【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.19「パリの‘のだめちゃん'と再会」

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ある人と再会するために、久しぶりに代官山へ。マネージャー時代のオフィスが中目黒にあったこともあり、その付近の土地勘を試すように当時よく使っていた抜け道を使って車を走らせました。

記憶とは曖昧なもので「あ、こっちだった」が数回あったものの、目に映る懐かしい風景を愛でながら、あの頃はちょっとした渋滞にもイラついていたなあとか、この店で夜中にピザをよく食べたなあとか、あの店で先輩に泣かされたなあとしばしのノスタルジー・タイムを過ごしながら代官山に無事到着。

待ち合わせ場所はChanoma。小上がりのある赤ちゃん連れに優しいカフェです。店に入ると、私の‘のだめちゃん'が笑顔で手を振ってくれました。

遡ること8年前。イギリス留学最後の3か月間、留学期間中に出逢ったヨーロッパ周辺に住む友人たちに帰国前に会いに行くぞツアーを一人開催していた私は、芸術の都パリにももちろん足を運びました。

それは2度目のパリ訪問で、滞在した2週間はロンドン仲間の台湾人メロディーとその彼氏(現旦那様)の住むアパートに滞在させてもらい、気の向くまま、毎日美術館通いをしていました。

美術館巡りの途中に休憩がてら立ち寄ったコンコルド広場で、あたりを一望できるベンチに腰をかけ、美しい景色を贅沢に見渡しながら、幼少期にヨーロッパへの羨望を抱くきっかけにもなった作品の一つ、ベルばらに思いを馳せ、「ああ、私ったら、今、あのコンコルド広場にいるんじゃない!」と静かに興奮しておりました。


必死に働き、貯金し、念願だったイギリス留学を間も無く終え、帰国する前に世界各地にできた友に会うためにパリにいる私。いやん、私ったらかっこいいじゃない! と、なぜか留学先だったロンドンではなくパリで、そうしみじみ思ったのでした。普段、そんなナルシシズムは持ち合わせておりませんので、それもこれも、すべてはパリの美しさが尊大な気持ちにさせてくれたのでしょうね。

話はコンコルド広場に戻りまして、そんなかっこいい自分を写真におさめなきゃと、シャッターを切ってくれそうな人を探し始めました。当時、写真を頼むとそのまんまカメラを持逃げされて盗まれたという災難に遭った人の話を耳にしてからは、誰かにカメラを預けて写真を撮ってもらう場合にはアジア人観光客を探すことにしていました。チラチラ周囲を見てみると運良くアジア人ぽい若い女性が一人、ベンチで本を読んでいるのを発見!

何人か分からないので英語で写真を撮ってもらえませんかとお願いしたら、笑顔で対応してくれ、私も撮ってもらえませんか? という逆質問を受けて、もちろんですと応対したその人。それがめぐみさんとの出逢いでした。


写真を撮り合った後にお互いが日本人であると判り、夕日に輝くパリに溶け込んで小一時間ほど夢中でおしゃべりを楽しんだ私たち。話を聞けば、めぐみさんはパリで音楽留学をされている学生さんで、翌日はモンサンミッシェルへ向かうというので、ちょうど数日前に行ったばかりだった私は「オムレツは高いだけで美味しくない」などの無駄情報をたくさんお伝えしたような気がします。

その後、メールで数回やりとりしたものの、会うことはありませんでしたが、当時流行っていた漫画のキャラクターに重ねて、めぐみさんは私の心の‘のだめちゃん'になりました。

のだめちゃんと再会できたのは、このコラム記事に使用できそうなパリで撮影した写真を選んでいた時に、8年前のあの日にめぐみさんが撮ってくれた、唯一一人で映っている自分の写真を見つけて「あ! めぐみさん、今もパリかな。大丈夫かしら」と思いメール連絡をしたところ、お返事をもらえたことがきっかけでした。すでに帰国されていて、再会しましょう! ということになり、パリではなく東京で8年ぶりに会うことができたのでした。

めぐみさんは現在、ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉の楽団員で、クラリネット奏者としてご活躍中とのこと。私の‘パリの、のだめちゃん'は、‘千葉の、のだめちゃん'になっていました。うーん、素敵!

そして、素敵なフランス人の殿方とご結婚もされたと聞き、ちょっとした国際結婚談義もしたりして、あっという間に時間が経ってしまいました。来春、さらなる再会の約束もしましたが、彼女が日本にいる間に、彼女の奏でるクラリネットの音色を聴きに演奏会へ訪れたいです。

ロック一辺倒な私も、イギリスに住んでいた頃は学生身分を利用して安価なチケットが購入できたので、ちょくちょくクラッシックを聴きに行っていました。難しいことは分かりませんが音の渦に身を浸す心地良さを知ってしまい、暇さえあればどこかでコンサートがやっていないかと病みつきになっていました。

あの聴覚を刺激される感覚はクラッシック独特の魅力だと思うので、折りに触れて聴きに行きたいと思ってはいるものの、幼児がいることに加え、お安くはないのでなかなか気軽には行けない世界だとめぐみさんにお話ししたところ、赤ちゃんを同伴できる演奏会も多く開催されているということを教えてもらいました。そんな素敵な音育の機会があるとは!

留学、そして旅行から得られる一番素晴らしい出来事は新たな出会いであると信じる私は、長年のブランクがあっても、こうしてまた再会できるという人間力、生命力の凄さにじんわりと感動し、心を温めてもらえたのでした。生きて、繋がっていられるって素晴らしいですね。

ありがとう、コンコルド広場。ありがとう、めぐみさん。ありがとう、音楽、そしてパリ!

◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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