【インタビュー】『コウノドリ』で脚光を浴びる清塚信也、「音楽もTVも、今の人はどこかで疑いの目を持ってる」

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■笑いも、ちゃんと勉強したいなと思ってます



── ここに入っている、ドラマのテーマソングや劇伴は、そういう気持ちで作っている。

清塚:そうです。僕、芝居や映画がめちゃくちゃ大好きで、芝居や映画に関わるぞということを、中学を卒業する頃には決めてました。それで今、関わることができるようになって、僕なりに映画音楽に対しての思いがあって。映画音楽を作る音楽監督の究極の仕事は“音楽をどれだけなくしていくか”だと思うんですね。

── というと?

清塚:表現者としては、自分の曲をどんどん使って飾っていきたい気持ちがありますけど、映画を良くするためにはそうじゃない。映画の主役は芝居なんです。芝居ですべてが成立してないと、映画としては駄目だと思うんです。だから芝居をする役者と演出する監督の間で全部成り立っているのが本当なんですけど、それでもやっぱり、見ている人には感じられない何かが現場にはある。それを補うのが音楽だと思うんです。たとえば実際には流れてこないそよ風を感じさせるのが音楽。自然現象の一つですね。裏で弾いてる人がいるという存在感を、絶対に出しちゃいけない。添える程度で、「あれ、この映画に音楽あったかな」というぐらいが一番いい仕事だと思います。

── なるほど。

清塚:クリント・イーストウッドさんの映画がそうなんです。彼は自分でピアノを弾くんだけど、本当に簡単な、オルゴールが鳴ってるみたいなメロディを、節目にちょっと入れる。それ以上は使わない。タルコフスキーもそうです。あれは究極だと思いますね。正直、音楽を入れたほうが簡単なんですよ。映像を作るには。「泣くところですよ、さぁどうぞ」ってできるから。ただ、自分でお金を払って観に行く映画と違って、TVドラマは言わば通りすがりの人が観ているので、そういう人たちを引きつけるには、よりわかりやすい表現をしないと立ち止まってくれない。だから音楽の使い方も少し違うんですけど、基本的には僕は芝居至上主義なので、「音楽があったかな」と思わせるのが一番いいと思いますね。

▲清塚信也オフィシャルTwitterより

── 時に、『コウノドリ』は大変評判が良くて。

清塚:おかげさまで。

── ドラマも音楽も、両方とても評判が良いです。

清塚:あ、音楽もいいですか?

── もちろん(笑)。

清塚:肝心のそういう情報が、僕のところにあんまり入って来ないんですよ(笑)。

── 俳優業についても、実はもともとやりたかったことだと聞きました。なんなら、ピアニストよりも。

清塚:そうなんですよ。芝居は、一番と言ってもいいほどやりたいことだったので。僕は表現がしたいと思っていて、そのためのアイテムはなんでもいいんです。それで中学校を卒業する頃には、ピアニスト、作曲家、俳優の三つを、人生で必ず成就させてやると決めてました。だけど5歳からピアノをやっていたので、一つの芸事をマスターすることがどれだけ大変か、もうその時点で知ってたんですよ。三つを同時にやったら絶対に浅く終わるぞと思って、一つずつやろうと思って、まずはピアノをいいところまでやって、その次にあらためてほかの二つもちゃんとやるぞと。でもいきなりはできないから、トレーニングしなきゃと思って、実は人知れずやってたんです。作曲もしてたし、芝居も、俳優さんのワークショップに行ったりしてたし。だから今になっていきなり俳優をやって「すごいね」とか言われるんですけど、僕としては虎視眈々とやりたかったことなので、いきなりという感覚はないです。「ようやく」という感じのほうが近いです。

── ようやく全部出せる時期に入って来た。

清塚:はい。あとは笑いのほうも、ちゃんと勉強したいなと思いますね。

── そっちも行きますか。どんだけ貪欲ですか(笑)。

清塚:中途半端に笑わせるだけじゃなくて、芸人さんにも一目置かれる笑いのメソッドをあいつは持ってるぞって言われるように将来ならないと、MCをずっとやっていく資格はないと思うんです。人前でしゃべる以上、ショーの中で、プロとしてやっていかないと。宴会芸では絶対駄目。だからちゃんと真剣に取り組んでますけど、今後もっともっとやらなきゃなと思ってます。バラエティ番組に出ると痛感するんですよね。今のところ、一番太刀打ちできない分野なので。

