【インタビュー】LITTLE「ラップは独自の進化を遂げている」

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LITTLEからソロ・アルバム『アカリタイトル2』到着。“日本初”と思われるラップから歌メロまですべて韻を踏むという彼にしかできない“凄ワザ”で、ヒップホップ界からポップスシーンへと切り込んだ「Beach Sun Girl feat.Una」をはじめ、明るく爽快なサマー・アルバムなのかと思いきや、じつはその裏側では自分の人生観を織り込み、いまの年齢だからこそ描ける聴き応えたっぷりのディープな作品『アカリタイトル2』、そんなアルバムを作り上げたLITTLEに話を聞いた。

取材・文:東條祥恵

■ラップは独自の進化を遂げている


──前作『アカリタイトル1』からあまり時間を空けないで2ndを出すというのは、当初から計画していたことだったんでしょうか。

LITTLE:そこは、わりと創作意欲のまま曲を作って、それをリリースできるタイミングだったら出そうっていう感じなんですよ。

──前作出して以降もずっと創作モードは途切れず、続いてるんですか?

LITTLE:うん、そうみたい。俺はいままで3~4年に1枚とか多かったんで、いつも“名刺”のようなアルバムばっか作ってきたんですね。けど、今回は前作からのスパンが短かったんで、初めて「2nd作れるぞ」とういう気持ちで、やっとキャリアに見合ったもの、気負わないで自分が好きなように作れるタイミングを貰ったなと思って。そんな感じでやりましたね。

──キャリアという意味では、夢や恋愛、結婚、その先にある死生観までいまの年代だからこそ歌えることが本作は色濃く出ているなという印象を受けました。

LITTLE:20年ぐらい音楽、ラップで人に聴いてもらえる環境で作品を作らせてもらってるから、そのキャリアを武器にしなきゃいけないと思っているんですね。この歳にはこの年齢にあったラップがあると思うんスよ。ラップはとくに。“自分語り”が多いジャンルじゃないですか。

──ああ、“俺は〇〇育ち”とか。

LITTLE:そういう自分語りとフィクションをうまく使い分けて歌詞を書いていくものだと思うから、キャリアを積んだり、人間としていろんなこと経験していったら、それを活かさないでどうするって思うんですよ。ラップ、ヒップホップはUS育ちだけど、たいして俺たちとキャリア変わんないんスよ。まだ新しいジャンルだから、自分らがジジイになったときにどうラップするのかはUSでも見つけられてない。そこは、これからアメリカ人も俺たちもみんなが模索してやっていくことだから。そんななか、自分らの先輩とか僕らぐらいの世代はいままさにちょうど違う味わい方をしだしてるときで。若い子のラップとはジャンルが違うんじゃないかっていうぐらい面白いジャンルになってきている気がするんスよ。

──おぉー! それは興味深いお話ですね。

LITTLE:もうラップの作り方がUSがどうだ、ヒップホップがどうだという話じゃなく、トースティング(リズムやビートに合わせてしゃべる行為)というのかな。それを、ラップというやり方でやってる感じなんです。

──ほほぉ。

LITTLE:ま、初めてみんなこの年齢になった訳だからね、いままさにジャンルじゃないジャンルにきてる感じなんですよ。日本でアイドルの人たちがラップをするような感覚に近いと思う。「ラップがこういうので成立するんだ」っていうのと一緒で、俺たちの年代のラッパーもUSにはない新しいラップの物言いをし始めてる気がしてて、それが心地よくなりだしたんです。「おー、面白いジャンルになってきたな、日本のラップも」って(微笑)。

──大人になったラッパーたちがニュースタイルを生み出している最中ということですね。

LITTLE:そう。昔とは違うことを歌い出したからね。こうやって独自の進化を遂げていくんだなって感じている。俺は元々恋愛の歌詞を書くことが多いですけど、いまはさらに気負わずにやっている気がする。ラブソング書くことに対してヒップホップがどうとかすでにないからね。だから(ラブソングも)クラブのカウンターでどうのとかもないし。

