2014年秋、6年ぶりにニュー・アルバム『Standing In The Breach』をリリースしたジャクソン・ブラウンが、今週、日本ツアーをスタートした。彼の曲は、心地好いだけでなく、ときとして直面したくないような問題を提示してくるが、そこに怒りや押しつけがましいところはない。

◆ジャクソン・ブラウン画像

「音楽には問題を解決しようと思わせる力がある」という彼に、世界観や曲作りについて話を訊いた。

――まずは、新作『Standing In The Breach』について聞かせてください。“裂け目に立つ、攻撃の矢面に立つ”との不穏なタイトルをつけた理由は?


ジャクソン・ブラウン:アルバムのタイトルに関しては、僕はあいにく(アルバムに収録される)曲の1つから選ぶって以上のことはしていない。それがアルバムの中でベストな曲とは限らないけど、多分、アルバム全体を象徴していると思える曲だ。ときどき、後でしまったって思うことがあるよ。『I'm Alive』(1993年リリース)なんて、看板に“僕は生きてる!”ってバーンって出ているのを見たとき、“ああ、僕は生きてるよ、だから?”って思ったよ(笑)。でも、タイトルを考えるとき、中身に相応しく、その上みんながもっと知りたいって思うようなものにしたいとは意識している。『Standing In The Breach』というのは…、少なくとも、このアルバムの中身を要約していると思う。それに、いま世の中で起きていることもね。世界は壊れてしまっているから。タイトル、名前ってものは…、例えばビートズなんてひどい名前だと思わない? 『So』ってアルバムもあったよね。名前っていうのは、もっと知りたいとか、作品に興味を持つとっかかりになればいいんだ。

――アートワークも中身の(心地好い)サウンドとは違い、不安を掻き立てるものですが…。

ジャクソン・ブラウン:そうだね。不安ってことに同意できるかわからないけど、もし、不安に思っている問題を突き付けられたと感じたなら悪いことじゃない。それが音楽のいいところのひとつだ。音楽には問題を解決しようって思わせる力がある。いつも2つのことが起きていると思うんだ。1つは逃避だ、いいことだと思うよ。誰にとっても必要だ。でも一方で、人々は現実の問題と戦っている。この2つを同時に行うことはできない。いつまでも逃避できるわけじゃないし、四六時中、葛藤しているわけにもいかない。アートワークに関して言えば、僕はこの崩壊した街を歩く男性と女性の姿を美しいって思ったんだ。(ハイチで)実際起きた状況での現実の姿だ。曲も同じ出来事からインスパイアされているからね。このアルバムに相応しい。それに、アダムとイブだったり、この世に生き残ったたった2人だったり、一組の男女が生きていこうとする姿、崩壊した世界でどうやって生きていくのか、そんなイメージの象徴でもあるんだ。崩壊はどこででも起きてる。アフガニスタンでは毎日だろう。中東や南米でもそうだ。ここでも同じだろう。それでも人々は生き続ける。


――「Standing In The Breach」はハイチ地震の後作られたと聞きましたが、私たち日本人にも共感できるところがあります。

ジャクソン・ブラウン:福島だね。福島の地震は…、僕ら、いつかどこかで地震が起きるってことはわかってるんだけど…、科学者なんかが予測してるわけだし…、でも地震は全てを変える。ハイチでは全てが崩壊した。頑丈な家なんか貧しくて建てられないからね。貧困は一番の問題だと思う…。バンクラディッシュで工場が崩壊したことがあったよね。そこが資本主義のよくないところなんだ。資本主義は平等ではない。貧困の上に成り立っている。

――政治、環境、貧困、不正など世界で起きている問題やトラブルを目にしたとき、あなたはどんな感情を抱くのでしょうか? 怒り、それとも別のものなのでしょうか?

