【ライブレポート】吉井和哉、アニバーサリーイヤーラストのマリンメッセ福岡で見せた新しい始まり

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ソロ活動10周年を迎えた吉井和哉の2013年は、アニバーサリープロジェクトの1年であった。それはベストアルバムを年初の1月に発表することに始まり、その『18』にはもちろんシングル曲や代表曲が収録されていたわけだけれど、新曲も含まれていた。単純に過去をまとめただけのアイテムにしなかったのはアーティストとしての矜持であったと思うし、それを吉井はアニバーサリーイヤーの最後にステージ上で堂々と見せつけた。12月28日、マリンメッセ福岡でのことである。

◆<20th Special YOSHII KAZUYA SUPER LIVE> マリンメッセ福岡公演 画像

もとはベーシストでありギタリストだった吉井が、ボーカリストに転向してから人前で初めて歌った日。1989年12月28日、渋谷La. mamaでのことだった。だから、本人にとってもファンにとっても12月28日は重要な日であり、そして、その誕生日に吉井はステージに立つことを通例としている。ツアーの一環になることもあれば、一夜限りのスペシャルになることもあって、2013年は後者。冒頭で述べたマリンメッセ福岡公演がそれで、ただし、それまでの12月28日は必ず日本武道館でライブが行われていたことを思えば、2013年の会場はイレギュラーだった。これに関しては本人曰く、“デリバリー”。だからひょっとすると、吉井にとってもファンにとっても重要な日のライブは今後、各所で開催されていくということになるのかもしれない。だからマリンメッセ福岡でのライブは、吉井の新しい始まりの一歩ということなのか。ならば、ベストアルバム『18』に収録されていた新曲「血潮」で歌っていることとまったく同じではないか。

吉井は、福岡での公演がソロだけでなく、バンド時代のキャリアも含めた集大成的内容になることをチケット発売前からアナウンスしていた。事実、アンコールを含めた24曲中、THE YELLOW MONKEYの楽曲は約3分の1となる7曲。しかも、「Romantist Taste」、「楽園」、「SO YOUNG」など、ファンが聴きたかったであろう代表曲ばかりが選曲されていたので、会場は大変な盛り上がりとなった。ただし、このようなアプローチでセットリストを組むことで生じるリスクはある。ライブが懐古的カラーの強いものになってしまったり、現在より過去のほうがよかったと観客に単純比較されてしまう可能性のことで、しかしいうまでもなく、このライブはそんなことにならなかった。いや、そんなことにはならない自信があったからこそ、吉井は事前に集大成的内容になることをアナウンスしていた、ともいえる。

その自信はアレンジにも反映されていた。中盤における「バッカ」、「BEAUTIFUL」、「球根」、「シュレッダー」は14人のストリングス隊を従え、CDバージョンとはまったく違うアレンジで披露されたのである。そのストリングスの響きはこの上なく美しいもので、しかし、歌声も決して負けてはいなかった。どんなアレンジを施そうとも、いまの吉井にはしっかりと歌を届けることができる強い表現力があるということで、同時に、楽曲そのものの強さもあらわとなった。どんなアレンジと施そうとも、それに負けない体力と柔軟性がくだんの4曲には備わっているということで、要するに、それが吉井和哉というアーティストの力量である。そのような楽曲を生み続けてきたこの人の誇るべきキャリアということである。

バンド時代から吉井の創作活動に試行錯誤はつきものだった。とくに、ソロ活動初期は相当に深刻なもので、ただそれは、断じてネガティブなことではなかった。なぜなら、苦悩を生み出していたのは、音楽と真摯に向き合う吉井自身の姿勢そのものだったからである。この人はそうやって、1曲1曲を、大事に大事に作り上げてきた。だからこそ、この人のいまは“キレイな線”となって存在しているのだ。そう、“丁寧な点がキレイな線”と歌われる「点描のしくみ」そのものということで、そして、その“キレイな線”を力強く歌い上げたものがこの人の最新ナンバーの「血潮」である。

「血潮」は本編ラストに、レコーディングにも参加したフラメンコギタリストの沖仁をスペシャルゲストに招いて披露された。途中、その沖に目をやる吉井の表情がなんとも印象的で、そのときの笑顔はいかようにでも解釈が可能である。沖のプレイのすばらしさに対するものだったかもしれないし、あの夜のライブが楽しかったことに対するものだったかもしれない。そして直後、吉井は“続くどこまでもこの広い大地 野望 本当か嘘か今でも迷うけど”と歌う。「血潮」とは、苦悩の連続ではあったけれど、それがあったからこそのいまを歌った、アーティスト吉井和哉の集大成ソングというわけである。だから沖に目をやったときの笑顔は、自身のキャリアに対する素直な喜びと誇りであったように思う。しかし、油断はしていない。いまという“点”だけでなく、未来も視野に入れた冷静な歌だからで、そこに「血潮」が持つスケールの大きさと、今後の吉井に対する期待があって、先の歌詞に続くはこうだ。“あの日泣いた血潮が透き通るまでは騙されてみようか”。吉井はこれを、喉も張り裂けんばかりに歌った。

アンコールのラスト。吉井は自身の苦悩の時代を“冬”、そのときに生まれた作品を“冬の歌”とたとえ、“新しい気持ちで冬の歌を歌えたらいいと思います”といった。これは、いかなることも肯定した上で今後もしっかりと歩んでいきます、という、ネクストを見据えた吉井のマニフェストというべきものだったのかもしれない。そして、人の人生は花のように美しく咲くべきだ、という強い願いを込めた「FLOWER」が始まる。サビの部分で客電が点けられると、会場全体が太陽の陽射しを受けたように明るくなった。照らし出された観客の顔が満面の笑顔だったこともあってか、とにかく明るく感じられた。それは要するに、花である。吉井の矜持が見事に咲かせた花だった。見事だった。しかもその美しい光景からは、ある重要なことを感じずにはいられなかった。希望、である。

なお、このマリンメッセ福岡公演の模様は2月9日、『20th Special YOSHII KAZUYA SUPER LIVE』と題し、WOWOWにてオンエアされることが決定している。

文◎島田 諭  写真◎有賀幹夫

<20th Special YOSHII KAZUYA SUPER LIVE>
2013年12月28日@マリンメッセ福岡 セットリスト
1.Romantist Taste
2.楽園
3.点描のしくみ
4.SIDE BY SIDE
5.BLACK COCK'S HORSE
6.花吹雪
7.HEARTS
8.バッカ
9.BEAUTIFUL
10.球根
11.シュレッダー
12.マンチー
13.WEEKENDER
14.LOVE LOVE SHOW
15.WINNER
16.WELCOME TO MY DOUGHOUSE
17.SUCK OF LIFE
18.ビルマニア
19.血潮
EN1.HIKARETA
EN2.星のブルース
EN3.SO YOUNG
EN4.FINAL COUNTDOWN
EN5.FLOWER

[WOWOWでの独占放送決定]
<20th Special YOSHII KAZUYA SUPER LIVE>
2014年2月9日(日)21:00~
http://www.wowow.co.jp/yoshiikazuya

LIVE CD(完全限定受注生産)
『AT THE SWEET BASIL』
2013年12月18日
TYCT-60024 ¥1,500(tax in)
収録曲
1.20 GO
2.CALL ME
3.夢は夜ひらく(カバー)
4.血潮
5.BEAUTIFUL
6.SWEET CANDY RAIN
7.MY FOOLISH HEART


◆吉井和哉 オフィシャルサイト
◆EMI Music Japan
◆吉井和哉 オフィシャル YouTube チャンネル
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