「結局、人はHAPPYになるために生きている」
米倉利紀が、人生、さらにはアーティストとしての“断捨離”を経て、今の自分に必要なもの、これからの人生に必要なものを見極めたとき辿り着いたのが、この言葉だった。だからこそ、通算20枚目となるニューアルバム『streamline』は、サウンドも歌詞もストレートにポップでカラフルだ。耳元をくすぐるラグジュアリーで、色気をはらむHAPPY感満載の新作について、BARKSはインタビューを敢行。米倉の“HAPPY”を紐解く様々なクエスチョンとあわせて、読んでいただきたい。


◆僕たちって、単純にHAPPYって思えるところを目指して生きていると思うんですね。


――まず、ニューアルバム『streamline』のジャケットについてなのですが、これは何が描かれているのでしょうか?

米倉:この絵に関してはこれが何なのかというのは誰も分からないのです(笑)。それが、このジャケットのいいところ。というのは、今回このイラストを篠崎ヒロシさんにお願いしたのですが、篠崎さんと昨年イベントでご一緒した際、彼の作品の世界観にとんでもなく引きずり込まれたんですよ。 “これ何なんだろうな?”って。その“何なんだろう?“という奇妙さが面白いなと思って彼の作品のファンになり、そして、どこかで自分の思考回路と通づるものを感じ、今回アルバムジャケットをお願いしたんですね。30分程の打ち合わせはしたものの、ジャケットに描かれたものは篠崎さんの頭の中にあるものだと思うんです。アルバムタイトルの“streamline”という単語は、流線型とか合理化とかを意味するんですけど、それを僕は“断捨離”という言葉に置き換えました。断捨離していくときって、何を捨てて何を残すか。その判断は本人の頭の中でしか分からない価値観で判断するじゃないですか?

――ええ。他人には「なんでそれを捨てないの?」というものでも本人的には「捨てるなんてありえない」といものがありますからね。

米倉:そうなんです。そういうその人の頭の中でしか想像できないものをアルバムのジャケットで表現してくださいと言ったら、この作品が仕上がってきたんです。あと、今回は断捨離というコンセプトに合わせて、あえて色を使わないようにして、ひとつだけテーマカラーとして黄色と決めて、ジャケットや僕が着ているシャツに色を入れたんです。

――アルバムの内容に照らし合わせてみると、断捨離をして、人生で本当に必要なものとして残ったもの。それが“黄色”という解釈もできますよね。そこで残った黄色いもの。それが、本作が発している“HAPPY”感だと思うのですが。

米倉:そうですね。僕たちって、単純にHAPPYって思えるところを目指して生きていると思うんですね。“なんかわかんないけど楽しかったね、あのメシ会とか、説明できないHAPPYさ。考え過ぎない、そのシンプルさを今回のアルバムで試してみたかったということです。

――だから、本作を聴いてると、ものすごくHAPPYなオーラに包まれる気がするんですかね。ヒーリング効果を持ったアルバムだと思うんです。

米倉:ありがとうございます。それはきっと、今僕が幸せだからだと思います。でも、不幸な歌のほうが好きっていう人も多いですよね。

――ああ……。そうかもしれないです。

米倉:“僕は傷心で一人ぼっちで寂しい、毎日眠れないんだよね”っていうような歌詞を好む人が多いし共感を得やすい。ただ単純に“幸せな恋愛してます”ってことを描くと鼻で笑われちゃうこともある。だからといって、ポピュラリティーを重視して、今心にある“温かさ”を作品にしない手はないなと思い、正直な想いを歌詞にしたんです。特に今回は、できるだけ日常で使ってるシンプルな言葉で作詞をしました。それは作詞家・米倉利紀の、シンガー・米倉利紀に対する挑戦です。シンプルな言葉をいかに意味がある言葉として歌えるかというチャレンジですね。

――今回歌詞をシンプルにしていくなかで気づいたことって、何かありましたか?

米倉:自然と10代、20代の頃に使っていた言葉が出てきましたね。それは、きっとその頃に書いていた歌詞がすごく素直だったってことなんだと思います。30代というのは30代だからこそ書かなきゃいけない歌詞があるんじゃないかって考え過ぎてしまって、言葉を探してたんですよ。でも、今回は言葉を探すというよりも、本当の自分、自分が本当に言いたいことを探しながら書いた歌詞なので、過去に19枚出したアルバムのなかで今作がもっとも歌詞書きに時間がかかりました。でも、一番シンプルな言葉を使ったアルバムになったと思います。


◆そんなことで人の心なんて掴めないよ、という僕なりの愛情表現。


――「好き」なんて、まさにこのタイトルからしてその極地だと思いました。だから、本作のリード曲なんですかね?

米倉:それもありますね。好きという気持ちがどれだけシンプルで、どれだけ力強い言葉なんだろうということを再認識できたんです。

米倉利紀 New Album『streamline』

――アルバムは「let’s get started」という米倉さんならではのパーティーチューンでスタートします。バカ騒ぎするのではなく、そこに絶妙なラグジュアリー感を漂わすあたりは40代ならではのパーティーチューンだなと。それが歌詞に織り込まれた“上品”、“上質”と見事にリンクしていましたね。

米倉:そこ引っ掛かってくれてうれしいです(笑)。実は歌入れの日、そこを違う歌詞に入れ替えようとして持っていったんです。でも現場にいたスタッフ全員に元の歌詞のまんまがいいと言われて、戻した歌詞なんですよね。

――米倉さんが思う上質さ、上品さとは何でしょうか?

米倉:これはアルバム全体に通じること、かつ、僕自身が心掛けていることなのですが、“デリカシー”ですね。

――デリカシー?

