【CDレビュー】ザ・ビートルズ、音質、選曲、演奏とも聴きどころ満載の“凄い”ライヴ・アルバム『オン・エア~ライヴ・アット・ザ・BBC Vol.2』

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▲(C)Apple Corps Ltd.

ザ・ビートルズには公式なライヴ作品が存在しない。あれほどの偉大なバンドなのになぜ?と思うが、デビューからわずか4年弱でライヴ活動を休止してしまったことや、60年代前半のライヴはすべてパッケージ・ショーで30分程度の時間しかなかったこと、そしてロック・ライヴの熱気を録音作品として残す技術がその時代にはなかったのだろう。

70年代に『The Beatles at the Hollywood Bowl』として唯一レコード化されたライヴ・アルバムがあったのだが、音質に大きな問題があるため、CD化はおそらく不可能。ビートルズが残した作品は時を越えて大きな影響力を持ち続けているものの、生身のライヴ・バンドとしてのビートルズを知る手段は、90年代に入るまではほとんどなかったと言っていい。

そこへ登場したのが、1994年11月にリリースされた『ライヴ・アット・ザ・BBC』だった。イギリスのBBCラジオのオンエア用にライヴ・レコーディングした楽曲を集めたこの作品は、基本的に観客のいないスタジオ録音ではあるものの、生身のビートルズの魅力を生き生きと伝える画期的な“ライヴ・アルバム”。個人的には、オリジナル・アルバム13枚に、アルバム未収録曲を集めた『パスト・マスターズ』の2枚を足した14作品をビートルズの基本とすれば、その次に聴くべきは『ライヴ・アット・ザ・BBC』だと言いたいほど、ビートルズを知るためには欠かせない作品だと思っている。若き日のビートルズが愛したアメリカのロックンロールやポップスのカヴァーが多く収められていることも、彼らのルーツを知る上で非常に興味深いものだ。

それゆえ、あれから19年が経ち、その続編『オン・エア~ライヴ・アット・ザ・BBC Vol.2』がついにリリースされるという第一報を聞いた時には、興奮を隠すことができなかった。前作と同じくBBCラジオでオンエアされたものの中から、演奏が40曲と曲間の会話が23トラックで、そのうち未発表カヴァーが2曲。かつて『アンソロジー1』に収録された「レンド・ミー・ユア・コーム」などすでに発表された音源が3曲あり、前作『ライヴ・アット・ザ・BBC』とかぶる曲目もあるが、演奏はすべて別テイク。そんなわずかなデータだけを頼りにアルバム全曲試聴会に参加させてもらったのだが、結論から言おう。音質、選曲、演奏において前作よりさらに聴きどころの多い、本当に素晴らしいライヴ・アルバムだ。前作に満足した人ならば間違いなく楽しめるし、“ビートルズはライヴが凄かった”という動かぬ証拠としての価値も十分。ポールの来日に湧く2013年11月にこんな作品が聴けるとは、ビートルズ・ファンにとってはまさに祭りのような至福の時だ。

では、これから聴く人の楽しみを減らさぬように気をつけながら、駆け足で内容を紹介しよう。DISC1の最初に登場するのは『ビートルズ・フォー・セール』収録のバディ・ホリー作品「ワーズ・オブ・ラヴ」。スタジオ録音同様にジョンとポールのハーモニーが素晴らしく、それだけで胸が熱くなるいいトラックだ。「アンナ」「プリーズ・プリーズ・ミー」「ミズリー」などは、アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』の中でたっぷりかかっていたエコーがないぶん非常に生々しくソリッドでカッコいい。そして注目の未発表カヴァー「アイム・トーキン・アバウト・ユー」はチャック・ベリー作品で、ローリング・ストーンズのものが有名だが、ビートルズもアマチュア時代に得意としていたレパートリー。残念ながら音質がかなり悪いが、ジョンの歌をはじめバンドの演奏には相当な熱がこもっている。

