【インタビュー】アナセマは常に“プログレッシヴ=先進的”であろうとしている

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英国の誇るモダン・プログレッシヴ・ロック・バンド、アナセマが2015年8月から9月にかけて初来日公演を行った。1990年にリヴァプールで結成、四半世紀を経てのライヴは、まさに待望の日本初上陸だった。アイスランド出身のポスト・メタル・バンド、ソルスターフィアをオープニング・アクトに迎え、<伊藤政則のロックTV!プレゼンツ ROCK OF CHAOS Vol.2>と銘打って行われた公演は、全指定席がソールド・アウト。最新作『ディスタント・サテライツ』からの楽曲を中心に、観客が総立ちで声援を送る、最高の盛り上がりを見せた。

◆アナセマ画像

これから長く続くであろうアナセマと日本の関係が始まった2015年8月31日、バンドのヴォーカリストでありプログラミングなども手がけるヴィンセント・カヴァナーが取材に応じた。彼は日本公演や2015年10月にリリースされる大聖堂ライヴ『ア・ソート・オブ・ホームカミング』、そしてバンドの未来について語ってくれた。


──アナセマはさまざまなスタイルのライヴを行ってきましたが、日本公演はどんなスタイルだといえるでしょうか?

ヴィンセント・カヴァナー:アナセマの“モダン”な面を表現したライヴだ。『ディスタント・サテライツ』(2014)と『Weather Systems』(2012)、『We’re Here Because We’re Here』(2010)という最近の3作からの曲をメインにして、エレクトロニックとアコースティックの2人のドラマーが参加している。俺もシンセサイザーを弾いたり、ヴォコーダーを通して歌ったりするんだ。ここ最近、アコースティック・ライヴやバンドの歴史を辿った“レゾナンス・ツアー”、大聖堂でのスペシャル・ライヴなど、いろんな形式のライヴを行ってきた。同じ曲でもエレクトリックやアコースティック、エレクトロニクスやストリングスを加えたり、さまざまなヴァージョンで演奏してきたんだ。曲に“正解”はないし、状況に応じてアレンジを変えることで、異なった魅力を表現できるんだよ。アルバム『Falling Deeper』(2011)では過去の曲をオーケストラ・アレンジして、新しい可能性を引き出すことに成功している。次回日本でプレイするときは、また異なったスタイルでやるかも知れないね。その機会が訪れるのを楽しみにしているよ。東京で複数公演やって、異なったセットリストでやったり、大阪や名古屋でもプレイしてみたい。

──日本のオーディエンスに、どんな期待をしていますか?

ヴィンセント・カヴァナー:どうだろうね(笑)。初めてプレイするときは、過剰な期待をしないようにしているんだ。でないと、反応が薄いときにガッカリするだろ?去年、初めてオーストラリアでプレイしたときも、何も期待しなかった。だからすごい声援で迎えられて、嬉しかったね。それで日本公演の後にもう一度行くことにしたんだ。とはいっても、日本でも反応が良ければ、また来ることができるだろうし、期待するなという方が無理だよ!

──今回の初来日公演はアイスランド出身のソルスターフィアとの共演ですが、彼らの音楽は知っていましたか?

ヴィンセント・カヴァナー:うん、何曲かビデオを見たし、パリでライヴを見たこともある。彼らの音楽を表現するとしたら…“宇宙から来たドゥーム・カウボーイ”かな(笑)。彼らはひとつのジャンルに当てはまろうとしていない。それが彼らの素晴らしいところだよ。パリでは少し話して打ち解けたし、日本で一緒にプレイできるのは本当に嬉しいね。

──2015年10月にリヴァプール大聖堂でのライヴ映像作品『ア・ソート・オブ・ホームカミング』をリリースしますが、ロック・バンドでアナセマほど多くの教会・大聖堂でライヴを行ったバンドは珍しいと思います。それぞれの教会・大聖堂のサウンドはどのように異なりますか?

