高音質でバンドの一発レコーディングやドラムのマルチマイク収録が可能なiOS対応オーディオインターフェイス「US-16x08」を徹底検証

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TASCAMの「US-16x08(シックスティーンバイエイト」」はその名のとおり、16入力8出力を備えたオーディオインターフェイス。24ビット/96kHz対応で、マイクプリアンプは8基を搭載。高音質でバンドの一発レコーディングやドラムのマルチマイク収録が可能な仕様となっている。兄弟モデルの「US-2x2」「US-4x4」に続き、今回はこの「US-16x08」をチェックしてみた。

■リーズナブルな価格で高音質&多チャンネル録音が可能


▲上からUS-2x2、US-4x4、US-16x08。
本体でまず目を引くのはそのデザイン。堅牢な鉄製ボディをハニカム構造のアルミ製サイドパネルで挟んだユニークなルックスは、「US-2x2」「US-4x4」同様、WaldorfやMoogなど多くのメーカーのシンセサイザーをデザインしたアクセル・ハートマン氏(ドイツdesignbox社)によるもの。フロントパネルに傾斜が付けられており、ケーブルの抜き差しやツマミの操作がしやすい形状。幅は19インチラックと同じで、サイドパネルを取り外して付属のラックマウントアングルを取り付ければラックマウントが可能だ。


▲サイドパネルで角度が付けられ、フロントパネルの操作子が操作しやすいのが特徴(左)。サイドパネルを取り外して付属のラックマウントアングルを取り付け可能(右)。サイドパネルを外すための六角レンチ、アングル取り付けようのネジも付属。

インターフェイスはUSB 2.0。最近ではUSB 3.0やThunderboltといったより高速なインターフェイスを採用した製品も出てきているが、USB 2.0ならWindows、Mac問わず多くのパソコンでの使用が可能。本機のチャンネル数なら転送速度的にも問題はない。しかもiPad、iPhoneなどiOSデバイスでも使用できるというメリットもある。

音質を左右するマイクプリアンプは、ノイズの少なさの指標であるEIN-125dBuを誇るUltra-HDDAマイクプリアンプを8基搭載。放送業務で使われる業務用レコーダーHS-P82でも採用されているものだ。プリアンプ自体は「US-2x2」「US-4x4」と同一だが、チューニングは異なり、マイク/ライン入力ともに20dBのヘッドルームが設定されている。これにより、瞬間的にレベルが大きくなるドラムも歪まずにレコーディングが行える。まさにバンドレコーディングをターゲットにした仕様というわけだ。

XLR端子接続した8本のマイクでドラムを録音、さらに8系統のTRS端子により電子楽器やエフェクターなどと合わせて16チャンネルの同時録音が行える。生楽器をもっと録りたいという場合は、「US-16x08」を2台用意すればOK。本機をUSB接続をせずに起動すると単体マイクプリアンプとして使えるスタンドアローンモードで起動、フロントパネルのXLRがUltra-HDDAマイクプリアンプ経由し、リアパネルのTRS端子から出力される。この機能を利用してマイク入力を増設、16チャンネルの同時録音を行うことになる。

気になる価格は42,000円前後(税込)と数年前なら考えられない価格。オンラインショップでは4万円を切るところも多くあり、非常に手を出しやすい製品なのは間違いない。これなら「2台購入して16チャンネル同時録音環境を揃えるのも十分現実的」と考える人は多いのではないだろうか。

TASCAMの「US-16x08」の製品ページには、松任谷由実や椎名林檎、スキマスイッチなどのツアー、レコーディングに参加しているドラマー村石雅行さんの自宅スタジオへの導入事例が紹介されている。実際に2台の「US-16x08」を接続して16本のマイクを使用したドラムレコーディングを行っているという。ドラムレコーディングをしたいという人はぜひチェックしてほしい。

■充実の入出力と使いやすさを両立


▲マイク、ギター/ベース対応の入力はフロントパネル、残りの入力と出力はリアパネルに配置。電源は付属のACアダプターを使用、電源スイッチはフロントパネル左側に用意される。なお、「US-2x2」「US-4x4」には電源スイッチはない。

続いてフロントパネル、リアパネルに用意された入出力端子を見ていこう。16入力+8出力を備える「US-16x08」だが、入力のうち8チャンネルにマイクプリアンプを内蔵する。マイクを接続する端子はフロントパネルにXLRタイプで用意(LINE IN 1-8)。コンデンサーマイク使用時のファントム電源の供給のON/OFFは4チャンネル単位で設定、各チャンネルの入力レベル調節用のゲインつまみは右側に各チャンネルごとに用意する。各ゲインつまみの隣りには入力が歪む直前に赤く点灯するオーバーロードインジケーターもあり、レベル調節はやりやすい。