──この年代ではシチュエーション的にクラブで女の子と出会ってっていうよりも…。

LITTLE:それよりも、家レベルでワクワクするようなドラマがなくてもOKっていうジャンルになってきている感じですね。ジジイになったらみんなジジイの事歌うんだっていうジャンルになってきたなってこと(微笑)。

──膝が痛くなってきたら“膝が痛いぜ”って。

LITTLE:そうそう(笑)。だから、俺もいまは昔みたいに誰かを傷つけるようなトゲトゲしいことをわざわざやることはもうなくなったし。自分からすっと出てきたものをやれるようになってきたんですよ。

──つまり、いままで以上に普通の日常を肩肘張らずに歌えるようになったと?

LITTLE:うん。でもチャレンジは多かった。初めて詞・曲を作った(「Beach Sun Girl feat.Una」)のもそうだし、人の歌詞を歌った(「tenohira」)のとか、やったことないことをやってみようというのはいろいろあったんだけど、それもそんなに肩肘張らずにできたかな。


■ブレることなくブレまくっている

──そういう新たな挑戦も含め、本作はとにかく普通の日常を描いた楽曲の背景にある人生ドラマが、とにかくリアルなので、ここからはそこにスポットを当ててこの作品を探っていこうと思います。まず1曲目の「バルバロイ」とラストの「ドラマツルギー」。人生のキャリアを反映した曲を頭と終わりに置こうというのは最初からイメージしていたこと?

LITTLE:途中ぐらいからですね。「Bad Boy武士」とか「Check It拉麺」とかの軽い曲を最初にざーっと作って、「よし、アルバム作るぞ」って思ったときに「バルバロイ」が最初にできた。

──これはどんなイメージで作ったものですか?

LITTLE:自分のなかでも結構ごっちゃになってるんですよ。個性が。最初は、普通にいろんな人に当てはまるようないい話を作ろうと思ってたんだけど全然作れなくて(笑)。だから、みんなが思っていそうなことと俺しか思ってないことが結果ごっちゃに入っちゃってますね。でも、ここで自分のことをみんなに伝わるように言い方を変えたら、機微のニュアンスの濃度が変わってしまうから、そこを自分に嘘つかないでやってったら全方位ではなくなったってこと(笑)。きっと、これが伝わる人は3年に1人ぐらい見つかる友達、飲みに行ける人だな。そういう人がいたらいいなという友達探しの曲かな(笑)。

──それで、ラストの「ドラマツルギー」は?

LITTLE:「バルバロイ」からいろんなものを経ての夏のエンディングでもある。

──そのエンディングがね、潮の満ち引きをを人の生き死にに喩えていたり、最後にはたった一人って……。

LITTLE:「バルバロイ」のときはやせ我慢も含めての一人だったんですけど、そこからいろんな出会いがあって、別れがあって。亡くしてからもう1回一人になってる状態ですね。

──それが本当に悲しくて。なんでこんな悲しくてせつないアルバムエンディングになっちゃったんですか?

LITTLE:そこは最後に歌詞書きながら思ったんスよね。生きててもいいかな、想像する相手、仲間が……いや、これは死んでるなと。完全に一人だったんですよ。最後の曲だし、ちょっとハッピーエンド的なのがいいなと思ったんですけど生き返らなかった。せめて自分の終わりにならないようにと、夏の終わりにしといたんですけどね(苦笑)。

──本作は「Beach Sun Girl feat.Una」やジャケのアートワークなんて、まさに夏のお供にどうぞ的なキャッチーな雰囲気なんですが、あちこちからその奥に潜む人生の深みがにじみ出ちゃってるんですよ。

LITTLE:これでも作り出した頃は爽やかで明るい曲っていうのを意識して作ったのに(笑)。

──「Beach~」とかはその典型ですよね?

LITTLE:そうそう!