ジャクソン・ブラウン:うーん…、確かに怒りはある…。重大な問題に直面したとき、心を閉ざしたくなることもある。でも、僕は、物事をいいほうに変えようとする人たちに魅かれるんだ。そういう人たちの本を読んだり、ドキュメンタリーを見ることにすごく時間を費やしている。マーティン・ルーサー・キングのスピーチを聞いたり、ビル・マッキベンの本を読んだり…。彼らは問題を解決しようと力を尽くしている。情熱だ。でも、長い期間燃え続けなくてはならない情熱だ。若いとき、僕はもっと怒りを感じてた…。いまだって、政府の崩壊や一部の業界に対しては怒るべきだと思う。例えばタバコ会社なんて、身体に悪いってわかっているのに、金を作るためにタバコを売り続けている。そういうのには頭にくる。でも、大事なのはどう対処すべきか、どう変えていったらいいのかって考えることなんだ。ずっと怒り続けていることはできない。僕の場合、自分が抱く幸福感、人生に対する喜びが、ほかの人もそうあって欲しいって考え行動に移す動機になっている。

――だから、あなたの音楽は人気があるんだと思います。ときとして直面したくないような問題も提示されますが、

ジャクソン・ブラウン:ハハハ

――必ず歌詞に希望があります。だからこそ、好かれ支持されるのだと思います。


ジャクソン・ブラウン:そう願っているよ。ブラック・ユーモアを入れるのも好きなんだけど…、希望がある、そうだね。そうあるべきだ。僕はどんなものにも希望を見出す。ただ問題を突き付けるだけでなく…、これは母の影響だと思うんだけど、問題を提示するときは、それを解決するような案を出したり、助けになるようなものを提供すべきだって考えている。僕はクリスチャンじゃないけど、恵まれない人たちのために何かを差し出そうとする信仰深い人を見ると、すごいと思うよ。僕にももっと何かできるんじゃないか、もっと何かすべきだったんじゃないかって思う。でも、僕はみんなに罪悪感を持たせるようなことはしたくないんだ。そこが、問題を取り上げて曲を作るときの難しいところだ。罪悪感ではなく、なにかをやる気にさせたい。もしくは、みんな同じ気持ちでいるんだってことをわかってもらいたい。嫌悪感を抱かせることなく、問題を提示することに価値があると思う。僕はファンタジーより現実を歌うことのほうが好きなんだ。

――音楽を聴くフォーマットがカセット、ビニール盤からCDを経てデジタルへ変化したのと同様に、スタジオでも常に新しいテクノロジーが導入されていると思いますが、それはレコーディングする側、アーティスト的には良くなったと言えるのでしょうか?

ジャクソン・ブラウン:だと思うよ。サンプルなんてしやすくなった。ただね、テクノロジーがどれだけ発展しようが、曲を作る道具は変わらないわけで、曲作りの基本は同じだ。いい曲が誕生するのは、それはテクノロジーの発展とは何の関係もない。素晴らしい曲を作るソングライターっていうのはいつの時代でも必ず出てくる。ただ、若いアーティストには気の毒に思うことがある。昔ほど音楽はお金にならない。もうロックンロールはサクセス・ストーリーではないんだ。ビートルズやエルヴィス・プレスリーみたいにはなれない。でも、この時代のいいところは、コンピューターさえあれば、インターネットにアクセスさえできれば、新しい発見があるし、簡単にルーツを探ることができる。それまでポップしか聴いていなかったのが、なにかの拍子にマイルス・デイヴィスを知ったら、インターネットで彼の音楽やその時代の音楽に簡単にアクセスできる。ルーツ・ミュージックだったり、1990年代の音楽だったり、発見すべきことはたくさんある。それは素晴らしいことだと思うよ。物事には必ず2つの面がある。

――10代でニッティー・グリッティー・ダート・バンドに参加して以来とても長い期間になりますが、音楽を作り続けていこうとするモチベーションは?


