【インタビュー】アナセマ、ネオ・プログレッシヴ・ロックの調べ

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アナセマの13年ぶりの日本盤となるニュー・アルバム『ディスタント・サテライツ』が6月4日にリリースとなった。初回盤にはオーペスやカタトニアを手掛けるイェンス・ボグレンによる5.1CHサラウンドミックスが収録されたブルーレイオーディオが付属する。ポーキュパイン・トゥリーのスティーヴン・ウィルソンも2曲ミックスで参加している。

◆アナセマ画像

『ディスタント・サテライツ』は、デビュー20年を飾る彼らが幾多の音楽遍歴を経て到達した新境地だ。ボーカリストでありギター、プログラミング、キーボードを担当するヴィンセント・カヴァナーが、そのサウンドを語った。

──『ディスタント・サテライツ』の音楽性について、説明して下さい。

ヴィンセント・カヴァナー:アナセマは結成以来、変化してきたバンドだ。アルバムごとに新鮮なアイディアとソングライティングでアプローチするようにしている。『ディスタント・サテライツ』では、これまで以上にインプロヴィゼーションの要素を取り入れている。それに加えて、エレクトロニックな要素やドラム・マシンも取り入れているし、リズムやビートの面で実験をしている。ただ、あまり複雑になってしまうのは避けたんだ。同時に鳴っている楽器は少なめにして、それぞれの存在感を強調したかった。同時に複数のリード要素が進行しているのではなく、ひとつの核があるんだ。それはボーカル・メロディだったり、ストリングスだったりピアノだったりね。

──現在のアナセマは“ネオ・プログレッシヴ・ロック”と呼ばれることがありますが、インプロヴィゼーションの比重が増したことで、よりプログレッシヴな方向に進んだといえるでしょうか?

ヴィンセント・カヴァナー:プログレッシヴ・ロックと呼ばれることには、あまり興味がないんだ。我々は“先進的=プログレッシヴ”であり続けているけど、世間でいうプログレッシヴ・ロックはキング・クリムゾンやイエス、ジェネシスみたいなバンドだよね?彼らには最大の敬意を払うけど、もう何十年も前にやったことをコピーするつもりはないんだ。それに、いわゆるプログレッシヴ・ロックは高度な技術で演奏することを重視しているだろ?我々はテクニックよりもソングライティングを重視している。良い曲を書くことがすべてなんだよ。我々の考えるプログレッシヴな音楽というのはザ・ビートルズやピンク・フロイド、レディオヘッドだ。


──前作『ウェザー・システムズ』には「アンタッチャブル・パート1」「パート2」がありましたが、『ディスタント・サテライツ』には「ザ・ロスト・ソング・パート1」「パート2」「パート3」が収録されています。この3曲はどのように繋がっているのですか?

ヴィンセント・カヴァナー:「ザ・ロスト・ソング」はいずれも歌詞の題材世界がリンクしているし、曲もお互い繋がり合っている。3曲とも、同じ日に書いたんだ。我々にとって最もクリエイティヴな1日だった。「パート1」は“幸運な偶然”の産物だったんだ。数年前、ダニーが曲を書いて、ホーム・レコーディングした曲があった。でも、その音源がどこかに失われてしまったんだ。彼は思い出そうとしたけど、思い出せたのはリズムだけだった。それに俺がプログラムしたビートを乗せて、まったく新しい曲を書いた。それが「パート1」だったんだ。ほとんどインプロヴィゼーションで書いて、ダニー曰く、元の曲とはまるで別の曲だったけど、結果として良い曲を書けたから、万事オーケーだったね。

──「ザ・ロスト・ソング」はいわばピンク・フロイドの『炎』における「クレイジー・ダイアモンド」に相当する曲だといえるでしょうか。

ヴィンセント・カヴァナー:そうだね。『ディスタント・サテライツ』の最初の2曲と、多くの時間を占めるのが「ザ・ロスト・ソング」だし、アルバムにおいて重要な曲であることは確かだ。ただ、『炎』において「クレイジー・ダイアモンド」だけが重要な曲だというわけではないのと同様に、『ディスタント・サテライツ』の他の収録曲も同じぐらい重要だよ。「エーリエル」は「ワン・ラスト・グッドバイ」(『ジャッジメント』(1999)収録)や「ドリーミング・ライト」(『ウィア・ヒア・ビコーズ・ウィア・ヒア』(2010)収録)、「インナー・サイレンス」(『オルタナティヴ4』(1998)収録)の流れの上にある美しいメロディの曲だ。「ダスク(ダーク・イズ・ディセンディング)」はテクニカルなギター・トラックをフィーチュアした、想像を絶するリズムの曲だよ。アルバム全編がハイライトの連続だし、ぜひ通して聴いて欲しい。

