今更ながらアーティストのツイートはおもしろい。メシウマーみたいなどうでもいい(失礼)つぶやきも少なくないけれど、中にはキラリと光る非常に興味深いツイートがタイムラインにまぎれてくる。誰に対して何を思ってのツイートなのか、真意がわからないものも多いけれど、そのツイートに至った経緯を妄想すると、これまた興味が倍増する。

◆ハマ・オカモト画像

2015年の年が明け正月ボケも収まった1月13日、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)がこんなつぶやきを発した。


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2015年の思いつき。
ハマ・オカモト
今日からベースをはじめました。
ただし、レフティで。
全然弾けねぇ。
逆だとタイム感、手癖は変わるのか、1年経ったらどれくらい弾けるようになるのか。
皆様、見守ってね。

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これはおもしろすぎるじゃないか。無駄なようで有意義…なようで、遠回りのようで近道…のようで、意味があるのかないのかすらもわからない。見守ってね…と言っているけれど、我慢できずにコンタクト、このツイートの真意を紐解くべく、ハマ・オカモト本人に直撃を試みた。


■ハマ・オカモト
■どヘタクソ状態

──BARKS烏丸です。すみません、ベース・マガジンの取材じゃなくて。

ハマ:いえいえ(笑)。

──左で弾くという例のツイートですが、こういう事を思ったのは今回が初めてですか?

ハマ:そうですね、2014年末にふと思い立った感じですね。実は、この前高校時代の部活に遊びに行ったんです、OBとして来てくれと言われまして。で、その時にベースをやっている子が各学年ひとりずついまして、ベース歴もみんなバラバラだったんですけど、アドバイスを求められて何点か気になったところを言ったんです。

──プロの先輩からのアドバイスだなんていいですね。

ハマ:握り(左手のグリップ)に関して話をしたんですけど、でもその時に、始めたての子って、まだそういう次元じゃないということに改めて気付いたんです。まだ楽器に対して身体自体が慣れていないのに、そこで握りがどうのこうのとか言われても「できることならやりたいんですけど」という様な状態なんですね。「あぁ、でも始めたての時って確かにそうだよな」って思ったのが心に残っていて、そんな時、うちのギター(オカモトコウキ)が趣味程度でウクレレを始めたんです。それで自分も新しく楽器を始めてみようかな…ギターを弾けるようになろうかなとも思ったんですけど、でも「初心に帰ってベースを弾くのってどうしたら良いんだろう」って思ったんですね。

──なるほど、それでか。

ハマ:「完全に左で」だ!と思ったんですよね。これは2015年1月から始めようと。それで、新年の挨拶がてらフェンダーに遊びに行った時に「1月からレフティーを初めて、1年間地味に練習したらどれぐらい弾けるようになるのか挑戦してみたい」という話をしたら、すごくノッてくれて。即行でスクワイヤのレフティーベースを届けて下さったんですよ。

──なるほど、おもしろい。否応がなく初心に戻れるアイディアですね。でも、徒労に終わるかもしれない左の練習するヒマがあったら、普通に練習せんかい!という自分へのツッコミはなかったんですか?

ハマ:まぁそうですよね。ただプレイヤーとしての成長を考えた時、僕みたいな楽典も知らない人間は(プレイやフレーズの)引き出しっていうものが音楽を聴くことと色んな所に参加することでしか得られないと思うんです。だから楽典の本を買って覚えるよりも、もっと別の方法で増やしたいとも思って。右手の脳はすでにある種の性格があるけど、左手のほうはまだゼロでしょ?だから左手でベースを弾く時は、今まで通って来なかったメタルやハードロックを演ろうと思っていて(笑)。

──へえ、おもしろい。

ハマ:そもそも根本のフレーズが全然違うじゃないですか?大きく言うなら、右手がロック/ソウル/ファンクだとしたら左手はそうじゃないものを…と。左を修得することで何か概念が増えそうだなと思ったんです。タイム感なんかにも自ずと影響してきそうだな、なんて思っています。まあ実験なんで、全然分からないですけど(笑)。

──なるほど。

ハマ:本当に未知数ですけど、今まで約10年右手で弾いてきて、これから10年左手で弾いて33歳になった時に、右手と左手の比率ってどうなってるんだ?、というような好奇心ですね。

──絵の下手な人は利き手じゃないほうが上手に書けるという説もありますよね。不器用な分だけ、頭の中のイメージを丁寧にトレースしようとする意識が働くからだと聞いたことがあります。

ハマ:まさしくそんなことができればいいなって思ってます。僕がレフティーを始めたって言うと皆「じゃあボケないね」って笑いながら言って終わるんですけど、それだけじゃないと言うか、もうちょっと可能性を試したい感じ。まぁ練習と言っても毎日5分触れればいいってレベルですけどね。

──練習は順調ですか?


ハマ:やり始めて気がついたんですけど、身体が理解していないんでものすごく筋肉が痛くなるんです。なので小一時間もやっていると右手のほうに支障が出そうで(笑)。だからストレスを感じたら止めるようにしています。あともう一点気付いたんですけど、左でうまく行かなかった状態から右に戻した時の脳の爽快感がすごい。「弾けるー!」みたいな(笑)。左でストレスを感じて右で発散するっていうのができる。

──マニアックなマスターベーションだな(笑)。

ハマ:そうですね、完全に(笑)。

──プロでも左で弾くとなると、まるでド素人のようなレベルに落ちるんですよね?