▲IN 1-10はフロントパネルでレベル調節が可能。それぞれオーバーロードインジケーターが用意される。

エレキギター、ベースを直接つなげられる入力もフロントパネル側に2チャンネル用意(LINE IN 9-10、TRS標準ジャックタイプ)。LINE/INSTスイッチでハイインピーダンス入力に切り替え可能で、ゲインつまみとインジケーターも個別に設けられている。フロントパネルにはこれら入力関連のほか、ヘッドホン端子(ステレオ標準ジャック)と音量調節用のつまみ、そしてリアパネルのLINE OUT 1-2端子のレベル調節用つまみが用意される。通常アンプやアクティブスピーカーにつなぐLINE OUT 1-2とヘッドホンのレベルが独立して調節できるのは便利だ。

リアパネルには、USB端子とMIDI入出力、LINE IN 11-16の入力端子(TRS標準ジャック)、LINE OUT 1-8(TRS標準ジャック)の出力端子を配置。入力端子は11-12、13-14、15-16の2チャンネル単位で規定レベルを-10dBまたは業務用機器向けの+4dBuに設定可能。ただし、フロントパネルの入力端子と異なり入力ゲインの調節はできないので、接続する機器側で調節することになる。オートセーブスイッチは、前述のスタンドアローンモード動作時に自動的に電源をオフ(スタンバイ状態)にするもの。あとはACアダプター用の電源コネクターと、プラグの抜け落ちを防止するコードホルダーだ。


▲リアパネルは入力を上段、出力を下段に配置。IN 11-16は2チャンネル単位でレベルを民生用/業務用に切り替え可能。

■EQ&コンプも全チャンネルに装備、DSPミキサー機能を活用するSettings Panel

シンプル操作がウリの兄弟モデル「US-2x2」「US-4x4」と大きく異なるのが、DSPミキサーの存在。多チャンネルの入出力をフルに活用にするには、こうした仕組みがやはり必要になる。DSPミキサーの設定に使うのはSettings Panelというソフトウェア。Windowsではドライバーソフトウェアといっしょにインストール。Macはドライバー不要で動作するので、Settings Panel単体をインストールして使うことになる。PCのDAWからは16入力+8出力(8ステレオ入力+4ステレオ出力)のデバイスとして認識されるので、さほど迷うことなくレコーディングが始められるだろう。


▲MIXIER画面では各チャンネルの音量やエフェクトを設定。奇数チャンネルと偶数チャンネルをLINKすれば1つのフェーダーで操作できる。一番下はメモ入力欄。

画面はMIXER、INTERFACE、OUTPUT SETTINGと3つのタブを用意。MIXER画面では入力チャンネルごとにレベル調整、確認ができるほか、レコーディング時の音作りに活用できるイコライザー(EQ)、コンプレッサーが利用できるのがうれしいところ。基本的なエフェクトなので、DAWソフトウェアでももちろんできることだが、CPU負荷をかけずに、しかも全チャンネル個別に設定できるのは便利だ。また、1-2、3-4といった隣りあったチャンネルを1つのステレオチャンネルとして、フェーダー操作やEQ、コンプの設定を行えるLINKボタンも用意。シンセなどの電子楽器の使用時も手間はない。最大6文字の英数字のみだが、メモを入力できる欄があるのもなかなか気が利いている。続くINTERFACE画面はバージョンなどの確認が行えるほか、バッファーサイズの調整が可能。64サンプルまでつめられるので、レイテンシーを感じることはないはず。実際、エフェクトを適用したリアルタイムモニタリングでストレスなくできた。


▲ルーティング(信号の経路)を設定するOUTPUT SETTING画面。ダイレクトモニタリングもここで設定できる。

残るOUTPUT SETTING画面ではOUT 1-8の出力端子に出力する信号を設定する。初期状態では物理的な出力端子であるLINE OUT 1-8に、PCからの出力信号(DAWから出力先として見えるポート)であるCOMPUTER 1-8がそれぞれ割り当てられているが、これらは個別に変更可能。同じ信号を別々のLINE OUTに出力することもできる。LINE 1-2への出力はヘッドホンにも同じものが出力される。

また、出力信号には、すべての入力端子からの入力信号とUSB経由で入力されたPCからの出力信号をミックスするMASTER LとMASTER Rも選択可能。これを選べば、DAWのモニター機能を使わずに入力信号を遅延(レイテンシー)なしで聴くことができる。「US-2x2」「US-4x4」では物理的な入力信号とPCからの入力信号のバランスを調節するMONITOR BALANCEつまみが用意されていたが、「US-16x08」には用意されていない。ダイレクトモニタリングがしたければ、こちらで設定するというわけだ。

ミキサーやルーティングの設定はシーンメモリーとして10個まで名前を付けて保存でき、いつでも呼び出しが可能だ。ただし、これらの設定が有効になるのはPCとの接続時のみ。前述のスタンドアローンモードでは、単にIN 1-8がそのままOUT 1-8に出力されるだけ。全入力をミックスしてヘッドホン端子やOUT 1-2経由でモニタリングするといったことはできない。複数の楽器をつなぎっぱなしにしておいて、PCを起動せずにすぐに演奏をしたいという使い方ができないのは少々残念に感じた。とはいえその分機器の構成や設定方法はシンプルだし価格も安いので、悪くない割り切りだろう。


