【ライヴレポート】<LUNATIC FEST.>にこそ、フェスのあるべき形のひとつが

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LUNA SEA初主宰による史上最狂のロックフェス<LUNATIC FEST.>が2015年6月27日と28日の2日間、幕張メッセにて開催された。出演バンドは先駆者である先輩バンドから、影響を公言する後輩バンド、そして同時代を駆け抜けてきた戦友バンドまで全22組。全2日間全20時間の狂宴はLUNA SEAの25周年を締めくくる名目であると同時に、終わってみれば日本ロックの歴史に残る祭典となった。

◆<LUNATIC FEST.> 画像

速報レポに続いて、LUNA SEAを見続けてきたライターの増田勇一氏と山本弘子氏による詳細レポートをお届けしたい。なお、BARKSでは各バンドのステージをできる限り深くお伝えするため、両氏に執筆対象をシェアしてもらった。ぜひ2つのレポートを併せてご覧いただきたい。こちらのレポートは増田勇一氏によるものだ。

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記憶というのは、時間の経過とともに自然に整理されていくものだと思う。なかには抜け落ちてしまう部分もあるはずだが、むしろそれによって印象深かった要素というのはいっそう際立つことになり、その出来事全体の自分にとってのあらましとでもいうべきものが、より明確なものになってくる。しかし6月27日と28日の記憶は、時間が経つほどに一瞬ごとの意味というのが深まってゆき、全体について述べるのが難しくなってくる。酷い言い方に聞こえるかもしれないが、それは、誰かが誰かにとっての引き立て役だったり、噛ませ犬だったりすることが一切なく、音楽的にも成り立ち的にも多種多様な出演者たちが各々に色濃い存在感を発揮し、何かと混ざることによって彩度を落とすようなことが皆無だったからだと思う。

ただ、だからといってすべての出演者のステージについて詳しく均等に触れていこうとすると、あまりにも膨大な原稿量になってしまう。だから、敢えてここでは、僕なりに執筆対象を絞らせていただくことにする。本稿中に名前が登場しないアーティストの演奏内容が良くなかったとか、印象的ではなかったということではまったくないので、その点は誤解せずにいていただきたいところだ。

▲X JAPAN画像(全8点)

LUNA SEAとLUNACYについては後述させていただくとして、まず初日のステージで衝撃的だったのは、X JAPANのステージだ。彼らが一堂に会するのを目にするのは、昨年9~10月の横浜アリーナでの二夜公演、そしてニューヨークのMSG公演以来ということになる。あの経過のなかでは、公演を重ねていくにしたがってすべてが研ぎ澄まされていくさまが感じられたものだが、今回の出演についてはそうした“流れ”のなかに組まれているわけではなく、一発勝負という性質がとても濃い。だからこそリスクもあるわけだが、結果的にはむしろ、MSG公演終了と同時に止まっていた時計が、この夜になってふたたびカチカチと動き始めたかのような印象をおぼえた。

具体的な演奏内容については、「KISS THE SKY」と題された新曲が披露され、オーディエンスによる同楽曲のコーラスが来春発売予定の新作アルバム用にその場で録音されたこと以外、特にこれといった目新しさはなかった。が、それでも昨秋の一連の公演をコンパクトに凝縮したかのような演奏内容は、このバンドの現在の魅力をわかりやすく伝えていたのではないだろうか。あの広大なフロアを埋め尽くしていた大観衆のなかにも何割かいたはずの、初めて彼らのライヴに触れた層に向けての、ショウケースとしての役割も充分に果たされていたように思う。

▲LADIES ROOM画像(全5点)

同じく第一夜にはLADIES ROOMとTOKYO YANKEESも顔を揃え、往年の<エクスタシー・サミット>を連想せずにいられないところがあったが、この両者のパフォーマンスにも興味深いものがあった。両バンドとそのファンの皆さんに対しては失礼極まりない話だが、彼らのステージを最後に観たのがいつのことだったか、僕はもはや記憶していない。しかし、だからこそ、変化の度合いの大きさや、変わらぬものの揺るぎなさについても痛感させられることになった。

