【レポート】2015 MEDIA TECHNOLOGY、「サカナクションのステージの中に自分がいる」

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11月12日および13日の2日間、渋谷ヒカリエにて、NHKメディアテクノロジーの放送・メディア業界関係者向け展示会<2015 MEDIA TECHNOLOGY!>が開催された。これは、昨年に創立30周年を迎えたNHKメディアテクノロジーが、最新の8K3Dといった超高精細映像や、医療への3D技術の応用など、さまざまなコンテンツの活用方法を紹介するといった展示内容であり、多数の関係者が来場した。その中でも、目玉コンテンツとして大いに注目されたのが、サカナクションとのコラボレーションにより実現した特別展示<8K×3D×22.2ch立体音響「Aoi -碧- サカナクション」>だ。

◆展示会<2015 MEDIA TECHNOLOGY!> 画像

この作品は、NHKメディアテクノロジーとNHKエンタープライズが共同で手がけ、最新鋭デジタルメディア技術“8K3Dテクノロジー”を用いて制作した、世界初のエンターテインメント・コンテンツ。



“8K”というのは、現時点で高画質と言われるフルハイビジョン映像の16倍という解像度を誇る、次世代スーパーハイビジョン映像のこと。圧倒的な繊細さとリアリティ、立体感を持つ超高画質映像に、さらに“3D”テクノロジーを用いることで、映像の高度な立体化が実現されている。こうした次世代技術に、サカナクションが、2013年度NHKサッカー放送テーマ曲に採用された楽曲「Aoi」を提供。さらには、立体映像として、メンバー自身も作品に出演している。

このスーパーハイビジョンは、音響システムとして22.2ch(22台のスピーカーと、2台のサブ・ウーファー)に対応しており、そのスペックをフルに発揮させるため、気鋭サウンドアーティストevala氏とNHKメディアテクノロジーがタッグを組み、サウンドを22.2chマルチスピーカー・システム用に再構築。これにより、映像、音、すべてにおいて、これまでにない体験を実現した作品を誕生させた。



50人ほどが着席できる特設会場には、正面に8K3Dのプロジェクター映像が投影される250型スクリーンが設置され、前後左右、そして上層部に計22台のスピーカー、そして前方に2台のサブ・ウーファーを配置。この環境で、来場者は3Dグラスを使って約5分の作品を鑑賞した。

その上映が始まり、すぐさま3つのことに、大いに驚いた。まず、実際に作品を観るまでは、ライブ・シーンを実験的に8K3D撮影したものなのかと想像していたが、実写/CGを含め、本作品のために、まったく新規に制作されたコンテンツであったということ。2つ目は、そうした8K3D映像を楽しめるだけでなく、会場では、映像とシンクロしたレーザー照明による演出も加えられていたこと。つまり、ノン・リアルな映像作品と、リアルな演出が融合された、まったく新しい形のエンタテインメント作品であったというわけだ。そして最も驚いたのは、やはり8K3D映像のスゴさであった。

筆者は、従来の3D映像は体験済だったが、さすが8Kだけあり、3Dのリアリティ感が格段に向上していた。その立体感は、目新しいものに対する“面白さ”を遥かに超え、エンタテインメントとして“楽しい”のひと言。気が付けば、無意識に山口一郎(Vo/Gt)の“目”を凝視してしまっていたほど、完全に自分が映像世界の中に入り込み、作品を見入ってしまっていた。これは、初めての体験であり、「目の前にサカナクションがいる」というよりも、「サカナクションのステージの中に自分がいる」という感覚に近い。だからこそ、「1(アーティスト)対多数(観客)」という関係性ではなく、「1(アーティスト)対1(自分)」という体感が得られ、リアルなライブとはまたひと味違った、新たなエンタテインメントの楽しみ方を提示してくれたと言ってよいだろう。そして何よりも、これほどワクワク感を覚えたことが、本当に久しぶりであった。このワクワク感こそがエンタテインメントの本質であり、大いなるチャレンジの末に到達した、本作品の真の成果ではないだろうか。

もちろん、そこには“22.2ch”という立体音響の効果も見逃せない。既存の楽曲を用いた作品、そして特設スペースでの上映ということもあって、いわゆる「爆音で四方八方を音像が飛び回る」というようなサウンド表現ではなかったが、ある程度の音圧感を実現しながらも、耳に違和感や不快感を与えない、自然な音場を作り出していた。つまり、逆説的な言い方にはなるが、「スゴい!」と思わせずに、映像と音の世界に浸らせてくれたことが、立体音響の最大のスゴさと言っていいだろう。



8K×3D×22.2ch立体音響コンテンツを制作するには、現実的に、技術面、環境面、コスト面で、まだまだ解消しなければいけない課題は多々あるだろう。しかし、技術の進化は日進月歩であり、将来的に、本会場のような設備環境を有する施設が、現在の映画館レベルで全国各地、さらには世界中に誕生すれば、アーティストの物理的な移動や活動を伴わなくとも、多くの人に新次元のライブ・エンタテインメントを届けることが可能となる。

さらに同展示会では、3Dグラスなしに肉眼で立体映像を鑑賞できる「Light Field Imaging」という技術も紹介されており、こういった技術がさらに進化・実用化され、それぞれが融合していけば、特別な環境すら必要とせず、自宅で気軽に今回のような作品が楽しめる時代がやってくることも、決して夢ではないだろう。

近年、ライブ・エンタテインメントが盛況であり、ライブ動員数も右肩上がりを続けている。しかしながら、実際にライブに足を運べる人の数は限られており、ライブに行きたくても行けない音楽ファンはたくさんいる。そうした人々にも新しい体験を届けるために、音楽が、そしてエンタテインメントがまだまだ進化していける可能性を、リアルに体感させてくれた作品であった。

なお、<8K Music Clip「Aoi -碧- サカナクション」(注:レーザー照明演出のない、2Dステレオサウンドでの8K映像作品の上映)>や、NHKメディアテクノロジーの最新技術は、11月18日(水)~20日(金)に幕張メッセで開催される<2015年 国際放送機器展(Inter BEE 2015)>にも出展される。

取材・文◎布施雄一郎

■<2015年 国際放送機器展(Inter BEE 2015)>

●11月18日(水) 午前10時~午後5時30分 (※午前10時~午後7時30分) 幕張メッセ
●11月19日(木) 午前10時~午後5時30分 (※午前10時~午後7時30分) 幕張メッセ
●11月20日(金) 午前10時~午後5時 (※午前10時~午後6時30分) 幕張メッセ
※印は「ラインアレイスピーカ体験デモ」実施時間(イベントホール)
入場無料(登録制)

◆サカナクション オフィシャルサイト
◆NHKメディアテクノロジー オフィシャルサイト
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