西村由紀江が2月18日、アルバム『My Stories』をリリースした。新曲を含む全12曲は自身の過去、現在、未来を描いたエッセイ的CD。本人曰く、「12のエッセイをデビュー30周年を目前に振り返って綴りました。今作品は、様々なテーマのもと、音楽と共に楽しんでもらう内容となります」という作品の完成だ。

◆西村由紀江 画像

普段、インストゥルメンタル音楽になじみのない方にこそ聴いてほしいアルバム。オリジナル作品に加え、TVドラマ、CM、映画音楽などで数多くのヒット・メロディを生み出してきたピアニスト・西村由紀江の最新作『My Stories』は、30年近くに及ぶ活動の中から選りすぐった楽曲に新曲を加えて、すべてをソロ・ピアノで表現した美しくモエモーショナルな作品集だ。心動かす曲、心の扉を開く曲、人と人との縁をつなぐ曲とは、一体どういうものなのか。先入観はいらない、すぐにこのアルバムを聴いてほしい。

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■ベストアルバム的にセレクトしたというよりは
■揺るがない自分自身というものを一つの作品にしようと思ったんです

▲アルバム『My Stories』初回盤

──とても素敵なアルバムですね。全編ソロ・ピアノということで、呼吸が伝わってくるような、ピアノのすぐ横で聴いているような気持ちになりました。

西村:ありがとうございます。これまでもソロのアルバムは何枚かリリースさせてもらっているんですが、今回は特に呼吸が伝わるように、私自身が伝わるように考えて作ったアルバムなんですね。それは音もですし、(CDブックレットの)文章も写真も、全部そうなんですけど。アルバムの12曲は、これまでの楽曲が11曲で、1曲が新曲なんですが、ベストアルバム的にセレクトしたというよりは、私の中で本当に大事にしたい曲、私の核になるであろう曲を選んだんです。今までだったら、ドラマで使われた曲や、ファンの人に人気のある曲を入れるんですけど、今回はそうではなく、揺るがない自分自身そのものを一つの作品にしようと思ったんですね。

──なぜ今、それをやろうと思ったんでしょう? 何かきっかけが?

▲『スマイルピアノ500』プロジェクト

西村:そうですね……いくつか要素があるんですが。一つは、今私は被災地にピアノを届ける活動をやっていまして(『スマイルピアノ500』プロジェクト)、その活動の中でいろんなことを学んだのも大きいですね。『スマイルピアノ500』では、新しいピアノを買って届けるんじゃなくて、どこかのお宅で使われていたものを譲っていただいて届けるようにしているんです。そうすると、そのお宅で大切にされていた気持ちが、譲る方にも伝わると思うんです。ある時には、阪神淡路大震災を乗り越えたピアノを譲っていただいて、兵庫県から陸前高田へ送ったんですね。そういう活動をしている中で、今まで使われていたものの中にある価値をもっと大切にしたいという気持ちが湧き上がってきたんです。それまではニューアルバム=新曲というのが毎年恒例になっていたんですけど、今回は自分が大切にしているものを、もう一回大切な気持ちで演奏してみたいというふうに思ったんですね。

──それがきっかけになって。でも選曲は大変ですよね。何百曲もあるんじゃないですか。

西村:大変です(笑)。400曲ぐらいあるので。好き嫌いでは選べないんですよ、全部自分が作った思い入れのある曲なので。だから、弾いていて心が動くかどうか。ちょっと話は飛びますけど、断捨離をする時に、心がときめくかどうかで捨てるもの/捨てないものを決める、という本がありましたよね。あれと同じように、演奏していて心が動くかどうか。これ、すごい好き!とか、これはすごくせつない、とか、自分が弾いていて特に感じるものをセレクトしていきましたね。

──それぞれの曲にまつわる思いやエピソードは、CDのブックレットの中にエッセイとして入っているので、そちらを見ていただけるとよくわかると思いますが。ちなみに一番古い曲は、どれになりますか。

西村:「とまどい」かな。28年前ですね。

──この曲を弾いていると、未だに心が動く?

西村:そうですね。28年前って、私がデビューして2年目ぐらいなんですけど、本当に自分自身がとまどっていたんです。ピアノのインストゥルメンタルのジャンルというものが、少なかった時代なんです。ピアノいえばクラシックかジャズかフュージョンか、イージーリスニングみたいな感じで、インストのジャンルでレコードを出している人が周りにほとんどいなかった。世代としてはいわゆるバブルのイケイケの頃なので、流行ってるサウンドはテクノサウンドとか、シンセサイザーを駆使したサウンドが多い中で、ピアノのインストは物足りないとか、つまんないとか、雑誌の取材とかでよく言われたんですよ。

──うわ。それは失礼な……。

西村:これは今っぽくないから、もうちょっといろいろ足したほうが時代に合ってるよ、とか。私に言うというより、編集の方がマネージャーやディレクターにアドバイスのように言ってくれるんですけど、横で聞いていてすごく悲しくて。

──そりゃそうですよね。

西村:私はどうすればいいんだろう、時代に合わないものを作ってしまったのかもと思ったんですけど、でも私がそこに合わせるのも何か違うと。そんな時に、とまどいの中からこの曲が生まれたんです。なぜ今回心が動いたかというと、曲を聴いてその頃の自分が思い起こされた時に、とまどって頑張っていた自分がすごく愛しく思えたんですね。せつない気持ちと共に、“ああ、あの時頑張ってたな”って。あの時に悔しいと思いながらも頑張ったから、今があるんだと思うと、よく頑張ったなと声をかけたい気持ちもあるし、今は今で新たなステージでの挑戦や葛藤やとまどいもあるので、今度は今の気持ちで、あの頃よりももうちょっと大きく包み込むような気持ちで演奏してみたいと思ったんですね。

──はい。なるほど。

西村:少しサウンド的な話をすると、“こうしようかな、でもこっちかも”って、自分の中で問いかけや対話をすることがあるでしょう? それを今回この曲の中では、連弾で表現したんです。“それでいいの?”“どう?”って会話をしているような。

──とっても面白いです。そういうエピソードがすべての曲にあるとすると、語り出すと長くなりますね。

西村:そうなんです。何時間もかかるので、みなさん疲れちゃうと思います(笑)。

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