【インタビュー】漫画『BLUE GIANT』の石塚真一が憧れのウェイン・ショーター&ハービー・ハンコックに迫る

ツイート

ある日、ジャズに心を打たれた高校3年生の宮本大。楽譜を読めず、スタンダードも知らないと、基礎はないけれど、情熱だけはあり余るほどある。毎日仙台・広瀬川の川岸でひたすらサックスの練習に励む。目指すは“世界一のジャズ・プレイヤーになること”。そんな血が煮えたぎるような熱きジャズの漫画『BLUE GIANT』が『ビッグコミック』(小学館)で連載されて、大人気を呼んでいる。その作者である石塚真一氏が東京ジャズで来日した2人のジャズ・ジャイアント、ウェイン・ショーターとハービー・ハンコックにインタビューした。

――僕は、ジャズを題材にした漫画を描いています。主人公は、10代の少年です。世界一のサックス奏者を目指して、毎日練習に励んでいます。そこで興味があるのは、おふたりそれぞれのジャズとの出会いです。まずは、それを教えていただけますか。


▲ハービー・ハンコック

ハービー・ハンコック:ジャズは両親が好きで、幼い頃から家で流れていた。無意識のうちに30年代、40年代のデューク・エリントンやカウント・ベイシーの演奏に触れていた。一方でピアノを学んでいたので、クラシックも、当時流行していたドゥワップやR&Bとかも幅広く聴いていた。でも、インプロビゼーションを知らなくて、高校2年生のある日、学校のイベントでクラスメイトがインプロビゼーションでピアノを弾いているのを観たんだ。衝撃だった。だって、ピアノは、僕だけの楽器だと思っていたからね。それなのに自分が出来ないことをクラスメイトがやっているんだ。僕はすぐに彼に聞いたよ、「どうしたら即興演奏が出来るのか」って。返ってきた答えは、「ジョージ・シアリングを聴けばいいよ」。家に帰って母に「ジョージ・シアリングのレコードを買って欲しい」とおねだりしたら、「やだ、2年前にあなたに買ってあげたレコードは、ジョージ・シアリングよ。当時は好きじゃないとか言っていたけれどね」って(笑)。その時、正式に僕はジャズとつながり、そのあとは、マッドマックスのようにジャズを聴きまくった。毎日興奮していたね。


▲ウェイン・ショーター

ウェイン・ショーター:僕は、子供の頃から絵を描くのが好きで、音楽にはあまり興味がなかった。家では父親がよくラジオを聴いていて、ある日DJが「今日は、全く新しい音楽をオンエアーするよ、ビバップって言うんだ」と紹介して放送したのがジャズだった。それが人生最初のジャズとの接点。でも、よくよく考えてみると、近所のストリートで年上の人達が「こういうヒップな感じがいいんだよ」って夢中になって聴いていたのがディジー・ガレスピーやマイルス・デイヴィスの演奏だった。だから、僕も無意識のうちに14歳頃からジャズに触れていたんだよね。それからラジオでチャーリー・パーカーとか、セロニアス・モンクとかを聴くようになって、それまで知っていたデューク・エリントンやナット・キング・コール・トリオとは全然違って、ヒップなんだよね、シンバルの使い方とか、チャーリーのキィーッて感じの音を出したりするのがさ。決してキレイな音ではなくて、どこか体制に反抗している姿勢を滲ませている。僕にとってビバップは、バットマンのような絶対的ヒーローの存在となり、すぐにクラリネットを買いに行ったんだ。


▲ハービー・ハンコックの『ジャズの100枚。』収録作品。『処女航海』『エンピリアン・アイルズ』『ザ・ニュー・スタンダード』

――次にどうしても聞きたかったことがあります。主人公の大は、いつかあなた方のようになりたいと思っています。なぜこの漫画を描いているかというと、若者達の何か扉になれたらいいなと思っているからです。

ハービー:ジャズを聴き始めた頃、僕も同じ高校にジャズを聴いている人がいると知った。そういう子達は、みんな学校で一番クールだった。それこそがヒップだった。大人っぽくて、レイドバックした雰囲気があって、他の生徒達のようにギャーギャー騒いだりしない。当時ジャズは、ヒップなんだけれど、アンダーグラウンドな人々に好まれて、どこか秘密めいた音楽だった。僕もジャズのようにヒップな存在になりたいと思っていたよ(笑)

――ヒップは、今も若者にとって重要なキーワードです。主人公の大は、今必死にサックスの練習をして、うまくなるためにさまざまな経験も積んでいます。彼がいいプレイヤーになるためにどうしたらいいのでしょうか。何かアドバイスをいただけますか。

