【ライヴレポート】<Tokyo Chaos 2015>、全12時間全14組の“新たな可能性”

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2007年にスタートしたヴィジュアル系シーン最大級の年越しイベント<Over The Edge>。毎年渋谷公会堂で開催されていたこのイベントだが、会場の取り壊しに伴い2015年から代々木競技場・第二体育館で開催されることに。新たに名称も<Tokyo Chaos>と変更されての記念すべき第1回公演が、2015年12月31日に行われた。今回の出演バンドは全14組+4つのセッションで、そのうち初出演が5バンドもいたのが最大の特徴。常連組と新規参入組が鎬を削りながらも融和し合い、共にシーンの未来を広げんとする“新たな可能性”の見える12時間となった。

◆<Tokyo Chaos 2015> 画像

まず、ゆっくりとステージ中央に進み出たネロ(Dr)が“全身全霊”と書かれたタオルを広げ、「トップバッターMERRYです。全身全霊よろしくお願いします!」と幕開けを飾ったMERRYは、全員黒のスーツ姿。デジタリックなSEからそのまま「ジャパニーズモダニスト」へと繋ぎ、「聞こえるか、俺の声が!」とガラ(Vo)の声が轟くと、早くも結生&健一のギター隊が左右の花道へダッシュする。「今年から始まったイベント、トップバッターはMERRYです。MERRYがこのイベントの歴史作るぞ!」というガラの頼もしい言葉も、続いて沸き起こる“絶望! 絶望!”の大合唱も、<Over The Edge>の頃からこの年越しイベントを中核で担ってきた彼らならでは。さらに、ガラが客席に向かって柄杓で水をまき散らすパフォーマンスといい、「千代田線デモクラシー」が醸す昭和歌謡風のレトロでエキセントリックな旋律といい、MERRY節満点の奇天烈なステージングで一気に会場を温める手腕はさすがだ。だからこそ「良いお年を。来年も良い年でありますように」と最後に贈られた最新シングル「Happy life」のストレートなメッセージが際立つというもの。“目の前の人達を幸せにしたいだけ”という歌は、現在、テツ(B)がリハビリ中という苦難に見舞われながらも、活動を続けてきた彼らが辿り着いた真理なのだろう。来年2月7日には、ネロいわく「5人での完全復活を目指す」という六本木EX THEATERでのワンマンも開催。完全体のMERRYに出会える日が待ち遠しい。

二番手は<Over The Edge>出演経験のないDEZERT。結成も2011年ということで、本イベントでは最も新参者と言えるが、そのステージはまさしく“カオス”そのものだった。真っ赤なライトに染められた舞台で、心の汚泥を吐き出すように千秋(Vo)が歌声をぶつける「「擬死」」から、12月に加入したばかりのMiyako(G)がハードなプレイを炸裂させる「「絶蘭」」、そして超高速ビートにオーディエンスが頭を振りたくる「「殺意」」と、一貫してダークで観る者に対する媚びなど微塵も無いステージを展開。SaZ(B)のスラップからスタートした「肋骨少女」では、血糊のついたシャツ姿で花道に進み出る千秋の不気味なオーラにゾッとさせられる。加えてSORA(Dr)に水をぶっかけて「生きてるか!? 生きてるなら、死ぬよな!? いつか」と強烈な煽りをカマすや、遂にはステージから降りて、バックヤードに帰りかける始末。しかし、ラストはアルペジオから始まるメロディックな「ghost」で“生”への希望を提示して大きな拍手を浴びたあたりに、底知れぬポテンシャルを感じさせられた。