LADIES ROOMから何よりも感じたのは“日本語ロック・バンド”としての成熟した味わいだったし、TOKYO YANKEESはフロントマンのUMEMURA(2007年末に他界)を欠いても、やはりTOKYO YANKEESのままだった。ステージ中央に飾られた彼のレザー・ジャケットが見守るなかで披露されたMOTÖRHEADの「ACE OF SPADES」のカヴァーも、このバンドの根底的部分がいまだにそこにあることをきっぱりと伝えていたし、X JAPANのPATAを呼び入れてのセッションにも、若造には真似のできない味わい深さがあった。LADIES ROOMがRYUICHIを招き入れての「酒と泪と男と女」についても、その点については同様だ。ブルースがさまになるバンドと、何を歌っても自分であれる歌い手。同セッションは、まさにその合体だった。

▲9mm Parabellum Bullet画像(全6点)

MOON STAGEの一番手という大役を担った9mm Parabellum Bulletは、このなかにあっては当然ながら若手ということになるが、持ち前の疾走感や破天荒さばかりではなく、ずっしりとした重厚さを感じさせるようになっていた。しかも、LUNACYとしてのステージを終えたばかりのJが、彼らの演奏中に呼び込まれるというサプライズも。2日間を通じて随所に実現したLUNA SEAのメンバーたちの飛び入りの口火を切ったのが彼であり、その場面だった。

▲DIR EN GREY画像(全6点)

同じく初日の演奏でいえば、DIR EN GREYの存在感も素晴らしかった。いかなるフェスだろうと、お祭り騒ぎの火に油を注ぐことよりも、あくまで自分たちならではの見せ方、聴かせ方にこだわりながら“個”を貫くことを重んじてきた彼ら。その姿勢はこの場でも変わりはしなかった。が、序盤から彼らのレパートリーのなかでも即効性の高い楽曲を網羅しながら組まれた演奏メニューの小気味よさには、このバンドなりのフェスにおけるパフォーマンスのあり方が確立されてきたことを実感させられた。しかもそのたたずまいには、先輩世代とも、後続たちとも、さらには今様のラウド・ロックとも異なった、やはりこのバンドにしか醸し出すことのできない何かがある。アーティスティックな匂いと、ひと目でわかるカッコ良さ。今の彼らはそれを絶妙のバランスで併せ持っているのだと思う。もちろん、SUGIZOのヴァイオリンをフィーチュアしながら披露された「空谷の跫音」も象徴的だったし、彼の登場についてことさらアピールしようとしなかったことにも、このバンドらしさを感じさせられた。

▲DEAD END画像(全5点)

そのDIR EN GREYの演奏終了直後、SHINEステージの最終演者として登場したDEAD ENDのステージも濃密なものだった。短い演奏時間ではありつつも「I WANT YOUR LOVE」の軽快な疾走感から「PSYCHOMANIA」へと落とし込んでいくダイナミクスの高低差は、やはりこのバンドならではのものだといえる。RYUICHI、そして12弦のアコースティック・ギターを携えたSUGIZOを呼び込んで披露された「SERAFINE」も、このフェスでしか味わうことのできないもの。それでも終盤は復活後の楽曲で固め、ささくれだった攻撃性を伴った「DEVILSLEEP」をクロージングに配置するあたりには、自分たちは伝説上ではなく現役の存在なのだという無言の主張めいたものを感じずにいられなかった。

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▲ROTTENGRAFFTY画像(全7点)

翌日、6月28日にも数多くの印象的な場面と出くわすことになった。僕がことに強調しておきたいのは、まずROTTENGRAFFTYの、ライヴ・バンドとしての類いまれな強靭さだ。もちろん彼らのライヴが素晴らしいことは前々から承知していたし、誰とは明言せずにおくが、過去、さまざまなバンドから「やつらのライヴにだけは敵わない」といった言葉を聞いてきた事実もある。そしてこの夜も、短い時間枠に必殺曲をギュッと詰め込み、あくまで前のめりな姿勢と言葉で、彼らはなかば強引に観客を巻き込んでいった。15年を超える実績に裏付けられた実力と、まだまだ若手と呼びたくなるくらいの勢い。それを兼ね備えているのがこのバンドの強味なのだ。そしてもちろん、楽曲の素晴らしさも。そんな彼らのステージに乱入し、煽りまくったまま姿を消したのは、言うまでもなくJである。