ヴィンセント・カヴァナー:まったく異なるよ。教会・大聖堂はホールやクラブ以上に個別差があるんだ。天井が高かったり壁が遠いと、そのまま音が壁に吸い込まれるし、壁が近いと反響音が返ってくるし…左右の通路にそれぞれ3台ずつスピーカーを設置したり、いろいろ気を遣うよ。うちのクルーはそれだけ有能なんだ。イギリスやヨーロッパの各地でプレイしてきたし、ルーマニアのトランシルヴァニアの山上にある小さな教会でやったこともあるけど、サウンド面でいえば今のところ、リヴァプール大聖堂がベストだね。ウィンチェスター大聖堂も独特の反響音があって良かった。ロンドンのユニオン・チャペルは規模が小さいけど、八角形で、自分たちの音を聞き取りやすかった。『ア・ソート・オブ・ホームカミング』をリヴァプール大聖堂で収録することにしたのは、故郷への“ホームカミング”という意味もあるけど、サウンドが良かったことも大きな理由だった。それに会場のムード、それからライヴそのものの出来も良かった。そのどれかひとつが欠けても、リリースすることはなかっただろう。

──大聖堂ライヴというコンセプトは、どのようにして思いついたのですか?


ヴィンセント・カヴァナー:教会や大聖堂でプレイするというコンセプトは、ある日突然思いついたものではなく、ナチュラルな進化過程だった。最初は俺とダニーの2人だけでクラブでアコースティック・ライヴをやって、それからダニーが単独でギターとループを使ったソロ・ライヴをやってからバンド形式でアコースティックでやるようになって、その後で教会でプレイするようになった。それからより大きな規模の大聖堂ライヴとなって…数年がかりで進化してきたんだ。

──バンド名が“アナセマ=呪詛・禁忌・教会破門”というせいで、教会や大聖堂を使用することができなかったことはありますか?

ヴィンセント・カヴァナー:一度もないね。俺たちは反キリスト教的なイメージで売っているわけじゃないし、万が一問題があっても、アルバムやDVDを聴いてもらえば、すぐに誤解は解けるはずだ。ステージや機材を破壊したりもしないし、ナイス・ピープルだよ(笑)。イギリスだけでなく、ヨーロッパでも問題はなかった。アメリカではまた教会でライヴをやったことがないけど、大丈夫だと信じているよ。

──メタル色の濃い初期から最新作までの楽曲をプレイする“レゾナンス・ツアー”を2015年の春に行いましたが、その感想は?

ヴィンセント・カヴァナー:“レゾナンス・ツアー”は楽しい経験だった。久しぶりに旧メンバーのダーレン(・ホワイト)とダンカン(・パターソン)と一緒に集まって、十代の頃に書いたナンバーをプレイしたんだ。ただ昔の曲をプレイするだけでなく、『エターニティ』(1996)から「エターニティ」組曲を演ったけど、現代風にアレンジした。『ザ・サイレント・エニグマ』(1995)の「サンセット・オブ・エイジ」も、曲の魅力を再発見したよ。この曲と「キングダム」はオリジナルと、オーケストラ・アルバム『Falling Deeper』(2011)のヴァージョンを融合させるスタイルでプレイしたんだ。すごくドラマチックで、映画音楽的なものになった。オールド・ファンの中にはオリジナルのままのアレンジでプレイして欲しいファンもいたかも知れないけど、全体的に素晴らしくポジティヴな反応があったよ。

──“レゾナンス・ツアー”の模様はDVD/ブルーレイ用に収録しなかったのですか?