そして漆黒の空気を、DaizyStripperが「ダンデライオン」でカラフルに塗り替える。お馴染みの旋律は爽やかなれど、しかし、そのパフォーマンスは予想以上にロックなもの。夕霧(Vo)は「今年一番デカい声を!」と叫び、曲終わりにはメンバー全員が激しくヘッドバンギングを披露する。続いて「新規も古株も老いも若きも男も女も俺たちの時間は関係ないからな! やれる奴は頭ふっ飛ばしてこい!」と放った「ARREST」は、1年間活動休止していたまゆ(G)復活後の第一弾として2015年頭、バンドへの強い決意を籠めて発表された曲だけに、その爆発力は絶大。再来年で10周年を迎えること、それを支えてくれるオーディエンスへの感謝を述べた後、「今年を象徴するこの曲を」と贈られた「DEAR MY SIRIUS」で天高く伸びる夕霧の歌声は、その感謝を何より明確に訴えていた。さらに「10周年目を一番盛り上げるために、来年の9周年はいろんな種を蒔いていこうと思う。俺たちがすげぇ楽しませるからさ! 来年も俺たちの側にいてくれるか? お前たちがいなかったら輝けねぇんだよ!」と、10年を見据えて作られた代表曲「decade」へ。お立ち台でギターソロを重ね、ガッツポーズを交わし合うギター隊に思わず胸が熱くなるが、勢いあまったなお(G)がステージで転倒するあたりが彼ららしく、微笑ましい(笑)。去り際には「絶対に自分らしさを忘れずに進んでいきます。みんなも、自分らしさを忘れない1年になりますように。胸張って生きろよ!」と言い残す夕霧の姿が。その真摯すぎるメッセージに、彼らの根源にある強さを見た気がした。

本イベント初参加となるjealkbは、まず「初めてjealkb観る人!?」と客席にアンケート。結果、大半が手を挙げたのを観て「超アウェイです! jealkbの楽しみ方、ちょっとレクチャーさせてください。そのために1曲削ってます!」と、コントのようなノリ方説明で爆笑の渦に巻き込むのは、テレビでもお馴染みのhaderu(Vo)がフロントマンを務めるだけはある。その甲斐あってか、1曲目の「OKK-17」からダンス担当のhidekiの動きに合わせて、場内は沸騰。「全員が回らないと気まずいから……」と、またしてもフリの説明を挟んだ「Packya Ma Lad」では、皆ツイストしながら回転し、「虚無感狂想曲」ではNSGF(生絞りグレープフルーツサワー)なる技も飛び出して、会場中に恥ずかしそうな笑顔が広がる。「お前ら、音楽ふざけてんだろ!?って、よく言われるけど、もうバンドやめようかと思ってたときに“続けたほうがいいよ”って言ってくれたのはMUCCの達ちゃんで。あれは……5年前ですか。5年経って、やっと呼んでもらえました」と貴重な裏話も交えつつ、彼らだけが提供できるエンターテイメントで会場の空気をすっかり自分たちのものに。「最後の曲です」とhaderuが告げると「えーっ!」という声が上がるほど、オーディエンスの心を掴んでしまった。

ここで手拍子に迎えられてステージに現れたheidi.は、<Over The Edge>初回からの皆勤賞。幕開けの「ブレイズ」は2015年4月発売の最新シングル「恋愛リマインド」収録曲で、決してオーディエンスに馴染みがある曲というわけではない。にもかかわらず、heidi.らしい郷愁あふれるメロディとタイトなプレイ、そして手慣れた煽りで客席を自然に揺らすのは“さすが”の一言だ。「皆勤賞、嬉しく思っております」という義彦(Vo)の言葉で拍手を招くと、闇と光を併せ持つ「ビューティフルサイコ」、一斉にタオルが振られる「幻想囃子」と続けて、バラエティ豊かに充実したバンド力を如何なく発揮。「狂騒アルティメット」では、クリアとデスを取り混ぜた義彦のヴォーカルで拳とモッシュの嵐を巻き起こし、“聴かせる”ことに定評のあった彼らも、こんなに逞しさを備えたのかと驚かせる。ラストはもちろん毎年恒例の「おまえさん」。ナオ(G)とコースケ(B)が花道に飛び出し、大サビでブレイクすると「じゃ、今年最後、感謝を籠めた5文字を言いますんで、そのあとは適当に盛り上がってください」と、義彦が素晴らしい美声で“おまえさ~ん!”と突き上げ、フロアはまさしくカオスの渦に。10周年を迎える2016年は、結成日の6月3日に赤坂BLITZでワンマンも予定している。いついかなる時も、変わらぬheidi.であり続ける彼らが培ってきた10年の集大成に期待したい。

