【インタビュー】Robert de Boron「結局アーティストができることは、素晴らしい音楽を提供していくことだけ」

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── こうやってメジャーから毎年コンスタントにアルバムを出している日本人のメロウHIPHOPのトラックメーカーってBoronさん以外にあまりいないんじゃないかなと思うんですけど、そもそも英語のラップを乗せた音楽を作っているのは、当初から世界を視野に入れて音楽を発信したかったからなんですか?

Boron:もちろんそうです。そんなに「世界中に!」みたいな感覚ではなかったけど(笑)。でもそういう風になれば良いなとは思ってましたね。最初はMyspaceに乗せたことがきっかけで広がったんですけど。知らず知らずのうちにベスト盤まで来たっていうイメージはありますね。10年経ったとかアルバムが10枚出たとかの節目ではないんですけど、振り返るタイミング的にはちょうど良かったと思ってます。「ああ、1stってこういうことやってたんだな」とか、「2ndってこういうドラムのアプローチだったんだな」とか、毎作毎作、自分の中では何かしら変化をもたらして音楽を作っていたので、そのアプローチの仕方を垣間見る良い時期だったのかなって。次に作るときに1stのこの感じやってみたいとか2ndのこういうアプローチの仕方をもう一度リバイブさせて今の自分と重ねてまたやってみたいとか、感じることは多々ありましたね。なんか(ここ数年は)シンプルになりすぎてて。例えば「Take Your Turn」とかは、ベースラインが3本とか、今の自分が作る音楽の中ではありえないんですよね。でもそのアプローチの仕方がピタッとハマっているから良い曲だなって自分でも思えるので。そういう、振り返りという意味ではちょうど良いタイミングだったのかなって思いますね。

── こういうきっかけがないと、ご自分の作品を詳しく振り返ることってあまりないものですか?

Boron:まとまった2chを聴く機会は結構あるんですよ。例えばカフェに行ったり髪を切りに行ったときに流れてきて、「あ、俺の曲だ」とかいうことはあるんだけど、パラチャンネル(※楽器ごとのパラデータ)をもう1回開くことってないんですよね。6年前の1stアルバムの「Jenny」とか「Take Your Turn」のパラデータをまた開いて聴いて、「ああ、このミックスこうした方が良かったなあ」とかいうところに戻ることはなかなかなくて。今回開いてみたらその中に面白いものがいっぱい転がってたし、そういう意味では良いタイミングでした。

── それは本当に、トラックメーカーじゃないとわからないことですね。

Boron:そうなんでしょうね。だから、1回ミックスされたものを聴いてもそこまで見えてこないですよ、何をこのときに思ってやっていたのかということまでは。色々と感じる部分はあるけど、そこに対して具体的に「このキックとこのハットのこのグルーヴがこうなっているから~」というのは、データを開かない限りはなかなか思い出さないですよね。今回それを開いてみて「ああ、面白いな~」というのはいくつもありましたね。

── 作っていたときにどんなものに影響されていたのかとか?

Boron:そうそう。この時のこのハットの打ち方とか、ここ変態的な跳ねしてるな、とか(笑)。2ndで「ここで素直に打ってるんだな」とか、シンコペーションのやり方とかも、キックに対してのものなのか、スネアに対してのメロディがシンコペーションなのか、ベースがそうなのか。そういうところまでは、普通に聴いてるとズラーっと聴いちゃうけど、パラで他をミュートしてパッと聴いてみると、「これだけでも十分グルーヴあるじゃん!」みたいな、面白いところにたどり着くというか。技術的に垣間見れたんですよね。「なるほど」っていうものもあったし、もちろん使えないものもあったし(笑)。「こりゃひどいな!」みたいな(笑)。

── (笑)。そこで自分の成長も実感したり。

Boron:垣間見たというか、いろんな意味で良かったですね。今の方が良いというのも多々ありましたし、過去に戻ってちょうど良いところだけかいつまんだ感じですね。

── 今考えるとありえないようなアプローチがあったりするというのは、ここに至るまでに自分のやり方を確立して行ったと同時に、セオリーにハマっていたようなところもあったんでしょうか。