ヴィンセント・カヴァナー:ああ、ブルガリアの円形劇場でのライヴを『ユニヴァーサル』として発表したし、リヴァプール大聖堂でのライヴも『ア・ソート・オブ・ホームカミング』としてリリースするから、“レゾナンス・ツアー”まで収録するとトゥー・マッチになってしまうだろ?ライヴの出来はすごく良かったし、少し残念ではあったけど、ビジネス的に無理だったんだ。もし今後この形式でショーをやるときは、ライヴ・ストリーミングで流したら面白いかもね。

──現在のアナセマのライヴでは曲によってリー・ダグラスの女声ヴォーカルをフィーチュアしていますが、彼女の歌声はバンドの音楽性にどのような効果をもたらしていますか?


ヴィンセント・カヴァナー:リーの存在は、アナセマにとって日々大きなものになっているよ。バンドが音楽性を広げていくにつれ、俺一人の声質や声域では限界があった。それでドラマーのジョン・ダグラスが妹のリーを紹介してくれたんだ。彼女のヴォーカルは時にパワフルで、時にはかなく幽玄だ。アナセマが進化していくにあたって、彼女の存在は欠くことができないよ。

──『ア・ソート・オブ・ホームカミング』を発表した後にツアーは予定していますか?

ヴィンセント・カヴァナー:うん、11月にマンチェスター大聖堂からツアーをやることが決まっている。アコースティック主体のライヴをやる予定だよ。その後、11月にはフロリダからバハマを回る船上クルーズ・ツアー『クルーズ・トゥ・ジ・エッジ』に参加するんだ。

──『クルーズ・トゥ・ジ・エッジ』はいわゆるプログレッシヴ・ロック・バンドが集結する船上クルーズですが、ライヴを見たいアーティストはいますか?

ヴィンセント・カヴァナー:いや、誰が出演するかも知らないんだ(注:イエス、マリリオン、PFM、アラン・ホールズワースらが出演)。正直、ジャンルとしての“プログレッシヴ・ロック”には興味がない。俺にとって“プログレッシヴ・ロック”は音楽ジャンルではなく、音楽の考え方なんだ。アナセマは常に“プログレッシヴ=先進的”であろうとしている。ビートルズやピンク・フロイド、レディオヘッドが変化を恐れず、ロックの可能性を押し広げたようにね。俺たちは『オルタナティヴ4』(1998)というアルバムを発表したけど、それも当時の音楽ジャンルとしての“オルタナティヴ”とは関係なく、“別選択肢”としてのオルタナティヴを追求した作品だった。

──あなたの友人で『Kスコープ』レーベルの仲間であるスティーヴン・ウィルソンは自らが先進的なアーティストであり、同時にキング・クリムゾンやエマーソン・レイク&パーマー、ジェスロ・タルなど1970年代プログレッシヴ・ロックの作品をリミックスするなど、新旧のバランスを取っていますね。

ヴィンセント・カヴァナー:うん、スティーヴンは素晴らしい才能を持ったミュージシャンだよ。彼とプログレッシヴ・ロックの話はあまりしたことがないな。それよりも昔のブルースについて話すよ。スキップ・ジェイムズやロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズとかね。

──今後アナセマはどんな方向に進んでいくでしょうか?

ヴィンセント・カヴァナー:エレクトリックなロックをやってきて、アコースティックやオーケストラでも納得のいく結果を得ることができた。おそらく論理的な次のステップは、エレクトロニックな要素を強めていくことだろうな。「ディスタント・サテライツ」は1990年代の終わりにコード進行を書いたけど、アルバムに収める準備ができていなかったんだ。それからエレクトロニックな表現を修得することによって、『ディスタント・サテライツ』でようやくレコーディングすることができた。次のアルバムでは、その要素をさらに一歩進めていくことになるだろう。ただ、ロック的な要素は常にあるだろうし、現在のアナセマの音楽を好きなファンだったら、きっと気に入ると思う。既に新曲のアイディアが幾つかあるし、2016年後半には新作を発表できるんじゃないかな。その後はまたワールド・ツアーをやるつもりだし、また日本に戻ってくるのが楽しみだよ。

取材・文 山崎 智之
Photo by Mikio Ariga

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