妖しいムードを掻き立てるSEから幕が開き、全員黒スーツを基調としたフォーマルスタイルのseekセッションが奏で始めたフレーズにどよめく場内。それがPIERROTの「Adolf」と気づくや、その往時を知るオーディエンスが腕を構えて、暁(Vo/アルルカン)と共に拳を打ちつけるお馴染みのフリを。2006年の解散以来、2014年に2夜限りの電撃的な復活ライブを行ったカリスマバンドの代表曲に会場は沸き返るが、特筆すべきは一樹(G/BugLug)、華遊(G/ex.ν[NEU])、seek(B/Mix Speaker's,Inc.)、宏崇(Ds/R指定)といったメンバーの完コピぶりだ。中でも一樹によるギターソロは、王子キャラらしい佇まいを崩さないながらも出色の再現率であった。さらに「蜘蛛の意図」では、「代々木、もっともっと狂っちまえ!」「キ●ガイども! 頭振れ!」と、暁が本家さながらに煽って、かつてPIERROTと同事務所の後輩であったseekも花道を下手から上手へとダッシュ。それぞれのリスペクトが垣間見えるこのイベントならではの貴重なパフォーマンスに、客席も頭を振りサビを歌って、連綿と続いてきたシーンの歴史を巻き戻してみせた。

そして真っ白な光の中に、一連のイベント初参加のBAROQUEが姿を現すと、クリアなギターフレーズから「PLANETARY LIGHT」の眩い情景が広がってゆく。怜(Vo)と圭(G)が花道を使って大きく左右に展開し、伸びやかな怜の声を含めてひとつひとつの音が煌めく「DREAMSCAPE」で本舞台に戻った二人が向き合う様は、まさしく夢のよう。かどしゅんたろう(Dr)に、本イベント出演者の中で唯一の女性であるTOKIE(B)という強力なサポート陣をリズム隊に迎え、多彩で繊細な同期音も交えた彼らのサウンドには、ロックだとかバンドだとかいう領域を超えた神聖さがある。「この会場広いけど、みんなの顔、よく見えてますよ。楽しんでいこう、いいかい!」と自然体なMCに続く「SKY WALKER」で、まるで宇宙に漂っているかのような浮遊感を。太いドラムビートが心臓の鼓動のように響く「CELEBRATE」で生きとし生けるものへの祝福をたっぷりと届けると、満場の拍手が。「締めくくりは新曲で終わりたいんで」と最後に披露した“12月25日のワンマンで一度しか演奏していない”という「GIRL」も、ダンスビートの中で圭のギターが高らかに駆け上がり、怜が確かな生命の息吹をもたらして胸を熱くさせる名曲だった。2016年3月にはワンマンツアーも開催されるとのこと。温かな光に満ちた世界が、きっと其処にはあるはずだ。

MUCCのヴォーカルである逹瑯のセッションを前に、熱気が高まる場内。遂にケンゾ(Dr/BVCCI HAYNES/GREMLINS)がパワフルにドラムを一閃し、逹瑯が「LASTICA!」とタイトルコールをするや、大歓声が沸きあがる。それもそのはず、メンバーが発表されたときから、これが逹瑯率いる伝説のセッションバンド“カラス”の数年ぶりのステージとなることは決まっていたも同然であり、その予想が的中することを多くのオーディエンスが待ち望んでいたのだから。カラスの1stシングル「LASTICA」を黒づくめで歌い上げる逹瑯はMUCCとはまた違った厳めしさを漂わせ、凶悪なDunch(B/jealkb)のベースを背に悠々と花道を進むヒロト(G/A9)と美月(G/Sadie)も貫禄たっぷりに客席を煽る。数年の時の積み重ねは、確かに彼らを成長させているのだ。「Mr.Shadow」をハードに決め、「何年ぶりでしょうか? 何年もカラスが動かなかった間に、母体のバンドがバタバタしているメンバーもいますが、カラスは永遠に不滅です!」と奏でた2ndシングル「free」は、どこまでもポップに飛翔。ヒロトがライトハンドでソロをきめ、双子のような出で立ちの美月(似通ったのは全くの偶然とのこと)と共に逹瑯を挟む光景には、“また見たい”と思わせる華があった。