ハービー:とにかく聞くことが重要なんだ。

――音楽を、ですか。

ハービー:そうじゃない。音楽に限らず、自分の周りにあることに耳を傾けることが重要。人の意見を聞き、それを受け入れるためにも常に自分をオープンな状態にしておかなくてはいけない。そもそも音楽というのは自由なものだから、自由というのは自分を閉ざさない、小さな箱に自分を押し込めない。とにかく探求心を持って、新しい方向を見つけ、そこに踏み出すことを恐れない。冒険を恐れるなと言いたい。


▲ウェイン・ショーター「ジャズの100枚。」収録作品。「ジャズの100枚。」収録作品。『スピーク・ノー・イーヴル』『ジュジュ』『イントロデューシング・ウェイン・ショーター』

ウェイン:僕は高校生の頃、よく学校を脱走していたなぁ(笑)。脱走して劇場に映画とショウの2本立てを見に行っていた。僕以外にもサボる生徒がいて、みんなまとめて音楽の授業を受けさせられたりしたんだけれど、そういう生徒に限ってIQが高かったりするんだよね。その音楽の授業でストラヴィンスキーの『春の祭典』やチャーリー・パーカーのレコードを聴かされたんだけれど、ある日モーツァルトの『交響曲40番ト短調』が掛かった時、モーツァルトってジャズだなぁって思ったよ。そういう意味では音楽の授業は、出会いの場になっていたんだね。当時ビバップは、社会現象になっていて、クールな存在だった。僕がジャズを演奏しながら体を動かすと、先輩達に体を動かすな、もっとクールに演奏しろと言われた。そうやってどんどん僕は、自分の武器になるスタイルを手に入れていったんだよね。


▲ウェイン・ショーターが影響を受けたチャーリー・パーカー『 ナウズ・ザ・タイム』も『ジャズの100枚。part1』に収録

ハービー:ウェイン同様に僕も先輩達からいろいろ教わった。誰もが出し惜しみすることなく、自由に僕らと経験を分かち合ってくれた。ここは俺のシマだから入ってくるなとか、侵すなとか、そういった言葉や態度で自分の領域を守ろうとか、そういう妨害は一切なかった。嫉妬心を抱かずに接してくれたから、そこからいろいろ学ぶことが出来たんだ。

――すごくいい話ですね。最後の質問になります。大は、インプロビゼーションをもっとうまくなりたいと思っています。お二人は、即興演奏の時、どんなことを考えていますか。

ウェイン:トニー・ウィリアムスに同じ質問をした人がいた。何を考えて即興演奏をしているのかと。そうしたら、トニーは、「もし、それを言葉で答えられたら、今頃ドラムなんて叩いていないさ。叩く必要もないよ」みたいなことを言っていたね。

ハービー:ジャズを始めた当初、僕はコピーから始めた。ジョージ・シアリングのレコードを聴いて、好きなフレーズを聴きとって、それを譜面に書き写して弾いていた。同じように弾いているつもりなんだけれど、全然違うんだよね。どこが違うんだろう。ウェインも僕も科学が好きだから、分析をしたがるタイプ。高校生の僕は、プロの演奏と自分の演奏を聴き比べて、小さな違いを見つけては、真似をするということを繰り返した。そのうち自分のヴォイスというものがわかってきて、人からも「君には自分のスタイルがあるね」って言われるようになった。14歳から21歳までの7年間は、自分のアイデンティティを模索する期間だったと思っている。ウェインも誰かのコピーをしたりしていたかい?


▲ハービー・ハンコックが影響を受けたジョージ・シアリング『九月の雨』も『ジャズの100枚。part3』に収録

ウェイン:チャーリー・パーカーとか、ディジー・ガレスピーの演奏をコピーしていたよ。高校時代に組んだバンドで、僕は、クラリネットでトランペットのパートを演奏したり、サックスでフレンチホルンのパートを演奏したりしていた。演奏できる人がいなかったからだけれど、そうやって違うことを試みるのが好きだった。それからチャーリー・パーカーは、ドイツのヴァイオリンの教則本でトランペットを練習したり、ジョン・コルトレーンもハープの教則本で練習していたそうだ。僕が音楽を始めたのは15歳と、人より遅かったから、とにかくあれもこれもやろう、入れようと、いつもカオス状態になっていた(笑)

ハービー:そういうことが出来たのも、クラシックの素養があったからで、ちゃんと音楽を聴きとることが出来る耳があったからだよね。

ウェイン:耳ということで言えば、いつも音楽を無意識のうちに聴き取っていたかもしれない。たとえば、子供の頃映画館で『狼男』とかを見ると、帰りにはそのテーマ曲を口マネで演奏していたからね。耳にした音楽をすぐに声で演奏していた。全ての瞬間が大事だと思っていたからね。最後に自分の宣伝をしていいかい。間もなく新作を出す予定なので、ぜひ聴いてもらいたい。科学をテーマにしたアルバムになっているんだ。

