【インタビュー】黒木渚、快作『自由律』であらゆる定型を破る。「捨てる覚悟をした女としては、後戻りできない」

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自由律とは、短歌や俳句の世界で用いられる用語で、定型にとらわれず感情の自由な律動に任せた歌づくりを指す。黒木渚が1年半ぶりに放つニューアルバム『自由律』は、ポップスとして心地よい言葉やメロディを定型として持ちつつ、実験的なサウンドやアグレッシヴな演奏のパワーでさらに深く強い快感を呼び起こす、極めてエモーショナルな作品だ。すべての楽曲に自由律の精神が生々しく息づいている、黒木渚の新たな世界へようこそ。

●黒木渚 画像

取材・文=宮本英夫

  ◆  ◆  ◆

■みんな、何かに反抗したくてたまらない
■“渚、もっとやれ!”という期待感を感じたんです

▲Album『自由律』初回限定盤A&通常盤
── この印象的なジャケット写真。何か意味がありそうです。

黒木:タイトルに自由という言葉があるのに縛られているという、その絶妙なラインを目指していて。今解き放たれようとしているのか、それとも窮屈に縛られつつあるのか、そういうビジュアルがアンバランスでカッコいいなと思って、デザインチームと話し合いながら作りました。個人的にずっとジャケ写のデザインにはこだわりがあって。「はさみ」(2nd SINGLE/2013年10月発売)ぐらいから特にそれを意識しているんですけど、「はさみ」は素晴らしいジャケットができたなと思っていたので、今回もあのぐらいの引力をもったもの、あれを超えていくものを作ろうと思って、できたんじゃないかなと思います。だいぶ、ビジュアルチームも仕上がってきたんじゃないかな?と。

── スタッフはあの頃から変わってないですか。

黒木:チームは変わってないです。ヘアメイクとスタイリストさんは変わりましたけど、ほぼ同じチームでやっているので、だんだんみんなも私のことがわかっていくし、何が似合うとかもわかっていくから。楽しかったですよ、この王冠を選ぶのも。服装はラフだけど頭には気高い王冠という、何か象徴的なものを乗せようと言って、いろんな種類の王冠を取っかえ引っかえ乗せてみて。金属製の月桂樹でできているキリストみたいなやつとか、“聖闘士星矢”と呼ばれているゴールドのやつとか(笑)。ただそこまで行くと象徴的すぎるので、バランスを見つつ考えました。

── 前の『標本箱』(1st FULL ALBUM/2014年4月発売)のジャケットの時にも、言ってましたよね。何でしたっけ、透明な箱フェチでしたっけ。

黒木:透明なものに仕切られた空間フェチ(笑)。夢が実現したという。

── 今回は、縛られフェチというわけじゃなく?(笑)

黒木:あはは。解き放たれフェチかもしれない(笑)。

── そういう想像も含めて作品ですからね。せっかくCDを買う人のためにも、ビジュアルはものすごく大事だと思います。

黒木:なかなかジャケ買いってしなくなりましたよね。

── ジャケ買い! 懐かしい言葉です(笑)。しないでしょうね、今の人は。

黒木:でもそういう観点から飛び込んでくる人もいてほしいから。ジャケットは大事だと思うんですよね。しかもレコード屋さんとかCDショップに行く人って、音楽をすごく大事にしている人じゃないですか。そういう人に向けて、パッケージごときちんとしたいという気持ちはありますね。

── 黒木渚を聴く人は、特にそうでしょうね。すごく熱を持ってるから。

黒木:9月にミニライブと予約会で全国を廻ったんですけど、そこでシングルの「君が私をダメにする」「虎視眈々と、淡々と」と、アルバムから「大予言」「アーモンド」を歌ったんですけど、そこで思ったことがあって。「大予言」を歌う前に、みんなに言ったんですよ。“予期できない不幸が落ちてきても、一発ぐらいぶん殴り返すぐらいの心意気で生きていってください”って。そうするとやっぱりみんな、大人でもすごい目がキラキラしてきて、みんな何かに反抗したくてたまらないんだな、ということも感じたし。いろんな事情があって反抗できない人たちも、ステージでそういう歌を歌っている私のことを見て、“渚、もっとやれ!”という期待感も感じたんですよね。


── そういう空気はありますよね。もっとやれ的な。

黒木:代わりに言ってくれ的な。なにかしらの反抗精神は、たぶん大人になってもみんなずっとあって。発散できないまま鬱憤としてたまっていて、だから黒木渚を見に来てスカッとするのかな?と。

▲Album『自由律』初回限定盤B
── 特に今回のアルバムは、そういう曲が多いんじゃないですか。「大予言」もそうだし、「虎視眈々と、淡々と」も、「アーモンド」も明日の希望の歌だし。「命がけで欲しいものひとつ」もそう。前向きで攻撃的なメッセージの曲が多い。

黒木:うん、そうですね。「命がけで欲しいものひとつ」は、働く人のための通勤ソングとして作ったんで。仕事に行く時にこういう曲があったら頑張れるんじゃないかな?と。

── あ、そうなんですね。やっぱり。

黒木:電車でサラリーマンの人たちを見ていて、みんなめっちゃ疲れてるなと思ったんですよ。私たちの仕事は定時で会社に行かなくてもいいし、基本的に好きなことをやってるじゃないですか。でもこの人たちは毎日毎日こんなに疲れた顔をして、同じ時間に会社に行って、何のために仕事してるんだろう?って思う時もけっこうあるんじゃないかなと思って。それを何十年も繰り返して生きて行くって、すごいことだと思ったんですよ。この人たちの忍耐力はハンパないなと思って、そのルーティンワークの中で少しでも弾みがつく1曲があればいいのになって、特に電車で聴けたらいいだろうなと思って作った曲です。

── 焚きつけられるタイプの曲が多いのが、前作の『標本箱』とはかなり違うなと。

黒木:強い女とか、率いていく女のイメージというのは、『標本箱』の時にポッと現れたんですけど。

── 「革命」ですね。あれが最初だった。


黒木:そうです。そこが本質だということにかなり気づいたというか、あの時に“私は先頭に立つ”という意識が生まれて、それがすごく自分に向いてるんじゃないか?ということを、その後の1年半ですごく感じるんですよね。向いてるというか、みんながそれを望んで会いに来るのがわかるし、黒木渚が強い女だということに、私自身も頼って生きている感じがするから。この1年半で、黒木渚と向き合って行く中で、「革命」「虎視眈々と、淡々と」「大予言」「命がけで欲しいものひとつ」とか、ああいう武士道精神を持った女みたいなところが、やっぱり自分の本質なんだなと。一番真ん中にそれがドンとあって、そこから派生的に、女である黒木渚とか、弱い黒木渚とかがくっついてる感じがする。


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