「アルルカンです。よろしくお願いします」という礼儀正しい挨拶を裏切って、初っ端から全速力でブッ飛ばしたのが、去年に続き二度目の出演になるアルルカン。アグレッシヴなサウンドとメロディックな歌、そして自虐的なリリックがインパクト大な「ジレンマ」で幕開けると、暁のデスヴォイスが炸裂してヘッドバンギングの嵐から美メロへと急転直下し、奈緒(G)のギターソロが咽び泣く「墓穴」へ。目まぐるしい展開と、食い合わせの悪そうな要素を無理やり束ねる強引さは、きっと彼らの武器でもあるのだろう。「誰も……誰もわかってくれない」と暁が震える「「私」と“理解”」に到ると、場内は一斉に体を揺らして拳を振り上げ、まるでワンマンのような一体感を創出。轟音極まる「像」で観る者の思考を奪いながら、暁は「今日は先輩たちのお客さんを貰いに来ました!」と幕開けとは打って変わった肉食ぶりを垣間見せ、舞台を降りてアリーナを走り回るのだから侮れない。「初めまして! 僕たち、ダメ人間!」と鳴らされた「ダメ人間」では拳の海が生まれ、人々が一斉にステージを礼拝するようなフリをする光景は、まるで何かの宗教儀式のよう。2013年の結成から2016年で未だ3年目。いわゆる“勢いのある若手バンド”とは、まさに彼らのような存在を言うのだろうと、空恐ろしくなるステージだった。

長丁場にわたるイベントも折り返し地点を迎え、後半戦の一番手として日章旗をはためかせて入場してきたR指定の背後には、“青春の闇”という巨大な垂れ幕が。現在敢行中のワンマンツアータイトルであるが、この日の彼らのステージもまた、その言葉と絶妙にマッチするものだった。マーチのリズムに哀愁香る「帝都に死す」、対照的に躍動感たっぷりにデスヴォイスと拳が突き上がる「喪失-soushitsu-」と、曲調は違えど彼らが奏でる曲には常に若き日にしか浸ることのできない闇の気配がある。楽器隊がプレイしながらも激しく身体を振る「晩秋」、瞬くライトとヘヴィネスの中で宏崇がドラムスティックを回す「MELT DOWN」と、楽曲のエモーションを身体でも表現する彼らに、オーディエンスもヒートアップ。ヘヴィネスからポップへの転換がエキセントリックすぎる「THE廃人間」がラストに放たれると、「踊ろうか!」というマモ(Vo)の号令に従って客席は大きく揺れ、繰り返される「友達が居ないから!」のフレーズに心が粟立つ。去り際に「良いお年を!」とマイクをゴトリと落とすまで、ほぼノーMCで貫き通した剛毅なパフォーマンスには、彼らの揺るがぬ信念が表れていた。

勢い十分のアクトが続いたところで、本日最高の“重鎮”が此処に登場。<Over The Edge>にさまざまな形で出演してきたギタリストaie(deadman/the studs)によるセッションは、YUKIYA(G/D≒SIRE/JILS/Kαin)、kazu(B/ex.蜉蝣)、Sakura(Dr/ZIGZO/Rayflower)、そして名古屋系のカリスマとして1990年代に活躍し、2004年に解散したMerry Go RoundのヴォーカリストKazumaを迎えたものだ。ほぼシルエットしか見えない赤暗いステージの上で彼が一礼し、ハイハットの音から静かに始まった「桜の満開の木の下で」は、なんとMerry Go Roundの楽曲。舞台に寝転んで歌うKazumaは、続いてaieと共に現在活動しているユニットhighfashionparalyzeの「箍を外す場合、穴に群れる具合」でも客席に向かって身体をのけぞらせ、容赦なくシャウトを放つ。が、それがキャリア豊富な楽器隊のエモーションを抑えた動きと、抑揚に乏しく淡々とした旋律と重なり合ったときに生まれる不気味さは、あまりにも異質。結果、オーディエンスは立ち尽くすほかなく、同じくhighfashionparalyzeの「脳内に」で妖しくループするフレーズと、ドラムフィルの中に蹲るKazumaが纏う特異なオーラに、ただ拍手を贈るほかないのだ。

