【インタビュー】沖ちづる、ライブ作品発表「“わたしのこえ”を“みんなのうた”に」

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■自分という存在を感じるだけでなく
■自分とその人の歌なんだと感じられる曲を書きたい

──先ほどをうかがった“これからの自分”というところを、もう少し具体的に聞かせてもらえますか?

沖:自分の音楽をより多くの人に届けたいと、強く思ったんですよ。当日は満席ではなかったですし、いいライブができたと思えたからこそ、より多くの人に届けないといけないと感じたというか。どうやったら自分の歌でもっと多くの人に感動してもらえるんだろう、共感してもらえるんだろうというのを、より考えるようになったきっかけですね。

──今までは“歌いたい”という、自己欲求的な部分のほうがより強かったんですか?

沖:こんなにもお客さんにも見てほしかったんだ、と自分でも思いました(笑)。もちろん今までもいいライブをしたいというのはあったんですけど、自分でいっぱいいっぱいだったというか。ライブをこなす、歌を歌うことでいっぱいいっぱい。頑張っても目の前にいるお客さんに伝えるだけで精いっぱいでした。5月10日のライブを終えてからは、目の前にいない人たちに届けるためには、どうしたらいいんだろうということを、すごく思うようになりましたね。自分はこういういい歌を歌えるのに、なぜもっと多くの人に聴かせることができないだろう、と思えたというか。文字にするとすごく自信家な発言だと思うんですけど(笑)。でも自分に期待できるようになったからこそ、同時に悔しさもありますよね。今まではあまり自分に自信がなくて、それは歌だけじゃなくて、自分の人間性とか、見た目とか、全部なんですけど。そういうところが変わりつつあることも、自分では感じています。私はこうなりたいとか、そういう感情が生まれました。

──5月10日のステージは、精神的な部分でもターニングポイントだったんですね。

沖:届けたいという思いが、本当に強くなりました。一人ひとりに自分の曲を伝えるというよりも、その人の心に入り込むぐらいの気持ち。目の前の人、目の前にいない人に対して、自分という存在を感じるだけでなく、自分とその人の歌なんだと感じられる曲を書きたいと思うようになったし、意識が外に向かっていっていることを自分でも感じます。これから作っていく新曲に対しても、自分の中だけに収める作品じゃないものを書きたいというのはあります。だからこそ、曲に対しての欲も強くなっていくというか。

──自分の楽曲を届けていくことに対してのもどかしさは、5月10日のライブでも披露した「下北沢」のミュージック・ビデオでも表現されていますよね。

沖:ライブハウスに毎日のようにいた頃を、思い出しながら演じました。すごくリアルです(笑)。一緒に出演してくれた役者さんもほぼ初対面だったので、私が普段、ライブハウスの店員に対して感じている気まずさに近かったというか。そんなに仲良くないけどけっこうしゃべるみたいな感じの、あまり踏み込みすぎない距離感(笑)。PVには一瞬だけ2人で歌う、融け合うシーンがあるんですけど、そこからスタートしていくようなメッセージもあって。『下北沢』はその第一地点というか、外に打ち出したいっていう感情の変化に対する、スタート地点のような曲なのかなと思います。

──ライブでは最後に披露されているのも象徴的ですね。

沖:実はこの楽曲は5月10日のライブで初めてやったのかな……、ライブの直前にできた曲ですね。新曲なのにいきなり最後の曲として披露したんですけど、それでもわかってもらえるんじゃないかなと思って。みんなが感じるような街への思い、好き嫌いじゃない愛着みたいなものってあると思うんですけど、ライブに来てくれた人はもちろんだし、来てくれていない人もそれは感じてもらえるんじゃないかと思いました。

──沖さんは、歌だけでなく絵もよく描かれてきたということですが、もともとそれを人に見てもらいたいという欲求はそれほど強くなかったんですか?

