【2014年グラミーコラム】シンデレラ・ストーリーの幕開け。Fun.に続く最優秀新人の栄冠は誰の手に

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グラミー賞の新人賞はアルバム1~3枚のアーティストが対象となるので、アーティストの年齢は意外と幅広い。今回最年少は91年生まれのエド・シーランで、一番上はマックルモア(マックルモア&ライアン・ルイス)の83年生まれ。ジェイムス・ブレイク、ケイシー・マクグレイヴスが88年でケンドリック・ラマーが87年なので、日本の感覚で言うとすでに中堅どころか。アメリカという音楽大国でデビューを果たし、成功を収めるにはそれなりの経験値が必要だということは、昨年の最優秀新人賞を31歳で受賞したファン.のヴォーカル、ネイト・ルイスの例を挙げればわかりやすいかもしれない。

◆マックルモア&ライアン・ルイス、エド・シーラン画像

さて今回の新人賞ノミネート5組の顔ぶれを見ると、イギリス2組でアメリカ3組、ラップが2組で、ポップス系の歌ものが3組(ジェームス・ブレイクが歌ものかどうかは微妙だが…)、なかなかバランスのとれたラインナップになっている。日本ではほとんど知られていないアーティストもいるので、駆け足で5組のプロフィールを紹介してみよう。

まずジェイムス・ブレイク。ダブステップなどエレクトロ系サウンドを操るビートメイカーだったジェイムス・ブレイクが、自ら歌ったファーストアルバム『ジェイムス・ブレイク』で大ヒットしたのは2011年のこと。日本でも翌年のフジロックのホワイトステージでヘッドライナーをつとめるほど人気爆発し、2013年リリースのセカンドアルバム『オーヴァーグロウン』も英米を中心に高い評価を獲得。メランコリックなエレクトロと浮遊感ある歌声が非常に独特で、一見地味だが聴けば聴くほど癖になる深い魅力を持っている。

ケンドリック・ラマーはカリフォルニア州コンプトン出身のラッパーだ。出身地を聞いてピンと来るヒップホップ・ファンは多いと思うが、コンプトンと言えばあのN.W.A.を生んだ西海岸ギャングスター・ラップの発祥地。ケンドリックもさぞやダーティーなリリックを歌いまくっているのでは…と思いきや、彼のメッセージは犯罪や貧困から抜け出してまっすぐに生きようという極めてクリーンなもの。全米100万枚を突破したセカンドアルバム『Good Kid,M.A.A.D City』のタイトル通り、ケレン味のないオーソドックスなラップ・スタイルで前向きなメッセージを歌う彼が、新世代ラッパーの先頭ランナーになっているのは必然かもしれない。

ラップと言えば、マックルモア&ライアン・ルイスのマックルモアもシアトル生まれのラッパーで、相方のライアンはプロのカメラマンでデザイナーもこなす多才なプロデューサー。トラックはエレクトロっぽいものからメロウなものまで様々だが、彼らの売りは何と言ってもリリックの着眼点の面白さ。「Can’t Hold Us」ではメジャーレーベルへの反発心を(彼らは未だにインディーズなのだ)、「Thrift Shop」では古着屋をテーマにしてブランド品ばかりを追う人間を皮肉り、「Same Love feat.Mary Lambert」では同性愛を真っ向から取り上げて「すべて同じ愛だ」と高らかに歌い上げる。こういうアーティストがチャート1位をゲットするのも、アメリカ音楽界の懐の深さと言っていいだろう。

ケイシー・マスグレイヴスは、最優秀新人賞候補の5組の中で日本では最もなじみが薄いかもしれない。だがアメリカではすでに「テイラー・スウィフトの対抗馬」という評が出るほどの注目株で、キュートな歌声と歌詞のメッセージ性を併せ持ち、おまけにとびきり美人のカントリー・シンガーだ。今年リリースされたアルバム『Same Trailer Different Park』は、カントリーチャートを飛び出してビルボード・トップ200で2位を記録。さわやかなカントリーサウンドに載せて、恋愛、故郷、親の世代への思いなど身近なテーマを、若者世代ならではの尖った反抗心も交えながら歌うスタイルは、可愛いけれどとても刺激的だ。

そして最後はエド・シーラン。イングランドはウエストヨークシャー生まれ、「住所不定のストリートシンガー」としてライヴ会場でCDを手売りしていた男が一躍有名になり、大ヒット「The A Team」を含む2011年のデビューアルバム『+』がイギリス1位でアメリカ5位といきなり大ブレイク。日本でも2012年のフジロック、グリーンステージに登場して大きな話題となったが、彼の個性は「フォークソング、ラップ、ソウルの融合」とでも言うべき独特なもの。「The A Team」は失業率の高いイギリスの現状を憂えた物語風の歌詞を、流れるような美しいメロディと語るような独特の歌い方で綴った名曲。ストリートの吟遊詩人と呼びたくなる、古風だが新しい不思議なたたずまいが彼の魅力だ。

この中から一体誰が最優秀新人賞を射止めるのか?は、それぞれに強い個性を持つ5組だけに予想が非常に難しい。が、過去の傾向から「ラッパーの受賞は難しい」「アメリカ人以外の受賞が意外に多い」「どちらかといえば古典的な、オーソドックスな楽曲が選ばれる」などの点を踏まえ、思い切ってエド・シーランを推してみよう。住所不定のストリートシンガーがグラミー賞の晴れ舞台に上がるなら、これは究極のシンデレラ・ストーリーではないだろうか?

Text:宮本英夫/Photo:WireImage

「生中継!グラミー賞ノミネーションコンサート」
12月7日(土)午前11:50~WOWOWプライム


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