Boron:きっと、1stの頃は“型”がなかったんでしょうね。2ndくらいからは型が見えてきて、Robert de Boronってこういう音楽だよねっていう感じになったんですけど。でも型を作れたというのは自分の中では良かったと思っていて。次の5枚目のアルバムでは型破りをやりたいというか。でも型がなければ型破りもないから。まあ、上ってきた階段が自然に型を作って行った感じというか、いつの間にか自分の型ができてたんだなって思いますけど。

── Boronさんが音楽を始めたとき、階段を上り始めたときには目標みたいなものがあったんですか?

Boron:音楽を始めて、レコード会社が決まって本格的に始めるというときには、「日本1位」がとりあえずの目標でしたね。何かしらの形で絶対1位を獲るという。それはずっと思っていましたね、最初の頃は。あとは自分よりかっこいい音楽作れる人いるの? とか思ってたし(笑)。すごくポジティブなものだったというか、それで金を稼ぐとかどうこうとかよりは、「負けないでしょ!」って思っていたというか。まあ、それがないとみんなやってないと思うけど、人よりそういう思いは強かったかもしれないですね。

── 思い描いていたようになったというイメージはご自分の中でありますか?

Boron:2ndが軒並み1位を獲ったので、そこで1回「もう行っちゃったの?」みたいなところに早くもたどり着いたというか。「おいおい、この後どうするんだ?」っていう(笑)。だから自分で次の目標を考えてやってきたけど、それは1位を獲るとかそういうことじゃなくて、サウンド面の変化というか。そう思ってやってきたけど、世の中を見渡すと、とんでもない音楽を作っている人もいるし。若い子たちを見たり世界を見たりして、自分の作品と比べたり、パッと人の曲を聴いたりしたときに、「うわっ」と思うことがあるので。だから2nd以降次のステップが見えてきて、やって行くことはまだまだあるんだって。

── それが3rdアルバム『ON THE RAINBOW』に繋がってくわけですね。

Boron:『ON THE RAINBOW』は頭の中がちょっと宗教的でしたね。「もっと幸せってあるでしょう」っていうイメージがあったから。なんかこう言うとあぶないですけど(笑)。世の中違うでしょっていう気持ちもあったし。世間がどう聴いたかはわからないですけど。

── やっぱり、癒されるという印象を持って聴いた方が多いんじゃないでしょうか。

Boron:そうなんですかね? それは結構ありがたいですね。アプローチしているところがそういうところなので。あんまり大勢で聴くというよりは、イヤフォンで1人でとか、2人で聴くとか、ドライブ中に聴くとか、俺の中ではそういうところにスポットがあるので。だから思い描いているところに行っているとは思いますけどね。

── こうしてベスト盤の曲を並べて見ても、曲ごとに色々なボーカリストをフィーチャーしていますけど、起用する上でどんなところに基準があるんですか?

Boron:メロディを歌うのにアタックがない方が好きなんですよ。それは考えるかな。あまりアタッキーなボーカリストだと、イメージするものに合わないというか。ラップは結構刻むからアタックがあるものもカッコイイけど、メロディラインを歌うのは柔らかいボーカリストが好みですね。

── その柔らかさはBoronさんの楽曲の大きな特徴ですけど、逆に尖った曲をやりたい、という気持ちはないですか?

Boron:わかりやすいものじゃなくて、自己満足的なものって意味ですよね? それはありますよ。でも、その自己満足的なもののチャンネルがズレていないんですよ。「俺はこれを自己満足のために作ったんだよ」って出しても、「あ、私も全然良いと思う」ってリスナーさんに受け入れられるというか。突拍子もなくズレていて、「おまえの自己満足ハンパないね!」って言われるようなものは作れない気はしますね。自分が好きなものは、どこかわかりやすいところが入っているんじゃないかと思います。
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