BOSS、弾き語りするだけでカッコいいハーモニーになるボーカル・エフェクトVocal Harmonist「VE-2」

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最近では、エフェクトを使うボーカリストも増えている。ボーカルのエフェクトはもともと、自然な声を作るために使われることが多かったのだが、最近では積極的に音を加工する使い方も少なくない。たとえばロックでは、声をわざと歪ませて迫力を出すことがあるし、以前はそれとわからないようにピッチを自然に修正するためのものだったオートチューンも、ここ数年は意図的に機械的な声を作るために使われてヒットソングを生み出している。ボーカル・エフェクトが身近なものになってきた、そんな状況の中で発売された「VE-20」と「VE-5」は、どちらも手軽にボーカルにエフェクトをかけられる専用エフェクターとして登場以来、今でも人気が高い。

◆「VE-2」~拡大画像~

そして今回登場した「VE-2」は、ハーモニーをつける機能に特化したボーカル用エフェクターだ。といっても、従来のボーカルエフェクターから単にハーモニー機能を抜き出しただけではなく、その中身は大きく進化している。ギター入力を装備し、演奏したコードからコード進行や曲のキーを判別することによって、曲に合わせたハーモニーを生成することが可能になっているのだ。つまり、ギターをつないで弾きながら歌うだけで、いつでも曲の流れにマッチした自然なハーモニーを作り出してくれるところが新しい。ハーモニー以外にリバーブやディレイも装備、操作性はシンプルだし、電池駆動も可能だからストリートにも持ち出せる。ギター弾き語りのライヴにもってこいのエフェクターだ。

■操作はシンプル、歌うだけで多彩なハーモニーが簡単に

「VE-2」は、ハーモニーとエコーのみを備えるボーカル・エフェクトなので、操作はとてもシンプルだ。基本的にはマイクとギターをつないで歌うだけ。設定することとしては、TYPEつまみでハーモニーのタイプ(ハモりの構成音)を選び、BALANCEつまみで元の声とハーモニーの音量バランスをとり、ECHOつまみでディレイやリバーブの量を調整する。これだけだ。ちなみにECHOはリバーブとディレイ、リバーブ+ディレイの3つで、エコー音の音量だけを調整できるタイプだ。一般的なコンパクトエフェクターとちょっと違うのは、背面に並んだ端子類。マイク入力はノイズに強いバランス(XLR)タイプの端子だし、ファンタム電源も備えられていて、音質のよいコンデンサーマイクに電源を供給することも可能だ。本格的なレコーディングなどにも対応する仕様になっているというわけだ。


▲TYPEでハーモニータイプ、BALANCEでハーモニーの音量バランス、ECHOでディレイやリバーブの量を調整するだけの簡単操作。

「VE-2」の最大の魅力は、ギターのコードから楽曲のKEYを判別して最適なハーモニーを作り出すところだが、まずは「VE-2」がどんなハーモニーを作り出すのか、マイクだけをつないで確かめてみよう。ギターを接続しない場合は、ギターのコードを判別するAUTO HARMONISTがオフになり、KEYつまみで設定したキーを基準にハーモニーが生成される。

 ▲TYPEつまみでハーモニーとして付け足す音程を指定する。
TYPEつまみでは、ハーモニーとして付け足す音程を指定することになる。最初にKEYをCにしてCの音で歌ってみると、HIGHではEの音、LOWERでは下のAの音でハモってくれた。これらはデュエットでよく使われる3度のハモりだ。基本的には、TYPEをHIGHにすると3度上、HIGHERで5度上付近、LOWでは3度下、といった音程が付け足されるようだ。このハモりの音程はもちろん固定ではなくて、歌う音程やKEYの設定によって変わってくる。たとえばHIGHなら、歌う音程を1音上げてDにすると、ハーモニーがそのまま平行移動した場合はF♯になるはずだが、出てくる音はその半音下のFだ。また、歌う音程をCのままでキーだけ変更した場合も、たとえばCと似た音階を持つAならハーモニーの音程は変わらないが、Bなどにすると半音下がってマイナーの響きのハーモニーになる。設定したキーに応じて、合わない音を避けてハーモニーを作ってくれるのだ。

こうして色々なキー、音程で歌ってみたが、不自然さを感じることはなく、気持ちよくハーモニーを楽しめた。それはもちろん、前述のようにキーに合わせて適切な音程でハモってくれるからなのだが、ハーモニーの音がいいことも大きい。この手のエフェクターにありがちな機械っぽさはほとんどなく、本当に声を重ねたような自然なハーモニーになるから、歌っていても違和感がない。あまりリアルに自分の声でハーモニーが重ねられるので、ハーモニーのほうの音程につられそうになるほどだ。ただしこれは、BALANCEつまみで、自分の声とハーモニーの音量を調整すれば解決することだし、自分の声がちゃんとモニターできるような環境でプレイすれば問題ない。

