【インタビュー】分島花音、自分のダークサイドや未熟さも素直に表現できたアルバム『ツキナミ』

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前作から約5年。アニメのテーマソングと10代の頃に作って、まだ音源化されていなかった楽曲などを中心に全曲自作曲で揃えた3rdアルバム『ツキナミ』で、分島花音はなぜこんなにも自分の人間性、パッションを開放し、アニソン、サブカルからロック、エレクトロ、クラシカルなサウンドまで、縦横無尽にポップに駆け抜けぬけることができたのか。これがシンガー・ソングライター分島花音の原点といえそうなアルバムを作り上げた彼女にインタビュー。

◆分島花音~画像&映像~

■私は普通に電車も乗るしジャージも着るし鬱々とした青春も送っていた
■自分のインサイド、ダークサイドな部分、未熟な部分も含めて
■“自分の表現”であることをちゃんと提示しようと思ったんです


▲『ツキナミ』<完全限定生産仕様>

▲『ツキナミ』CD

──音楽に対する分島さんのパッションがストレートに伝わってきて、アルバムのラストには思わず泣きそうになりました。

分島花音(以下、分島):嬉しい反面、ちょっと恥ずかしいです。こんなに自分が思ってることをストレートに書いた歌詞を入れたのは今回が初めてなので……。いつもは“ええかっこしい”なので、言葉をニュアンスで濁したりよくするんですけど。今回、とくに「ツキナミ」は、飾らないように意識して歌詞を書きました。

──歌詞もそうですが、いままでと較べて圧倒的に開放感あるアルバムに仕上がりましたね。しかも気持ちいいぐらいにポップ。

分島:1st(『浸食ドルチェ』、2nd(『少女仕掛けのリブレット』)までは理想とする“分島花音”というキャラクターを作りあげることに専念していて。その世界観を突き詰めることに全力を注いでいました。世界観を完成度を高めるためにも、非現実的なもの、空想とかも含め、美しいもののクオリティーを上げていく作業に重きを置いていたんです。でも、それがあまりにもうまくいきすぎてしまったところがあって。“花音ちゃんは電車とか乗るんですか?”とか“家はお城でシャンデリアがあるんですか?”とか(笑)。

──イメージの一人歩きが始まった。

▲封入特典イラスト_しきみ

▲封入特典イラスト_今井キラ

▲封入特典イラスト_南方研究所

▲封入特典イラスト_分島花音

分島:それで、まずそれを一回取り払いたいと思って、3年前から自分の楽曲を表に出すときは、自分はまったくみんなが思ってるほど大それた人間ではないし、普通に電車も乗るしジャージも着る。鬱々とした青春も送っていたし。というような自分のインサイド、ダークサイドな部分、未熟な部分も含めて“自分の表現”であることをちゃんと提示しようと思ったんです。人間的にも自分はもっとフランクな部分があるし、もっとポップな表現も好きで、自分がやりたいことはひとつじゃないということを提示したいと思って。

──それをコツコツと表に出してきた。

分島:はい。だから、このアルバムを出すまでに5年もかかったんです。それは、分島花音のイメージを原点に戻して“電車だって乗るよ”ということを分かってもらうまでに5年かかったったということだと思うんです。そういう部分も含めた3rdアルバムなので、いままでのキャラクター(に縛られた分島花音)じゃなくて、本来の自分が生活しているときの感覚。これまで物語のような歌詞を書いていたんですが、もっと自分のパーソナルなところを歌いたいと思って、そこへのシフトは意識しました。

──なるほど。物語の歌詞が減った分、分島さんの気持ちを歌った歌詞が増えたからこそ、本作からはすごくパッションが伝わってくるんでしょうね。

分島:サウンド的なところもあると思います。今回は荒削りのままでもいいから、あまり作り込みすぎないものを表現してみたいと思ったんです。本来の自分はまだまだ未熟な部分がある人間なので“生きている音楽”というものに重きを置いて。なので、今回はいろんなプレーヤーさんに楽器を弾いてもらって。ホーンやストリングスも含め、“人力”で作っているアナログ感、あたたかみを出したいと思ったんです。それで「ツキナミ」は岸田教団&THE明星ロケッツの岸田さんとはやぴ~さんにギターを、リズム隊はヒトリエのベースのイガラシさん、ドラムのゆーまおさん、ピアノは菊池亮太さんにお願いしました。バンドという勢いやアーティストの個性のぶつかり合いが欲しかったんです。

──結果、菊池さんのピアノなんて相当ヤバいことになってましたよね。

分島:はい(笑)。ぶっ飛んでいますから。この曲はピアノがキモなので、そういう意味ではあのくらいやってくれたほうがよかったです。

──こんなにアバンギャルドなメンツでサウンドを鳴らしながらも、曲のタイトルは「ツキナミ」。

分島:月並みというのは平凡というようなニュアンスで使いますが、本来は“月ごとに行なう事”という意味なんです。毎月、もっというと毎日音楽のことを考えてて、切っても切り離せない自分と音楽の関係を表す言葉としてしっくりくると思ったんで、この曲はそういうことを歌って。結果、そのままアルバムのタイトルにしました。

──この歌の歌詞のなかには“海馬”という名前が出てきますけど。分島さん、好きな臓器ってあります?

分島:えー……(苦笑)。私の好きな谷山浩子さん(クラシックしか知らなかった分島さんが10代で始めて彼女の音楽を聴いて、衝撃を受けた。元々は家族がファンだった)の曲に「きれいな石の恋人」という楽曲がありまして。その歌詞は“目玉は縞瑪瑙”“静脈は紫水晶”など、体のパーツを宝石で表現していくんです。この歌を知ったときはとても美しくて素敵な表現だなと思った事はありますけど。好きな臓器といわれると……(笑)。

──困りますよね。すみません。では、いま上げていただいた「きれいな石の恋人」なんですけど。“目玉”というワードとか単体で見るとグロテスクだなと感じる人もいると思うんですが。

分島:私も実際に目玉を差し出されたらグロテスクで気持ち悪いと感じると思うんですが、芸術ってそれを飛び越えた先にある表現が多い。昔の絵画もそうで。一見目を逸らしてしまいそうなものを美学としてとらえている表現って、いまに始まったことではなくてたくさんあると思いますけどね。

◆インタビュー(2)へ
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