【インタビュー】黒夢「もっと自由であっていいと思うし、僕ら自身が黒夢に縛られる必要もない。形式としての黒夢がいつまでも続くとは思ってない」

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12月6日、午前1時。都内某所にて清春との会話が始まった。彼はほんの少し前に、渋谷マウントレーニアホールで長期間にわたり継続的に行なわれてきたソロ・ライヴを完遂したばかり。「なんだか通常のツアーを終えたときとは違った達成感がある」と語りながらその余韻を楽しんでいる彼だが、今夜の話のテーマは当然ながら黒夢の新作に関して。1月29日に発売を控えているアルバム『黒と影』に向けてのイントロダクションとなるはずの2枚のシングル、「ゲルニカ」と「I HATE YOUR POPSTAR」を軸としながら、過去のどんな瞬間とも違った状態にある黒夢の現在を浮き彫りにしていきたい。

■僕自身、今の黒夢について「今までとは違うんだな」
■という匂いを客観的に感じてるところがある


▲「ゲルニカ」[CD+DVD] AVCD-48880

▲「ゲルニカ」[CD+DVD] AVCD-48881

▲「ゲルニカ」[CDシングル] AVCD-48882
――今回はシングル2作品が同時発売。どちらも1月にリリースされるニュー・アルバムの制作過程のなかで生まれたものなんでしょうか?

清春:「ゲルニカ」については映画の主題歌ということで、書き下ろしなんですよね。前からそうなんですけど、実は僕、曲作りは常にしていて。黒夢とsadsとソロ、各々の形態に思い入れを持ってくれてる人たちに対しては申し訳ない現実かもしれないけど、いろんな曲を作っていくなかで、「この曲は黒夢で使うべきですね」という発案をしてくれるのは、たとえばレコード会社の人だったりすることもあるんです。もちろんそれは、タイミング的に黒夢に向かってる時期だったりするからでもあるわけだけど、自分のなかでは「これはソロ用、こっちは黒夢用」とか区別してない。実際、今度のアルバムに入ってる大半の僕が作曲した曲も、そういったなかから選ばれたもの。で、同じような頃に映画の話をもらえて。そこで『バイロケーション』という映画のイメージを踏まえながら作ったのが「ゲルニカ」ということになりますね。逆に「I HATE YOUR POPSTAR LIFE」のほうは、完全にアルバムを作ってる過程のなかでできた曲。前作の『Headache and Dub Reel Inch』で言えば「13 new ache」みたいな。

――つまり、アルバムのリード・トラック的なものということですか?

清春:そうですね。結果的にそういう位置付けになるかどうかはまだわからないけど。ただ、僕自身、今の黒夢について「今までとは違うんだな」という匂いを客観的に感じてるんです。たとえば『黒と影』というタイトルにしても、デビュー20周年とかソロ始動から10年といった数字についても、いろいろと意味深なところがあるじゃないですか。だけど、本当にディープな僕のファンの人たちは、むしろそこにさほど意味を感じてないのかもしれないなと思えるところがあって。というのも、かつて黒夢が活動を止めたときは、僕も人時も黒夢しかやっていなかったから、「この先、もうしばらく会えないんじゃないの?」というのがファンの人たちのなかにはあったとは思うんです。だけど今は、こうして意味深長そうな暗示をしてみても、お互い黒夢しかやってないわけではないから、誰も1999年当時みたいな感覚でそれを捉えはしないだろうと思うんですね。むしろこういった記事を読んで、初めて「まだ黒夢ってやってたんだ?」と思う人もいるのかもしれないし(笑)。そうやって、僕らとの距離感の違いによって感じ方がそれぞれ違うんだろうと思う。ただ、どちらにせよこれが永遠のものではないというのは確か。

――楽曲についての具体的なところを聞きたいんですが、まず「I HATE YOUR POPSTAR LIFE」は、ライヴにおける新たな爆弾になりそうな曲ですよね。

清春:うん。アルバムはタイトルからして『黒と影』だし、完全に暗いイメージじゃないですか。それとは裏腹に、明るい曲を作りたいと思って。それで作ったのがこういう曲なんです。重々しい感じじゃなく、いい意味で軽快さがあるようなものにしたかった。