 ▲ハーモニーは合計12種類をつまみで選択し、それぞれでVARIATIONのオン/オフが可能。
「VE-2」でつけられるハーモニーは全部で24種類ある。前述のHIGH、HIGER、LOWのほか、オクターブ下の3度上のLOW、元の音と同じ音でダブリング効果を出すUNISON、そしてオクターブ上と下のOCT UOとOCT DOWNを基本に、HIGH & HIGHER、LOW & HIGHなどこれらを2つ組み合わせたパターン、合計12種類をつまみで選択できる。さらにそれぞれのタイプで、VARIATIONのオン/オフが可能。このボタンを押すことで、より分厚く、広がりのあるハーモニーにすることができる。HIGHやLOWはシンプルなハーモニーで、HIGH & HIGHERやLOW & LOWERにすると厚みがありゴージャスになる。キーや歌う音程によって、5度のところが6度になったり、3度が4度になったりするから、3声とは思えない複雑な響きになって、とても分厚く感じることも多かった。

■コード進行も考慮、ノンダイアトニックコードにも対応

 ▲ギターを接続するとAUTO HARMONISTのボタンが自動的に赤く点灯。
ではギターを接続して、弾き語りに挑戦してみよう。ギターを接続すると、AUTO HARMONISTのボタンが自動的に赤く点灯する。これは、ギターで演奏したコードから楽曲のKEYにマッチしたハーモニーを生成するFULLモードになっていることを示すものだ。ギター弾き語りでハーモニーということですぐに思いついたのがサイモン&ガーファンクル。さっそく何曲かやってみたのだが、どの曲でも気持ちよいハーモニーになった。とくにHIGHやLOW、HIGHERなどの2声のハーモニーは、デュオの彼らの曲にぴったり。「The Boxer」の“ライラライ…”とか、「Mrs. Robinson」“ヘイヘイヘイ…”のところなど、とても気持ちよく歌えた。もちろん、さすがに本物そのままのハモりが再現されるわけではないが、変な音が混じることがなく、どのタイミングでも曲調に合ったハーモニーになってくれるのがいい。ときには、曲の構成を知っているかのようにドラマチックにハーモニーが展開されることもあって、本当に面白い。HIGH & HIGHERなどの3声のハモりにすると分厚いハーモニーになって、本物のS&Gにはあまりない響きだが、これもかなり楽しい。

従来のハーモニー・エフェクトでは、ダイアトニック(キーの音階で使われる音)のコードはよくても、ノンダイアトニックのコードが出てくるとハーモニーが濁ったりしてしまうことが多かったが、「VE-2」ではそういうことがなかった。色々な曲、様々なコード進行に対応して、いつでもきれいなハーモニーが生み出されていた。

では実際のところ、構成音はどんな変化をしているのだろう。色々なコード進行を試しながら、あえて1音のみで歌ってみると、その変化が少しわかってきた。Cのキーで色々なコード進行を弾きながら、Cの音だけで歌ってみると、コードの変化に応じて3度の音、EがE♭になるなど、マイナー/メジャーに変化してキーに合わせるのは当たり前だし、5度の音を6度にして変化に対応するところも多々あった。また、たとえばDのコードが出てくると、3度のEがF♯、4度になることもある。ここでパッとハーモニーが明るくなり、次の展開を期待させるような響きになるのだ。また、A-D-E-Aといった3コードの進行でAの音で歌ってみると、普通は3度のC♯が、コードDのところではDになり、SUS4のコードのような響きのハーモニーになったりする。

このようにキーやコードに合わせて構成音を変化させているから、前述のように破たんがなくドラマチックなハーモニーになるのだ。また、同じコードのときにいつでも同じハーモニーになるわけではない。これは、その都度コードや進行を判別しているから。だからこそ曲の途中での転調にも対応してくれる。さらに、コードの変化に対してすぐにハーモニーが対応する。このタイムラグのなさも、目立たないが重要なポイントだ。これらによって、機械っぽさがなく自然なハーモニーだと感じられるのだろう。

 ▲ENHANCEボタンを押すだけで声のピッチと音量のばらつきを補正してくれる。
コードストロークではなくアルペジオばかりの曲、部分的にコードがすばやく変わる曲などでのコードが正しく認識されないときのために、曲のキーも指定できるHYBRIDモードが用意されている。HYBRIDモードにするには、AUTO HARMONISTボタンを押して、緑に点灯させればいい。これで、ギターで演奏したコードのほか、KEYつまみで指定したキーも参考にしながらハーモニーが作られるので、よほどのことがない限り音を外したハーモニーになることはないはずだ。

