【インタビュー】森広隆「なんとなく聴いていても、それだけで何かが伝わる。そういうふうに聴いてもらえたら幸せです」

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■<JAM ADDICT>ではジャム・セッションの良さが出したい
■ラフに音で遊んでそれをお客さんと一緒に楽しめたらいいな

──最新作を含めて、森広隆の音楽が今の時代にどんなふうに聴かれるといいな、というイメージはありますか。

森:そんな話をしつつ、今回はタイアップも1曲あるんです(笑)。でもそれは、もともとあった曲を映画の監督さんに気に入ってもらえたという経緯があったので。あと今回一番意識したのは、CDをかけた時に一緒に口ずさんでほしいということですね。今回のサウンドはすごく新しいものを作ろうと思ったわけではなく、新しさは入ってはいますが、それを前面に出すことはしなかったので。むしろ思想的なものというか、たぶん今の社会の中でみんなが思っているけど言葉にできないこととか…、さっき言ったみたいに、本当に行きたい心の動きが置き去りにされている時代だと思っていて。それは昔からあるんでしょうけど、ある意味もっとひどくなっているような気がするので…。いや、どうなのかな? 良くなっている部分もあるとは思うんですが。

──うーん、そこは何とも言えないところですよね。便利とか快適という意味では良くなっていると思いますけど、そのぶん選択肢は狭まっているという感じもありますし。

森:変な話ですよね、それって。一見、いろんなものが増えて便利になったように見えるんですが…。

──実は「この中から選びなさい」ということだったりもするので。それが本当の便利なのか?と思うことも多々あります。

森:広がってるはずなのに、閉塞感がある。たぶんきっとコンテンツ的なものを作る人も、人間の習性をかなり理解して、それぞれ頭で考えてクリエイティヴに生きようという人間が本来持っている力を、考えないでも気が済んじゃうような枠に入れていくことが、上手になりすぎちゃってるのかもしれない。それこそパソコンを開いてネットにつなげれば、もうその中で退屈なんかしないじゃないですか。いろんな動画も見られるし音楽も聴けるし、いろんな人がいろんなことを語っているし。そういうことが上手くなりすぎちゃって、逆に“ぼーっとする”とかのほうが、意識してそれをしないとできない、ぜいたくなものになったりとか。でもそういう認識も、みんなにありますよね。

──そうですね。

森:電波の届かないところしばらくぼーっとしてみたい、みたいな。昔は当たり前だったことが、今の生活の中ではぜいたくというか、手の届かないことになっている。メールもケータイも、便利になったことはいっぱいあるし、それがいいからそっちに流れていっているわけで、昔が良かったという話では全然ないんですけど。それは人間の必然的ものなんだけど、置き去りにされていると感じる部分がものすごくあって、それは言葉にできなくても、みんながどこかで感じていると思う。大多数の人が思うようになったら、買うものも変わってくるだろうし、社会も変わってゆくのかもしれないですよね。そこで、ゆるやかな革命ができる気がするんですよ、音楽には。

──音楽にはそういう力があると僕も思います。

森:そういうのが、今回のアルバムに自分が一番こめたことですね。なんとなく聴いていて、それだけで何かが伝わっていくようなものを。そういうふうに聴いてもらえたら幸せです。

──そんな森さんの音楽がたっぷり聴けるライヴの話をしたいんですけども。10月20日から始まった新しいイベント<JAM ADDICT>は、どんなコンセプトで立ち上げたものですか?

森:僕はもともと演奏が好きで、アドリブみたいなことをするのも大好きなんです。決まったことをやるのもいいんですが、好きなように音を出すほうがむしろクリエイティヴというか、音楽的だったりもするなぁと思っていて。なおかつ、もうなくなっちゃったんですが、渋谷に7ef(ナナエフ)というバーがあって、そこは工藤緑矢(ろくや)さんというベーシストの方がやっていたバーなんですが、ステージにドラムセットやアンプが置いてあって、飲みに行くと“音出していいよ”っていうところだったんです。そこによく行ってたんですが、いろんなプロのミュージシャンの方が遊びに来ていて、知らない人でもそこで打ち解けたりしていた。<JAM ADDICT>では、そういうジャム・セッションの良さが出せたらいいなと思っています。普通のライヴやイベントでは自分の曲を歌うのがメインなんですが、もうちょっとラフに音で遊んでみて、それをお客さんと一緒に楽しめたらいいなということですね。

──<JAM ADDICT>は3か月連続で、10月20日南青山MANDARAのゲストはアンジェラ・アキさん、2回目の11月13日下北沢440のゲストは伊藤祥平くんが発表されてます。そして3回目の12月5日東京キネマ倶楽部のゲストは近日発表予定ということで。

森:祥平くんは若いですが珍しいタイプですよね。ギターと歌だけで一人で成立してるし、あれだけミュージシャン気質の歌い手の人は少ないと思うし。アコギをメインでやると思うんですが、すごく楽しみです。

──森さん自身は、この3回のライヴをやることで自分にどんな影響があるか、何を期待して臨みますか。

森:一番は、その場が楽しいということです(笑)。その時に弾きたいフレーズを弾くとか、本当に解放することってなかなか難しいので。でもあんまりカオスになるとショーとして成立しないので、そのギリギリのラインを攻めたいですね(笑)。そういう楽しみ方をしたいなと思います。

──それがのちに、自分の曲作りにフィードバックするかもしれない?

森:そうですね。それはあると思います。

──毎回サブタイトルがついていて、1回目が“BLACK GLASSES ON TASTY BREAD”、2回目が“TONKOTSU BROTHERS”、3回目が“CONDENSED GROOVE”。

森:これを見れば、なんとなくゲストの想像ができるという…(笑)。“TONKOTSU BROTHERS”は、祥平くんが久留米の生まれで、豚骨ラーメン発祥の地ということで。僕も鹿児島なので、ラーメンといえば豚骨が好きなので、二人でタイトルを考えてる時に“TONKOTSU BROTHERSはどう?”“それいいっすね!”って、えらい気に入ってくれたのでそうしました(笑)。

──このシリーズは、来年以降もやるんですか?

森:そうですね、これはずっと続けていきたいと思っています。7efがなくなっちゃったので、難民なんですよ(笑)。行きつけのバーがなくて。このライヴをやることで、いろんな小屋(会場)を行きつけの場所にしちゃえという感じもあるので(笑)。

──それいいですね。都内のめぼしいライヴハウスを全部行きつけの場所にしてしまうという壮大な企画(笑)。

森:そこに僕が好きなアーティストの方をどんどん呼んで、一緒に遊びたいと思います。それは来てくれるお客さんと一緒に作るものなので、ぜひ遊びに来てください!

取材・文●宮本英夫

Album『いいんです』
MORI-0001 ¥3,000(tax in)
1.愛のBeat
2.I Got My Passport
3.ひとりじゃないさ
4.君への言葉
5.おいしいパン
6.Burnin' Heart
7.Tail
8.Lovely Days
9.キラキラ
10.いいんです

<JAM ADDICT ~TONKOTSU BROTHERS~>
11月13日(水) 下北沢 440
出演:伊藤祥平 / 森広隆

<JAM ADDICT ~CONDENSED GROOVE~>
12月5日(木) 東京キネマ倶楽部
森 広隆、シークレットゲスト
チケット発売 2013年10月27日(日)
[問]ディスクガレージ 050-5533-0888(平日12:00~19:00)

◆森広隆 オフィシャルサイト

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