まず、名前からして小説のようだ。「リリィ、さよなら。」。2014年は「musicるTV」内のコーナー「音楽作家塾」にも出演し、超特急の楽曲「EBiDAY EBiNAI」で作家デビューを果たすなど、作詞作曲家としても才能を発揮する現役大学生・ヒロキによるソロプロジェクトである。そんな彼が満を持して2015年2月25日に、セルフタイトルのミニアルバム『リリィ、さよなら。』でアーティストとしてデビューする。私小説のようなリアリティのある歌詞と、花びらが舞うように軽やかで切ないメロディは、J-POPリスナーはもちろん、様々な嗜好のリスナーに届くだろう。

◆リリィ、さよなら。~画像&映像~

ヒロキは熊本出身の23歳。3歳からバイオリンを始め、中学時代にギターを手にし、楽曲制作を開始。歌手を目指し、地元で音楽活動を始めた。そして大学進学のために2012年の春の上京。これが彼の第1のターニングポイントとなる。

「地元でも歌手を目指して活動してたんですけど、作曲家としての評価のほうが高くて、アーティストとして認めてもらえなくて……だから歌うことを諦めていたんです。でも大学に入って、いろんな素晴らしい出会いがあって“もう1回がんばろう”と思えたことで、またオーディションを受け始めるようになりました」

リリィ、さよなら。という名前をつけたのはその年の秋。

「個人名でシンガーソングライターとして活動していたんですけど、個人名を出すとどうしても人間そのものが先行しちゃう気がして。僕はバンドが好きだったし、もっと“音楽”を先に届けたかったので、バンド名っぽいものを考えた結果出てきたのが“リリィ、さよなら。”でした」

これは地元熊本にゆかりのある文豪・夏目漱石の短編小説「夢十夜」の、「死んだ恋人が百合の花になって100年後に会いに来る」という話がモチーフになっている。たった3ページで美しく切ない世界観が記されていることに衝撃と感銘を受け、自分も“歌”という短い時間の世界で「夢十夜」のように人々に感動や共感を届けたいという思いから名付けられた。これ以外にも様々な意味が込められているという。

そんな彼の第2のターニングポイントが2013年11月。「約束」という曲を配信リリースし、YouTubeにてMVを公開したことで、リリィ、さよなら。という名前が広まった。ライブなど表立った活動がなかったにもかかわらず、MVは1週間弱で約3000回再生を記録。現在は33000回以上の再生数を誇る。現役女子高生イラストレーター・クロカミ凍弥の描き下ろしによるイラストとコラボレーションしたこのMVは、彼の失恋の実体験と感傷を嘘偽りなく書き綴った私小説のような歌詞をフィーチャーさせたものだ。あたたかくも胸を締め付けるアコースティック・ギターに、彼の情感あふれる歌声、ピアノとストリングスが切なく響く壮大なバラードである。同曲はその後、熊本朝日放送「5ch(ファイブチャンネル)」2014年1月度エンディングテーマ、文化放送「リッスン?~ Live4 Life ~」2014年2月前期エンディングテーマに起用された。

2014年4月には初の自主制作CDをライブ会場限定でリリースし、SEKAI NO OWARIがDIYで作ったライブハウス・大鳥居club EARTHにてレコ発ライブを、6月には渋谷gee-ge.にて初の自主企画イベントを行うなど、活発にライブ活動を開始する。そして同年7~10月、冒頭で記したようにmusicるTVの「音楽作家塾」に出演し、作家デビュー。「約束」の配信リリースをきっかけに、リリィ、さよなら。としての活動の歯車が回り始めたのだ。

「この曲を発表したことからリリィ、さよなら。としての活動が開けました。歌詞の“伝えたい君にありがとう”は、書いた当時はその相手だけに宛てたものですけど、いまはいろんな人へのありがとうの代わりになっているんだなと思っていて。だからライブで歌うときは大事に、ちゃんと歌うようにしています。俺は愛してもらえていて、いつも何かを返したい返したいと思っているんですけど……やっぱり俺は曲を書いて、歌うことしかできない。精進していきたいと思います」

2月25日にリリースされる『リリィ、さよなら。』は、ヒロキの青春の総括だ。物語の1シーンを切り取ったかのようなストーリー性のあるアートワークを手掛けたのはイラストレーターpomodorosa。高橋優などのアレンジャーとしても活躍するギタリストの池窪浩一がアレンジを担当している。ボーナストラックとして収録された「約束」は10代の失恋、「ジュブナイル」は10代の葛藤、そしてそれ以外の楽曲はすべて大学に入学してから書いたものだという。どの曲も、どこまでも青い。だが、熊本時代と大学時代の楽曲は描かれている景色がまったく違う。

