【インタビュー&CDレビュー】斉藤和義、20周年記念ニューアルバム『斉藤』『和義』

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●斉藤和義インタビュー

斉藤和義が16枚目と17枚目のオリジナルアルバムを同時発売する。タイトルは『斉藤』と『和義』。『斉藤』には2011年にリリースされた前作『45 STONES』以降に発表されたシングル8曲と提供した2曲のセルフカバーが、『和義』には今年作った新曲ばかりが収録されている。

「既発曲ばかりのアルバムじゃつまらないから、“今、歌を作るとこういう感じ”という新曲だけのアルバムを作ろうと思ったんですよ。情報量が多過ぎて聴いていると疲れるから、2枚組は避けたかった。同時発売だから似たようなものなんですけどね(苦笑)。タイトルは決まるまで時間がかかりました。問題は中味だからどんなものでも構わないと思ったけど・・。2枚聴くと“今の斉藤和義”という感じになっていると思います」

聴いた人それぞれに思い浮かぶ斉藤和義像は違うと思うが、タイアップ付きのシングルが並ぶ『斉藤』からは、「やさしくなりたい」の大ヒット、タイアップのオファーが次々と舞い込んでいる現状や、クライアントの意向を十分に汲み、それを枷ではなく踏み切り台にして自分の音楽世界を広げてみせる斉藤の強さとポテンシャルの高さが見えてくる気がした。

『和義』からは、これまでとはひと味違う斉藤が見えてくる。曲作りから全演奏まで1人でこなした曲がある一方で、共作が10曲中5曲を占めている。

「詞も曲も、全部を自分で作るのが基本ですけど、それにこだわりすぎることはないな、と思うようになってきているんですよ。歌詞は自分で書くにしても、曲は他の人と作ってみたいな、と。途中までできた曲のその先を誰かと一緒に作ることで、予想を超えた展開になったりする。自分の曲も広がるし、作っていても楽しいですよ。何より大事なのは“いい楽曲を作ること”。そのために興味のある人と組んで楽曲を作る機会は、今後は増えるんじゃないかな」

10年近く連れ添ったメンバーもいるツアーバンドと2曲、今年になって知り合ったベーシストで作曲家の山口寛雄と1曲、MANNISH BOYSの相方でもある中村達也とRizeのベーシストのKenKenと1曲、さらに今年5月、MANNISH BOYSで“WEEKEND LOVERS ’ 13”のツアーを一緒に回ったThe Birthdayのチバユウスケと丸ごと1曲を共作。

「まさかここに来てチバくんと一緒に作品を作るなんて、自分でも思ってなかった(笑)。ツアー中に間近に接して、出てくる作品は違うけど、曲作りに対する姿勢が一緒なんだろうなあという気がして声をかけたんですよ。歌詞を書く者同士、それぞれにこだわりがあるって、作ってておもしろかったし、作りがいがありました。2人だからこそできた曲になったと思うし、やってよかった」

曲のタイトルは「恋のサングラス」。イントロのギターの響きだけで“いい曲!”と嬉しくなるバラードだ。無骨な2人の歌声と男の子の溢れだす純情が相まって、なんともいえない切なさと愛おしさで胸が一杯になる。他には、はからずも昭和歌謡の匂いを帯びたオケの世界が歌詞を書くときに今は亡き名作詞家・阿久悠を意識させたと言う「流星」、音楽への素直な想いを感じさせる「MUSIC」、“山口くんとだったからすごく久しぶりにこういうタイプの曲ができた”という「天使の猫」、ギターや女性との距離感が伺える「それから」、曲調は好対照だが愛する人への想いが溢れてくるような「Always」と「メリークリスマス」、何があっても自分を信じて前へ進めばいいとエールを送っていると思える「カーラジオ」、人生の切なさを感じさせるような「Cheap&Deep」、もの悲しさの中にほのかに希望が漂う「Happy Birthday to you!」と並ぶ。

2枚20曲を通して聴いて改めて気づかされるのは、斉藤の楽曲がいかにシンプルで豊かか。聴くほどに、口ずさむほどに味わいが増す楽曲たちはどれも、わかりやすく憶えやすい。とても新鮮なのに、数回聴いただけでずっと前から知ってる曲のように馴染む。

「曲の作りにしても仕掛けにしても音色にしても機材にしても、結構マニアックなことはやっていると思うけど、それがそのまま出るのはいやなんですよ。すぐに憶えられる歌謡曲が大好きだった影響もあると思うけど、誰にでも口ずさめる分かりやすさと自分にしかわからないこだわり、その両方をいつも混ぜていたいな、と思ってますね」

斉藤の楽曲は、以前に増して憶えやすくなっている気がする。東日本大震災と福島の原発事故の後、「ミュージシャンとしての自分の存在意義を見失った」と以前斉藤は話していたが、そこを超えた斉藤の中に、音楽で心を和ませる、口ずさんでもらうことで心を楽にする、という意識が強まったのではないか、と思えてならない。また、「普段の生活で感じたり考えていることが歌になる」斉藤だからこそ結果的に反原発色がストレートに出た「45 STONES」を経て、相変わらず消えない不信感や疑問を今は、気づく人は気づくくらいのさりげなさで忍ばせてあるようにも思う。この2年の斉藤の変化も、きっとアルバムに刻まれている。

斉藤は8月25日にデビュー20周年を迎えた。とはいえ、斉藤の実力に人気が追いついたのはここ数年。記念ライブで「デビュー50周年を超えたザ・ローリングストーンズに較べたらまだまだ駆け出し」と話していたが、きっとそれは謙遜でもなんでもない素直な思いのはず。“守り”になんか入ることなく、こだわりから解放された自由な心で、誰より自分が楽しむために、今までにない新しい音楽、もっといい歌を追求していこうと言う果敢な姿勢が、今回のアルバムには映し出されている。斉藤はまだまだこれからおもしろくなると、確信させる2枚になっている。

「本当の意味で曲が完成するのはステージの上」と話す斉藤。10月26日からは斉藤史上最長、約半年に渡る55都市62公演のツアー<KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2013-2014“斉藤&和義”>が始まる。

文●木村由理江
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