【インタビュー】人間椅子、バンド生活25年 貫いた信念「ロックは自由。その気持ちを忘れなければ、豊かになれる」

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25年のキャリアを積んでもなお、人間椅子の出す音は何も変わらない。流行り廃りはめまぐるしく、音楽を取り巻く環境も激変しつつある中で、特異な位置にひょうひょうと存在する人間椅子は、何を考え何を感じ、どこを見ているのか。

◆人間椅子 画像

引きずるように重い音を繰り出す彼らのサウンドに、吸い寄せられるように新たなファンが増殖している。ケータイ電話もインターネットもなかった時代から25年間、様々な環境が大きく変貌し、変わらぬ人間椅子の姿が無形文化財のように、浮き彫りとなる時代となった。

6月25日に新作アルバム『無頼豊饒』をリリースし、ロックの原点を頑なに守り続けるクラシックロックの生き証人が、ひとつふたつ、本音を語り始めた。

■まだ遊んでいる感覚

――25年のキャリアの中で、何も変わらぬ人間椅子に対し、時代は随分と変わりましたね。

和嶋慎治(G&Vo/以下 和嶋):未だにずっと見続けてくださる方もいますが、多少の変遷はあったかもしれませんね。ひと頃はヘドバンする人がいっぱいいましたが、今はそうでもなくなったし。その時代時代のお客さんの聴き方っていうのは変わっているかもしれませんね。

――楽しみ方も変わっているんでしょうか。

和嶋:僕らもお客さんへのアピール具合は変わってきたかもしれません。昔より、お客さんと同じ目線でパフォーマンスしている気はしますね。デビューの頃は、「ノッてるかー!?」的なコミュニケーションはしなかったですから。ま、今でも「ノッてるかー!」とは言わないですけど。

――一方的に黙々と演奏する感じでしたね。

和嶋:はい。MCはへりくだって「どうでしょうか?」みたいな感じで(笑)。だから昔の映像を見ると、今ほど、鈴木くんも僕もあんまり動いてないです。

鈴木研一(B&Vo/以下 鈴木):煽るようになったのはノブが(人間椅子に)入ってからだと思うよ。ノブくんの影響が。

和嶋:そうだね(笑)。

――ノブさんのせいになってますが(笑)。

ナカジマノブ(Dr/以下 ノブ):いや、なんとなく自覚はあります(笑)。

鈴木:あ、気付いてるかどうか知んないけど、俺はいまだに煽ったことはないんだよ。

和嶋:直接的な煽りはないね。

ノブ:そうだね、やんないね。

――それはどうしてですか?

鈴木:逆の立場で、自分が観る側の時は「おぉ~!」とかやるのがあまり好きじゃなくて、ずーっと腕組んで“うん、いい、いい”って聴いてるのが好きだからかな。やりたい人はやってくれて嬉しいんだけど。自然に「おー!」っていく時もあるから、それがいちばんいいんじゃないかなって。

――音楽は人それぞれの楽しみ方がありますからね。

鈴木:トゥイステッド・シスターとか観ると、やっぱり人乗せるのがすげえ上手いんですよね。

――いきなり、トゥイステッド・シスターですか? もうちょっと分かりやすいところからいきません(笑)?

鈴木:いや…自分のベストライブがトゥイステッド・シスターだったから。ディー・スナイダーだっけ?なんてこの人、客を乗せるのがうめえんだろうって。

――どういう感じのパフォーマンスだったんですか?

鈴木:ライブハウスでやっているみたいなことを大きいホールでやる感じ。突出してすごいメンバーがいるバンドじゃないんだけど、なんか楽しそうにやってるのが、すごい良かったんですよね。

――それは、ステージに立っている人間だからこその目線ですね。

鈴木:そうなのかもなぁ。メイクもしてるし、そういうところでは近いところを感じるけどね。

和嶋:トゥイステッド・シスターは、いわゆる強烈に抜きん出たプレイヤーがいるわけでもない。でもそこでバランス取れてるのがバンドのカッコよさだとは思ってますよ。僕らもね。ほんとに強烈なプレイヤーがいると、その人がつい目立っちゃう…っていうか、そういうグループになってしまう。

鈴木:イングヴェイ(・マルムスティーン)とかが浮かぶ(笑)。

和嶋:イングヴェイっていう言葉を今あえて出しませんでしたけどね(笑)。

――遡ると、リッチー・ブラックモアだってそうですね。

和嶋:そうなるとたぶん長続きしないですからね、グループがね。僕らが変わらない部分としては、好きな音楽をとにかくやっているところ。だからCDを出しても、音楽的にも変わっていかなかった。

――「純粋に好きな音楽をやり続けることの難しさ」って、皆さん経験されていますよね?