「俺の大学のキャンパスは変な子が多いんです。芸能人も多いので、得体の知れない“音楽”なんてものをしていても、ちゃんと認めてもらえるんですよね。そこで人を信頼できるようになったんです。楽曲の主人公は僕で、歌詞に出てくる“君”もそれぞれちゃんと存在していて。大学に入って、いろんな素晴らしい出会いがあって、当時諦めていた歌を“もう1回がんばろう”と思えるようになりました。うまくいかない日が続いたけど、支えてくれる人がいたから“いつか夢は叶うだろう”と続けてこれました。俺、ひとりじゃ何もできなくて。本当に人との出会いや、大事な人に支えてもらえてるんだな……と思います」

リリィ、さよなら。の音楽は、ヒロキが感じた心の痛みが、そのまま反映されている。それは時に聴き手の古傷をえぐることもあるが、どんなにつらく切ない、目をそむけたくなるような過去でも、彼は自分と接した人々への感謝を忘れない。だからこそ彼の音楽はどの曲も別れの握手のように感傷的でありながら、とてもあたたかく、やわらかい。

「リリィ、さよなら。は聴いた人の心がぐちゃぐちゃになりつつも、きわものすぎて二度と聴けないということもなく。ポップスの作るキャッチーさと、ロックのぐさぐさくる感じが、うまい具合に混ざり合ってるんじゃないかなと思います」

その“ぐさぐさくる感じ”は彼の歌声の力が大きい。だからと言って、彼が荒々しい歌いかたをするシンガーというわけではない。むしろ彼の歌声は、男性ヴォーカリストというよりは女性ヴォーカリスト、そのなかでもパワフルな歌唱で魅了する、Superflyや絢香に通ずるものがある。声遣いの繊細なギミックは、性別関係なく純粋に、歌の魅力にとりつかれたからこそ手に入れられたものだろう。「流星ドライブ」も、魅力を感じた人を信じ、愛する彼の感性ゆえに生まれた曲だ。

「大学に入ってから“好き”のかたちはひとつじゃない、いろんな“好き”があるんだなと気付いて、自由でいいんだなと思ったんです。「流星ドライブ」はラヴソングに見えるかもしれないんですけど、親友に明け方電話して“江の島で朝焼け見ながらギター弾いて歌いたい! お願い!”と車を出してもらったときの歌なんですよね。だからいろんなかたちの“好き”を肯定できるアルバムになっているんじゃないかなと思っています」

彼の失恋の傷と思い出を描いたアルバムのリードトラック「snow~君がくれた物語~」は、MVもリリィ、さよなら。の世界と重なる“リアリティ”をモチーフにしている。監督はMINMI、若旦那などのミュージックビデオを手がける新進気鋭の映像作家のホンマカズキ。スマートフォンでの試聴に最適な縦長構図になっており、カットが上方向にスクロールされるたびに時間が巻き戻っていくという斬新な作品だ。ゆえにスマートフォンから視聴すると、実際に画像SNSサイトを見ている感覚になる。SNS世代に向けた新感覚ミュージックビデオは、彼女との思い出を1年間振り返るストーリー。彼の自宅や、思い出の踏切、江の島など、リリィ、さよなら。の音楽の背景をそのまま映像にしたようなMVである。ぜひ一度は、スマートフォンからこのMVをご覧いただきたい。

「約束」のMV公開と配信リリース、musicるTVの出演、作家デビュー、そして今回のアーティストデビューと、この1年半ほどで、階段を大きく上りつづけたリリィ、さよなら。。彼そのものという音楽は、このミニアルバムでも証明されている通り、彼の成長とともに変貌を遂げるだろう。

「大学に入って、いろんな人との出会いがあって、それで曲が書けて。いまこうしてビクターのスタッフさんと会えて、いつまでも子供じゃだめなんだな……とまた考え方が変わりました。俺が基本的に人に頼りながら生きているんで、リリィ、さよなら。の音楽は人との出会いでずっと変動していくと思うんです。その変化が、俺もすごく楽しみです」

アーティストデビューという変化が、また彼に新たな感情やドラマをもたらすだろう。リリィ、さよなら。、今後も要注目だ。

取材・文●沖 さやこ



『リリィ、さよなら。』

VMAN-003 ¥1,389+税
1. snow ~君がくれた物語~
2. ハルノユキ
3. 流星ドライブ
4. きみの匂い
5. ジュブナイル
6. 約束 (ボーナストラック)

ライブ・イベント情報

<「リリィ、さよなら。」発売記念ワンマン>
東京編
2015年3月21日(土)渋谷gee-ge.
熊本編
2015年3月29日(日)熊本B.9 V3