沖:根底には見てほしいというのがあったと思うんですけど、恥ずかしさもあってそれがうまく出せなかったというか。特に小さい頃は、目立ちたいんだけど恥ずかしいというタイプだったんですよ。学芸会で本当は主演をやりたいけど、恥ずかしいから次の次ぐらいに目立つ役を選んだりとか(笑)。でも絵や音楽に出会えてからは、少しづつ自信が付いて変わっていきました。シャイで出せなかった部分を出していくんだっていうのは、意識としてありますね。

──5月10日のライブもそうでしたが、沖さんは一人でステージに立つことも多いので、そうした心境の変化は歌声やパフォーマンスに色濃く出ますよね。

沖:この日は、サポートもなく自分の声だけで勝負した日だったので、特に強いですよね。今は自信がついたこともあって、ひとりでやることが本当に好きになりました。私がソロで始めた入り口は、バンドでのやりづらさみたいなところが強かったんですよ。だからもともと自信の無いところからスタートしたんですけど、バンドのほうが演奏のボリュームが出るし曲がいいものになるんじゃないか、というイメージが最初はやっぱりあったんですよ。でも、今年から本格的にひとりでやるようになって、自分の空間をちゃんと作れれば、ひとりでもいいものができるんだという自信がつきました。ギターを持って歌うという一つのやり方で試行錯誤しながら、自分の軸っていうものを作ってきて、『わたしのこえ』が生まれたと思います。その時に生まれた、確立したものをよりどうやって面白くしていけるかというのを、今後もやっていきたいと思いますし、ひとりでやることに対する自信、自負みたいなものは、5月10日に生まれたものだと思います。

──本格的な活動をスタートしてまだ一年ほどですが、音楽を作り出す動機が大きく変化してきていますね。

沖:もちろん恥ずかしいのは恥ずかしいんですけど、そこを見せるのが音楽だということをすごく感じてきて。吹っ切れたのもあるかもしれません。自分が隠しておきたかったものに対する執着というか、守ろうとしていたものがなくってきたのはすごくありますね。傷つくことが怖くなくなってきたし、ここで止まっていても、自分が目指すものは違うところにある。音楽を通して大きな場所に出たいんだということは、強く感じていて。それって、確かに一年前の私は思ってもいなかったことなんですよ。でも今自分を取り巻いている環境とか、疑問みたいなものに対して、歌で訴えかけることができる立場にあるというのはすごいことだと思うし、そういう立場にいる人間なんだということもすごく意識するようになって。そこを目指したいと思うからこそ、シャイな部分とかはなくなってきたというか。やりたいことが見えてきたのは、大きいかもしれませんね。

──これから作っていく楽曲は、その変化が現れたものになりそうですね。

沖:今までよりも録音するまでに粘るようになってきて、詞ひとつでも、できるまでに苦しんでますね。今までにないことを音楽に対して思うようになっているので、そこをうまく作品に落とし込みたいんですよね。どんなアーティストでもそうだと思うんですけど、今の私が持っているものがすべて、もうこれだけしかないと自分で思ってしまったり、周りに思われるのは虚しいことだと思うんですよね。まだ私のことを知らない人も含めて、今の沖ちづるはこうなんだっていうのを、常に知ってほしいのはあるし、そういうことが表現できる楽曲を作っていきたと思います。『わたしのこえ』で、沖ちづる本人が持っている空気感とか軸みたいなものを見せれたからこそ、より強く思うようなってきたことですね。

取材・文◎阿部慎一郎 撮影◎SUSIE


■1st Full Album『わたしのこえ』

2015年8月19日発売
ANTX 1034 2,315円+税
1.きみのうた
2.土にさよなら
3.あたたかな時間
4.はなれてごらん
5.blue light
6.景色
7.わるぐちなんて
8.街の灯かり
9.春は何処に
10.光
11.下北沢

■1st DVD『わたしのこえ』

2015年9月19日発売
※ライブ会場+通販限定販売
※期間限定生産

■ライブ情報

●<1st full album わたしのこえ リリースツアー "きみをおもう">
9月19日(土) 東京 gee-ge(ワンマン公演)
9月20日(日) 大阪 南堀江knave
9月23日(水・祝) 愛知 K.D ハポン

◆沖ちづる オフィシャルサイト
◆沖ちづる オフィシャルYouTubeチャンネル

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