【CDレビュー】X JAPAN、狂気と感動のベストアルバム『THE WORLD~X JAPAN 初の全世界ベスト~』

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■YOSHIKIのイメージを具現化し楽曲にさらなる魅力を加えるメンバー全員の高度な演奏力が
■グレッシブな楽曲に独自の洗練感や煌めきを添えている


ハードロックやヘビィメタル、プログレッシブ・ロックといったジャンルで特に顕著なことだが、プレイヤーの秀でた演奏力が優れた楽曲を生み出したり、楽曲の魅力を高めるのは事実といえる。作曲者が頭の中に思い描いたメロディーやリフ、コード感、アレンジなどがどんなに素晴らしいものでも、楽曲を演奏するプレイヤーがそれを具現化するテクニックを持っていなければ形にできないからだ。今回リリースされたX JAPANのベスト・アルバム『THE WORLD』を耳にすると、そのことを改めて感じずにいられない。今作にパッケージされたプレイは各パート揃ってハイレベルで、プレイ面の聴きどころ満載の一作となっている。

Toshiのボーカルに関しては、ダイナミクスの広さが印象的。「Silent Jealousy」や「Rusty Nail」などで聴ける、声をあまり張らずに柔らかみのあるハスキー・ボイスの魅力を活かしたアプローチを筆頭に、「Forever Love」や「ART OF LIFE」のウォームなボーカル、歌中の温かみとサビ・パートの切迫感の対比が光る「ENDLESS RAIN」、アタックを効かせた「WEEK END」、情熱的な「Without You(LIVE VERSION)」など、それぞれの曲調にマッチした表情豊かなボーカルは実に見事。ハイトーンを含んだ高低差のあるメロディーを、安定したピッチで歌い切る声域の広さも要注目といえる。

ギター・パートは、ツイン・ギターの強みや魅力を押し出していることが特徴になっている。楽曲重視のスタンスで2本のギターのアプローチを寄せたうえでHIDEとPATAの微妙なタイム感の違いが生み出す厚みやウネりを活かしたバッキングや華やかなツインリード、HIDEとPATAの個性の違いを味わえるバトル・ソロを配した「X(THE LAST LIVE~最後の夜~LIVE VERSION)」など、全編に亘ってステレオ感を活かしたギター・アンサンブルが展開されている。

X JAPANのトレードマークの一つになっているツインリードに関しては、「Silent Jealousy」や「ART OF LIFE」のシンフォニックなパターンと、「紅」や「X(THE LAST LIVE~最後の夜~LIVE VERSION)」といったナンバーのメタリックなテイストを使い分けていることが要チェック。「Forever Love」でトリプル・リードを活かしていることも含めて、彼らのギター・ハーモニーに対する強いこだわりがうかがえる。

緻密に構築されたツインリードとロック色の濃いギター・ソロの対比や「SCARS」「DAHLIA」などでHIDEが披露しているデジタリックな味わい、スピーディなミュート・リフをタイトに聴かせる正確なピッキング、X JAPANというバンドの本質を理解していることがうかがえるSUGIZOの華麗なプレイなども聴きどころ。

ベースに関しては、HEATHと初期メンバーだったTAIJIのベースが混在していることは一つのポイントといえる。「Silent Jealousy」「SCARS」「紅」で聴けるTAIJIは、ヘビィなツイン・ギターの合間を縫ってハイ・ノートや効果的なフレーズを入れ込むスタイルを展開。HEATHは、フレージングよりも音圧やグルーブを重視したファットかつ凄味に満ちたベースが印象的。指向性の異なる2人ながら、サウンドのボトムをしっかり支えていることや、タッピングやスラップなどを織り交ぜることなく王道的なロック・テイストに溢れたベースで勝負する辺りが共通しているのは興味深い。

「Rusty Nail」や「WEEK END」「X(THE LAST LIVE~最後の夜~LIVE VERSION)」などで心地好くドライブするベースを聴かせる一方で、「SCARS」では強力なウネりを発するHEATHの懐の深さはさすがの一言。HEATH、TAIJIともに、太さとクリアさを兼ね備えた良質なベース・トーンをクリエイトしていることも聴き逃せない。

ドラムも充実していて、高速ビートを活かした「Silent Jealousy」や「紅」「X(THE LAST LIVE~最後の夜~LIVE VERSION)」などを核に、キレのいいリズムが光る「Rusty Nail」や「WEEK END」、スケールの大きなビートが心地好い「ENDLESS RAIN」、歌心を感じさせる「Forever Love」等々、フレキシブルなドラミングを披露。ドラムに耳を惹かれるパートが多い一作となっている。

中でもYOSHIKIならではの高速ビートは要チェック。スネア/キックの安定した打点や手足のリストの強さを感じさせるドラムの豊かな鳴り、怒涛の音圧を誇る高速2バスなどは実に見事。高速ビートをフィーチュアした楽曲のサイズが長いこともポイントで、驚異的な小節数をパワフルに叩き切る彼の肉体面、メンタル面の強靭さには圧倒されずにいられない。X JAPANの楽曲の特異性がYOSHIKIのドラムに負うところが大きいことを再確認させられた。

ドラムと並んで、YOSHIKIが奏でるピアノも聴きどころ。長尺のピアノ・ソロを配した「ART OF LIFE」を筆頭に、各曲のエモーションを増幅させ、鮮やかに楽曲を彩るピアノ・ワークは本当に素晴らしい。ハードネスとピアノを融合させるというアプローチを形にした先駆者の1人だったYOSHIKIにふさわしい上質なピアノを堪能できる。

X JAPANの世界観がYOSHIKIの美意識やピアノ/ストリングスを配した壮大なアレンジによって創られていることは紛れのない事実だ。だが、冒頭にも記したように、YOSHIKIのイメージを具現化し、楽曲にさらなる魅力を加えられるテクニックやセンスを持ったメンバーが揃っていることは重要なポイントといえる。もう一つ、メンバー全員の高度な演奏力がアグレッシブな楽曲に独自の洗練感や煌めきを添えていることもX JAPANの大きな魅力になっている。

文●村上孝之

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