【インタビュー】志倉千代丸、「昼はマイコン、夜はバンドマン」からアニメ・ゲーム音楽の世界へ。そして最新コンピへの“こだわり”

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■ファイプロがあまりにも面白くて、「でもこのサウンドはイケてないな、これは俺がなんとかせにゃいかん」って、やたら上から目線で思ってて。

――当時はバンド・ブームで生身のロック・バンドが多かったですし、周りにあまりそういう人達はいなかったんじゃないですか?

志倉 : そうですね。でも割とその後ビジュアル系がドッと出てきて打ち込みの音を使うバンドも出てきたんですよね。コンピューターの知識と音楽の知識がなんとなく合流しちゃって、それで作ったデモ・テープをゲーム業界に送りつけたんですよね。

――あ、バンドでやって行こうとは思わなかったんですか?

志倉 : バンドでデビューしようと思ってたんですけど「無理だ!」って、凄い速さで諦めたんですよね。なんでそう思ったのかはわからないけど、もう21歳くらいで諦めてました。

――でもバンドのメンバーはデビューしたかったんじゃないですか?

志倉 : したかったんでしょうけど、僕が諦めた瞬間に、「諦めるしかない」ってなりましたね(笑)。なぜなら僕が作詞・作曲、編曲もやってたので。

――それは解散するしかないですね(笑)。そこからゲーム業界に行ったんですね。

志倉 : はい。その頃、バンドのメンバーで集まって、「ファイヤープロレスリング」(以降ファイプロ)というゲームをやってたんです。そのファイプロがあまりにも面白くて、もう友達無くすというくらいやってたんです。「でもこのサウンドはイケてないな、これは俺がなんとかせにゃいかん」って、やたら上から目線で思ってて。

――ははははは!


▲『THE WORKS ~志倉千代丸楽曲集~8.0』
志倉 : ゲーム業界に入ったら、音楽業界で勝負できない俺でも、こんなピコピコサウンドだったらイケるだろう、と。「わかった、俺が就職してやる」って思って、デモ・テープを送ったら何社か通ったんですよ。そのうちの「ヒューマン」という会社がまさにファイプロを作っていた会社だったので面接に行って、「ファイプロは好きなんで、ファイプロの音を変えたくて来ました」みたいな生意気なことを抜かしてたんですけど(笑)。それで実際に入社して、3日後にはファイプロの音を作ってましたから。

――元々のきっかけがファイプロだっただけに、ハッキリとやるべきことが見えてたんですね。

志倉 : でもそこから挫折の1年が始まるんです。社会的には安定したんですが、何に挫折したかというと、僕が音を作っても“ピコピコ音”のままだったんですよね。スーパーファミコンって、機能としては全く音を持っていなくて、サンプリングの音を8音まで出せるという仕様になっていたんですけど、一からサンプリングをしていって、そのループをプログラミング上で組んでいかないといけないんです。最終的に、自分で作曲した音を詳細に、例えばディレイなんかでもそういう機能がないので、音符と音符の間にちょっとレベルの下がった音を重ねていくというのを全部プログラミングで打ち込んでいく必要があるんです。それで“ディレイ風”にするんですよ。そういう工夫でエフェクトも表現していくという世界です。だから同じ仕様の中で、各社サウンドプログラマー同士のバトルが行われていく中で、全く勝てなかったんですよね。他社のスーファミの新作の音を聴いても「どうしてこんな音が出るんだ!?」って。最初のデモはギターとかも弾いて入れてるんで、迫力があるんですけど、それをスーファミに入れちゃうと、迫力0点。

――そういう挫折を味わって、そこからご自分で違う方向を目指したんですか?

志倉 : だんだんプログラムの技術があがっていくんですよ。そうすると表現の幅も広がっていくんですよね。そこから6年間くらいゲーム音楽をやってました。ファイプロ一作品だけでも、似たような曲を130曲も作らなきゃいけないんで。

――そうなんですか!?

志倉 : はい。ずっとファイプロを担当していましたし、アーケード版のプロレスゲームも担当したり。でも段々ハードも進化していったので、できる幅も広がりましたけどね。そこから次の分岐点になったのが、PCエンジンのCD-ROM²っていう、ゲームがCD-ROMになった瞬間ですよね。レコーディングそのままの音が入るようになったわけじゃないですか?要は主題歌とか、ゲームに歌が入っちゃう時代に突入したわけですけど、そこでまた転機になった感じですかね。

――そこからバンド活動をしていた頃のような、作詞・作曲で表現するように変わっていったんですね。

志倉 : そうです。あの頃にもう「主題歌を入れよう」っていう風に変わっていったんですよね。会社の設備投資も変わっていって、楽しかったですね。でも1年もすると、「スーファミの制約はあれであれで楽しかったなあ」って思って。完全に同じレギュレーションの中で勝負するのってやっぱり燃えるんですよ。それがもうオーディオになっちゃうと音がいくらでも入るわけじゃないですか。最終的に2ミックスにすれば良いだけで。だから結局どこまで進化しても悩み続けるんですけどね、その後も。

――できる事が無限にあるだけに…

志倉 : そう、それで悩むんですよね。

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