榊いずみ、自然体のまま貫かれた覚悟『ほねのうずめ方』

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榊いずみのニューアルバム『ほねのうずめ方』が7月26日に発売となる。セルフカバーアルバム『AG』、ベストアルバム『GOLDEN☆BEST 橘いずみ+榊いずみ -20th Anniversary-』と積極的なリリースを重ねてきている近年だが、オリジナルアルバムは2011年7月18日発売の『一瞬のまばたきみたいに消えてしまう僕らはきらめき』以来、3年ぶりとなるものだ。

◆榊いずみ画像

榊いずみは、この作品で2014年という今の時代を揺るがぬ視点で貫き描き通している。

「『ほねのうずめ方』、ある意味とても衝撃的なタイトルなのかもしれない。自分としては「この会社に骨をうずめます」的な言い回しとして使ったのだけれど」──榊いずみ

彼女はちょっと困惑したような様子でタイトル『ほねのうずめ方』の説明をする。「自分が音楽を生業としていく覚悟というかな、そういう気持ちを込めてます。音楽、特に言葉を伝えていくことが自分の役目のような気がして」。

この一年、音楽番組などで若いミュージシャンとのセッションの機会にも恵まれ、榊いずみが橘いずみだった頃…20年も前に作った歌「失格」や「太陽」が共通言語になっていたという。「がむしゃらに歌を作って来たけれど、それが世代を越えた人たちにちゃんと伝わっているんだ、と思える機会があったことは大きな財産になりました。みんな一様に歌詞に関して心を動かしてくれた。これはわたしの大きな特徴なんだろうな、といまさらながら実感しました」と笑う。

渦中にいるとき、自らの魅力などはわからないものだ。橘いずみであれ榊いずみであれ、彼女はその時に思うことや感じたことを、そのまま紡いできただけなのだろう。以下の発言は、作品ごとに語られたエピソードの断片だ。

「わたしにとって「蜘蛛の糸」を作った時に、また別の扉が開いた気がします。主人が撮った映画(2014年6月公開『捨てがたき人々』)の主題歌として、作品を見た後に書いた曲です。映画の中に息づいているある意味すごく人間らしい生き様を通して生まれた歌。決して自分自身のことに執着していたらできない曲だと思います」

「自分にとっての原発事故後の気持ちも歌にしたかった。前作(『一瞬のまばたきみたいに消えてしまう僕らはきらめき』)の中でも「目の前のドアを開けろ」は3・11があったから出来た歌だったんですけど、もう少しそこにあるものをあるがままに歌にしたかったというか。歌の中で答を出さないで、あるがままを歌うというのも実は自分にとって高いハードルだったんです。「僕らの未来」はそういう歌になりました。今の世の中の煮え切らない感じ、未来に関する希望の見えない感じ、この国がどんどんきな臭い方に向かっている感じ、世の中の不正みたいなものがどんどん明らかになっていくのにも関わらず諦めが支配するこの感じ、ぼんやりした霞のかかった今を切り取っておこうと思った。この雰囲気がすべてを包み込む今。」

「そんな中でもやっぱり自分たちの営みみたいなものは変わらない。変えようがないんです。太古の昔からやっていたように、大事なものを守り、その土地を愛し、生き抜いていくしかない。愛する人たちに出会えた奇跡を時に思い、感謝するしかない生き物なんだろうと思う」

「子供たちに残すべき言葉というのも意識しています。困った時の道筋を探すべく本を開いたようにわたしの音楽を聴いてくれたらいいな、と思います。わたしが死んでしまった後も子供たちが歌を聴いてくれたら、とね。まさに、ほねのうずめ方ですね」

今作『ほねのうずめ方』は、佐藤亙(Beadroads)とのセッションを核に曲作りから共にしたことで、非常にいい方向に向いたという。ふたりともこれほどポップな作品になるとは全く予想していなかったとか。

