【インタビュー】アバス「信仰するんだったら、ロックンロールをお勧めするよ。」

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北欧ブラック・メタル魔性のレジェンド、イモータルのアバス(Vo)が自ら率いる新バンド“アバス”を結成し、アルバム『アバス』を1月20日にリリースし、その邪悪なサウンドと凶暴な歌詞で世界中のメタル・ファンを打ちのめした。2015年10月、<ラウド・パーク15>で日本初見参を果たし、観衆を蹂躙するステージを見せつけた彼らだが、このアルバムはその衝撃をしのぐ、圧倒的なまでの破壊力を持っている。

◆アバス画像

「自分の中ではすべてのバンドが繋がっている。最初のバンドだったオールド・フューネラルからイモータル、そしてアバス。すべてはひとつの流れにあるんだ」とアバスは語る。新バンドの音楽性は、彼自らが礎を築いた北欧ブラック・メタルのエクストリームな音楽性をさらに発展させたものだ。ブラスト・ビートに乗せて“速さ”と“激しさ”がせめぎ合う「トゥ・ウォー」からドラマチックに展開する「ウィンターベイン」、<ラウド・パーク15>でも披露された「フェンリル・ハンツ」など、孤高の“アバス・メタル”がここにある。


黒ずくめの服装、屍体を模した白塗りコープスペイント、そして殺人や自殺・教会への放火など、血生臭い北欧ブラック・メタル・シーンの重鎮として恐れられてきたアバスだが、来日時に明らかになったのがそのサービス精神だ。「日本に来るのは初めて。『THUNDER IN THE EAST』(ラウドネスのアルバム・タイトル)だ!」とはしゃぐ彼は東京都内のレコード店でサイン会を行い、ステージそのままのコスチュームで登場、あらゆるポーズと表情でファンとの撮影にも応じている。

「<ラウド・パーク15>では、久しぶりに真っ昼間にプレイした。マネージャーに「出演は12時だ」と言われて、午前零時だと思ったんだ。こんな昼間じゃ誰もいないかと心配していたら、すごくたくさんのお客さんがいた。機材面のトラブルがあったけど、ファンのおかげでライヴは成功したと思う」と語り、近い将来の日本再上陸を約束してくれた。


来日時のインタビューにおいても、アバスのテンションは高いままだ。質問をジョークで混ぜ返したり、奇声を上げるなど、エンターテイナーぶりを発揮していたが、悪ノリが過ぎて、答えが要領を得ないこともあった。コープスペイントの裏にあるアバスの素顔を、その発言から読み取るのは難しい。それは彼なりのヒネくれたユーモアなのかも知れないし、少しばかりアルコールが入っていたのかも知れない。あるいは彼が、天然の“そういう人”だとも考えられる。そのいずれもが、ある程度真実なのだろう。

それに加えて、彼は順風満帆ならざる波乱の音楽人生を経てきた。今もなお、彼はインタビューを受けるたびにその傷跡をこじ開けられ、カサブタを剥がれる経験をしている。その胸中をコープスペイントで覆うことは、彼が正気を保つために必要なのではないか。

2015年にイモータルで25年間、行動を共にしてきたギタリスト、デモナズと別離したことも、世界中のインタビュアーから何度となく剥がれてきたカサブタだ。

「理由は幾つもある。今はそのことについて話したくない」あるいは「デモナズとは1年以上会ってもいないし、話してもいない。彼は彼の、俺は俺の人生を続けるだけだ」と、最初はそっけないアバスだが、話しているうちに、かつての盟友への複雑な想いが顔を覗かす。「彼は俺の兄弟だ。いつの日か、再び会うときがあると信じている。心の底では、彼のことを愛しているからね」。これまでイモータルの複数の作品で描かれてきた“ブラシルク王国”の物語も、「俺とデモナズ、2人のものだから」と封印するという。

そしてアバスにとってもうひとつのアンビヴァレンスが、1990年代前半ノルウェーのブラック・メタルをめぐる事件である。メイヘムのヴォーカリストだったデッドは自らの脳天を散弾銃で撃ち抜き、それを発見したメイへムのユーロニモスは写真を撮りまくった。バーズムのカウント・グリシュナックは教会への放火を繰り返した後、ユーロニモスを殺害した。エンペラーのファウストもまた、見知らぬ男声を刺殺した。

そんな一連の事件は、ブラック・メタルというジャンルそのものに暗い影を落とすことになった。アバス自身も多くの友人を失っている。だがその一方で、事件に関わることのなかったイモータルは“ブラック・メタル禍の生存者”として絶大な支持を得ることになった。

「当時のことなら、俺はすべてを知っている。何を知りたい?」アバスは促すが、その答えを引き出すのは決して容易ではなく、いくつかの質問はうやむやとなった。だが、彼は幾つかの貴重な証言をしてくれた。

「(メイへムの)ユーロニモスとヘルハマーと初めて会ったのは1988年、ベルゲンのフェスティバルだった。その頃ユーロニモスはメタリカのブートレグを作っていた。彼らと友達にならなかったら、俺は今ここにいないだろうね。乾杯だ!」

ユーロニモスがオスロで経営していたレコード店『ヘルヴェテ』はノルウェー・ブラック・メタルの“インナー・サークル”の中心だったが、当時ベルゲン近郊に住んでいたアバスも出入りしていた。当時のことを語るとき、彼のペイントの下の表情が懐かしさに緩むのがわかる。

「『ヘルヴェテ』にはよく行ったよ。終電を逃して、地下室に泊めてもらったこともある。寝床はあったけど、コンクリートで、背中が痛くなった。ユーロニモスはアントン・ラヴェイの『サタニック・バイブル』を貸してくれたよ。俺は酔っ払っていて、朝起きたら凍え死にそうだったのを覚えている。1階は暖房が効いていたけど、地下室にはまったく届いていなかったんだ」

だが、そんな日々も終わりを告げることになる。一連の事件について語るとき、アバスの口調は重くなる。

「教会への放火は、俺も声をかけられたことがある。でも俺はやらなかった。とにかく、いろいろなことが間違っていたんだ。…当時のことを誇りにはしていない。あの頃は、そうすることがクールだとみんな思っていたんだ。自分はそれに関わることがなくて、幸運だったと思う」

そんな死屍累々の楼閣の上に築かれたブラック・メタルが、薄められた形でファッションやアートに転用されている昨今の状況について、アバスは決して快く思っていないようだ。だが彼は「ブラック・メタルはアートともなり得るし、馬鹿馬鹿しくもなり得る。それは自分次第なんだ。俺は自分のやるべきことをやるだけだよ」と肩をすくめる。

数々の栄光と数々の闇を経てきたアバスだが、盟友たちが次々と斃れていく中、ブラック・メタルの生存者として前進してきた。自分が何故生き残ることが出来たか。アバスは語ってくれた。

「俺はたったひとつの理由のために、ここにいるんだ。それはロックンロールだ。誰が何を信仰しようが、俺の知ったことではない。でも何かを信仰するんだったら、ロックンロールをお勧めするよ。音楽が俺を生かしてきたんだ」

取材・文:山崎智之

アバス『アバス』


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1.トゥ・ウォー
2.ウインター・ベイン
3.アッシェズ・オブ・ダムド
4.オーシャン・オブ・ウーンズ
5.カウント・ザ・デッド
6.フェンリル・ハンツ
7.ルート・オブ・ザ・マウンテン
8.エンドレス
9.ライディング・オン・ザ・ウインド(日本盤限定ボーナス・トラック)
10.ネビュラー・レイヴンズ・ウインター(ボーナス・トラック)

◆アバス『アバス』オフィシャルページ
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