これはアルバム全体に言えることだが、前作よりもオリジナル曲がぐっと増え、スタジオ盤で録音されたものも多いので、聴き比べる楽しみがあるのも本作の特長だ。「チェインズ」のイントロにハーモニカがないこと、「ロール・オーバー・ベートーベン」のスタジオ盤よりはるかにワイルドで重たい演奏ぶり、「ゼアズ・ア・プレイス」のアレンジを変えたイントロなど、ファンならば思わずニヤリとする聴きどころも続出。もう1曲の未発表カヴァー「ビューティフル・ドリーマー」はアメリカン・ポップスのスタンダードで、明るいアップテンポにアレンジされた曲をポールが叫ぶように歌いまくる、若さいっぱいのバージョン。「ツイスト・アンド・シャウト」もスタジオ盤よりさらに激しく、ジョンのヴォーカルの凄まじさにはもはやどんな形容も追いつくことができない。

DISC2の冒頭「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」は、お約束のポールの“1,2,3,4!”から始まる勢いある演奏。さらに「シー・ラヴズ・ユー」「フロム・ミー・トゥ・ユー」「抱きしめたい」など歴史的大ヒット曲が次々と聴けるのがDISC2の醍醐味で、ドスのきいたジョンの声が吠えまくる「マネー」もいい。そしてノイズが多いのが玉に瑕だが、「ジス・ボーイ」のハーモニーの中心にいるジョンの声は、不覚にも涙腺がゆるむほど素晴らしい。一方ポールは「ロング・トール・サリー」のパワフルなハイトーンを完璧に決め、ヴォーカル・グループとしてのビートルズは本当に凄かったんだなという認識を新たにさせてくれる。

「恋におちたら」でジョンのヴォーカルがダブル・トラックになっていたり、厳密にはライヴ録音ではないものも時折混ざるが、細かいことは気にしないでおこう。リンゴが普通のドラムキットで叩いている(と思われる)「アンド・アイ・ラヴ・ハー」や、同じくリンゴの正確なビートが印象的な「アイル・フォロー・ザ・サン」など、バラード曲のライヴ解釈がとてもみずみずしい。「アイ・フィール・ファイン」はスタジオ・アウトテイクということで、リハーサル・テイクという感じだが演奏のノリはいい。イントロの例のフィードバックを何度もやり直しているシーンも、現場を想像すると思わず笑みがこぼれてしまう。のちにロック・ミュージックの歴史を変えてしまう革新性が、何気ない音のやりとりの中から浮かび上がってくるような気さえする、ライヴ録音ならではの生々しさがそこにある。

実はこのほかに、ジョン、ジョージ、ポール、リンゴのインタビュー(それぞれ7~8分ほど)が2人ぶんずつ、DISC1とDISC2の最後にくっついている。貴重なものだとは思うが、正直に言えばまとめてボーナス・ディスクなどに入れてもらえばもっと聴きやすい構成になったと思うが、それはそれとして。前作から19年間の技術の進歩により、貴重な音源が現代人の耳に合う形で蘇った『オン・エア~ライヴ・アット・ザ・BBC Vol.2』のリリースを、今は心から喜びたい。うれしいことに、前作も『ライヴ・アット・ザ・BBC Vol.1』と改題され、リマスター盤として同時リリースされるので、そちらもぜひチェックを。20世紀最大のロックバンドが残した生身の演奏は、聴くたびに新たな発見と感動を胸に呼び覚ましてくれるだろう。