▲AION画像(全5点)

そのJがかつてローディを務めていたことでも知られるAION。この日の彼らのステージにもその伝説のローディが登場し、彼から楽器を手渡されるという象徴的シーンから演奏が始まった。しかも彼らは、事前に告知していた通り、すべての観客に対して公平でありたいという考えから、新曲のみで組まれたセットを披露。それゆえに、浸透度の高い楽曲ならではの一体感といったものを味わうことはできなかった。が、それでもIZUMIの流麗なギターワークと、NOVの激しくも伸びやかな歌声は堪能することができたし、過去の楽曲の素晴らしさが広まることよりも、そうした姿勢が伝わることに価値があるはずなのだと思えた。

▲GLAY画像(全6点)

この2日目には、minus(-)やKA.F.KAの演出する“漆黒の躍動感”にも魅了されたが、その対極ともいうべきGLAYのまばゆい存在感も、やはり圧倒的だった。「HEAVY GAUGE」を幕開けに配置するという、重厚な空気をまとったスタートから「誘惑」で一気に爆発する流れは見事というしかないものだったし、新旧を織り交ぜながらの演奏メニューのなかば、HISASHIの「プロを目指していた頃、『LUNA SEA』という1枚のCDに出会い、一瞬で虜になった。早くこういうふうになりたいと思った。この狂った夜に、エナメルの夜に……」というMCに導かれながら披露されたLUNA SEAの「SHADE」のカヴァーも、きわめて鮮烈だった。

そんなGLAYのステージを経ても、まだクライマックスには至らない。それがこのフェスのすさまじいところだ。彼らの演奏終了直後、SHINE STAGEに姿を見せたのはD’ERLANGER。そしてその直後にMOON STAGEに登場したのはBUCK-TICKだった。この両者を、同じ場で観ることができるという現実。そこにまず、最上級の歓びを感じずにはいられなかった。

▲D’ERLANGER画像(全6点)

デビューから数えてちょうど25周年を迎えているD’ERLANGERと、30周年という大きな節目の到来が近付きつつあるBUCK-TICK。確かにD'ERLANGERの場合は不在期間があまりにも長いわけだが、それでも今から2年後には“復活後10周年”を迎えることになる。この両バンドが現在進行形の状態のまま同じ時代を走っている。その事実が、LUNA SEAにとっても大きな刺激になっていることは間違いない。

▲BUCK-TICK画像(全8点)

ことにD’ERLANGERの類いまれなバンド力の高さ、躍動感あふれる楽曲で会場を躍らせながらも最後には一帯を漆黒に塗り潰したBUCK-TICKのオーラの色濃さには、やはり完全降伏するしかなかった。そしてD'ERLANGERの演奏中にはINORANが、BUCK-TICKのステージにはJが飛び入りを果たしている事実も付け加えておく。

▲LUNACY/2015.06.28画像(全6点)

そして、何よりも肝心であるはずのLUNACYとLUNA SEAについて。この両者を同じ日に、同じ場所で観ることができるというのもまた、<LUNATIC FEST.>ならではの醍醐味だといえる。実際、両日を通じて、双方とも強烈だった。LUNA SEAは、いわば、過去の自分たちを現在の自分たちが提唱するフェスのオープニング・アクトに起用したわけだが、その場で実践されたのは、過去と現在の分断や差別化ではなく、“狂気”という本質が何ら変わっていないということの証明だったように思う。

▲LUNA SEA/2015.06.28画像(全7点)

