ローランドの「JD-X」シリーズは、アナログとデジタルの両方の音源を搭載する“クロスオーバー・シンセサイザー”だ。同シリーズには、アナログとデジタル各4パート搭載の49鍵の「JD-XA」、そしてその主な機能をコンパクトなボディに凝縮した「JD-Xi」の2機種がラインナップされるが、今回BARKSは37鍵のミニ鍵盤仕様の「JD-Xi」に注目した。豊富な音色を使えるだけでなく、簡単に使えるパターン・シーケンサーや、声で遊べるボーカル機能など楽しい機能が満載で、曲作りにもライブにも便利なシンセだからだ。今回もまたまた沖縄出身ガールズバンドFLiPがリハーサル中のスタジオを訪ね、ボーカルとギター、そして作詞作曲とシンセも担当するSachikoに「JD-Xi」を徹底試奏してもらった。

◆FLiP×BOSS「JD-Xi」 画像

■曲作りにもライブにも役立つ、コンパクトで楽しいシンセ


今回Sachikoに試奏してもらった「JD-Xi」は、前述のとおりアナログとデジタル両方の音源を搭載する“クロスオーバー・シンセサイザー”だ。デジタル・シンセには、多くのプロから高評価を受けているJUPITER-80やINTEGRA-7と同等のSuperNATURALシンセ・エンジンが採用されていて、リアルで鋭いPCMサウンドやアナログ・モデリングのサウンドを鳴らすことができる。これだけでも十分多彩な音が出せるのだが、「JD-Xi」にはさらに新開発のアナログ回路のシンセも搭載されている。ここではサブ・オシレーターやアナログ・タイプのローパス・フィルターも使えるので、図太いシンセ・ベースなど、アナログならではのサウンドも楽しめる。

音色も豊富で強力だが、エレクトロ・ボイスを出せるボーカル機能やシーケンサーといった機能があるのが「JD-Xi」の面白いところ。そしてこれらの機能は本当に楽しいし、ライブや曲作りの際にとても役立つのだ。


▲ボーカル機能は付属のグースネック・マイクを接続して利用。歌の音程を補正するオートチューンや、声質を変えてロボットボイスにしたりという使い方もできる。

まずボーカル機能は、声でデジタル・シンセをコントロールして鳴らしたり、声を劇的に変化させることができる機能。パネルの上部にマイク端子が用意されていて、ここに付属のグースネック・マイク(一般のマイクも使用可)を接続して利用する。マイクに向かって歌ったり話したりしながら鍵盤を押すと、その和音がしゃべったり歌ったりするように聴こえるボコーダー、鍵盤を弾かずにマイクに向かって歌ったフレーズをそのままシンセ音で鳴らせるオート・ノートといった機能があって、歌の音程を補正する、いわゆる“オートチューン”や、声質を変えて男声を女声にしたりロボットボイスにしたりという使い方もできる。ボーカル・エフェクトのような感覚で使えるから、ライブでボーカルに変化をつけたりするのも簡単だ。

シーケンサーは、2パートのデジタル・シンセと1パートのアナログシンセ、それに1パートのドラム、合計4パートを使うことができる4トラックのパターン・シーケンサーで、最大で4小節分のパターンを記録することができる。パネル上、手前側に1直線に並んだ16個のボタンを使えば、1音ずつ入力するステップ入力方式で簡単にパターンを作れるし、鍵盤でプレイしたフレーズを記録するリアルタイム入力も可能。もちろんこれらを組み合わせてパターンを作っていくことができる。たとえば、最初にドラムパターンをステップ入力してリズムを刻ませておき、そこにアナログベースをアルペジエーターで走らせ、デジタル・シンセのコードをプレイしてリアルタイム入力する、といった具合だ。思いついたフレーズを次々に重ねてパターンを作ることができるし、あるパートだけを瞬時にミュートすることもできる。フレーズを重ねたり消したりして比べながら、パターンを作っていけるので、曲作りのアイデアを練るのにはもってこいだ。


▲シーケンサーは手前側に1直線に並んだ16個のボタンでのステップ入力方式とリアルタイム入力も可能。エフェクトは4系統装備し、USB接続によりPCのオーディオ/MIDIインターフェイスとしても使える。

このほか、エフェクトは4系統装備し、USB接続によりPCのオーディオ/MIDIインターフェイスとしても使えるなど、多彩な機能がある。それでいてコンパクトなボディにまとめられているのは、ライブのときにも重宝する。ボーカリストやギタリストが曲によってちょっとしたフレーズを弾いたり、エレクトロ・ボイスでボーカルに変化をつけたり、シーケンサーでパターンを鳴らしたり、そんなときにも「JD-Xi」ならステージ上で邪魔にならずにそばに置いておける。様々な場面で便利に使える機能が詰め込まれた「JD-Xi」は、まさにコンパクトなワークステーションなのだ。