また、歌う音程が不正確だと、当然ながら正しくハーモニーを作ることは難しいし、歌の音量にばらつきがあっても音程を正しく認識させることはできない。それを補正するには微妙な調整が必要で、なかなか手間がかかることなのだが、「VE-2」ではそれも簡単にできる。ENHANCEボタンを押すだけで、声のピッチと音量のばらつきを補正してくれるのだ。このENHANCEと前述のエコーは、ハーモニー・エフェクトをオフにしたときにも使えるので、普通に一人で歌うときに、音量とピッチの補正エフェクトとして使えるのも便利だ。

■PCでハーモニーを録音、ミックスでき、動画配信も可能


▲USBオーディオの機能も持っているから、DAWソフトなどに、「VE-2」でハーモニーをつけながら録音することができる。

弾き語りのライヴにぴったりな「VE-2」だが、自宅で曲を作ったりレコーディングしたりするときに便利な機能もある。USBオーディオの機能も持っているから、DAWソフトなどでオーディオ入力に「VE-2」を指定すれば、いわゆる“かけ録り”で、「VE-2」につないだマイクに歌った声に「VE-2」でハーモニーをつけながら録音することができる(NORMALモード)。歌を録るときに、一度にコーラスまで入れることができるのだ。逆に、PCの再生音に「VE-2」でハーモニーをつけて出力(INPUTモード)することもできるので、録ってあった歌のパートをハーモニーにして聴いてみることができる。どんなハーモニーをつければよいか、アレンジに悩んだときなどには、その答えを「VE-2」が出してくれるというわけだ。TYPEやKEYを変えながら、色々なパターンのハーモニーを聴いてみれば、自分では思いつかなかったようなアレンジを見つけることもできるだろう。さらに、「VE-2」のマイクで歌った声、ハーモニー、そしてPCの再生音をすべてミックスしてPCで録音することもできる(LOOP BACKモード)。「VE-2」で気に入ったハーモニーができたらミックスしながら録音できるし、動画配信をしている人なら、これを使ってストリーム配信を行なうこともできる。“歌ってみた”から一歩進んで“ハモってみた”の配信も簡単にできるのだ。

■ペダル操作も可能、弾き語りライヴにぴったり

 ▲つまみやボタンの設定は3パターンまで記憶でき、MEMORYボタンで瞬時に呼び出すことができる。
とはいえ、やはり「VE-2」がもっとも活躍するのはギター弾き語りのライヴだろう。設定によって様々なタイプのハーモニーを作り出せる「VE-2」だが、つまみやボタンの設定は、3パターンまで記憶させることができる。これはMEMORYボタンで瞬時に呼び出すことができるから、設定に手間取ることなくスムースに次の曲に移れるし、別売りフットスイッチで、VARIATIONのオン/オフと、MEMORYの呼び出しを行なうことも可能。曲中でギターを弾きながら、歌いながらでも、楽に設定の変更を行なえる。設定もプレイ中の操作もシンプルで、一人で色々こなさなければならない弾き語りのライヴでは本当に重宝するだろう。

実際にコーラス・ハーモニーをやろうとして、挫折した人も少なくないはずだ。キーやコード進行を考えてきちんとアレンジする必要があるし、そこまでできたとしても、そのアレンジ通りきちんと歌える人を集めなければならない。しかし「VE-2」があれば、そういった問題は一気に解決してしまう。弾き語りはもちろん、アカペラでも使える。そして、曲中のここぞというところでペダルを踏むだけで、ゴージャスなハーモニーが一気に世界を変えてくれるのは、とてもインパクトがある。弾き語りアーティストだけでなく、コーラス・ハーモニーに興味のあるすべてのミュージシャンにぜひ試してみてもらいたい。



「VE-2」主な仕様

規定入力レベル:MIC IN=-40dBu(MicSens=Center)、GUITAR IN=-10dBu
入力インピーダンス:MIC IN=4kΩ、GUITAR IN=1MΩ
規定出力レベル:XLR OUT=-40dBu、PHONES/LINE OUT=-20dBu、GUITAR THRU=-10dBu
出力インピーダンス:XLR OUT=600Ω、PHONES/LINE OUT=33Ω
エフェクト・タイプ:HARMONY、ECHO、ENHANCE
ハーモニー・タイプ数:12×2(VARIATION)
メモリー数:3
接続端子 MIC IN端子(XLRタイプ、バランス、ファンタム電源(DC 46V、10mA Max))、GUITAR IN端子(標準タイプ)、GUITAR THRU端子(標準タイプ)、XLR OUT端子(XLRタイプ)、PHONES/LINE OUT端子(ステレオ・ミニ・タイプ)、VARIATION, MEMORY▲端子(TRS標準タイプ)、USB COMPUTER端子(USBタイプB)、DC IN端子
電源:充電式ニッケル水素電池(単3形)×4、アルカリ電池(単3形)×4、ACアダプター(別売)
外形寸法 / 質量:幅 (W)156 mm奥行き (D)116 mm高さ (H)64 mm質量600 g

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