双方の名義での演奏内容については他に譲るとして、その“狂気”について語るうえで欠かせないのは、RYUICHIの歌声のすさまじさだ。すでにご存知の読者も多いはずだが、初日のステージにおいて、彼の喉のコンディションは良好とは言い難い状態にあった。僕自身、あれほど彼の声がかすれたり、伸びを欠いている場面を目撃した記憶は過去にない。が、そうした局面に追い込まれた時に限界の先へと振り切ることがあるのもまた、彼のすさまじさのひとつなのだ。いつものような完璧な歌唱を味わうことはできなかったが、そうした凄味に僕は完全に酔わされた。しかも、第二夜のステージではその彼が見事に復調。そうしたプロフェッショナリズムにも感動をおぼえたし、彼を援護すべく熱を注ぐ4人の演奏ぶりには、高度な安定感を超えたパッションが伝わってきた。そして単純に、「バンドって素晴らしいな」などと感じさせられている自分がいた。

▲LUNA SEA SESSION/2015.06.27画像(全2点)

また、彼ら自身にとって“どうしてもその場に居てほしい存在”だったはずの、hideの楽曲を両日1曲ずつ披露するという趣向には、自然に涙で視界がぼやけてきた。アンコール時、各出演者が入り乱れながら披露されたセッションでの“あり得ない光景”の連続にも、同じ生理現象を引き起こされた。「PRECIOUS…」を歌うRYUICHIの両脇にTOSHIとMORRIEがいてヴォーカル・パートを分け合い、しかもその3人と、hideのギターをかき鳴らすYOSHIKIが横一列に並んでいる。過去のどんな瞬間にも目にしたことのないその光景そのものが、奇跡だと思えた。そしてそれを起こしたのは、やはり時代を超えながらさまざまな形で受け継がれてきた“狂気”という共通項なのだろうと感じた。

他にもこの場に書くべきことはたくさんあるのだが、すべてを書き連ねていこうとすると終わりが訪れそうにないので、それは他の機会に譲ることにする。ただ、ひとつだけこの場に書き残しておきたいのは、この<LUNATIC FEST.>にこそ、フェスのあるべき形のひとつがあったのではないか、ということ。もちろん“祭り”としてのフェスを否定するつもりはないし、出演ラインナップの“脈絡なき豪華さ”にこそ意味や意義があるという場合もある。狂気なんてものとは無縁の、のどかな空気を味わえるのもフェスの楽しさのひとつだ。が、昔からフェスが根付きにくいと言われ続けていたこの国にもそれがすっかり定着し、多様化し、乱立傾向にある昨今にあって、<LUNATIC FEST.>は、アーティスト主導型のフェスの理想形のひとつを提示していたように思う。

だからこそ、これは一回限りで終わるべきものではない。そして次の機会には、彼らからの遺伝子をよりまっすぐに受け継いできたバンドたちに、名を連ねていてほしいとも感じている。もちろんこうした感触は、これからの時間経過のなかで変化していくことになるかもしれない。が、2015年7月現在の僕自身の記憶として、この場にそう書き留めておくことにする。

取材・文◎増田勇一


<LUNATIC FEST.>

2015年6月27日(土) 幕張メッセ 1~4 ホール
2015年6月28日(日) 幕張メッセ 1~4 ホール
OPEN 9:30/START 11:00 / END 20:00 予定
■出演アーティスト
【6月27日(土) 全12組】
LUNA SEA、X JAPAN、DEAD END、DIR EN GREY、Fear, and Loathing in Las Vegas、SIAM SHADE、LADIES ROOM、coldrain、TOKYO YANKEES、the telephones、9mm Parabellum Bullet、LUNACY(Opening Act)
【6月28日(日) 全12組】
LUNA SEA、BUCK-TICK、D’ERLANGER、GLAY、[Alexandros]、MUCC、KA.F.KA、AION、minus(-)、ROTTENGRAFFTY、凛として時雨、LUNACY(Opening Act)

◆【ライヴレポート】<LUNATIC FEST.>、「世界に誇れる最高のカルチャーにしようぜ!」──山本弘子

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