ジャクソン・ブラウン:自分が本当にやりたいことだからだよ。仕事だと思ったことはない。こうしていられるのを本当に嬉しく思っている。この前、ほかのアーティストが僕の曲をプレイしたアルバム(『Looking Into You: A Tribute To Jackson Browne』)のジャケ写を見てたんだけど、あの家は僕の祖父が建てたものなんだ。それを見ていて、僕も同じようなことしてるのかなって思った。曲で自分の居場所を作り、音楽を作るために外に出てそこに戻ってくる…。素晴らしい仕事だと思うよ、“自分の好きなことをしなければ、自分の人生は活かせない。だから自分の好きなことを見つけろ”っていうようなことわざがあったと思う。自分のやりたいことをやっている、それが秘訣だよ。単純なことだ。僕はこれをやり続けたいんだ。それに自分はラッキーだし、人に恵まれていると思う。マネージャーとは40年かな、30年だったかな、の付き合いなんだ。彼はマネージャーになる前はクルーの1人だった。それに、バンド。バンドがいなければ、僕のやることは制限されていたと思う。

――公演、楽しみにしています。どんなショウになるのでしょう?

ジャクソン・ブラウン:これまでで最高のバンドと一緒なんだ。メンバー全員が新作でプレイしているから、曲を熟知している。ドラムのマウリシオ・リワークや(キーボードの)ジェフ・ヤングは長年一緒にツアーをやってきたから、僕の音楽はなんでもプレイできる。新作からの曲もやるし、昔の曲もたくさんやる。毎晩、ちょっとずつセットリストを変えるんだ。だから毎回、違うことが起きる。僕のお気に入りのバンドなんだよ。とくにグレッグ・リーズ(G)とヴァル・マッカラム(G)は毎回なにか新鮮で新しいことをやってくれる。毎晩忘れられないようなことが起きるから、僕はワクワクしてるんだ。だから、僕らも日本での公演を楽しみにしてるんだよ。

――残念ながら、残り時間がなくなったので、最後の質問、YESかNOでお答えいただけますか? いまでも音楽には世界を変える力があると思いますか?

ジャクソン・ブラウン:YES(笑)!

ジャクソン・ブラウンの7年ぶりの日本ツアーは月曜日(3月9日)に名古屋でスタート。この後、東京、大阪、広島でプレイする。

Ako Suzuki

「ジャクソン・ブラウン JAPAN TOUR 2015」
3月11日(水) 東京 オーチャードホール
3月12日(木) 東京 オーチャードホール
3月13日(金) 東京 オーチャードホール
3月16日(月) 大阪 フェスティバルホール
3月17日(火) 広島 広島文化学園HBGホール
3月19日(木) 大阪 フェスティバルホール(追加公演)
[問]ウドー音楽事務所 03-3402-5999
http://udo.jp/Artists/JacksonBrowne/index.html

ジャクソン・ブラウン14th オリジナル・アルバム『スタンディング・イン・ザ・ブリーチ』

2014年10月8日発売
SICP-30674 ¥2,600+税
日本盤のみ、高品質Blu-spec CD2仕様+ボーナス・トラック収録
解説:五十嵐正
歌詞対訳:中川五郎
『スタンディング・イン・ザ・ブリーチ』ハイレゾ・アルバム(96kHz/24bit)
http://mora.jp/package/43000001/4547366227475/
1.ザ・バーズ・オブ・セント・マークス
2.Yeah Yeah
3.ザ・ロング・ウェイ・アラウンド
4.リーヴィング・ウィンスロウ
5.イフ・アイ・クッド・ビー・エニホェア
6.ユー・ノウ・ザ・ナイト
7.ウォールズ・アンド・ドアーズ
8.フィッチ・サイド
9.スタンディング・イン・ザ・ブリーチ
10.ヒア
11.ザ・バーズ・オブ・セント・マークス(Live:Piano Acoustic)*
*Track 11日本盤CDボーナス・トラック
プロデュース:ジャクソン・ブラウン&ポール・ディーター