――今日は、貴重なお時間をありがとうございました。お二人にインタビューできて、とても光栄です。本当にありがとうございました。



▲『Sounds of BLUE GIANT / V.A』

リリース情報

『Sounds of BLUE GIANT / V.A』
発売中
UCCU-1485 ¥2,160(tax in)
1:オリーヴ・リフラクションズ / ジョニー・グリフィン 『ザ・リトル・ジャイアント』収録
2:アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー / デクスター・ゴードン 『クラブハウス』収録
3:モーメンツ・ノーティス / ジョン・コルトレーン 『ブルー・トレイン』収録
4:チュニジアの夜 / ソニー・ロリンズ※ 『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』収録
5:モーニン / アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ) 『モーニン』収録
6:ウェル、ユー・ニードント / セロニアス・モンク 『モンクス・ミュージック』より
7:チェロキー / クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ) 『スタディ・イン・ブラウン』収録
8:カウントダウン / ジョン・コルトレーン 『ジャイアント・ステップス』収録
9:タイム・ウォズ / ジョン・コルトレーン 『コルトレーン』収録
10:処女航海 / ハービー・ハンコック 『処女航海』収録
※Live

ジャズの100枚。[究極の入門編]
発売日: 2015.09.30
価格(税込): \1,296
品番:UCCU-1494
1 枯葉/キャノンボール・アダレイ
2 ワルツ・フォー・デビイ (テイク2)/ビル・エヴァンス
3 イパネマの娘/スタン・ゲッツ
4 セイ・イット/ジョン・コルトレーン
5 セント・トーマス/ソニー・ロリンズ
6 クール・ストラッティン/ソニー・クラーク
7 ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ/ヘレン・メリル
8 モーニン/アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ
9 ブルー・トレイン/ジョン・コルトレーン
10 酒とバラの日々/オスカー・ピーターソン・トリオ
11 マイ・ファニー・ヴァレンタイン/チェット・ベイカー
12 死刑台のエレベーターのテーマ/マイルス・デイヴィス
13 カンタロープ・アイランド/ハービー・ハンコック
14 ザ・サイドワインダー/リー・モーガン
15 ラヴァーズ・コンチェルト/サラ・ヴォーン
16 波/アントニオ・カルロス・ジョビン
17 おいしい水/アストラッド・ジルベルト
18 ソウル・ボサ・ノヴァ/クインシー・ジョーンズ
19 ザ・キャット/ジミー・スミス
20 処女航海/ハービー・ハンコック
21 スターダスト/クリフォード・ブラウン
22 時のすぎゆくまま/ビリー・ホリデイ
23 ナウズ・ザ・タイム/チャーリー・パーカー
24 ラウンド・ミッドナイト/セロニアス・モンク
25 カーニヴァルの朝/ジェリー・マリガン
26 クレオパトラの夢/バド・パウエル
27 エイプリル・イン・パリ/カウント・ベイシー・オーケストラ
28 マック・ザ・ナイフ/エラ・フィッツジェラルド
29 ミスティ/エロール・ガーナー
30 この素晴らしき世界/ルイ・アームストロング

ジャズの100枚。決定版ベスト
発売日: 2015.09.30
価格(税込): \2,592
品番:UCCU-1495
Disc1
1 枯葉/キャノンボール・アダレイ
2 ワルツ・フォー・デビイ(テイク2)/ビル・エヴァンス
3 イパネマの娘/スタン・ゲッツ
4 セイ・イット/ジョン・コルトレーン
5 ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ/ヘレン・メリル
6 モーニン/アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ
7 酒とバラの日々/オスカー・ピーターソン・トリオ
8 マイ・ファニー・ヴァレンタイン/チェット・ベイカー
9 クライ・ミー・ア・リヴァー/ジュリー・ロンドン
10 カンタロープ・アイランド/ハービー・ハンコック
11 ザ・サイドワインダー/リー・モーガン
12 フィール・ライク・メイキン・ラヴ/マリーナ・ショウ
Disc2
1 セント・トーマス/ソニー・ロリンズ
2 クール・ストラッティン/ソニー・クラーク
3 ラヴァーズ・コンチェルト/サラ・ヴォーン
4 波/アントニオ・カルロス・ジョビン
5 おいしい水/アストラッド・ジルベルト
6 ソウル・ボサ・ノヴァ/クインシー・ジョーンズ
7 ザ・キャット/ジミー・スミス
8 スターダスト/クリフォード・ブラウン
9 時のすぎゆくまま/ビリー・ホリデイ
10 ナウズ・ザ・タイム/チャーリー・パーカー
11 マック・ザ・ナイフ/エラ・フィッツジェラルド
12 ミスティ/エロール・ガーナー
13 この素晴らしき世界/ルイ・アームストロング

この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス