7年振りとなるジャクソン・ブラウン単独ツアーの東京公演初日が3月11日(水)渋谷Bunkamuraオーチャードホールで行なわれた。3.11東日本大震災から4年目となるこの日、彼が1970年代から一貫して貫いてきたメッセージを明確に、そして、真摯に誠実に語り、音楽で示してくれた。ジャクソン・ブラウンが3.11に日本の地にいてくれた証、彼の強い意志を感じる、意義のある素晴らしいコンサートとなった。

◆ジャクソン・ブラウン画像

彼の最新アルバム『スタンディング・イン・ザ・ブリーチ』のタイトル曲は、2010年のハイチ地震発生を受けて書かれており、ジャケットにも震災後の現地の写真が使われている(大きな悲しみの中に、小さいけれどしっかりとした希望を感じさせる素晴らしい写真だと個人的に思う)。

そのハイチ地震と同じように、ジャクソンにとって東日本大震災とそれに伴う原発事故は、絶対に忘れられない出来事であり続けている。その彼が3月11日に日本で公演を行うということは、本人にとっても、我々にとっても、とても大きな意味のあることだった。

だが、まずもって言いたいのは、今日のコンサートが音楽的にとてつもなく素晴らしいものだったということだ。彼はメッセージをただメッセージとして伝えるのではなく、音楽という魔法の中に巧みに溶け込ませて届けてくれる。だからリスナーは音楽そのものを存分に楽しめるし、しかもあとになってそこに溶け込んでいたメッセージに気づくこともできるのだ。


青とグレーの中間のような色のシャツを着てステージに登場したジャクソンは、どこにも気取ったところがない。まったくの自然体であり、しかし輝いている。ツアー初日の名古屋の模様は五十嵐正氏の詳細なレポート(http://www.sonymusic.co.jp/artist/JacksonBrowne/info/451432)がすでに公開されているのでご参照いただきたいが、今日の第一部はそれに近い内容だった。

1曲目は「バリケーズ・オブ・ヘヴン」、そのあと「ルッキング・イントゥ・ユー」、「ザ・ロング・ウェイ・アラウンド」、「リーヴィング・ウィンズロー」、「青春の日々」、「シェイキー・タウン」と続く。ジャクソンの声は、渋さがあるにもかかわらず豊かだ。そして、おだやかさと優しさがあるにもかかわらず力強い。普通だと相反するように思える要素がひとつになった、彼にしかないあの声が響き渡ると、会場の空気の色が変わり、足元からアメリカの大地が香り立つような錯覚にとらわれる。

その魅力をさらに引き立てるのが、バック・メンバーのグレッグ・リース(ペダル/ラップ・スティール&ギター)、ヴァル・マッカラム(ギター)、ボブ・グラウブ(ベース)、モウリシオ・ルウォック(ドラムス)、ジェフリー・ヤング(キーボード)だ。単にジャクソンをサポートするだけではなく、それぞれが高度な職人技とセンスを垣間見せつつ、曲にストーリーやドラマを感じさせるような演奏をする。「今までで最高のバンド」と彼が言うのもうなずける。

中でも、グレッグとヴァルの活躍ぶりは特筆ものだった。グレッグのペダル/ラップ・スティールとヴァルのエレクトリック・ギターは、時にお互いのバックに回り、時に掛け合いをし、時に絡み合って、音の絵巻を作り上げていく。ヴァルのカントリー、ブルース、ロックとどんなスタイルでもプレイできる幅広さも際立っていた。自分が歌うとき以外は、バック・メンバーたちが繰り広げる演奏を楽しんでいるかのようなジャクソンの表情を見れば、彼がどれほどこのバンドに満足しているかが分かるというものだ。


また、第一部では部分的に参加したコーラスのシャボンヌ・スチャートとアリシア・ミルズの働きも良かったが、その本領は第二部で発揮されることになる。

7曲目には名古屋では取り上げられなかった「ジャスト・セイ・イエー」が演奏された。これは当初予定になかったもので、ジャクソンの思いつきだったようだ。だからなのか、冒頭を少し歌ったところで笑い出してしまうという貴重なシーンも見られた(歌詞を忘れたのだろうか?)。そのあと「アイム・アライヴ」、「ユー・ノウ・ザ・ナイト」と続き、「ダンサーに」で第一部は終了となった。名古屋との違いは、「ジャスト・セイ・イエー」が急遽入ったことによって、「悲しみの泉」が削られたことだ。

第二部は名古屋公演を基本としつつも、第一部以上に変化を加えた内容だった。「ユア・ブライト・ベイビー・ブルース」、「ロック・ミー・オン・ザ・ウォーター」までは同じ、このあと名古屋では観客からのリクエストに応えて「コール・イット・ア・ローン」が演奏されたが、今日はもちろんこれは無しで、「イフ・アイ・クッド・ビー・エニホェア」、「ウィッチ・サイド?」、「スタンディング・イン・ザ・ブリーチ」、「ルッキング・イースト」、「ザ・バーズ・オブ・セント・マークス」と進んでいく。この第二部では、シャボンヌとアリシアのコーラスの見事な厚みと味わいも印象的だ。

「スタンディング・イン・ザ・ブリーチ」の前に、彼はこう語った。

「今日は東北地方の大震災があった日だけど、この曲はハイチの大地震のあとに書いたものだ。どこかの国が震災、天災などの大災害に遭ったとき、世界がどのように反応、対応するのかを書いたんだ。また、人間の歴史の中で一番普遍的な災害と言える貧困も、世界中の問題として解決しなければならない」

その口調は切々としていたが、この曲での歌声も同じだった。そこに込められた彼の思いに胸が熱くなった。これぞ歌の力、音楽の力だ。

「ルッキング・イースト」でのグレッグのラップ・スティールとヴァルの歪んだサウンドのテレキャスターとの掛け合いは最高にアグレッシブで、今日の大きな聴きどころのひとつだった。「“偉大なカリフォルニア・バンド”、ザ・バーズに捧げる」と言って演奏された「ザ・バーズ・オブ・セント・マークス」では、グレッグがリッケンバッカーの12弦エレキ・ギターでまさにバーズ・サウンドを奏でる。さわやかな西海岸の、しかも60年代の香りがした。そして、ヴァルがブルース・ロック的な弾きまくりで盛り上げた「ドクター・マイ・アイズ」のあと、名古屋では取り上げられなかった「暗涙」が演奏された。ピアノで弾き語るジャクソンのボーカルの雄々しさと切なさが、心に沁みる1曲だった。


ここから、「プリテンダー」と「孤独なランナー」を演奏して、本編は幕を閉じる。「プリテンダー」ではタイトで軽快なバンド・サウンドの上に乗ったシャボンヌとアリシアのゴスペル調のコーラスが、まさに祝福のように会場を包み込んだ。「孤独なランナー」では、後半にグレッグのラップ・スティールとヴァルのエレキの凄まじい掛け合いがまた聴け、そこに割って入るモウリシオのオルガン・ソロも素晴らしかった。そして、何と言ってもジャクソンのボーカル。「愛」とか「前向きな気持ち」とか、言葉にすると陳腐に聞こえてしまいそうな、でも大事な何かが、そこからはしっかりと伝わってきた。

アンコールではまず、名古屋と同じく「テイク・イット・イージー」と「泉の聖母」がメドレーで演奏された。前者ではがっちりとまとまりのあるバンド・サウンド、後者ではコーラス隊二人によるゴスペル・フィーリングたっぷりのアドリブ・ソロの掛け合いが見事だった。

そのあと、ジャクソンはピアノの前に座って語りはじめる。

「No Nukes。福島、そしてそれ以外の日本全体の問題でもあると思う。アメリカでもどんどん原発をクローズしている状況だけど、日本と同じような問題が生じている。アメリカでは政府と電力会社の癒着のいろいろな証拠が出てきて裁判になって秘密が暴かれようとしている。政府は原発が危ないという真実を隠している。それがもうすぐ明らかになるかもしれない。とにかくNo Nukesだ。僕の願いはEarth to be safe。地球が安全な場所、安心できる場所になってほしいということだ。そう願っている。日本でも、アメリカでも、それ以外の国でも、そこで戦っている人たちに捧げます」

こうして歌われたのが、名古屋ではやらなかった「ビフォー・ザ・デリュージ」。『レイト・フォー・ザ・スカイ』収録曲で、1979年にニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで行われた「NO NUKES」コンサート、そして2011年にカリフォルニアのショアライン・アンフィシアターで行われた「M.U.S.E. Benefit For Japan Relief」チャリティ・コンサートでも取り上げている。壮大な、そして黙示録的な歌詞を持つこのバラードを、3月11日の日本でのコンサートで、最後の最後に歌ったことの意味は深い。

