【インタビュー】稲葉浩志、「B'zというアイデンティティのために」

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■選ばれるべくして選ばれた曲が
■4つ並んでいるイメージですね

──コンディションには精神性も重要と思いますが、稲葉さんは自分を「B'zのシンガー」であると言い“ボーカリスト”や“アーティスト”という表現をしませんよね? あれはどういう意味ですか?

稲葉:多分それ以外にしっくりくる言葉がなかったんでしょうね、きっと。B'zで曲を作っているわけでもないし、特にスタート当初からアレンジにも参加しているわけでもなかったので。そこからスタートしているという意識があるので、アーティストという意識はあまりないんですね。話の流れで「アーティストとして」とか言うことはありますけど、正直なところ、あまりアーティストとは思ってないですね。

──それは今でも?

稲葉:“アーティスト”という風には自分では思えない…というか、だから今でもシンガーというほうがしっくりくるのかな。しかも、そのときは“B'zの”って足しているので、そういう意識が強いんだと思います。非常に専業というか専門職みたいな。それしかできません、みたいな。

──それは謙遜さからくる発言なのかな…。

稲葉:謙遜なのか逃げなのか、ちょっとわからないですけど(笑)。

──B'zでの役割を全うするんだという意味では、役割はシンガーであるというのは分かるんですが、ソロの場合は全く話は違ってきますよね?

稲葉:ええ、そうですね。B'zで歌だけをやっていた人間がそこを少し離れて、曲を作って歌詞も書いてアレンジもいろいろ考えてとか…ソロでそれをやって、それでまたB'zに戻って、経験も踏まえたうえでB'zに帰ったらまたシンガーをやってという流れですよね。もともとは、B'zからソロになって、ソロからまたB'zに還元してというふうにやってたんですけども、今はそれともまた違うかな。ソロの作業の流れが自然になってきているので、“B'zのときはこうだから、ソロのときはこうだ”みたいなのは今は全く考えない。そういう意味では、ソロでの活動があって、それをやっている人間がB'zという大きな器の中で集まって作業をしているんだと思う。B'zというアイデンティティのためにやる場ですから、今の自分にとっては、こっちからあっちに行っているというような感じが強いかなぁ。

──なるほど。そういう意味では、ソロのライブや作品作りは、学生のときに好きで音楽をやっているような感覚に近いもの?

稲葉:学生のときはこういう作業をしていないので、それこそバンドで呼ばれて歌いに行っていただけなので、感覚は全然違いますね。

──今回のシングル「羽」には4曲収録されていますが、3曲がタイアップですよね。これはリクエストに応じた書き下ろしということですか?

稲葉:そうですね。ものにもよりますけど、自分の中でモチーフがあったり、半分完成しているものとか、“ここからこう作っていこうとしているもの”とかいろいろあって、話がきた時にリクエストがあったりすると、自分が用意しているものの中で、先方のリクエストに応えられるものを作っていく形です。

──逆に、タイアップのない「Symphony #9」がとても気になったのですが、これはどういう曲ですか?

稲葉:これは今回の一連の作業の中で一番最後に作った曲です。最初はアルバムにしようかなと思っていたんですけど、4曲入りのシングルにすると照準を定めた時点で、決められた期限のなかで最後にもう1曲やりたいと思って作った曲なんです。これはモチーフがあったわけでもないので、まぁ…一番新しく作った曲ですね。

──この曲はまるで、稲葉さんから音楽へのラブソングのように聞こえました。

稲葉:特に最初から歌詞があったわけでもなくて、サビの1行目の“やまないSymphony”という言葉が最初に出てきたんですね。そこから膨らませていったんですけど、その“Symphony”という言葉が出てきた影響で、おぼろげながら“分厚い音の中でいろんな音のレイヤーが連続していきながら曲が変化していくイメージ”を持っていた曲です。そこをベースに持ちながら、アコースティックだけの弾き語りのような感じかな。ギターのコードとメロディと歌詞はまだ全部は完成していなかったんですけど、自分のおぼろげなイメージをもってアレンジャーと一緒にスタジオ作業を始めたんです。

──みんな熱量のある曲ですよね。レコーディングは4曲とも同じタイミングで録っていったんですか?

稲葉:ほぼ同じタイミングですね。わりと短い期間で。

──曲順は?

稲葉:曲順は出来上がってから考えました。

──どんな作品にしようか、当初からイメージはあったんですか?

稲葉:それはありませんでした。できた曲がそれぞれすごく気に入っていて、そして最後に「Symphony #9」を作る時点で“この4曲がひとつのカタマリの中に入っていることって、いいな”と自分で思って。実際に他にも曲はあったんですけど、自分の中ではこの4曲と決まっていたので。自分の中では選ばれるべくして選ばれた曲が4つ並んでいるイメージですね。

──どの曲も骨太な歌で、とにかくボーカルラインがしっかりしている。これは今の稲葉さんの状況を表しているのでしょうか。

稲葉:結果的にはそういうことだと思うんですけど、4曲に共通して“こうしよう”みたいなものは特になかったです。やたらめったらコーラスを重ねないというのは、このときの気分だったと思うんですけど。

──長きに活動しているがゆえに、変わるもの/変わらないもの、得るもの/捨てるもの…、表現者として変化をしていくでしょう? そういう意味で、稲葉さんは今、どういうステータスにあるのでしょうか。

稲葉:B'zはやっぱり、良くも悪くもある種の型があるので、そこからはみ出して何かをやろうっていう部分もあれば、みなさんが求めているところをガッチリ見せなきゃいけないというところもある。それを両方やるのが楽しみなところでもあります。僕の場合、ソロというところではまだそんな型がない…というか“B'zの稲葉のソロ”というのが型かもしれないけど。だからそういう意味でも自由度もあれば、“少し型があったほうがやりやすいんだけど…”ってところもある。ただ、そういうことで悩んでたのはもう少し前のような気がしますね。B'zから離れたときに“何があるんだろう、何かないとダメだ”みたいな“どうしようかな…”と追い詰めるようなところは、昔はあったような気がします。

──今はもうそれを乗り越えてきたということ?

稲葉:なんか、忘れてしまったというか(笑)。

──価値観の変化もあるのかな。

稲葉:人としては、時の流れの中で価値観が変わってくるところはあると思うんですけど、B'zの型というのは強力な型ですから、それに対して、やっていくなかで悪く言えば飽きてくるところもあるし、それがまたさらに時間が経つと面白くも感じていられる。それは今までやっているなかで繰り返しですから。

──なるほど。

稲葉:だからこの先もそうなることはわかっていますね。それを踏まえて新しいことをやっていくだろうし。

──人気アーティストの宿命でもありますよね。

稲葉:だからある意味、そういう変化があることもある程度は予測がつく。ソロはそれとはまた違ったところで、実際にはもっといろんな切り口があるはずなんですけど、それを模索して、思いついたらやるっていう感じですね。

──それは、音楽好きの音楽表現者としての欲求によるもの?

稲葉:そうですね。やればやるほど出てくる、みたいな。

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