ハマ:レフティーベースをチャットモンチーの福岡(晃子)さんに渡したら全然弾けないんですよね。テレビの収録で、天下の亀田誠治さんとKenKenに弾いてもらったんですけど、これがまー、全然弾けないんですよ(笑)。これによって、経歴でもテクニックでもなく、全然別物なんだって確証が得られた。

──あれだけ弾ける人が左右を逆にしただけで全く弾けなくなるなんて、当たり前のような不思議なことのような…。

ハマ:KenKenも初めて楽器を弾いた時のことを思い出すって言っていたけど、初心者とは1点だけ違うことがある。初めて楽器を始める時って全てがゼロじゃないですか?「できた」という体験もないからゴールも分からない。何となく弾けるようになっていったり、拍を取れるようになってきたり、全てが同時に成長していくんだけど、僕らは16ビートや8ビートのタイム感の中で弾くことをもう体験しちゃっているから、頭の中では理想図が完成している。だから自分の中で「このフレーズはこう」と分かって弾くんだけど、全然指が動かないという、初めての人にはない苦しみがあるんですよね。そんな脳の苦しみがあるから楽しいのかもしれない。

──それはもどかしいなあ。

ハマ:なんかこう、できる事が急にできなくなった感覚というか。でも理想は分かっているから、なおのこと気持ち悪くてしょうがないし、鏡で見ると右で持っている時と全然違って色んな所に力入っちゃっていますし…。

──楽器って、弾ける人が持つと自然にポーズも決まりますからね。

ハマ:そうなんですよ、バシっと身体の一部になるじゃないですか。そうならないんですよね(笑)。そもそもルックスも気持ち悪くて、なにこれ?みたいな(笑)。レフティーに視覚上も慣れてない。最初はチューニングすらおぼつかないんですよ。

──まだまだ前途多難ですねぇ。


ハマ:それでもだいぶ音も鳴るようになってきたんですよ。(少し弾いてみせて)ほら、素人っぽいでしょ?これでもだいぶ弾けるようになってきたから楽しくて…徐々に楽しんでいっている感じですよね。

──身体は初心者ですけど、成長の道筋への正解/最短距離を知っている理想的な専属先生が自分の中にいるんですから、そんな羨ましい初心者もいないよな、とも思います。

ハマ:そう、だからそういうタイムロスはないようにしようと思ってますよ。例えば、初心者にありがちな「ネックの握り方」だったり。腕の構造上、正しい角度じゃないとちゃんと指が開かないってことに気付くのが、僕も相当遅かったんです。長らく親指を畳んで弾いていたから。そういうのは最初から心がけるとこうならなくて済むなど、自分が10年かけて見つけてきた細かい部分は最初から対処できるので、そういった無知識による悩みのロスはないですね。

──でも、まだフレーズもまともに弾けないヘタくそな状態なんですよね?(笑)

ハマ:まだ粒を揃えて開放弦を弾けるようになろう、指を見ないでも4弦から1弦に行けるようになろうとか、そんなレベル(笑)。10年前に始めた時の事を痛烈に覚えていまして、フィンガリングに必死になりすぎて「よし!」って弾いた弦が違う弦だったりしたんです。そんな感じ。やっぱり最初は、何かを練習する以前に、一日5分でもいいから「楽器に触ること」がまず大事だよね。その楽器に慣れるというか。そこからやってますよ。

──ミュージシャンもイメージトレーニングって有効ですよね?私の知り合いのギタリストは、初めて聴いたフレーズも頭の中でギターを弾いて「あ、ここ難しいな」とかいいながら、そのまま脳内で弾き続けて「よし、弾けるようになった!」って習得してしまうんです。要はフィジカルな練習をしなくても弾けるようになる。そういう世界ってあるでしょう?それを転用したらどうなんですかね。無理なのかな。

ハマ:亀田さんがレフティーでザ・ビートルズの「Come Together」を弾こうとしたんですけど、弦をスライドさせた時点で上と下がわからなくなったりしたんです。だから、それこそ第二段階なんじゃないですかね。指板の構成すらまだ曖昧な状態だから、もしそれが頭に入ったら要領よくできるようになるのかも知れないですけど、最初は難しいでしょうね。でも難しく考えずに、慣れりゃ弾けるだろ位な気持ちでやっていたら、だんだんフレットノイズも減ってきた。最初はもっと酷かったですからね。

──まともに押さえることすらできないところからのスタートなんですね。

ハマ:押さえられないんですよ。小指が弱くてね、押さえていても全然スタミナがない。でも、これでもようやく押さえられるようになったんですよ、皆笑ってますけど(笑)。ただ、むしろそういう瞬間をちゃんと記録しておきたいですし、あえてSNSで言ったのは、気分で始めてつまらなくなって辞めちゃうのが一番カッコ悪いと思うので、いっそ公表して、後に退けないようにすると。

──実際、こうやって「ハマ・オカモト、ドへたくそ」な状態を拝見しております。

ハマ:それが面白いんですよね。だから動画を上げたりして。でもジョークでやっていてフェンダーとの契約を切られたらどうしよう(笑)。超下手じゃん!と言われたりして。でもね、ゆくゆくは「レフティーモデルの広告をやる」っていうのと、「レコーディングと、一曲ぐらいはステージで演奏する」っていうのが最終目標です。ワンコードの曲だったらできるようになるかな。

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