和嶋:根底にあるのは、売れたいということじゃないんですよね。売れたいと思ったら、その時売れてる音楽をどうしても採り入れてしまわざるを得ないというか、そうなると思うんです。今これやっとかないと不安だ、みたいな。やっといたらちょっと売れるんじゃないか?とかって、やっぱり考え出すから。

――売れたいと思ったら、ダブステップとか入れたくなるかも(笑)。

ノブ:ダム?

――ダムじゃねーし(笑)。

和嶋:流行を追っかけることに興味があんまりないっていう、つまりそれは、売れたいっていうのが基本にない…というか。

――レコード会社の人の前で、売れる気なし発言(笑)。

和嶋:全くないわけじゃないですよ(笑)。もちろんそれで食えるのが幸せですから。ただ。まあ、ちょっと、本来のアーティストじゃなくなるんじゃないかなって気がするんですよ。じゃあほんとにやりたいのは何なんだろうって思っちゃう。

――何の為にやってんだろう、みたいな?

和嶋:そう。それはわりとピュアな気持ちがありましたから。自分たちで言うのもなんですけど、デビュー当時から変わらないです。

――バンド結成も学生の時ですもんね。

和嶋:鈴木くんと僕が中学の頃からの知り合いっていうのが、実はそうとう強烈に作用してるんじゃないかなと思います。大人になってから知り合った人だとどうしても、やっぱりお金のことも絡むし、きっと売れる為にやろうってなるんでしょうけど、子供の時に知り合ってるから、その時の気持ちを持ち続けて演ってるんですよね。

――まだ遊んでる感覚に近いのか。

和嶋:そうそう、そのままの感覚。その頃よりちょっとだけ上手くなって(笑)、ちょっとだけ言葉が使えたりとかになってるだけですね。

■シャロン・オズボーンのお墨付き

――ノブさんは、そんな二人の間にどういう形で人間椅子として溶け込んでいったのでしょう。

ノブ:まあ俺も、もともと流行歌とかアイドルとかそういうのに興味が全くなくて、それは同じなんですよね。僕はバンドをやりたいミュージシャンなんですけど、バンドってそんなにいろんなことをいっぱいやるもんじゃないって思っているんです。人間椅子の歴史とかカッコよさとか普遍的なものって、ふたりから生まれてきたものがずっとあるから、俺はそれを崩さないようにしようっていうことだけは思っていました。俺も表現するのに自分の意見は言いますけど、人間椅子のカッコよさっていうのはふたりから滲み出てるいろんなものだと思っているので、それを俺が入ることによって壊すのだけはイヤだなって思っています。

和嶋:お互いにリスペクトしながらやっているのは、やっぱり感じますよ。

鈴木:すごい気を遣っているよね。ライブ中は特に。

――そうなんですか?

鈴木:俺らは、ライブの曲間でけっこう沈黙を作っちゃうんだけど、そこで(ノブが)口を開きたくてしょうがない…すげえ言いたいんだけど我慢してるのが伝わってくるんだよな(笑)。

ノブ:あははは。

和嶋:喋りたいオーラを背中に感じる時がありますね。

ノブ:いや(笑)、もともとが俺、おしゃべりだし、ライブでもガンガンMCとかしちゃってたタイプだったんで。人間椅子のカッコいい部分、僕も大好きな人間椅子の素敵な部分は、チャラく何か喋ったりもしないし、無駄な言葉を発したりもしないっていうところもあるんで。俺が「イェーイ!」なんて言ったら、それは人間椅子の基本が壊れてしまうじゃないですか(笑)。

――ノブさんが思い描く人間椅子ではない、と。

ノブ:うん。俺が入ることで新しいエッセンス、新しい風が吹く分にはいいんですけど、素敵な部分を俺がつぶしちゃったらいけない。気を遣うっていうよりは、ここは俺の喋るところじゃねえなって思ってるだけで。

――遠慮じゃなくて、判断ですね。

ノブ:ただ、やっぱり最初の1~2年は「あぁここ喋っちゃいけなかったな」って思うところで喋ったりしてました(笑)。

鈴木:ははは(笑)。

――学んできたと。

ノブ:だんだんですよね。ツアーに行ったら毎日一緒にいるしね、ライブの反省みたいなのってあんまりしないんですけど、やっていくうちに雰囲気でわかるっていうか。ライブってお客さんも一緒に作るじゃないですか。で、お客さんの空気でも伝わってくるし、受け入れてくれている、受け入れてくれてない、みたいなのもあるじゃないですか。そういうのを肌で感じて。ここは俺、喋るところじゃねえや、みたいな。今はライブで僕が喋るのは1箇所くらいですかね。自然とそうなったというか。

――ダムの話も我慢する。

ノブ:我慢します!

