それは今から31年前、1983年4月21日のこと。浜田麻里のデビュー・アルバム『Lunatic Doll~暗殺警告』がリリースされた頃の日本のロック・シーンは、新世代HR/HM(ハードロック/ヘヴィメタル)のムーヴメントが始まったエポックメイキングな時代だった。

◆浜田麻里~拡大画像~

歌謡曲やポップスなどの“表のシーン”では松田聖子、中森明菜ら実力派アイドルたち、松任谷由実、山下達郎、大瀧詠一などのポップス勢、RCサクセションや佐野元春らロック勢が気勢を上げ、同年暮れには尾崎豊がデビューを果たす。アンダーグラウンドなパンクやニューウェーブなども着実に支持を集め、それらが入り混じってにぎやかな混沌を見せていた時代。のちに明らかになるように、浜田麻里の中にハードロックだけではなくポップス、アイドル的な要素までが含まれているのは、時代の必然だったのかもしれないと今にして思う。糸井重里による「麻里ちゃんは、ヘビーメタル。」という有名なキャッチコピーも、そうしたイメージを反映したキャッチーなものだった。

もともと浜田麻里は、15歳の頃からプロフェッショナルな活動を始めた早熟なシンガーで、デビュー当時は20歳という若さながらすでにキャリアは十分。当時のHR/HMシーンを牽引していたラウドネスの樋口宗孝がプロデュースとドラムを手掛けたデビューアルバムにおいても、樋口の叩きだす重厚なビートに臆することなく、強烈なシャウトを交えた堂々たる歌唱を披露し、一躍トップ・シンガーの仲間入りを果たす。ここからハードロックとポップスを股にかけた浜田麻里の快進撃が始まるわけだが、当時の心境を彼女はこう語っている。

「最初の10年は本当に無我夢中で、自分のやり方をどう確立させていこうかということで頭がいっぱいだったと思います。本当に忙しく立ち回っていまして、アルバムも多数作りましたし、ツアーも精力的にやりましたし、本当に目が回るほど忙しく過ごしました。まぁでも、その甲斐あって、当初思い描いていた10年間の理想的な形まではなんとか漕ぎ着けられたかなと思いました」

約30年のヒストリーの最初の10年を、さらに細かく分けると、アルバム6作目『PROMISE IN THE HISTORY』(1986年)までがストレートなHR/HM期ということになる。そして7作目『IN THE PRECIOUS AGE』(1987年)からロサンジェルスにレコーディングの場を移し、マイケル・ランドウ(G)、スティーヴ・ルカサー(G)、リー・リトナー(G)、ジェフ・ポーカロ(Dr)など凄腕ミュージシャンと渡り合いながら、ポップなメロディと明るい曲調が多いLAメタルや、フュージョン系ロックの影響を消化しつつ、新たな音楽の方向性を探る時代へと突入していった。

「協力してくださるメンバー、エンジニアも全部一新してアメリカ人を中心としたプロジェクトになりましたので、そこで素晴らしい方々との出会いもあり、その人たちがずっと私を支えてくれたっていうか、制作という意味では、そう言っても過言ではないと思います。それ以前の初期も素晴らしいメンバーたちでやらせていただいて、B’zの松本(孝弘)くんとか樋口氏だとか、本当に才能豊かなメンバーとやっていたので不満はなかったんですけれども、そろそろ初期にあったハードロック/ヘヴィメタル・ブームみたいなものがもう終焉を迎えるであろうことが確実に見えていたので、自分としては殻を破って広げていきたいなって思ったんです。なので無理矢理のように渡米しまして、そこから一から築いていったという形でした」

そして1989年、化粧品メーカーのCMソングに使用されたシングル「Return to Myself~しない、しない、ナツ。」が、オリコンチャート1位を記録する大ヒットを記録。同名のアルバムもオリコン1位を記録して、初期のHR/HMにポップな要素を加えたスタイルを確立すると、13作目『Persona』までの7枚はすべてチャートの1位か2位、「Heaven Knows」「Paradox」などシングルも連続ヒット。アリーナ・ツアーや海外ライブも成功させ、デビュー10年にして浜田麻里は黄金期を迎える。が、その成功に安住せずに新たな道を歩み始めたことが、のちの彼女の運命を大きく左右することになる。

「次の10年は、自分の未来を見据え始めたと言いますか、それ以降の自分の在り方を深く考えるようになりました。結果、ライブを休止しまして、内なる部分と言いますか、そういう部分で溜めたいというか、自分に足りない物をなんとか補いたいと思っていたんですけど、結果、それがライブを休止するという形になりました。まぁ、音楽制作というか、アルバム制作はずっとコンスタントに続けておりましたので、それまでライブツアーをしていた時間を使って、他のシンガーの方がやらないようなエンジニアリングなどのノウハウを得たり。心の内なるものに興味が湧いて、精神分析学とか哲学とかにまで興味がいって、そういう本を読んでたりしていました。その時溜めたものがその後の自分の音楽性なり、歌詞の内容なりに随分貢献したかなっていうか、結びついていったかなって思います」

ライブ活動休止期は、1996年~2002年にかけての約5年間。音楽的にもより落ち着いたAOR色を強めた『“Philosophia”』(1998年)や、全編打ち込みのリズムにトライした『Blanche』(2000年)など意欲作ばかり。この時期の前向きな試行錯誤が、このあとに訪れる“ロックへの回帰”につながっていくことを考えると、彼女の全活動期を通して常に未来を予測した強い意志と大胆な行動力に、驚きと感動を覚えずにはいられない。