■表情豊かなボーカルでFLiPの世界をリードするSachiko


▲写真左から二番目がSachiko。

今回「JD-Xi」を試奏してくれたSachikoが所属するFLiPは、2005年に沖縄で結成されたガールズバンドだ。ポップで軽快、弾けるような元気に満ち溢れたロックサウンドが海外でも評価されている実力派バンドだ。2015年は結成10周年を迎え、それを記念するワンマン・ツアーも無事終了。そしてこの5月にはミニアルバム『BIRTH』をリリースするなど、エネルギッシュに活動中。そのFLiPでボーカルとギター、それにシンセサイザー、さらに現在はすべての作詞作曲を担当しているのがSachikoだ。自らを投影した等身大の歌詞を、表情を変えながらポップに歌い、ときにはシンセでサウンドを彩る。FLiPサウンドをリードする存在だ。

■シーケンサーの手軽さとボーカル機能の楽しさにハマりまくったSachiko

シンセサイザーを使い始めたのは最近だが、すでにローランドのSYSTEM-1やFA-06を曲作りやライブに活用しているというSachiko。今ではFLiPのサウンドにシンセは不可欠だというだけに、「JD-Xi」でどんなことができるのか、大いに興味を持っていたようだ。


まずはプリセットの音色を確認するSachiko。音色を切り替えるたびに、“この音いいですね”、“あ、これ使えそう”とかなり好印象。デジタルシンセでは音のリアルさが気に入ったようで、“この人の声みたいな音、すごくリアルでいいです。色々使えそうですね”。そしてアナログシンセは音の太さが気に入った様子。“音が太いというか、音量とは違うパワー感みたいなのがすごくいいです”。

続いてSachikoはシーケンサーをテストする。初めにプリセットのサンプルソングをプレイして、リアルなドラム、アナログのシンセベース、デジタルシンセが重ねられたアンサンブルが流れると、“これ、全部リアルですごくいいですね。ダンスビートっぽいリズムも好きだし、ベースの太い感じもいい”と早くも興奮気味。

そしてシーケンサーでパターン作成に挑戦。まずはドラムから、16個のボタンによるステップ入力でリズムパターンを作る。各鍵盤にキックやスネアといった音色が割り当てられているので、その鍵盤を押して入力する楽器を選び、ボタンで鳴らすステップを指定する。Sachikoはアナログのリズムボックスのような音色を選び、キックを各拍のアタマに入れて4つ打ちのリズムを作る。ハイハットはクローズにオープンを織り交ぜて変化をつけ、偶数拍のバックビートにスネアを入力。初めて使うシンセなので手探りでの作業だったはずだし、適当に入力しているようにも見えたのだが、これだけでちゃんとカッコいいドラムのパターンが出来上がった。“直感でできちゃうのが楽しいです”


▲シーケンサーでパターン作成に挑むSachiko。初めて使うシンセなのに、カッコいいドラムのパターンが出来上がった。

次はベース。音色はアナログ・シンセで、今度はアルペジエーターを使用した。和音を弾くように鍵盤を押すと、アルペジオのベースフレーズが自動的に作成される。アルペジエーターにも様々なパターンが用意されていて、パターンによって雰囲気ががらりと変わる。いくつか試していたSachikoは、ひねりの効いた妖しげな雰囲気のパターンを選択した。そして、分厚いデジタル・シンセでコードを重ね、曲らしい形が出来上がってくるとテンションがさらに上がったようで、“ヤバい、楽しい!”

“曲を作るためのネタ作りがこれでできちゃいますね。けっこう長いパターンもできるし、とにかく楽しいです”

そして今度はボーカル機能を試してみる。“これを楽しみにしていたんです”とSachiko、鍵盤を弾かずに歌った音程でシンセを鳴らせるオート・ノート機能については、様々な音色を使ってシンセに歌わせ、オートチューン機能では、自分の歌の音程がどのように補正されるのかを丹念にチェックしていた。とくに気に入った様子だったのが声質を変える機能で、男性のような声で歌ったり、ロボットボイスでしゃべってみたり、自分の声の変化に大興奮。“エフェクトをかけた声を混ぜて歌うというのを、ずっとやってみたかったんです”。


▲エフェクターを操作し音色を変えていく。

“これ、ホントにいいですね。単純に楽しいです。一日中やってても飽きないと思います。すごく色々な機能があるけど、深いところまでわからなくても、とりあえず面白いと思えるところだけ使っても十分楽しいし、慣れればどんどんできることが広がっていくと思います”

「JD-Xi」がとにかく楽しくて気に入ったというSachikoは、スタジオの終了時間ぎりぎりまでシーケンサーとエレクトロ・ボイスで楽しんでいた。

■直感で使えて楽しい、家でもバンドでも使えるシンセ

試奏終了後、改めてSachikoに話を訊いてみた。


――今回使ってもらった「JD-Xi」の印象はいかがでしたか?

