シンガーソングライター中田裕二が、5作目のオリジナル・アルバム『LIBERTY』を11月25日にリリースした。「ダンディズム」をキーワードにしたその内容からは、前作『BACK TO MELLOW』から中田が強く提唱している“AOR”という素養がさらに濃く感じられるだろう。まるで大人の色気が薫り立つような、ロマンティックかつドラマティックな世界観を持つ楽曲集である。
インタビューの最後に、「ここからは本当に自分らしくやっていける気がしている」と力強い言葉を残した中田は、なぜこのような世界観を楽曲に込めたのか。歌謡曲を愛するがゆえ世相と音楽の関係性に対する鋭い批評眼を持ち合わせながら、自身の音楽観を自由に羽ばたかせる中田裕二の頼もしい現在地について、ライターの西廣智一氏が訊いた。

◆中田裕二 画像

取材・文=西廣智一 撮影=洲脇理恵(MAXPHOTO)

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■『The Covers』や『水曜歌謡祭』にひとりの歌手として出演してみて
■これはいけるなと思えたんです



── 中田さんのソロ作品をずっと聴いてきて、特に昨年(2014年)のカバーアルバム『SONG COMPOSITE』とオリジナルアルバム『BACK TO MELLOW』で何かが変わった印象を強く受けました。ご自身の中で音楽に対する姿勢や表現したいことに変化があったんでしょうか?

中田裕二(以下、中田):カバーアルバムを作ったことでやりたいことがはっきりしましたね。それまでのオリジナル作品では、基本的に演奏やアレンジを自分でやっていたのですが、『SONG COMPOSITE』は“歌い手”に徹するというコンセプトを決めて、アレンジも演奏も全部お任せしたんです。最初は不安だったんですけど、実際にやってみると楽器のことを考えずに歌だけに徹することが非常に楽しくて(笑)。そこで意識がガラッと変わったんですよね。それがその後の『BACK TO MELLOW』につながるんですけど、曲に応じてアレンジの方向性はまったく変えていってもいいというところに慣れてから、すごく肩の荷が下りたというか。やっとシンガーソングライターとしてひとり立ちできたかなという感じですね。

── 単純に歌い手に徹したことが、振り切る大きなきっかけだったと。

中田:そうですね。やっぱりバンドをやっていた人ってボーカルとは名乗っていても、いざ1人になったときにそれがイコール歌手かって言われると、そうでもなくて。僕自身も多少そこでビビってたのかなっていう。でも『The Covers』や『水曜歌謡祭』といったテレビ番組にひとりの歌手として出演してみて、これはいけるなと思えたんです。

── そういう経緯があって今回のアルバム『LIBERTY』が完成したわけですね。今作には「ダンディズム」というキーワードが用意されていますが?

中田:僕はダンディズムを感じるものに囲まれて育ったのもあって、ずっと好きな世界観なんです。昔は寺尾聰さんの「ルビーの指環」だったり、ああいう30代ぐらいの世界観を歌うちょっと大人の音楽というのが多かったですよね。それが90年代に入って、グランジやヴィジュアル系、メロコアとかが流行り始めてから、歌詞の世界がガラッと変わった気がして。「大人ってやっぱりカッコいいよ」ってことを歌ってくれる人が、自分がバンドをやり始めた頃には周りにはほとんどいない状態だったんです。

── 特に最近は背伸びするよりも、ありのままで生きようとする人のほうが多い気がしますし。

中田:それもわかるんですけど、僕は自分が30代なら、30代でしかできない表現で音楽を作って、しっかり聴き手に届けたくて。歳を取っていくことがポジティブに捉えられるような表現をしていかなきゃなっていう意識が、だんだんはっきりとしてきてますね。

── 先ほど「ルビーの指環」の話題が出ましたが、昭和の歌謡曲ってすごく大人目線の歌詞ばかりなんですよね。今聴くとすごくカッコいいなと思える歌詞がたくさんあって、子供の頃は意味もわからずによく口ずさんでたなって。

中田:それこそ「ルビーの指環」なんてまさにそうですよね、「くもり硝子の向うは風の街」って。でもそこにダンディズムを感じるんですよ。この1行目でいきなり「カッコいいな、大人って」と思わせちゃう。実際、あの当時の子供たちは大人への憧れが今よりも全然あったと思うんです。でも今は景気も良くないし夢も希望も持ちづらい、「大人になる=(イコール)ただ老けていくだけ」みたいな(笑)。大人が諦めちゃってる感じが子供に伝わってるのが本当にダメだなと。昔の歌謡曲には夢がありますよね。大人になったらそんなにいい女と、そんなことができるのか!って。いまだに思ってますもん(笑)。

── と同時に、すごく歌詞の世界を絵としてイメージしやすいというか。そういう意味ではこのアルバムって、ショートムービーを集めたオムニバス映画みたいな作品なのかなと思いました。

▲アルバム『LIBERTY』初回限定盤

中田:嬉しいですね。でも、その浮かんでくる絵は聴いた人によってまったく違うと思います。やっぱり歌詞にしてもサウンドにしても、自分も絵として見えてくる音楽が好きで、特にAORってその力がすごく強い気がしていて。聴いてると摩天楼が浮かんできますもん(笑)。曲の世界に浸ってる間は日常を忘れさせてくれると。そこがしっかりしてないとダメだというのは自分の中には強くあります。

──80年代から脈々と受け継がれる大人のサウンド、大人っぽい歌詞という点においてはORIGINAL LOVE以降そういうアーティストが減ってますよね。

中田:そうですね。やっぱり「接吻 kiss」は金字塔ですよね。表現してる世界もただ難しいだけじゃなくて聴き手の年齢層を問わない。それでいて夢もしっかりとあって。すべてを兼ね備えた名曲です。やっぱりあの曲は自分にとって指針のひとつですね。

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