3月19日にミニアルバム『Somewhere』をリリースするINORAN。本稿では『Somewhere』の魅力に迫るため、前後編に分けての特集をお届けする。まずは前編。新たに解禁されたビジュアルとともに、増田勇一によるINORANへのインタビューをどうぞ。

◆INORAN 画像

前傾姿勢の痛快なロックンロール作品、『Dive youth, Sonik dive』の登場から1年9ヵ月。まさに待望というべきINORANの新作が完成した。『Somewhere』と題された今作は、全5曲が収録されたミニアルバムで、3月19日に発売を迎えることになる。

前作発表以来の時間経過が空白とは真逆のものであることは、改めて説明するまでもないだろう。ソロ名義においては映像作品やライヴ会場限定販売シングルを発表し、Muddy Apesでも第2作をリリース。さらに2013年末にはLUNA SEAの新作アルバム『A WILL』も産み落とされている。そうしたさまざまな創作活動やそれに伴うライヴ活動を通じて、彼自身が獲得してきた新たな刺激や、そこで膨らんだ想いといったものが、この5曲に凝縮されている。『Somewhere』、つまり“何処か”という意味合いの表題からは、目的地が不確定的であるかのような曖昧さを感じる読者もいるかもしれないが、彼は実際、事前から明確な作品像を描き切っていたわけではないことを認めている。

「正直、それはまったく描けていなかった。ただ、向かう先が何処なのかわからないままでも、とにかく“向かっていくんだ”という気持ちがあって。たとえば僕自身、誰かが敷いてくれたレールの上を進んでいるわけではないし、先を読みながらずっと向こうに設定した“点”を目指しながら、そこに繋がるような“点”をここに打とうとしたわけじゃないんです。そんなふうに目論んでみたところで、いつ、何が起こるかなんてわからないじゃないですか。僕の音楽人生なんてそれの繰り返しだし、そこでむしろ、流れに身をまかせるようであってもいいと思っているんです。自分の進むべき道みたいなものにこだわり過ぎて、無闇に流れに逆らおうとする必要はないし、むしろそれで何処に行けるのかというのも楽しみになってくるじゃないですか。そういう意味では、未来を設計しようとするようなことというのは、音楽人生には要らないと思っていて。むしろ、日々、いろんな作用があるなかで動いているわけだし、それを作品に反映できればいいと思っているんです」

こうした言葉を発することができるのは、流れに身をまかせようと自分は自分のままであれるはずだという確信が彼のなかにあるからだろう。そして実際、音源に触れてまず気付かされるのが、INORAN自身の歌声の説得力が格段に向上している事実だ。それを指摘すると、彼は「テクノロジーの向上のおかげです」と笑いつつも、「だけど、いいトラックが録れたなという実感はあります」と語り、次のように発言を続けている。

「自分の歌がどう変化してきたかは、自分ではよくわからないんです。ただ、自分の歌しか歌えないし、自分の声でしか歌えない。そういう感覚にはなってきましたね。結局、僕の場合、LUNA SEAではRYUICHIが、FAKE?ではKEN LLOYDが常に横にいたわけで、必然的に歌ってものについての理想がすごく高くなっていたんですね。だから自分で歌うにあたっても、ギター片手に歌えるような歌を目指していなかったというか。だけど、そこで他の誰かみたいになろうとしても仕方がないし、今ではジャズマスターの響きと同じように、自分なりの歌声というものがあると思えているから。こういった感覚に至るまでには遠回りもしてきたけど、遠回りしてきたからこその強さも今の自分にはあると思う」


▲『Somewhere』
この作品からのリード・トラックは「Sakura」と命名されたメロディの美しいナンバー。歌詞は今回、全5曲すべてが英語だが、この曲では“姿を消しても失われないはずのもの”について歌われていると解釈できそうだ。

「桜が咲く季節の歌を、いつか作りたいと思っていて。桜の花に対して思うことというのは、人生を歩んでいくなかで変わってきますよね。単純に綺麗だよねと思っていたものが、出会いや別れを象徴するものになったり、あと何回この桜を見られるのか、という想いを抱かせることになったり。やっぱりあの震災以来、この季節はさまざまな想いが重なるよね。

僕もあの震災で友人を亡くして…あれから3年を経た現在なりの自分の想いというのもあるし。実際、年末ぐらいから今回の制作を始めていたんですけど、たとえばP.T.Pのライヴ(12月30日)を観に行ったときの想いというのもあったし、まったく同じ夜のうちに知人の死に向き合うような経験があったり、1月1日に祖母が亡くなったり……。祖母についてはしばらく疎遠にしていたんですけど、顔を合わせるたびにそのことについて“ごめんね”と僕に言っていたんですね。だから亡くなったのは悲しいことなんだけど、もしかしたらそう言い続けることから解放されたんじゃないかなと思えるところもあって……愛の解放だよね。なんか、いろんな感情が溢れてきたんです。

