【CDレビュー】keeno、あまりにも痛切な名曲揃いの2ndアルバム『before light』全12曲を徹底解説

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曲の良さで評判の高い、keenoによる2ndアルバムとなる『before light』が完成した。やわらかな音世界で映し出すせつなき恋の物語は、胸が張り裂けんばかりのエモーショナルな衝動が心をゆさぶる。誰もが共感を覚えるであろう、人との密なコミュニケーションを描いた、あなたに寄り添うサウンドだ。初音ミクAppendのDARKライブラリーをメインに活用しながらも、ヴィジュアルにはkeeno作品お馴染みのイラストレーター麺類子・げみを起用。独自の、淡くも光を感じる幻想的な世界感を生み出している。昨今、ボーカロイド界隈では成熟化が進み、再生回数が伸び悩んでいるボカロPが多いなか、keenoはコンスタントに再生回数を伸ばしている希有な存在だ。ニコニコ動画への、動画投稿楽曲は全て殿堂入りを果たしている(※最新投稿動画「yours」「alternate」を除く)。歌詞からにじみ出る儚さ、そして優しく包み込んでくれる暖かいメロディー。唯一無二のkeenoワールドを体感して欲しい。

テキスト=ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

◆keeno 関連画像&MV映像

  ◆  ◆  ◆

~keeno アルバム『before light』トラックリスト~
1.morning haze
2.decide
3.yours
4.scene
5.unripe
6.weep
7.alternate
8.8
9.scrape
10.madder
11.breath
12.before light


  ◆  ◆  ◆

1. morning haze
アルバムのイントロダクションは、keenoによるニコニコ動画への8曲目の投稿となったナンバー。歌詞から読み取れるのはハッピーエンドでは無い、泣けるせつない物語。中盤のギターが重なるピアノソロで描かれた、タイトル通り朝靄のなか二人だけのセカイを感じさせる淡い静けさ。初音ミクの歌声がサウンドと解け合い、畳み掛けるようにラストへと高まる想い。“痛いな”の一節が与える深みが、悲しくも忘れられない。

▲「morning haze」イメージイラスト



2. decide
君との別れの瞬間。終わりの物語。“もういっそ終わらせましょう 君がそんな顔をしてまた笑うくらいなら ここにある記憶だけで私は大丈夫よ ねぇ”が持つ意味。感情がどうしようもなく溢れ出していく心模様。人が生きる上で逃れられない、摩擦とともに生きる術。もしくは、避けて記憶とともに生きるのか……。後半、初音ミクのコーラスを聴いていると、それがボーカロイドである事を忘れてしまうリアルさだ。

3. yours
アルバム『before light』から先行シングルのようにリリースされた、ニコニコ動画への10曲目の投稿となったナンバー。中盤から弾けていくギターフレーズの強烈さ。2分27秒から覚醒するギターソロの叫び。他に思う大切な人がいながらも身体を重ねていく、嘘を重ねていく物語。“見えない傷から流れるナミダ”、“焼き付いたキス”という印象的なフレーズ。ボーカロイドが奏でることでせつなさは倍増していく。

▲「yours」イメージイラスト



4. scene
初音ミクまるごとマガジン『MIKU-Pack 06』のための書き下ろされたナンバー。失恋模様を描きながらも、“会いたいよ 会いたいの 壊れるほど走るけど”のフレーズと呼応するかのように、サウンドとメロディはどこかしらポジティヴなパワーを感じるから不思議だ。しかし、“焼け落ちる空 キミを隠してしまったんでしょ?”というせつなさ。高まる気持ちと反するように、自分の居場所を失っていく喪失感という哀しさ。

5. unripe
きらびやかなピアノによるフレーズから始まるバラード。誰もが共感出来るであろう、失恋後にも相手の事を忘れられない気持ち。タイトルは“未熟な”の意。でも、そんなやりきれない想いを抱えながら、新しい出会いを受け入れる事で人は成長していく。それでも“私が探しているのは まだ君を知らない私”というせつなき本心。全編ピアノのみで展開されていく事で、より心の奥底の感情が表面化していく。

6. weep
繰り返させるミニマルなピアノフレーズ、空間をミストのようにせつなさで埋め尽くすアンビエントな雰囲気から始まりを告げるナンバー。壊れた心、突然の別れ。不安定な気持ちをあらわすかのように、中盤から叫ぶように盛り上がる展開。まさに“壊れた心の音は軋んで濁って響いてゆく”というやり場の無い心情。歌と響き合うように絡み出すギターフレーズが、そのねじれた気持ちをあらわしているのかもしれない。

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