文:細川真平

※「No Nukes: The Muse Concerts for a Non-Nuclear Future」について

1979年、スリーマイル島の原発事故の後、ジャクソン・ブラウン、ジョン・ホール、ボニー・レイット、グラハム・ナッシュがM.U.S.E.「Musicians United for Safe Energy(安全なエネルギーを求めるミュージシャン連合)」を立ち上げ、同年9月NYのマジソン・スクエア・ガーデンで「NO NUKES」(原子力発電所建設反対運動)コンサートを開催。ブルース・スプリングスティーンなども出演し、その模様は映画でも公開され3枚組レコードとして発売された。また、2011年8月7日にはLAにて東日本大震災のチャリティとして「M.U.S.E. Benefit For Japan Relief」コンサートを開催。32年ぶりのNO NUKES第2弾 としても話題となった(広島と長崎の原爆記念日の間である2011年8月7日に設定)。コンサートには1979年のノー・ニュークス・コンサートに出演した、ジャクソン・ブラウン、クロスビー・スティルス&ナッシュ、ボニー・レイット、ドゥービー・ブラザーズ、ジョン・ホールなどが参加。
2011年、このチャリティ・コンサートに際してジャクソンはこう語っていた
「福島の災害は日本への災害であるだけではない。それは地球規模の災害です。我々は、エネルギーの使い方を変えるため、人類が抱える問題を解決する方法を探すため、文化、国境、政治、世代を越えてここに集まっています。我々は核のない未来を信じる人々、日本人を含めてあらゆる国の人々と一つになりたいです。」──ジャクソン・ブラウン
ツアーはこの後、3月12日(木)・13日(金)と東京公演を行なったあと、16日(月)に大阪、17日(火)に広島と西日本へ舞台を移し、最終日の19日(木)大阪追加公演へと続く。

<2015年3月11日 Bunkamura オーチャードホール公演>

Set One
1.バリケーズ・オブ・ヘヴン(1996『ルッキング・イースト』収録)
2.ルッキング・イントゥ・ユー(1972『ジャクソン・ブラウン・ファースト』収録)
3.ザ・ロング・ウェイ・アラウンド*
4.リーヴィング・ウィンズロー*
5.青春の日々(1973『フォー・エヴリマン』収録)
6.シェイキー・タウン(1977『孤独なランナー』収録)
7.ジャスト・セイ・イエー(2008『時の征者』収録)
8.アイム・アライヴ(1993『アイム・アライヴ』収録)
9.ユー・ノウ・ザ・ナイト*
10.ダンサーに(1974『レイト・フォー・ザ・スカイ』収録)
Set Two
11.ユア・ブライト・ベイビー・ブルース(1976『プリテンダー』収録)
12.ロック・ミー・オン・ザ・ウォーター(1972『ジャクソン・ブラウン・ファースト』収録)
13.イフ・アイ・クッド・ビー・エニホェア*
14.ウィッチ・サイド?*
15.スタンディング・イン・ザ・ブリーチ*
16.ルッキング・イースト(1996『ルッキング・イースト』収録)
17.ザ・バーズ・オブ・セント・マークス*
18.ドクター・マイ・アイズ(1972『ジャクソン・ブラウン・ファースト』収録)
19.暗涙(1976『プリテンダー』収録)
20.プリテンダー(1976『プリテンダー』収録)
21.孤独なランナー(1977『孤独なランナー』収録)
Encore
22.テイク・イット・イージー(1973『フォー・エヴリマン』収録)
23.泉の聖母(1973『フォー・エヴリマン』収録)
24.ビフォー・ザ・デリュージ(1974『レイト・フォー・ザ・スカイ』収録)
*最新作『スタンディング・イン・ザ・ブリーチ』収録(全10曲中7曲演奏)

<ジャクソン・ブラウンJAPAN TOUR 2015>

3月09日(月) 名古屋 愛知県芸術劇場大ホール
3月11日(水) 東京 オーチャードホール
3月12日(木) 東京 オーチャードホール
3月13日(金) 東京 オーチャードホール
3月16日(月) 大阪 フェスティバルホール
3月17日(火) 広島 広島文化学園HBGホール
3月19日(木) 大阪 フェスティバルホール(追加公演)
[問]ウドー音楽事務所03-3402-5999
http://udo.jp/Artists/JacksonBrowne/index.html

ジャクソン・ブラウン『スタンディング・イン・ザ・ブリーチ』


2014年10月8日発売
SICP-30674¥2,600+税
日本盤のみ、高品質Blu-spec CD2仕様+ボーナス・トラック収録
解説五十嵐正
歌詞対訳中川五郎

◆ジャクソン・ブラウン・オフィシャルサイト