──アルバムのタイトル曲「ディスタント・サテライツ」について教えて下さい。

ヴィンセント・カヴァナー:「ディスタント・サテライツ」はコンテンポラリーなエレクトロニカの要素がある曲だ。一聴するとモダンなサウンドだけど、コーラスまで聴けば、オーソドックスな楽曲だということがわかる。“実験性”もけっこうだけど、アナセマにとって最も重要なのはソングライティングなんだ。この曲のコード進行は1990年代後半、『ジャッジメント』の頃からあった。だから実はアルバムで最も古い曲なんだ。

──バンド名を冠した「アナセマ」という曲がありますが、どんな意味があるのですか?

ヴィンセント・カヴァナー:我々がデビューした頃は、クラシック音楽から影響されたドゥーム・メタルをプレイしていたんだ。最初のEP『ザ・クレストフォールン』(1992)ではギターのハーモニーを重視して、ストリング・カルテットみたいに聞こえる音楽をやっていた。当時は“アナセマ=呪詛・嫌悪”というバンド名に似合った音楽をやっていたけど、音楽性が変化していくにつれて、ズレが生じてきた。一時期はバンド名を変えることも考えていたんだ。ポーキュパイン・トゥリーのスティーヴン・ウィルソンなんかは「最高のバンド名じゃないか!変えちゃダメだよ!」と言っていたけどね(苦笑)。でもこのアルバムの「アナセマ」で、もう一度バンド名と向き合うことが出来た。初期のダークな音にフル・オーケストラとピアノを加えた、過去と現代が交錯する曲調だった。歌詞も我々が経てきた喜びや苦しみ、そしてバンドの絆についてのもので、「アナセマ」と名付けるのが相応しいと考えたんだ。

──2013年にリリースされたライブ映像作品『ユニヴァーサル』を見て、アナセマのライブへの期待が高まりました。ぜひ日本のステージでもプレイして下さい。

ヴィンセント・カヴァナー:『ユニヴァーサル』ではブルガリアの古代ローマの野外円形劇場で、36人編成のオーケストラと共演したんだ。アナセマ版『ライブ・アット・ポンペイ』(ピンク・フロイドの映像作品)といった感じで、バンドの記念碑的作品になったよ。『ディスタント・サテライツ』は誇りにしている作品だし、アルバムからの曲を日本でプレイする日を楽しみにしているよ。


写真:(C)Scarlet_Page
取材・文:山崎 智之

アナセマ
ヴィンセント・カヴァナー(ボーカル/プログラミング/シンセサイザー)
ダニエル・カヴァナー(ピアノ/ギター/シンセサイザー/ボーカル)
ジェイミー・カヴァナー(ベース)
ジョン・ダグラス(パーカッション/プログラミング/シンセサイザー/ドラムス)
リー・ダグラス(ボーカル)
ダニエル・カルドーゾ(ドラムス)

『ディスタント・サテライツ』アナセマ
2014年6月4日発売
初回限定盤CD+BLU-RAY \3,800+税
通常盤CD \2,400+税
1.ザ・ロスト・ソング パート1
2.ザ・ロスト・ソング パート2
3.ダスク(ダーク・イズ・ディセンディング)
4.エーリエル
5.ザ・ロスト・ソング パート3
6.アナセマ
7.ユア・ノット・アローン
8.ファイアーライト
9.ディスタント・サテライツ
10.テイク・シェルター
※初回限定盤BLU-RAY(オーディオのみ)収録曲はCDと同様となります。

◆ワードレコーズ・ダイレクト:アナセマ『ディスタント・サテライツ』&『ユニバーサル』スペシャルサイト
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