「その次の10年はライブの復活というか、ライブ復帰をしましたので、そのことによって少し自分の中にあった迷いみたいなものが全て吹っ切れて、自分のあるべき姿というものをハッキリ認識することができたんです。そんな気持ちでアルバムをずっと作っていきましたので、より質の高いものになり、どういうわけか、すごくロック色がまた強くなっていった10年でした。それからはファンの皆様とのコミュニケーションだったり、一新したスタッフとのコミュニケーションというものをすごく大事に考えてやってきた10年です。実りは多かったと思います」

『marigold』(2002年)『elan』(2005年)など、この時期のアルバムはライブ感あふれるバンドサウンドを中心とした、パワフルな中に落ち着いた深みを感じる大人のハードロック・アルバムといった印象の佳作揃い。久々にロサンジェルス録音を行った『Sur lie』(2007年)ではマイケル・ランドウが、『Aestetica』(2010年)ではラウドネスの高崎晃が、そして最新オリジナルアルバム『Legenda』(2012年)では、高崎に加え増崎孝司(G)、寺沢功一(B)、宮脇“JOE”知史(Dr)ら旧友たちがこぞって参加し、30年のキャリアの総括とも言える浜田麻里ならではのハードロックの真髄を聴かせてくれた。

ファンの評価もセールスも非常に好調で、過去10年間のベスト・アルバム『INCLINATION III』(2013年)や、全シングルを収めた『MARI HAMADA COMPLETE SINGLE COLLECTION』(2014年)は、80年代や90年代の彼女の活躍を直接知らない若い世代にも、大きくアピールする結果となった。今、デビュー30年を超えて最高の充実期に彼女はいる。が、その果敢なチャレンジ精神はまったく衰えることなく、「今後はどんなことをやっていきたいですか?」という質問に対しても、力強い答えを返している。

「あんまり具体的なことは考えないようにしているというか、考えにくいというか、いつも私の前には前例がなかったものですから、想像することが難しい中でずっとやってきたので、今もその通りなんですね。自分が想像できる自分になるのが面白くないというか、想像を超える自分でいたいなという理想があるので、あまり考えないようにしているのかもしれません。ただ、音楽制作をしっかりとしていきたいというのが肝にあって、やっぱりそうですね、今までになかった女性ロックの在り方というか、そういうものを後世に道を残せればいいなとかは思います。そして、いい意味の“異端児”でいたいと思います。ずっと私は異端児だったと思いますから。日本って、右へならえで、同じ傾向の曲を作ったり、そういうやり方ってありますけど、自分はいい意味で異端でいたいです。これまではそういう意識だったので誤解されてばかりだったと思いますけど、やっとその誤解も溶けつつあるんじゃないかと思ってます(笑)」

7月20日にWOWOWで放送される「浜田麻里30th Anniversary Mari Hamada Live Tour-Special-」は、4月27日に行われた東京・国際フォーラム ホールAでのライブを完全収録したもの。

「今演奏しても新鮮味があって、なおかつ、みなさんがきっと望んでいるであろう曲をピックアップしながら作っていきました」

「基本はロック色の強いもので、というふうに考えましたけど、ただ、それプラス、ストリングスや歌の多少繊細な部分と言いますか、織り込むことによって私の30年の私の歌を含めた振り幅みたいなものも出せたらいいなと思いました」

という言葉からも、このライブに賭けた彼女の思いがひしひしと伝わってくる、まさに30年の総決算となるスペシャル・ライブ。長年のファンはもちろん、浜田麻里の存在を最近知ったというリスナーも必見のプログラムだ。

さらにその後、8月31日、9月7日には東京芸術劇場コンサートホールにて、9月3日には大阪フェスティバルホールにて、『billboard classics「Mari Hamada Premium Symphonic Concert 2014」~ROCK QUEEN×ORCHESTRA~』と題したフルオーケストラとの夢の共演が開催される。指揮者に大友直人、梅田俊明、オケに日本フィルハーモニー交響楽団と日本センチュリー交響楽団という錚々たる顔ぶれをバックに、稀代のロック・クイーンがどんな新しいチャレンジを見せてくれるのか。30年を超えてさらに前人未到の領域へと突き進む、浜田麻里の尽きせぬロック・スピリットが、時代を超えて多くの人の心に届くことを願ってやまない。

文●宮本英夫

「浜田麻里 30th Anniversary Mari Hamada Live Tour -Special-」
7月20日(日)夜6:00[WOWOWライブ]
WOWOW 浜田麻里 特設サイト
http://ac.ebis.ne.jp/tr_set.php?argument=6A92YCES&ai=a53be3c36c764d

<Mari Hamada Premium Symphonic Concert 2014 ~ROCK QUEEN×ORCHESTRA~>
8月31日(日)9月7日(日)
東京:東京芸術劇場コンサートホール
9月3日(水)
大阪:フェスティバルホール
■指揮&音楽監修:大友直人(9月3日、9月7日公演)、指揮:梅田俊明(8月31日公演)
■出演:浜田麻里
■管弦楽:
日本フィルハーモニー交響楽団(東京)
日本センチュリー交響楽団(大阪)

◆浜田麻里 オフィシャルサイト
◆WOWOW 浜田麻里 特設サイト