2015年のグラミー賞についてのコラムを書くにあたって、注意していることがひとつ。それは“年間最優秀レコードと年間最優秀楽曲を取り違えないこと”…というのは半分冗談だが、ノミネート5曲のうち4曲がかぶっているため、うっかりしていると“あれ?どっちだっけ?”ということになりかねない。そもそも主にシングル曲を対象とし、演奏者(歌手)と制作チームに贈られる年間最優秀レコードと、作詞・作曲者に贈られる年間最優秀楽曲の性格が似ているために、こうしたことは時々起こる。改めて、その作品たちをチェックすることにしよう。

◆メーガン・トレイナー、シーア画像

●対照的な過去を持つ有力候補2人にテイラー・スウィフトの新境地

近年で言えば、2012年の第54回と2010年の第52回も、5曲中4曲が同じアーティストだった(52回のビヨンセは別の曲で2曲ノミネート)。結果は54回がアデル「ローリング・イン・ザ・ディープ」のダブル受賞で、52回はビヨンセ「シングル・レディース(プット・ア・リング・オン・イット)」とキングス・オブ・レオン「ユーズ・サムバディ」が二つの賞を分け合った。さて今年はどうなるか?

特に注目を集めるのは、主要4部門のうち4冠の可能性があるサム・スミスと、三冠の可能性を持つイギー・アゼリアだ。片や、幼い頃からジャズ・ボーカルと作曲の教育を受け、ロンドンのクラブ・シーンで地道な活動を重ねて成功へのチャンスを探していた英国人。一方、アメリカのハードコアなラップに衝撃を受けて単身渡米し、異邦人の女性ラッパーというハンディを実力で乗り越えてトップに上り詰めたオーストラリア人。サム・スミス「ステイ・ウィズ・ミー~そばにいてほしい」は美しいゴスペル風バラード、イギー・アゼリア「ファンシー feat.チャーリーXCX」は、シンプルで力強いビートを持つ、ヒップホップの定番である猛烈なセルフボースト(自己賛美)ソング。何から何まで対照的なふたりのどちらかが、受賞への最短距離に位置していることは間違いない。

とはいえ、ふたりのうちのどちらかが受賞すると言い切れないのは、ほかの3組も強力なポテンシャルを秘めているから。中でも強力なライバルは、もちろんテイラー・スウィフトだ。もともとはカントリー・シンガーとしてデビューしたテイラーだが、その可憐な美しさと音楽的才能を武器に大ブレイクを果たすと、最新アルバム『1989』ではついに正式に“メインストリームのポップ・アルバム”であることを宣言し、ジャンルの枠を超えて爆発的に支持層が拡大。日本でも“テイラー女子”なる言葉が生まれるほどにアイドル的な人気を獲得しているのはご存知の通りで、ノミネート曲「シェイク・イット・オフ~気にしてなんかいられないっ!!」も大ヒット。彼女が受賞を果たせば、日本の洋楽カルチャーの復権に向けての大きな推進力にもなるはずだ。

●“顔を見せないシンガー”Siaと“ぽちゃカワ歌姫”メーガン・トレイナー

そして、“顔を見せないシンガー”として大きな話題を集めた1975年生まれのオーストラリア人シンガー、Sia(シーア)。彼女の長く複雑なプロフィールを簡単に紹介することは難しいが、もともとは90年代から活動しているジャズ系のシンガーソングライターで、バセドウ病を患って一時リタイア。しかしその類稀なるソングライティングの才能を生かし、ビヨンセ、リアーナ、ブリトニーなどに提供した曲が次々と大ヒットし、2014年に久々にカムバック作を発表する。それがアルバム『1000 Forms Of Fear』であり、今回のノミネート曲「Chandelier」だ。暗く重々しい旋律、内省的な歌詞、情念のこもったハスキーボイス。およそポップとは言いがたいが、一度聴いたら耳について離れないこの曲の中に、一人の女性の壮絶な、しかし真摯な生き方がリアルに感じ取れることが、アメリカで大ヒットした理由だろう。

そんなSiaとはある意味対照的なのが、マサチューセッツ生まれの21歳、メーガン・トレイナー。巷ではぽちゃカワ歌姫などと呼ばれているようだが、確かにちょっと太めの体型で、さらにノミネート曲「オール・アバウト・ザット・ベース」の歌詞も、めちゃめちゃ明るいぽっちゃり賛歌。あなたはその姿のままでいいのよ、という超ポジティブな楽しい曲だが、彼女はぽっと出のアイドルではなく、十代半ばでソングライターとして認められ、多くのアーティストに歌詞を提供してきた実力派。「オール・アバウト・ザット・ベース」も、当初は提供曲のつもりで作ったものを、周囲が本人に歌うことを薦めた結果として大ヒットを記録。可愛いだけじゃない、強いメッセージを持った新世代アーティストの代表だ。

こうして5組を紹介してきて気づくことは、4組が女性アーティストだということ。今や日本の洋楽シーンも、レディー・ガガ、ビヨンセ、アリアナ・グランデ、テイラー・スウィフトらがリードしていることを考えれば、アーティスト女性上位時代は世界的な傾向かもしれない。受賞者予想は非常に難しいが、ここはあえてただ一人の男性アーティスト、サム・スミスの四冠の可能性に賭けてみよう。誰が獲っても初受賞の年間最優秀レコード、発表の瞬間までドキドキワクワクを楽しんでみたい。






Text:宮本英夫
Photo:Getty Images

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