Sachiko:小ぶりでかわいいと思いました。いい感じにアナログな雰囲気で、レトロな配色もいいし、愛着がわきそうですね。音も好きです。レゾナンスの効いた音とか、ギューンってオクターブ上がっていくような音とか、シンセらしい音が好きでよく使うんですけど、「JD-Xi」は私が今使っているFA-06と同じデジタル・シンセのエンジンなのに、それよりシンセっぽい音が多く入っていて気に入りました。存在感のある音がいいと思いました。

――シーケンサーはかなり気に入ったようでしたね。

Sachiko:一瞬で制作モードに入れるのがすごくいいです。たとえばDAWなら慣れるまで時間がかかるし、起動しているうちにアイデアが逃げていったりすることもあるけど、これは思い立ったらすぐできる。シンセにはあまり詳しくない私でも、これを使ってたら曲が生まれてきそうな気持にさせてくれるんです。

――ではバンドの曲作りに活用できそうですね。

Sachiko:ここで感じたリズム、グルーヴが実際のドラムではどうなるんだろう、みたいに、生の楽器と結び付けて考えられますね。家で作業するだけで終わりではないのもいいと思います。これを持って行って、このパターンどう思う?ってメンバーとアイデアを共有できそうだし、シーケンサーのボタンを見ながら、キックをここに入れたほうがいいよ、みたいにバンドでこれを囲んでアイデアを出し合うのもいいですね。家でもバンドでも使えると思います。

――FLiPのライブでも使えそうですか?

Sachiko:基本のリズムをこのシーケンサーで出してドラムのYuumiが違うパターンを叩く、みたいにツインドラム感覚でやるのも面白そうです。曲の一部でシーケンサーのフレーズと同期する、というのもできますよね。クリックをステレオの片側のチャンネルだけに出力できるから、同期するときだけクリックをYuumiに送ればいい。そういうのずっとやりたかったんです。


――ボーカル機能も面白いですよね。

Sachiko:これもいいですね。とくに気に入ったのは声質やオクターブを変えられること。声を楽器として扱えるのがいいと思いました。同じメロディでも、いつもとまったく違う声とか、楽器のような声を使えるんで、それを重ねていくと特別な世界観を表現できるんじゃないかと。

――機能豊富な「JD-Xi」ですが、操作は迷わずできましたか?

Sachiko:はい、もう直感で(笑)。“感覚人間”の私にはぴったりだと思いました。なにか操作をすれば、すぐ何らかの反応があって、音で答が出る。それが次のインスピレーションにつなげられるように感じました。SYSTEM-1の場合は音を作り込んだり、使うまでに準備が必要ですが、これはその準備の段階、音を作っていくところも何かのヒントになりそうです。明確な目的なくさわっても思いがけない結果が得られるかもしれない。曲がいっぱい作れそうです!

――「JD-Xi」は幅広い人にオススメできそうですね。

Sachiko:初めてシンセを使うという人から上級者まで、ホントにすべての人に幅広くオススメです。ギタリストやベーシストが使うのが一番似合うと思います。ステージに置くのにもちょうどいいサイズ感だし、エフェクターみたいな感覚で使えると思います。バンドに一台欲しいシンセですね。今の生の楽器の世界をもっと広げたいという人には、ぜひ使ってみてもらいたいです。

「JD-Xi」主な仕様

鍵盤:37ミニ鍵盤(ベロシティー対応)
音源:最大同時発音数129 音(デジタル・シンセ/ドラム・キット:128、アナログ・シンセ:1)※デジタル・シンセは最大同時発音数64音
パート数:4 パート(デジタル・シンセ・パート= 2、ドラム・パート= 1、アナログ・シンセ・パート= 1)
トーン:デジタル・シンセ・トーン(SuperNATURALシンセ)、アナログ・シンセ・トーン、PCM ドラム・キット ※ アナログ・シンセ・トーンは、オシレーター、サブ・オシレーター、フィルター部分をアナログ回路で構成しています。
エフェクト:Effect1(Distortion、Fuzz、Compressor、Bit Crusher)、Effect2(Flanger、Phaser、Ring Mod、Slicer)、Delay = 2 種類、Reverb = 6 種類
パターン・シーケンサー:トラック数= 4
ボーカル機能:Vocoder、Auto Pitch、Auto Note
その他機能:フェイバリット、アルペジオ
コントローラー:ピッチ・ベンド/モジュレーション・ホイール
ディスプレイ:16 文字 2 行LCD
接続端子:PHONES 端子(ステレオ標準タイプ)、OUTPUT 端子(L/MONO、R)(標準タイプ)、INPUT 端子(LINE「MONO」もしくはGuitar 入力)(標準タイプ)、MIDI 端子(IN、OUT)、USB COMPUTER 端子(USB Hi-Speed AUDIO / MIDI 対応)、DC IN 端子、MIC INPUT 端子(XLR タイプ, アンバランス)
電源:AC アダプター
消費電流:1,000mA
外形寸法:575(幅)×245(奥行)×85(高さ)mm
質量(AC アダプターを除く):2.2kg
付属品:取扱説明書、AC アダプター、マイク、保証書、ローランド ユーザー登録カード