──よし、爽やかのができたと。それが、どうしてどんどんその逆サイドに趣きがいっちゃったんですかね。

LITTLE:そりゃあ10曲も作ればそうなりますよ(笑)。晴れてる日もあれば曇る日もあるわってのと同じ。これでも、俺のなかで晴れの日が多めな作品なんですけどね(微笑)。でも、そこだけだと「ヤバい、俺のキャリアが反映してないアルバムになってしまう」と思ってたんで、逆にそういう風な重厚感を感じてもらえたんならよかったっス(微笑)。最初は軽~い感じで作ってたから。

──たしかに「Bad Boy 武士」とかゴキゲンなナンバーですもんね。

LITTLE:そうですね。楽しくてしょうがなかったです、これ作っているときは。直江兼続の(兜の)“愛”を見てたら、これってNYヤンキースみたいな感覚なのかなと思って。そう思ってたら、伊達政宗の(兜のマーク)がナイキにしか見えなくなってきて。

──うはははははっ(笑)。

LITTLE:そうしたらあの眼帯がスリック・リック(黒い眼帯がトレードマークのラッパー)にしか見えなくなってきて「伊達政宗。ヒップホップだな~」って。

──「Check It 拉麺」はどうだったんですか?

LITTLE:これは前作でウーロンハイ(「FUNKY ウーロンハイ」)やったから、アルバム1枚に1曲は好きな食品の話をしようと思って、今回はラーメンにしたんです。しょうゆとか味噌とか小節ごとに分けてやっていくと説明するだけで埋まってっちゃったから、無理矢理小節ごとに声色を変えるという挑戦をしました。しょうゆは俺で、味噌はハーコーっぽい感じ、とんこつはラガマフィンぽい感じでってその場のオファーを受けてやってみたんだけど、俺もこんなに自分の引き出しがあるとは思わなかった(笑)。ずっと張るラップしかしてなかったけど、ウィスパーなのもありだなって思うぐらい驚きました。

──ちなみに、次の食品はすでにアイデアが?

LITTLE:次はカレーかな。

──分かりました(微笑)。では、「Beach~」同様夏の匂いがする「七月の海月」。アルバムはこの曲あたりからセンチメンタリズムが押し寄せてくる訳ですけど。

LITTLE:この曲、最近ライブでは2番までしか歌わないんですよ。3番を歌うと急にみんな暗くなるんで(笑)。

──そう!このアルバム、とにかく3番に人生の深みやエグみが出過ぎちゃってて。そこがグサッとくるんですよ。

LITTLE:昔から3番が好きなんです。いまどき3ヴァースまで作ることはないってみんな言うんですよ。3番作っても聴かれないからって。でも俺は3番作るのが好きだから、聴かれないなら一番の醍醐味をここに置いといてやろうって。聴き心地がいいのは2ヴァースまでかもしれないけど、この曲をどういう意味で作ったのか、その旨味は全部3番に凝縮する。そういうのが昔から好きなんです。

──「おやよう~おやすみfeat.SONOMI」も、彼女とずっと一緒にいたいのに“なんのために仕事に行かなきゃいけないんだ”という問い掛けの決定打は3番に入ってますもんね。

LITTLE:そうですね。俺はなぜ学校に行かなきゃいけないのか、仕事に行かなきゃいけないのかってずっと思って生きてるから、彼女ができると学校行かなくなったり仕事辞めたり実際にしてたんです(微笑)。仕事っていつも順番的に一番上じゃないですか? でも、そうじゃなくなったらいいのになって。夢物語かもしれないけど「休もう、今日は」っていう感覚でいたいなという歌をSONOMIに付き合ってもらったんですけど。SONOMIには「すごいですね、LITTLEさん。自分正統化が」っていわれて全然共感してもらえなかった。

──うはははっ(笑)。

LITTLE:「仕事は行くものですよ」って言われて「はい、すいません」って。

──若い人に怒られちゃった(笑)。「Generation R feat.JAP,MISTA O.K.I」は世代も近いラッパーたちと一緒に。

LITTLE:ヒップホップの話をしてます。アルバムのなかに1曲はこういうのを歌いたいですからね。「これを中学校のときに見たら俺もラップしちゃうな」って思うカッコいい2人なので、俺もその頃の話をしてみました。

──これは、LITTLEさんがヒップホップと出会った頃のお話ですよね?