▲SONAR Platinum(別売り)の入力/出力デバイスの設定画面。デバイスは2チャンネル単位での表示となるため、US-16x08では8つの入力デイバス、4つの出力デバイスが表示されることになる。もちろん、録音時の入力は1チャンネル単位で指定可能。

■iOSデバイスでも多チャンネルで録音

iOSデバイスとの接続が可能なのも「US-16x08」の大きな特徴だ。Lightning-USBカメラアダプタ経由で本機を接続すれば、iPadが多チャンネル入力可能なマルチトラックレコーダーに早変わり。「US-16x08」はちょっと大きく重いが、リハスタに持っていくことができないほどではない。CubasisやMultitrackDAWなどマルチチャンネルの同時レコーディングが可能なアプリを使えば、複数パートの一発録りも可能だ。同時録音可能なトラック数はCPUパワーなどに依存するが、それは本機の問題ではない(ちなみにiPad 2では4トラック同時録音が限界で、それ以上ではトラック間のズレが生じてしまった)。


▲iPad用のDAWアプリCubasis(別売り)の画面。入力デバイスに16のMono Inputが認識されていることがわかる(Stereo Inputでは「1+2」から「15+16」までの8つ)。出力は「1/2」から「7/8」の4つのステレオデバイスが表示される。

iOSアプリではモニタリング時のレイテンシーが気になる場合もあるが、それはちょっとした裏ワザで解消できる。「US-16x08」はPCのSettings Panelソフトウェアで設定したルーティングやエフェクトの設定が本体に保持されるており、iOSデバイスを接続した場合でも最後に電源を切った時の状態が復帰する。PC側でOUT 1-2の出力にMASTER L/Rをアサインしておけば、常に入力音すべてをミックスした音でモニタリングできるのは前述のとおり。PCでの設定が終わったあと、iOSデバイスにつなぎ直せば、ダイレクトモニターがiOSでも有効となる。EQやコンプレッサーもそのまま使えるのもポイントだ。ただ、こうした手間をどう考えるかは別問題。iOS用の設定アプリをTASCAMがリリースしてくれればありがたいのだが。

◆     ◆     ◆

最初に書いたとおり、とにかくこの入出力数でこの価格は驚異的。音質や使い勝手にも不満はない(注文があるとすれば、iOS用のDSPミキサーの設定アプリぐらいだ)。ギタリスト、ベーシスト、ドラマー、ボーカリスト……、バンドマンならまずチェックしたい製品なのは間違いない。一発レコーディングをリハの記録として残すだけでなく、作品作りにも生かせるはずだ。また、最近人気のコンパクトなシンセやガジェット楽器が増えてきたという人にもオススメしておきたい。

入出力数が格段に違うので本機と直接比較する対象にはならないかもしれないが、「US-2x2」「US-4x4」との違いについても触れておこう。入出力以外の仕様では、「US-2x2」はバスパワー駆動が可能、「US-4x4」はヘッドホン出力を2つ備えるという本機に対するアドバンテージがある。また、いずれもDSPミキサーはないが、「SONAR X3 LE」(Windows対応)と「Live 9 Lite」(Mac/Windows対応)の2種類のDAWソフトウェアのライセンスが付属、購入してすぐにレコーディングが楽しめるというメリットがある。一方の「US-16x08」にはソフトが付属しない。とはいえ、SONAR、Pro Tools、Cubase、Live、Studio One、Garage Bandといった主要DAWの動作検証はされているので、すでにDAWソフトは持っているという人にとって選択における不安要素はない。あとは、所有欲を刺激するデザインとボディの質感を楽器店の店頭で確認してほしい。

製品情報

<おもな仕様>
対応サンプリング周波数:44.1k/48k/88.2k/96k Hz
対応量子化ビット数:16/24bit
アナログオーディオ入力:マイク入力 (IN 1-8) XLR、インストゥルメント/ライン入力(IN 9-10) TS/TRS 、ライン入力 (IN 11-16) TS/TRS
アナログオーディオ出力:(LINE OUT 1-8) TRS
ヘッドホン出力:6.3mm(1/4")ステレオ標準ジャック
コネクタ:MIDI IN/OUT、USB(USB Bタイプ 4ピン、USB2.0 HIGH SPEED)、電源
電源:専用ACアダプター(GPE248-120200-Z)
外形寸法:445(W)×59(H)×219(D)mm
質量:2.8kg
付属品 専用ACアダプター (GPE248-120200-Z)、USBケーブル、六角レンチ、ラックマウントアングル、ラックマントアングル取り付け用ネジ、取扱説明書、保証書

◆US-16x08
価格:オープン(市場想定価格 税込42,000円前後)

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