――このタイトルにもまた、深読みを誘うようなところがあります。

清春:ここで言ってる“POPSTAR”というのは、ひとことで言えばフザケたやつらというか、チャラいやつらというか。僕ら自身もかつてはチャラかったからこそ言えることなんですけどね。ま、FAKE STAR”とか(笑)。今はおそらく、少しは違うふうに見てもらえてると思うんですよ。べつにフェイクと見られても構わないんだけど、ホンモノに手が届きそうなことをしたいとは思ってる。確かにホンモノって何だかよくわからないけど、普通に音楽で勝負したいというのがある。いわゆる近年の音楽シーンのなかには、ミュージシャンと呼んでいいのかわらないような人たちって確実にいるわけじゃん(笑)。そういうパターンについて、今回は毒吐こうかな、と。前作でさほど吐かなかったので(笑)。


▲「I HATE YOUR POPSTAR」[CD+DVD] AVCD-48883

▲「I HATE YOUR POPSTAR」[CD+DVD] AVCD-48884

▲「I HATE YOUR POPSTAR」[CDシングル] AVCD-48885
――スター気取りの相手に対するラヴソングみたいにも聴こえるところはありますけど、歌詞に「降りやまない銀のテープ」というフレーズが出てきますよね。そこで当然のように“ステージに立つ人”のことが歌われているんだと気付かされるし、いわばポップスターという形だけを手に入れた人たちへの警告、もしくは皮肉みたいなものも感じられます。

清春:かつて“FAKE STAR”と名乗ってた自分たちに対してすらアンチなスタンス(笑)。実際、そういう経験があるわけですよ。ライヴでヒット曲をやるときに銀テープがパーンと舞い散って……その瞬間だけ妙に盛り上がることってあるじゃないですか。それじゃ駄目なんですよ。バンドが成熟していくなかで、もちろん大きなライヴをやるときには派手な演出も必要だろうけど、そこにはエンターテインメントから政治的なメッセージから、何から何まで含まれてるべきだという気がするんですね。それがリアルなあり方じゃないかと思う。

――ぶっちゃけ、世の中には清春さんに憧れてステージに立つようになった人たちがたくさんいますけど、なかには「なのに、なんでそうなるの?」と言いたくなるような人もいるはずだと思うんですよ。

清春:言いますねえ(笑)。実際、それは僕のどんな時期を好きだったか、どの時期をコピーしようとしたかによっても違ってくるはずですよね。どの部分を切り取りたいのか、何になりたいのかによって違う。そこに時代性との折り合いみたいなものも関係してくるだろうし、『CORKSCREW』のときの黒夢に憧れた人と、『feminism』の頃の黒夢に憧れた人では、違っていて当然だと思うんです。どちらかだけが正しいというわけでもない。でも、形だけを真似しても何にもならないよね。そういったことに警鐘を鳴らすというのは、黒夢でやっておいた方が楽しいんじゃないかなと思ったんです。というか、黒夢をやっているうちにやりたいことのひとつがそれだった、と言ったほうがいいかも(笑)。だから、リスナーというよりもそういう人たちに向けての歌詞表現でもあるし、同時にかつての自分たちを皮肉ってる部分もある。でも……正直、よくわかんないんですよね。何になりたいのか、何がしたいのかがよくわからない人たちがたくさんいてそれに違和感もなくなってる。僕らにはいつもその時代なりに目的があったと思う。だけど今は、目的めいたものがなくて売れたいだけでも問題視されないというか。若い音楽ファンたちのなかにも少しは疑問はあるんじゃないかと思うんですよ。自分がどんな理由でその人たちを応援してるのか、何に共鳴して同調してるのかがわからなくなるようなことが。結局、そこで深い共鳴のないものは短命に終わる。一瞬にしてのぼり詰めるんだけど……それこそパッと飛び散る銀テープのようにね。

――ある意味、かなり黒い歌詞ですよね。

清春:うん。曲調は明るくてもこういうことを歌うの、かつての黒夢っぽいと思う(笑)。

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