── ある意味、自分でものすごいハードル上げてますけど(笑)。それを楽しんでますか。

清塚:楽しいです。自分は表現をするプロだと思ってるんで、そこははっきり分けていきたいですね。「これがプロだぞ」と。最近は、生でものを見ない習慣性が強いですよね。ストリーミングの時代で、自宅で一人で観るとか、通勤通学の途中に手元で操作するとか。それが今の時代ですけど、僕はすごくいい文化だと思うんですよ。でもそれと共に、生でものを観ることに距離ができてしまった。だからこそ──これは僕の勝手な憶測ですけど、今の人はどこかで、疑いの目を持ってる気がするんです。音楽にしてもTVにしても、「これは作られたものじゃないか」「加工されたものじゃないか」と。食品もそうですよね。真実を伝えるニュースでさえ、捏造されてるんじゃないか?と思ってしまう人は、昔よりもずっと多い気がする。音楽に対してもそうで、全然歌えもしない歌手がうまくパッケージされて売られちゃうとか、口パク問題とか。そうやってみんなの疑いの度合いが増していくと、原点回帰というか、「本当に弾ける人は誰なんだ?」ということになってくる。そうした時に、インスト奏者はめちゃくちゃ強いと思うんですよ。

── はい。なるほど。

清塚:インストにはヘタウマがないんです。歌はヘタウマがある。アイドルさんで、音程外れてるけど可愛い、みたいな。あれはたたずまいですからね。でも楽器にはヘタウマは絶対ない。ミスはミスなんです。うまくないと、美しくないと、そもそも成立しない。だから僕の仲間のインスト奏者も、プロになる人は、どこに出て行ってもあっと驚かせられるんですよ。そういう意味で、技術の職人なんです。だからこういう社会になったからこそ、生で見るコンサートの価値はもっと跳ね上がると思うんですよね。その時に僕は、「無添加」と言ってるんですけど、マイクも照明もスタッフもいらない、身一つとピアノさえあればコンサートができるんです。誰も何も加工していない、無添加コンサート。派手な演出も大好きだし、やりたいけど、あえてやらない。“自分”だけ。ある意味原始的で、これからの時代にはすごく合ってる。僕はそれを大事にしていきたいと思います。

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◎清塚信也コメント動画
アルバムについて、そして自身の表現活動について幅広く語ってくれた清塚信也氏。さらにBARKS読者に向けて、ドラマ『コウノドリ』メインテーマ曲である「Baby, God Bless You」の演奏模様とスペシャルメッセージ映像が届きました!

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アルバム『あなたのためのサウンドトラック』

2015年11月4日発売
COCQ-85272 ¥3,000+税

M1.ポプラの秋 ~Piano Version ~ 映画『ポプラの秋』メインテーマ
M2.日々
M3.恋 ~山口県下松市市制施行75 周年記念 映画『恋』メインテーマ
M4.悲しみのとき ~山口県下松市市制施行75 周年記念 映画『恋』より
M5.遠い約束 ~TBS 系ドラマ「遠い約束~星になったこどもたち~」メインテーマ
M6.星になった想い ~TBS 系ドラマ「遠い約束~星になったこどもたち~」より
M7.なぐさめるということ ~連作ショートフィルム「Life works」vol.3『なぐさめるということ』より
M8.二人の音
M9.Close to you ~セナのピアノⅠ ~フジテレビドラマ系「ロングバケーション」より
M10.ピアノ・マン (ビリー・ジョエル)
M11.Calling To The Night ~「METAL GEAR SOLID PORTABLE OPS」より
M12.Minor Heart ~TBS 系 金曜ドラマ「コウノドリ」より
M13.Baby, God Bless You ~TBS 系 金曜ドラマ「コウノドリ」メインテーマ
M14.Brightness ~TBS 系 金曜ドラマ「コウノドリ」より
M15.もしもピアノが弾けたなら
[収録:2015年8月11日、12日 横浜市栄区民文化センター リリス]

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