さらに重鎮は続く。ここ数年<Over The Edge>にJILSやKαin、はたまたソロ名義で出演してきたYUKIYAが、なんと今年は1998年に解散した人気バンドD≒SIREとして登場。しかもYUKIYA、聖詩-KIYOSHI-(G)、TETSU(Key/ENDLESS)のオリジナルメンバーに加え、ドラムにShinya(DIR EN GREY)、ベースに明希(SID)、ギターに圭(BAROQUE))という豪華メンバーを迎えた布陣になるのだから、見逃すわけにはいかない。YUKIYAのモノローグが影アナで流れ、「DREAMS BURN DOWN」が幕開けを飾ると、「人工楽園」では圭と明希が左右の花道に飛び出すというレアすぎる光景が表れて、なぜ視界は180度ないのかと歯噛みすることしきり。そんな希少具合はサウンド面でも同じだった。「17年ぶりになる曲ばっかりなんでね、誰も知らないと思うから適当に楽しんでください。一夜限りです。楽しんでいこうぜ」と演奏された曲たちは、JILSともKαinとも明らかに違う1990年代のヴィジュアルサウンド。当時を知る人間は懐かしさに、そうでない人間は斬新さに胸掴まれたに違いない。「JESUS?」「KISS」と切り刻むような鋭さとスピード感を備えた楽曲をShinyaは高速ビートで叩き出し、一転、「17年経ってから一度も歌ってなかった曲……一番最初に出したシングルの歌を歌います」と前置いた「静夢」では爽やかさを。「夢がいつか冷めるように、バンドもいつか終わるじゃない? このD≒SIREが解散するのかなと思ったときの歌を」と贈られた「追憶」では、感傷を届ける。最後にYUKIYAが呟いた「ありがとうね。良い夢でした」という言葉には、再会の喜びと切なさが入り混じって、胸に迫った。

ここで休憩を挟んでの1バンド目は、DIR EN GREYのギタリストDieのソロプロジェクトとして2015年に始動したDECAYS。MOON CHILDの樫山圭をドラマーに擁し、THE NOVEMBERSの小林祐介と共にDieがツインギター&ヴォーカルを務めるという斬新な構成の6人組だ。しかし、何より驚きなのは「esthetics of the transgression」「Secret mode」と、初っ端からエレクトロな4つ打ちビートにバンドサウンドが融合する楽曲のミクスチャーぶりに、その上で重なるツインヴォーカルの予想外に美しいハーモニー。そして、公式のパート表記が“☆”である謎の人物チドニーが鍵盤の前で踊るパフォーマンスだ。チドニーがクラップを先導し、「DECAYSです。トバしていこうか?」とDieが静かに語りかけての「愛と哀を遺さず…」では、小林のクリーンヴォイスに歪んだ歌声を挟み込んで、ヴォーカル二人体制の強みを存分に発揮。また、ラストの「ラナ ~from Future Boy~」では予想外に甘いソロ・ヴォーカルを聴かせて、新たな顔も垣間見せた。音も役割もステージングも、すべてがDIR EN GREYとは違うからこそ生まれるもの。その進化を促すポテンシャルは十二分にあると確信させてくれたステージだった。

そして遂に時刻は23時を過ぎ、A9が2015年最後のパフォーマンスを務めることに。2014年に結成10周年を迎え、1年の沈黙を経て2015年夏に復活を遂げた彼らも、実は本イベント初参加組。大歓声を受けて登場し、「<Tokyo Chaos>! 良い年にしようぜ!」と早くも将(Vo)が新年への抱負を宣言して「RAINBOWS」のイントロを鳴らすと、客席にはカラフルなサイリウムが灯り、“オイ!オイ!”と拳と声があがる。さらに、サビでは一斉にAジャンプ!というオーディエンスにはお馴染みのナンバーだが、そのサウンドは以前に比べてグッと硬質で輝かしいもの。「閃光」では将が花道を凄まじい勢いで駆け抜け、そこに叙情味たっぷりなメロとヒロトのギターソロが華を添えてゆくのも見ごたえある。「かつてAlice Nineと名乗っていましたが、今はA9です。覚えて帰ってください!」「ずっと出たかった、このイベント。出れなくて、すごく寂しかったA9ですが、今年は寂しくありません!」と語る将は、いつになくハイテンション。“夜明け”というタイトルに相応しく、場内をペンライトや携帯の光でいっぱいにした「Daybreak」に、「全員で上に飛びましょう」と誘った「the beautiful name」では、沙我(B)のコーラスも確固たる強さを持って、大合唱を引き起こした。彼らの織り成す世界は、いつだってドラマティックで希望にあふれている。その情景を、いっそう色鮮やかなものにした彼らの帰還を祝福したい。