和嶋:まあ、確かにあんまり喋ってたら、多分「もういいよ」ってステージ上で言うからね(笑)。

ノブ:1回ダムのことを喋っちゃったの。ツアー中に九州でダムに行ったことがあって、ちょっと話したら、研ちゃんか和嶋くんが「さあ、ここから長くなるぞ~」って言ったんだよ。“あ!これは違う!”って思った(笑)。

和嶋:でもですね、ライブって3人とプラスお客さんで作る空間なわけですから、だから遠慮してもダメなんだよね。やっぱりその人の個性を出して一緒に楽しむ空間ですから、そのへんの具合がやっぱり年月重ねて上手く呼吸がわかってきたんですよ、っていうことなんです。

ノブ:いや、ほんとそうですよね。

――日本の音楽は海外でも強い人気を誇る時代となりましたが、その辺りは肌で感じていますか?

和嶋:2013年に<OZZFEST JAPAN 2013>に出させてもらって、日本語でハードロックを演っていることに評価してもらったんだろうな、とは思いました。

――オズフェスの出演のきっかけは?

ノブ:<OZZFEST JAPAN 2013>側から出演依頼というのがきて。僕らにとってブラック・サバスは神様のような存在だから、オズフェスが来るって言ったらシャレで「出れたらいいねえ」なんてことは言ってたぐらいだったんですけど、こっちからオファーをしたり誰かに頼んでもらったわけではないんです。研ちゃんはチケット買ってましたからね。

――チケット買ってステージに立っているという(笑)。

ノブ:オズフェスの日本制作チームから電話がきて「<OZZFEST JAPAN 2013>のことでお電話したんですけど、出演していただけませんか?」って。ほんとにビックリして「騙してる?」って聞きましたからね。そしたら「いや、正式依頼です」って。「一度メンバーみんなに確認をして、日程、その点を確認したらもう1回お電話します」って電話を切ったんですけど、もう僕は「やった!」って叫んでいました。すぐふたりに連絡をして、和嶋くんも電話の向こうで動揺してるのがすごい伝わってきて(笑)。

和嶋:まあ、それは動揺しないわけがないですからね(笑)。

ノブ:研ちゃんにもすぐ電話をしたら、研ちゃんも「それは出ましょう」って、いつもと違うトーンの答が返ってきた(笑)。いつも慎重派なんですけど、その時は即答で。

――<OZZFEST JAPAN 2013>は、全部シャロン・オズボーンが出演可否をチェック・判断していたんですよ。

和嶋:すごい!一応お墨付きだったわけですね。ブラック・サバスと同じステージに立てたっていう、最高の夢ですよ。地に足が着かない状態だった。僕たち25年前にイカ天(『三宅裕司のいかすバンド天国』というアマチュアバンドのコンテスト番組)に出て急に認知されて、すぐデビューにこぎつけることができたんですけど、それに匹敵する第2のステージの扉が開いた気がしたんですよ。

――ワールドワイドな注目を得る、さらなる扉ですね。

和嶋:だからこそ、よりいっそう和といいますか日本を意識してやるべきだと思ったんです。前回のアルバムでも日本的なフレーズをかなり意図的に入れていますけど、今回はジャパニーズっていう感じをジャケットでも表せればいいと思って浮世絵にしました。まずジャケットで関心を持ってもらわないとダメだなと思ってね。

――やはり海外への意識も強まっているということなんですね。

和嶋:うん、やっぱりそうですね。<OZZFEST JAPAN 2013>のステージに出て、けっこう手応えがあったんです。自分たちはほんとにジャパニーズのロックバンドなんだって。

――具体的な海外進出計画はないんですか?

和嶋:やれたらいいですけどね。

ノブ:メンバーでちゃんと話したわけじゃないですけど、ひとっ飛びにいきなり海外っていうのも何かおかしいなと思うんで、やっぱり日本でもうちょっと認知してもらって足跡を残してね。

――海外からの要望はないんですか?

和嶋:YouTubeの映像には外国の方からの書き込みもあるし、やっぱり注目あるなって思います。問い合わせも多いし、何かしらのきっかけがあれば、また歯車が噛み合う予感はありますけど、でも焦らずですね。

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