「劇場・ホール2016年問題」をご存知だろうか。2016年以降、首都圏域のホールやライブ会場、アリーナ施設など大型集会施設の閉鎖・立替・改修が続々と重なってしまうことで、コンサート会場が壊滅的に不足してしまうことが危惧されるという、現在の首都圏が抱えている問題のことだ。

すでにここ10年で劇場/ホールの閉鎖は相次いでおり、建て替えのための長期閉鎖に入ったホールを含めると累計25000席余が失われているという。新宿厚生年金会館が2010年に閉鎖、九段会館講堂は2011年、横浜BLITZは2013年に、SHIBUYA-AXは2014年に閉鎖しているが、五反田ゆうぽうとは老朽化のため2015年9月に閉鎖してしまった。日本青年館も建て替えのために今年3月に閉鎖しており、2017年の夏まで再開を待つのみだ。渋谷公会堂もすでに閉館しており、建て替え工事は2018年までかかる見込みだ。

そして横浜アリーナは2016年1月から、さいたまスーパーアリーナも2015年から2016年にかけて建て替えのために、稼働ができなくなる。国際フォーラムA、Cも日比谷公会堂も武蔵野市民会館、パルコ劇場も2016年に改装が予定されており、次々と閉鎖されていく予定となっている。それ以降、サントリーホールも神奈川県民ホールも代々木第一体育館もみな改装予定によって閉鎖が続々と続くことになる。

音楽のみならず、演劇・舞踊・演芸・伝統芸能・雅楽にとって、コンサートや舞台芸術の上演場所の確保が難しくなる状況に直面していることに強い危機感を覚え、芸団協をはじめとした各社団法人が結束し、11月5日「劇場・ホール2016年問題」の記者会見が開催された。これは芸能関係者が困るというレベルではなく、日本の経済・観光にも影響が及ぶものとして、現在の危機的状況を訴える記者会見となった。


大規模なアリーナが改修に入ってしまうと、ファンを収容しきれないビッグネームは小さな会場を数日にわたって占拠せざるを得ない状況になる。数千人のホールで活動してきたアーティストはその煽りを受け、小さな会場を複数回使ってのライブに変更、その玉突き現象は最終的に小さなライブハウスにまで影響を及ぼす可能性があると、記者会見に登壇した山口一郎(サカナクション)は警鐘を鳴らした。

「首都圏だけの問題なのだから、コンサートは地方公演を主とすればいいではないか」と思われるところだが、多くの機材&スタッフの移動と宿泊がかさむ地方公演は、首都圏でのコンサートによる売上を核にやっと計画できるというのが実情だ。都心でのコンサートがままらないと地方でもツアーができなくなるという悪循環が発生する。

各会場の改修スケジュールを考慮してもらうこと、現状様々な規制により利用できないホールをエンターテイメント利用できるよう、一時的な規制緩和を検討すべく行政に働きかけるなど、様々な試みと試行錯誤が必要であることも訴えられた。表現の場が失われることで伝統文化そのものが枯渇していってしまう危惧とともに、伝承の機会を失うことと文化財産の損失も懸念される。世界から注目を浴びるようにまで成長した日本文化そのものを自らシュリンクさせてしまうことは、貴い観光資源を失うことでもある。2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックに向け、状況は逼迫しているのだ。

見たくても行きたくても、コンサート自体が行われない。会場・劇場が失われ芸術の鑑賞機会が失われるのは、我々一般市民にとって精神的欠落は計り知れないものだ。もちろん直接的な経済的損失も多額に上ることだろう。芸術創造活動の停滞が広告・放送業界へ与える影響もはかりしれず、軽視できる問題ではないようだ。

エンターテイメント産業に関わる関係者の問題ではなく、全国民にわたる重大な問題としてこの状況を広く周知させるとともに、問題解決の糸口を探っていくことが重要であると思われる。いわばこの問題は、2020年後をも見据えた我が国の文化芸術の基盤をどう再構築するか、ということだ。


「劇場・ホール2016年問題」記者会見
2015年11月5日@芸能花伝舎
~東京五輪に向け、首都圏の劇場・ホールが不足 深刻な事態を回避できるのか~
公益社団法人日本芸能実演家団体協議会[芸団協]
一般社団法人日本音楽制作者連盟
公益社団法人日本オーケストラ連盟
公益社団法人日本劇団協議会
公益社団法人日本バレエ協会
一般社団法人日本バレエ団連盟
公益社団法人日本三曲協会
一般社団法人日本音楽事業者協会
一般社団法人日本クラシック音楽事業協会
一般社団法人コンサートプロモーターズ協会
登壇者(写真左より)
野村萬(能楽師 日本芸能実演家団体協議会会長)
山口一郎(サカナクション)
斎藤友佳理(バレエダンサー・東京バレエ団芸術監督)
川瀬順輔(琴古流尺八演奏家 日本三曲協会会長)
影山ヒロノブ(JAM Project)