ワルツのリズムで手拍子に乗り、年越しの大役を担うことになったのは、heidi.と並んで唯“二”の皆勤賞であるMix Speaker's,Inc.だ。ジャジーな「Side trip Killer rose」に場内のあちこちからタンバリンが鳴り、AYA(G)が前に進み出て優雅に手拍子する等、Mix Speaker's,Inc.流のエンターテイメントで客席を楽しませる。が、曲が終わると時刻を秒単位で表示する電光時計が持ち込まれ、「新たな1ページの始まりを祝おうではありませんか」とのナレーションで出演者一同を呼び込み。慌ただしい空気のなか、seekが「残り10秒です!」と知らせると、会場の全員でカウントダウンして「0!」の瞬間に金テープが飛ぶ。ここからは各バンドに新年の抱負をリサーチ。アルルカン・暁が「2016年も頑張ります!」と応え、seekに「ウィジュアル界の暴れん坊」と紹介されたDEZERT・千秋は「絶対もっと売れる!」と、期待通りの返答を返す。また、ステージ上には本日出演しないはずのNoGoD・団長の姿も(しかも、しっかり白塗り!)。そして逹瑯が「バッチリ2016年始めちゃってくださいよ。ケツは俺らが持つからよ!」と差し向けて、Mix Speaker's,Inc.のステージが再開する。


前日の12月30日にツアーファイナルを終え、2016年より新たな演目“絶望レストラン”を届けることになっているMix Speaker's,Inc.。本日の彼らも新コンセプトに基づく新衣装で、NIKA(Vo)は白ベースのコックスタイル。S(Dr)に到っては顔がお菓子の家になっており、カウントダウンの際に逹瑯からも「あれは誰ですか?」と突っ込まれていた。そこで「“絶望レストラン”の楽曲を2016年1発目にお贈りしたいと思います。皆さんバンギャ始めですよ?」というNIKAのMCから、2016年3月発売予定の「ドクロKITCHEN」を早くも披露。パワーコーラスが低音で轟くヘヴィチューンに、彼も容赦なくシャウトヴォーカルを叩きつけると、「MONSTIME」 ではkeiji(G)とAYAのギターバトルや、各メンバーによる渾身の煽りで、開演から10時間が経って疲労の色が濃いオーディエンスを惹きつけ続ける。間奏で白いペンライトが揺れる「JUNK STORY」で締めくくり、最後にNIKAは「いろんなバンドさんのライブに行って、音楽に触れて。その一つひとつが皆さんの人生の糧になるから」とメッセージ。昨年は加入直後でまだまだ頼りなかった彼が、MC面でもヴォーカル面でも随分と頼もしくなっていたのは、この日一番の収穫と言えるだろう。肋骨骨折で現在、無理のできない相方MIKI(Vo)をしっかりとカバーし、優しげな風情の裏に垣間見せる男らしさは、今後Mix Speaker's,Inc.の武器になるに違いない。

