広隆の音楽は、熟成を重ねながら徐々に最良の時へと近づきつつある。仲の良いアーティストからのメッセージも含んだロングインタビューをどうぞ。

■“日本語のポップスをグルーヴィーに”というテーマが
■新しく加わったかもしれない。ポップス的な要素というか

──アルバム『いいんです』、とても良かったです。リリースはしばらく振りですよね。

森広隆(以下、森):そうですね。前が2009年だから、4年ぐらい経っちゃってます。もうちょっと早く作りたかったんですけど。

──いや、その4年間というゆったりとした時間が音楽に溶け込んでいるような、自然体の感じが良かったです。今日は久しぶりに森さんに会えるということで、1stアルバム『並立概念』(2002年)を聴き直してから来たんですが、あの頃はサウンドも歌もすごくテンションが高くて、“オレを見ろ!”的な勢いというか(笑)。ガツガツしたパワーをすごく感じたんですが、今はいい意味でソフトになってきているというか、やっぱりかなり変わってきてると思いました。そのへん、自分ではどう感じてますか?

森:確かにあの頃は一生懸命というか、全力な感じはありましたね。今ももちろん、手を抜いてはいないんですけど。昔のやつは、けっこうギリギリな感じでやってるじゃないですか。

──そうですね。明らかに。

森:その時はその時の良さがあったと思いますし…何て言うのかな、“音楽を仕事にする”ということの矛盾って、いっぱいありますよね。たとえば“こういう歌を歌いたい”“こういう音楽をみんなに紹介したい”という素直な気持ちと、周りから求められることの矛盾というか、そこの間でけっこうしんどいことが多かったんですよね、若い頃は。自分の理想をなぜそのまま音楽にして、商品としてCDショップの棚のところまで持っていけないんだろう?ということで、もどかしいところがあったんです。それがだんだん長くやってると、そもそも人が生きて行くことは、野生動物をマンションで飼うような難しさがあるんだなと思うようになってきて、“そのぐらいが普通だから”と思うようになったので。そこからより自由に思ったことを素直にやっていこうという、そういう気持ちの変化はありました。

──はい。なるほど。

森:デビューした時はそういう矛盾とか、納得いかないことを全部拒否してたんですが、それだと逆にできないことがいっぱいあったんです。良くも悪くもここで生きていくということを、そんなに考えていなかった気がします。でもたぶん今回のアルバムは、“この世界でこうやって生きていこう”という内容になっていると思います。その中でも自由に音楽はできるんだ、というような。

──まさに、そういう感じだと思います。あんまり昔話ばかりしても仕方ないんですが、もうひとことだけ。ここに約11年前に僕が森さんにインタビューさせてもらった時の資料を持ってきたんですが、音楽を作るというエネルギーの源について、こんなことを言ってるんです。“自分がどうしても人と違ってしまうことや、社会と相容れない部分や、現状に納得していない部分や、そういうものが力になっている”と。

森:あ、それは今も同じかもしれない。今回のアルバムに入っている「いいんです」という曲は、すごく柔らかい感じの歌詞やメロディにしてるんですが、コンセプト自体はむしろ今の社会へのアンチテーゼで、“もっと頑張ってもっと結果を出せ”という社会に対して、“何と思われても自分の生まれたままを否定せずに、肯定していこうよ”と言っているので。たぶん人は生まれ持って“もっと良くなろう”という気持ちがあって、それは生き物はみんな持ってる気がするんです。だからそんなにケツを叩かなくてもいいと思うし、しかもケツを叩く方向がその人の行きたくない方向だったら萎えちゃうというのがあって、現代はそういう状態に陥ることがすごく多い気がする。本来の力を発揮したらもっともっと、結果として人の役に立ったり楽しかったり、本当はそうできる余地はあるだろうな…というもどかしさから出てくる気持ちで曲を作っているから、そういう意味では同じだと思います。

──そこは変わらないんですね。

森:ただそれを、辛いから早く脱却したいと思うのではなく、“これが現代で音楽をやっていくことなんだな”と思うようにはなってますね。

──変わらないところと、変わったところと、今の話でよくわかりました。一方で、音楽的な好みという点ではあんまり変わってなさそうですね。

森:そうですね、グルーヴィーなものが好きです。

──もともと森さんは、ジャミロクワイから入って、スティーヴィー・ワンダーへさかのぼって、どんどんブラック・ミュージックにハマッていって…という人ですよね。

森:そうですそうです。最初にジャミロクワイをたまたま聴いて、グルーヴィーな音楽が大好きになって…という感じです。あまり詳しくはないですけどね。アース・ウィンド&ファイヤー、タワー・オブ・パワー、クール&ザ・ギャング、アベレージ・ホワイト・バンドとか、ああいうファンク、ソウル系のバンドが好きで、いっぱい聴きましたね。

──そのへんの趣味は、今も変わっていない?

森:たぶんそういうグルーヴィーで、ブルースをベースにしたソウルフルな音楽みたいなものが好きというのは、そうそう変わらないと思います。

──最近そこに加わった新しい要素というのはあります?

森:今回は“日本語のポップスをグルーヴィーに”というテーマはありました。そこの部分が、新しく加わったといえばそうかもしれない。ポップス的な要素が入ってきたというか。

──それは意図的なこととして?

森:そうですね。たぶんそれが、歌詞やメロディのところで今回チャレンジしてみたことだと思います。今は音楽自体が単体で成立するよりも、何かとくっついて成立することがメインになっていますよね。音楽だけを聴くという行為をする人は、音楽を買っている人のうち半分もいないですよね。すごく少ない気がする。たとえばアニメの主題歌であったり、ゲームの曲であったり、歌い手さんのキャラクターがあって、それのグッズ的な位置づけであったりとか。

──いろんなおまけがついたりとか。

森:それを否定しているわけではなく、現実としてそうだと思うんです。そもそも音楽自体はいろんなものとくっつきやすいものだし、昔から劇や芝居の音楽とか、録音物ができる前からそういうものはあったでしょうから。それも一つの形なのかなと思いますが、音楽そのものを一つの表現と考えるのと、何かとくっついて考えるのと、だいぶ違うから。たとえば“今これが売れました”というのが、音楽として売れたのか?というと、全然違う要素が入ってくるので。そこで合理化されていってしまうところに、音楽そのものの面白さが消えていかないように、とは思います。難しいですけど。

◆インタビュー続きへ
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