米倉:今の時代、ネットやSNSが当たり前にあって、情報だらけの世の中です。そのなかでも言っちゃいけないこと、やっちゃいけないことって必ずあるはずなんですよね。デリカシーがどんどんなくなっていると思うんですよ。例えばパーティーだから何やってもいいのかっていうと、決してそうではない。そこにはパーティーごとのルールがあって、主催者が求めているデリカシーという品があるはずなんですよ。それに添った行動をするのが僕は上質なパーティー、上質な時間の過ごし方なんじゃないかなと思います。

――今、ネットやSNSのお話が出たので、ここから3曲目の「I KNOW,YOU KNOW HOW TO DO IT」について伺いたいのですが、この曲は今作のなかでトラックがもっともエッジーな仕上がり。そして歌詞はSNSへの警告ともとれましたが。

米倉:Instagram、Facebook、Twitterなども含めて、世の中寂しい人たちが多いんだなと思うんです。なんでそんなに色んな手を使ってまで人の注目を浴びたいんだろうって思いませんか? 例えば“自撮り”ひとつをとっても、そんなの自己紹介に1枚あればいいのに、角度を変えて自撮りの写真を毎日アップしている。それの何が問題かというと、全部同じ顔なんです。角度を変えても何一つ表情は変わらない。だったら真正面から撮って、同じ角度でいろんな表情を見せるほうが人として心が豊かなんじゃないかと思う。それってみんな自分に自信がないから、角度を変えたり周りの環境を変えて自分に自信があるように見せ掛けてるんじゃないかなと思うんですよね。それを、歌詞の中で“八方美人”と表しているんです。でも、どうしたって自分は自分で変わらない。それをサビの部分で“そんなことあなたは、分かった上でそういうことやってるでしょ?”と歌っているんです。そんなことで人の心なんて掴めないよ、という僕なりの愛情表現。

――なるほど。自分は自分、自分らしくあればいいんだというメッセージは「that’s the way life goes」でも歌われていますね。

米倉:ニューヨークも、ものすごい情報量なんですけど、ニューヨークと東京で何が違うかというと、その情報を選ぶ選択肢があるということ。日本って、全部を知っていて当然という空気があるんですよね。僕はその空気が苦手。焦らされちゃうというか……もっともっと焦らないで、ゆっくり地に足をつけて自分らしく生きていくことのほうが大事だよという歌詞ですね。

――この曲はサビ頭で“hold on~”をリフレンしながらメロの階段を上がって行くところがあるじゃないですか? あそこが背中を押してくれているようで、ポジティブな自分になれるんですよね。

米倉:そこはね、仮歌では“baby”で歌っていたんですよ。その “baby”は背中を押してあげるという意味での“ねえ、君”という意味での “baby”。そのままでも良かったのですが、前後の歌詞の流れで言葉を変えて、“hold on~”や“waiting~”は“baby”と同じ意味合いとして歌っています。


◆この数年、どれだけこのフレーズを自分に言いきかせて生きてきたことか(笑)。


――曲に気持ちを押されるという意味では「KISS and HUG」もそうかなと思ったのですが。サビ頭の“baby come”のリフレイン、“baby come”尽くしの間奏のコーラスワークは、“ヤバい、愛しなくちゃ”と猛烈に恋愛スイッチが入ります(笑)。

米倉:(笑)。これはもう、超ポップで楽しい曲、そして元気な1曲にしようと思って書いた曲です。

――ポップなエレクトロで気持ちも華やぎますよね。対して「贈り物」は、“巡り逢う、人は誰かに 探さなくて良い”というフレーズが突き刺さります。

米倉:僕ね、この数年、どれだけこのフレーズを自分に言いきかせて生きてきたことか(笑)。選んじゃうんですよね、人って。どこかで天秤に掛けてしまう。例えばスーパーに行って納豆を買おうとするけど、いっぱい種類があるじゃないですか? どれにしようか選ぶのと同じぐらい恋愛でも僕は人を選び始めてしまっていたんです。人を選ぶというか、自分自身の想いを選択してた。今、恋愛を納豆の種類に例えるのはどうかと思いますけどね。(笑)恋愛対称となる人が10人いたとしたら、どの人が自分にとって一番良い、相応しいんだろうとかクダラナイことを考え始めていました。勿論、一人一人に対して真面目に考えていたからこそですよ。本来は人を選ぶ前に自分が変わらなきゃ何も変わらないのに。そうやって自分の想いを選んでいる間に、気が付くともう何年も経ってたという(笑)。

――この話題で今、ものすごく共感している人たちに恋愛マスターの米倉さんがアドバイスをするとしたら?

米倉:僕が今辿り着いたのは、完璧な人なんてどこにもいない。もちろん自分も完璧ではない。だから、探さなくていい、追わなくていい、必ず人は何かのタイミングで巡り合うということ。あとは歩み寄り。それを僕自身、改めて実感しているところです。そんなこと、十分わかってたつもりだったんですが、どこかで迷い道、迷路に入っちゃってたんですよね、僕。恋愛以外、今のウチの事務所のスタッフ、そして愛犬達との出逢いもそう。探したものではなく思わぬところでの巡り合わせなんですよ。

――思わぬ出会い、その瞬間もこの上ないHAPPYが味わえるときですよね。「距離」とか、この歌にあるカウンターの横の席から膝が触れ合うところへと距離が縮まっていくという表現なんて、HAPPYな妄想が止まらなくてニヤニヤしちゃいます(笑)。

米倉:トイレ行ってる間にちょっとだけイス近付けておこうかなとかね(笑)。そういうほんのちょっとしたことを楽しんでいます。

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