正月気分を叩き切るかのように、デジタリックなSEから始まったのは、昨年まで<Over The Edge>の常連だったMoranのヴォーカリストHiomiのセッション。「さぁ、2016年、始めようか!」とゴージャスな燕尾を纏い、絵画の中から抜け出たような出で立ちで先導すると、まずは下手に立つ海(G)の所属するvistlipから「GLOSTER IMAGE」をドロップした。人気のヘヴィチューンに場内が熱くなったところで、過去にHitomiと共にFatimaに所属していたNao(Dr/A9)とLay(B)、海、奇しくもMoranの解散ライブと同日に活動休止ライブを行ったSadieの剣(G)をメンバー紹介。そこからFatimaの「Humiliate Me More, Darlin」へ繋ぐとワッと会場が沸き、曲中のメンバーコールまでしっかり再現して客席を喜ばせる。そしてラストソングの「迷彩」がタイトルコールされるや、さらなる歓声が。昨年まで皆勤賞だったSadieが毎年欠かさず演奏し続けてきた曲が思わぬ形で披露され、オーディエンスは全力でヘッドバンギング。ステージ去り際には、10年以上ぶりにFatimaの曲を演奏したというNaoが「まだまだ楽しんでいこうぜ! 輝け、Chaos!」と謎の替え歌を歌い、袖から戻ってきた海に回収されるという微笑ましい場面もあった(笑)。狂乱のうちに幕を閉じた貴重すぎるセッションで、特に印象的だったのが9月21日以来、久々の大舞台となったHitomiと剣の水を得た魚のような弾けっぷり。花道まで大きく使ってエモーショナルにパフォームし、「迷彩」でステージに跪き十字を切る剣の姿には、ステージに立てる喜びがあふれていた。

さて、残すところ遂に2組。ここで2015年に約100本のライブを行い、現在も47都道府県ツアー中のBugLugが見参する。フラッシュライトの音と光にハッとさせられる「Cameraman」を皮切りに、「2016年、本気の暴れ始めはBugLugでどうですか?」とアグレッシヴに叩きつけられた「BUKIMI」では、一聖(Vo)のシニカルなヴォーカル、手をすり合わせながら跳ぶ通称・ゴマスリジャンプ等、彼らのトリッキーな魅力が爆発して、客席は左右に激しくモッシュ。一方で「騒げなくてもいい。この言葉ひとつひとつを持ち帰って、皆さんの明日に何か活かしてもらったらいい。いっぱい跳んで、しっかり聴いてください!」と、コミカルな曲調とはギャップある真摯なメッセージを発するのも彼らの個性だ。しっかり楽しませ、そして伝える。そんなBugLugの基本コンセプトは、この1年でグッと深く、強くなっていた。ダンスビートが一気にメロディックに広がる最新シングル「幸運の女神は去りゆけど笑え」では、勝ち負けではなく自分自身で選び取ることが大事と訴え、続く「TЯAUMA」も“幸福のトラウマ”を植えつけたいという“ザ・逆転の発想”な楽曲。それらヒネりの利いたナンバーを説得力を持って届けるセンスと技術が彼らにはあり、故に「今年の干支、なんだか知ってますか?」と問うてのラストチューン「猿」のような、単純に楽しむだけの楽曲の爆発力はとてつもないのだ。弦楽器隊が追いかけっこをするように花道へと駆け出し、笑い合った最後に一聖が叫ぶ。「トリはMUCC大先輩だ! 楽しんで帰れよ!」

その言葉の通り、お馴染みのSEで登場した大トリはMUCC。場内からあがった大歓声は、YUKKE(B)の野太いベースが「大嫌い」のイントロを奏でるとさらに大きくなり、サビでは逹瑯が一言も歌わないうちに大合唱が。続いてSATOちが火花のようなドラミングを放つ「スイミン」で跳び、腕を振り上げるオーディエンスのタイミングも驚くほどに揃っていて、このイベントにおけるMUCC楽曲の恐るべき浸透率を思い知らされる。またステージでも、ハットを被ったミヤ(G)が狂ったような声音のギターソロを飄々と爪弾いて、ただならぬ空気感を醸し出すのに目が釘づけだ。YUKKEがアップライトベースを弾く「ファズ」でも客席が型抜きのように一塊になってジャンプし、逹瑯も「こうやって、これからもずっと、てめぇらと年を越していきたい。かかってこいよ!」と感無量げ。「会場が変わって、タイトルも変わって、こんなにたくさん……ありがとうございます。よく“このイベント、逹瑯さんのイベントなんでしょ?”って言われるけど、俺は言いだしっぺなだけで。みんなで、参加してる君たちも一緒になって作っているDIYなイベントだから」と伝えての「蘭鋳」では、なんとDEZERT・千秋がステージに上がってギターをかき鳴らす。そして「今年はMERRYから始まりMUCCで終わる。そんなMERRYは今、どっかで年越しライブやってます。ソッチまで盛り上がりを届けてやりましょう」と、全員座らせて4カウントでジャンプ! ダメ押しとばかりラストの「TONIGHT」では、NoGoDの団長が登場して腰を振り、花道の先でセクシーポーズを取り、逹瑯を崇めるフリをして場内を笑わせる……が、声は一級品。凄まじスクリームとコーラスを重ね、逹瑯と共にヘドバンをかまし、そんな二人と入れ替わりにミヤとYUKKEが進み出てメタリックなフレーズを放つという様式美を凝縮した見事な流れに目眩がしそうだ。結成から19年を迎える2016年の幕開けに、ここまで培ってきたバンドとしてのカッコ良さをひたすらに叩きつけて。記念すべき第1回目の<Tokyo Chaos>は締めくくられた。