そして自然と「Sakura」という曲の名と、歌詞の言葉達が出てきて。ただ、僕らにできるのは亡くなった誰かに向けて歌うことじゃなく、死の隣りにいる人がポジティヴになれるように歌うことじゃないかと思うんですね。今もこれからも、共に生きているんだよ、っていう。そういうものを作りたいと考えたときに、3年前ぐらいからiPhoneのなかに残っていたメロディを思い出して、その想いと組み合わせることでこの曲が生まれてきたんです」

誤解して欲しくないのだが、この作品はかならずしも重苦しい雰囲気を伴ったものではない。確かに彼自身の死生観といったものは反映されているはずだが、歌詞世界からも感じられるのは“自然体の前向きさ”とでもいうべきものだ。そこで過剰にポジティヴなメッセージ性を強調しようとしないところもまた、実にINORANらしい。

「確かに重い部分というのもあるにはあったし、いろんな想いが詰め込まれた作品ではあるんです。だけどそれを詰め込み過ぎるのは良くないし、むしろ何かちょっとぐらい足らないものがある作品にしたいと思ったんです。その余白に、聴いてくれるみんながそれぞれの想いを詰められるような。たとえば、バックパックに何もかも完璧に詰め込んで出掛けるんじゃなくて、旅の途中で得ることになるもののための隙間も残しておきたかったというか」

INORANの発言には“旅”という言葉がときおり顔を出す。そして今回、「Sakura」のために制作されたMVもまた、旅を連想させるものだ。砂漠、草原、森、海岸、雪原。さまざまな景色のなかでINORANはこの曲を歌っている。この映像はCDのアートワークと同様に、古平正義氏のディレクションによるものだ。


「古平さんには『I’M HERE』のDVDのときのジャケットもやってもらっているんですよ。ホンモノのアート・ディレクターの方って、いい意味で、人の話なんか聞かないんですよ(笑)。つまり、こちらの注文に従って何かを作る人たちではない。今回も実際、アートワークについては曲も聴いていない状態で作ってもらっているんです。MVの撮影についても、まだあの曲のタイトルが“Sakura”に決まる以前のことだったし。それこそアルバム・タイトルで“何処か”に向かおうとしているんだけど目的地が決まってない状態を指しているのと同じように、古平さんにお願いしたのも、どんなものができてくるかがわからなくて、逆にそれが楽しみだったからでもあるし。絶対に面白い何かが返ってくるはずだと思ったし」

ちなみにこちらのMVの撮影地については「それを言ってしまうとロマンがなくなっちゃうじゃないですか(笑)」ということで、残念ながらINORANの口からは明かしてもらえず。しかし、すべてのロケーションでの撮影に4日間が費やされたという事実だけは判明した。彼はこのミニアルバムについて「これから楽しめそうなものが作れたな、と思える」とも語っている。もちろんこの言葉は4月に控えているライヴを指してもいるし、この作品自体の持つ意味合いがこれからの時間経過のなかでどう変化していくかを彼自身が楽しみにしているということをも示唆している。そして実際、彼は近年、ライヴという機会の大切さを何よりも強く実感させられているという。

「ここ数年、そういう想いがすごく強くなってきていて。ソロであろうと、LUNA SEAであろうと、Muddy Apesであろうと。今回も、ライヴをやりたいからこそ、そのための新曲を作ったという部分が大きいし。やっぱりライヴこそがいちばん、“生きてる”ってことを肌で感じられる場だし、それが自分にとって、これまで以上に大切なものになってきていて。観に来てくれるみんなにとっても、そうであってくれれば嬉しいですね」

何処に到着するかではなく、とにかく何処かに“向かう”ということを動機の軸としながら、ふたたびレールのない道を進み始めたINORAN。これからの“旅”のなかで彼自身が奏でる音楽はどんな共鳴を集め、鞄の隙間は何で埋め尽くされていくことになるのだろうか? まずはこの『Somewhere』に身を委ねながら、4月のツアー開幕を待ちたいところである。

取材・文◎増田勇一

本稿後編は近日公開予定。後編ではINORAN本人による『Somewhere』楽曲解説をお届けする。

INORAN「Somewhere」
3月19日発売
初回限定盤 LP サイズ特別仕様
CD+DVD(「Sakura」MV))+36P 写真集)KICS-93031 ¥5,500+税
通常盤(CD のみ)KICS-3031 ¥1,700+税
【収録曲】
1. A Day Goes On By
2. REDISCOVER ON ANOTHER
3. Candy
4. Song 3
5. Sakura

<INORAN TOUR 2014 - Somewhere ->
4月4日(金)大阪BIG CAT
4月5日(土)名古屋BOTTOM LINE
4月12日(土)EBISU LIQUIDROOM SOLD OUT
【追加公演】
4月13日(日)EBISU LIQUIDROOM
各プレイガイドにて、現在発売中


◆INORAN オフィシャルサイト