LITTLE:はい。この歌詞のまんまです。当時は“ヒップホップ”というジャンルもなくて。

──えっ……そうなんですか?

LITTLE:うん。“インディーズその他”のコーナーにラップのCDが何枚かあって、それを見つけ出して聴く時代でした。(歌詞の)入りは、ジブさんが(キングギドラで)“中坊の俺は渋谷のタワー”(「行方不明」)って歌っていたのを“八王子タワー”にしただけ。俺はこの入りが好きで、実際中学の頃これを聴いてたから、そのフレーズを引用させてもらいました。

──そこでラップ、ヒップホップに目覚めて以降は、ブレることなくその道のキャリアを積んできたにも関わらず“俺の答えは今も不安定”とここで歌っているのは?

LITTLE:俺はブレまくってるからですよ。今回初めて2nd作れているぐらいだから。いまだにあんなのに憧れて、こんなのに憧れてってやっているからね。あんまどっしり構えてやっている感がしないなと思って。いっつも俺は「こうだ」っていうのがずっとある訳でもなく、昔からそこは変わってないなと思って。そういう感覚を含めてのニュアンス。

──そういうアンバランスなところを含めてLITTLEということなんでしょうね。では、最後にあの「Beach Sun Girl feat.Una」についても聞かせて下さい。クレイジー過ぎでしょう、この韻踏みは(微笑)。

LITTLE:断言してもいいけど、日本の音楽のなかでこんなに韻を踏んでる歌メロの曲は100%ないから。自分が中学生の頃にラップのCDを聴いて、韻を踏むというカルチャーに出会ったとき、すごい感動があったんですよ。それなら、普通のポップスがすごいライミングしてたらきっと聴いた人はトラウマになるだろうなと思って作ったんですけどね。でも、ポップスに落とし込むために、全部韻を踏んでるのに普通に聴こえるようになってます。1回こういうハードライミングなポップスを作ってみたかった。そこに気づいたら、この曲はさらに楽しんでもらえるかな。

──分かりました。このアルバム発売後は、KICK THE CAN CREWでのイベント参加が続きますけど。いまこうしてまたKICKをやるのって、LITTLEさん的にはどんな感覚なんですか?

LITTLE:すげぇ楽しい。本番以外、リハとかやってるときは「あ、本人と歌ってるよ」って気持ちだよ(笑)。「マルシェ」とかカラオケで歌わされたりするときもあるから、そういうのをリハでやると「おっ! 本物と一緒にやっている。豪勢だな~」と思いながら楽しくやってるよ(微笑)。

──では、最後にBARKSの読者に向けてメッセージをお願いします。

LITTLE:LITTLEでも、どの形態でもいいラップしてるので、ぜひ聴いてみて下さい。

『アカリタイトル2』
2015年8月12日発売
CD / TKCA-74238 / \2,759+税
1.バルバロイ Sound Produced by 千晴 & Toshihiro Takita
2.Bad Boy 武士 Sound Produced by SHOGO
3.Beach Sun Girl feat.Una Produced by Mitsuyuki Miyake
4.七月の海月 Sound Produced by SHOGO
5.tenohira Produced by Masataka Kitaura, MCU
6.Check It 拉麺 Sound Produced by Taichi Master
7.アイデアル Sound Produced by T.U.S(副島ショーゴ & 今泉タカシ)
8.おはよう~おやすみ feat.SONOMI Produced by Shingo.S
9.Generation R feat.SIMON JAP, MISTA O.K.I Sound Produced by SHOGO
10.ドラマツルギー Sound Produced by MAST

◆LITTLEオフィシャルサイト
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