「今回のレコーディングは、まず佐藤くんと完成形が見えるようなかっちりとしたデモを録るところから始めました。そこでスタジオに入り、集中してセッションしながら作りました。おおまかな話をした後、佐藤くんがアレンジしながら形を作り、そこにわたしがメロディーを乗せていく。メロディーの後は佐藤くんがアレンジの追加、その間にわたしが詞を作る。そんな流れ作業を10日間ほどで、ほとんどの曲が出来上がりました。ほとんどのベーシックトラックは、何年も一緒にやっているバンド、末藤健二さん(Dr)、隅倉弘至さん(B)にプレイしてもらってます。スムーズにしかも多くを語らずも思ったような音に仕上げてくれました。やっぱり長年の積み重ねっていいなぁと思いました。レコーディングエンジニアの田中邦明さんも、わたしの2枚目のアルバム『どんなに打ちのめされても』から『ごらん、あれがオリオン座だよ』までを一緒に作っていたのですが、今回また改めてお願いしました。オーケストラが入った贅沢な音から、思い立って作った宅録的なレコーディングまで、わたしを形どった時期を知っている田中さんに今またお願いしたくなって。今何か成長があったのか(笑)。あんまりないのかもしれないですね。出来上がった音像は耳に懐かしいあの感じでした。そして2014年の音になった。レコーディングからミックスまで素晴らしい音に仕上げていただきました」

収録曲「あんたのアンサー」では宮田繁男がドラムを叩いている。2015年公開予定の映画『木屋町DARUMA』のサウンドトラックのレコーディングで叩いてもらった縁によるものだ。「宮田さんは20年近く前に一緒にツアーを回ったんです。勢いがあり、一番思い出深いものでした。ライブDVD再発イベントに来て頂いた時に「また一緒にやろうね」と言って下さいました。その言葉に甘えて、スタジオにお呼びしたんです。でもその半年後に宮田さんは亡くなってしまった。一緒にレコーディングセッションしたことがなかったのですが、その思いを察して下さったのか無理をおして素晴らしいドラムを叩いて下さいました」

そんな出来事もあり、様々な人生の決着の付け方というものを考える時期になったと語る。

「いつ人生を終えるのか、それは誰にも分からないことだけれど、いつかひとり残らず受け入れる運命であるラストに向かって何かを整えることはできるんじゃないか。整えることで今、生をもっと大切に出来るんではないか、と思うんですよね。昔からの日本の死生観というか、逆説的なんですけどね」

彼女は、最後にこのように語った。榊いずみのほねはアルバム『ほねのうずめ方』に埋められている。言葉は柔らかくサウンドもシンプルだが、生への執着とともに達観した思いや、それでもやりきれずにブレていく人々の愚かさがサウンドの隙間に透けて映しだされる。シンガーソングライターの原点を率直に写しだした、生々しくも美しい作品だ。

「まだまだ話足りないことばかりですが、音を聴いて下されば何か伝わるのではないか、と思います。今までよりもっと聴いて下さる方に届けばいいな、と願って作ったような気がする。覚悟を決める、という意味のほねのうずめ方が、聴いて下さった方ひとりひとりの向かう先への橋渡しが出来ればいいな、と思います。その役割も請け負う、ということへの覚悟もしたな。それがわたしの『ほねのうずめ方』なんだと思います」

『ほねのうずめ方』(2014/7/26発売)
FTR-CD002 ¥3000(税込
1.グラヴィティー   4:37
2.ワールドワイドワールド 5:17
3.サンビーム 5:29
4.我忘れ 3:50
5.やさしい雨 5:17
6.あんたのアンサー 3:48
7.ジャスミン 4:06
8.蜘蛛の糸(映画「捨てがたき人々」主題歌)5:11
9.僕らの未来 5:22
10.HEROを待っている 3:23
※sakakiizumi.comにて通販、iTunes、榊いずみライブ会場での限定販売

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