文●宮本英夫

『オン・エア~ライヴ・アット・ザ・BBC Vol.2』
11月11日(月)世界同時発売
TYCP-60034/5 ¥3,780(tax in)
★収録曲
DISC1
1. And Here We Are Again (Speech) / アンド・ヒア・ウィ・アー・アゲイン ※
2. WORDS OF LOVE / ワーズ・オブ・ラヴ
3. How About It, Gorgeous? (Speech) / ハウ・アバウト・イット、ゴージャス? ※
4. DO YOU WANT TO KNOW A SECRET / ドゥ・ユー・ウォント・トゥ・ノウ・ア・シークレット
5. LUCILLE / ルシール
6. Hey, Paul… (Speech) / ヘイ、ポール… ※
7. ANNA (GO TO HIM) / アンナ
8. Hello! (Speech) / ハロー! ※
9. PLEASE PLEASE ME / プリーズ・プリーズ・ミー
10. MISERY / ミズリー
11. I'M TALKING ABOUT YOU / アイム・トーキング・アバウト・ユー ☆公式未発表曲(カヴァー曲)
12. A Real Treat (Speech) / ア・リアル・トリート ※
13. BOYS / ボーイズ
14. Absolutely Fab (Speech) / アブソリュートリー・ファブ ※
15. CHAINS / チェインズ
16. ASK ME WHY / アスク・ミー・ホワイ
17. TILL THERE WAS YOU / ティル・ゼア・ウォズ・ユー
18. LEND ME YOUR COMB / レンド・ミー・ユア・コーム
19. Lower 5E (Speech) / ロワー・5E ※
20. THE HIPPY HIPPY SHAKE / ザ・ヒッピー・ヒッピー・シェイク
21. ROLL OVER BEETHOVEN / ロール・オーバー・ベートーヴェン
22. THERE'S A PLACE / ゼアズ・ア・プレイス
23. Bumper Bundle (Speech) / バンパー・バンドル ※
24. P.S. I LOVE YOU / P.S.アイ・ラヴ・ユー
25. PLEASE MISTER POSTMAN / プリーズ・ミスター・ポストマン
26. BEAUTIFUL DREAMER / ビューティフル・ドリーマー ☆公式未発表曲(カヴァー曲)
27. DEVIL IN HER HEART / デヴィル・イン・ハー・ハート
28. The 49 Weeks (Speech) / ザ・フォーティーナイン・ウィークス ※
29. SURE TO FALL (IN LOVE WITH YOU) / シュアー・トゥ・フォール
30. Never Mind, Eh? (Speech) / ネヴァー・マインド、エン? ※
31. TWIST AND SHOUT / ツイスト・アンド・シャウト
32. Bye, Bye (speech) / バイ、バイ ※
33. John - Pop Profile (Speech) / ジョン ― ポップ・プロフィール ※
34. George - Pop Profile (Speech) / ジョージ ― ポップ・プロフィール ※

DISC2
1. I SAW HER STANDING THERE / アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア
2. GLAD ALL OVER / グラッド・オール・オーヴァー
3. Lift Lid Again (Speech) / リフト・リッド・アゲイン ※
4. I'LL GET YOU / アイル・ゲット・ユー
5. SHE LOVES YOU / シー・ラヴズ・ユー
6. MEMPHIS, TENNESSEE / メンフィス、テネシー
7. HAPPY BIRTHDAY DEAR SATURDAY CLUB / ハッピー・バースデイ・ディア・サタデイ・クラブ
8. Now Hush, Hush (Speech) / ナウ・ハッシュ、ハッシュ ※
9. FROM ME TO YOU / フロム・ミー・トゥ・ユー
10. MONEY (THAT'S WHAT I WANT) / マネー
11. I WANT TO HOLD YOUR HAND / 抱きしめたい
12. Brian Bathtubes (Speech) / ブライアン・バスチューブス ※
13. THIS BOY / ジス・ボーイ
14. If I Wasn't In America (Speech) / イフ・アイ・ワズント・イン・アメリカ ※
15. I GOT A WOMAN / アイ・ゴット・ア・ウーマン
16. LONG TALL SALLY / ロング・トール・サリー
17. IF I FELL / 恋におちたら
18. A Hard Job Writing Them (Speech) / ア・ハード・ジョブ・ライティング・ゼム ※
19. AND I LOVE HER / アンド・アイ・ラヴ・ハー
20. Oh, Can't We? Yes We Can (Speech) / オー、キャント・ウィ? イエス・ウィ・キャン ※
21. YOU CAN'T DO THAT / ユー・キャント・ドゥ・ザット
22. HONEY DON'T / ハニー・ドント
23. I'LL FOLLOW THE SUN / アイル・フォロー・ザ・サン
24. Green With Black Shutters (Speech) / グリーン・ウィズ・ブラック・シャッターズ ※
25. KANSAS CITY/HEY-HEY-HEY-HEY! / カンサス・シティ/ヘイ・ヘイ・ヘイ・ヘイ!
26. That's What We're Here For (Speech) / ザッツ・ホワット・ウィアー・ヒア・フォー ※
27. I FEEL FINE (STUDIO OUTTAKE) / アイ・フィール・ファイン(スタジオ・アウトテイク)
28. Paul - Pop Profile (Speech) / ポール ― ポップ・プロフィール ※
29. Ringo - Pop Profile (Speech) / リンゴ ― ポップ・プロフィール ※
※:メンバーの会話23トラック

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