長く続ければ続けるほどに、バンドというものはさまざまな困難に見舞われるものである。2015年も数々のバンドが解散、活動休止し、少なからずシーンに影響を与えたが、この12時間を超えるイベントを観て感じたのは、苦しみを乗り越えたバンドは必ず強くなるということ。そして“終わり”が実は終わりではないということだ。想いを傾けて作り上げたメンバー間の、さらにファンとの絆は、たとえバンドが終わっても続くものであり、時を経て再び出会うこともあるというのは、この日のパフォーマンスからも明らかだろう。積み重ねたものは、どんな結果になろうと、決して無駄にはならない。それはバンドに限らず、人生においても同じこと。2016年、自らを偽らず懸命に生きるバンドの、そしてオーディエンスの日々が輝くことを願ってやまない。

取材・文◎清水素子 撮影◎木村泰之


◆<Tokyo Chaos 2015>
2015年12月31日@国立代々木競技場 第二体育館SETLIST

【MERRY】
1.ジャパニーズモダニスト
2.バイオレットハレンチ
3.絶望
4.千代田線デモクラシー
5.Happy life
【DEZERT】
1.『擬死』
2.『絶蘭』
3.『殺意』
4. 肋骨少女
5.『秘密』
6. 包丁の正しい使い方~終息編~
7. ghost
【DaizyStripper】
1.ダンデライオン
2.ARREST
3. DEAR MY SIRIUS
4.decade
【jealkb】
1.OKK-17
2.Packya Ma Lad
3.虚無感狂想曲
4.天誅☆あるわけないストーリー
5.ASTROMEN
【heidi.】
1.ブレイズ
2.ビューティフルサイコ
3.幻想囃子
4.狂騒アルティメット
5.おまえさん
【seekセッション】
1.Adolf
2.蜘蛛の意図
【BAROQUE】
1.PLANETARY LIGHT
2.DREAMSCAPE
3.SKY WALKER
4.CELEBRATE
5.G I R L
【逹瑯セッション】
1.LASTICA
2.Mr.Shadow
3.free
【アルルカン】
1.ジレンマ
2.墓穴
3.「私」と“理解”
4.像
5.ダメ人間
【R指定】
1.帝都に死す
2.喪失-soushitsu-
3.晩秋
4.MELT DOWN
5.THE廃人間
【aieセッション】
1.桜の満開の木の下で
2.箍を外す場合、穴に群れる具合
3.脳内に
【D≒SIRE】
1.DREAMS BURN DOWN
2.人工楽園
3.JESUS?
4.KISS
5.静夢
6.追憶
【DECAYS】
1.Aesthetics of the transgression
2.Secret mode
3.愛と哀を遺さず…
4.D・D
5.ラナ ~from Future Boy~
【A9】
1.RAINBOWS
2.閃光
3.Daybreak
4.the beautiful name
【Mix Speaker’s,Inc.】
1.Side trip Killer rose
2.ドクロKITCHEN
3.YOU♪愛♪メッセージ
4.MONSTIME
5.JUNK STORY
【Hitomiセッション】
1.GLOSTER IMAGE
2.Humiliate Me More, Darlin
3.迷彩
【BugLug】
1.Cameraman
2.BUKIMI
3.幸運の女神は去りゆけど笑え
4.TЯAUMA
5.猿
【MUCC】
1.大嫌い
2.スイミン
3.ファズ
4.蘭鋳
5.TONIGHT

◆<Tokyo Chaos>BARKS内特集ページ
◆Tokyo Chaos オフィシャルサイト
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