ロック、ラップ、カントリー、ポップ、そしてR&B。今年のグラミー賞、年間最優秀アルバムにノミネートされた5作品は、ジャンルがくっきりと分かれる興味深いものになった。内訳はアメリカ4組、カナダ1組。そもそも今年は主要4部門に外国人が少なく、他には英国人のエド・シーラン、ジェイムス・ベイ、マーク・ロンソン、オーストラリア人のコートニー・バーネットくらい。アデルやサム・スミス級の英米共通大ヒットが毎年あるわけではないにせよ、今年のグラミー賞はやや保守的。逆に言えば、この5作品を聴けばアメリカ国内音楽シーンの傾向がより見えてくる。面白いノミネートだ。

アラバマ・シェイクスは確かにロックバンドだが、そのルーツの深さと広さで他と一線を画すユニークな存在。アルバム『SOUND & COLOR』にたっぷりと詰め込まれているのは、ブルース、ソウル、ジャズ、カントリーからハードロックに至る幅広い要素で、パワフルな演奏の見事さに加え、見た目も歌声も迫力満点の女性シンガー、ブリタニー・ハワードの存在は圧倒的。アメリカン・ロックの伝統をすべて溶かしこみ、現代的な味付けを施した旨味成分たっぷりの音楽は、日本人の舌、いや耳にも合うはずだ。日本でも、もう少し人気が出てもいいと思うのだが。

ケンドリック・ラマーは、主要2部門を含めて最多9部門11ノミネートされた、今年のグラミー賞の風雲児。N.W.Aを生んだヒップホップの聖地・カリフォルニア州コンプトン出身だけあって、黒人の権利や連帯を訴える骨太なメッセージを根底に持ちつつ、ポップ・シーンへも積極的に進出するフットワークの軽さが魅力的。テイラー・スウィフトと共演した「バッド・ブラッド」は、2015年のMTVビデオ・ミュージック・アワード最優秀ビデオ賞を獲った傑作なので、彼を知らない方はまずそのあたりから入ってみたらどうだろう。スマートでカッコいいルックスやファッション同様、洗練された技術がラップ好き以外にも素直に楽しめる『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』は、ノミネートされるにふさわしい逸品だ。


カントリーは、日本のリスナーには馴染みにくいジャンル。ただし、テイラー・スウィフトがもともとカントリーのジャンルから出てきたように、近年はポップ志向のものも多く、最優秀楽曲賞にノミネートされたリトル・ビッグ・タウン、最優秀新人賞候補のサム・ハントなどはそちらのタイプ。そんな中で、このクリス・ステープルトンは本来のカントリーの原型をしっかりと持った貴重な本格派だ。長髪、ヒゲ、デニム、テンガロンハット、ダミ声。絵に描いたような渋いカントリー・シンガーだが、ステージではジャスティン・ティンバーレイクと共演するなど、ルーツがしっかりしているからこそボーダーレスな活動もいとわない、スケールの大きさがある。『Traveller』は、カントリー入門編として勧められる誠実な作品だ。ところどころに見えるロック的な要素もカッコいい。

そのテイラー・スウィフトが、“初の公式なポップ・アルバム”と宣言して2014年10月にリリースした『1989』は、現時点でアメリカ550万枚、日本でも25万枚、ワールドワイドで860万枚という特大ヒットを記録中。ノミネート5作のうちダントツのセールスで、「シェイク・イット・オフ」「ブランク・スペース」など大ヒット満載。普通に考えれば最有力候補だが、そうすんなり行くかどうか。テイラーは20歳の新進シンガーだった6年前、『フィアレス』で最優秀アルバムを獲ったが、今回は挑戦者ではなく受けて立つ側。ここ5年間の受賞者はアーケイド・ファイア、アデル、マムフォード&サンズ、ダフト・パンク、ベックと、ポップというよりはアート性の高い、個性のはっきりしたアーティストが続いている。主要3部門にノミネートされたテイラーが受賞できるか?は、今回のグラミー賞の大きなポイントだ。


ザ・ウィークエンドことエイベル・テスファイの作る、驚くべき多様性と刺激に満ちた音楽を、短くまとめて紹介するのは難しい。1990年生まれ、エチオピア系カナダ人。UKソウルやブリストル系のトリップホップ、80’sアメリカンなエレクトロ・ファンク、2000年代のチルウェーブなど、ソウルからエレクトロへの歴史を一望するグルーヴィーなサウンドに、神秘的な暗さを加え、フェロモンたっぷりのセクシーな歌声で歌いあげる。異邦人の視点から英米のソウル・ミュージックを解き明かすような、独特のスタンスは日本人にも受け入れられる要素が大きいはず。タイトルがその音楽性をよく示している、候補作『ビューティー・ビハインド・ザ・マッドネス』は、彼の類稀な個性が開花した傑作。肉体的でありながら、知的な興奮をもたらしてくれる素晴らしい作品だ。

あまりにジャンルが違い過ぎ、受賞予測が難しいこの部門。ただテイラーのところで書いたように、ポップよりはアート性の高さを重んじる近年の受賞傾向から見て、あえてザ・ウィークエンドに一票。今年のグラミー賞全体の、アメリカ国内向けの傾向から言うと、アラバマ・シェイクスの可能性もあるか。いずれにせよ、間違いなく2015年のアメリカ音楽シーンを代表する5作。すべて聴いて損はないので、ぜひ。


Text:宮本英夫
写真:Getty Images, FilmMagic

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「生中継!第58回グラミー賞授賞式」 ※生中継 ※二ヵ国語(同時通訳)
2016年2月16日(火)午前 9:00 WOWOWプライム
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★「第58回グラミー賞授賞式」※字幕
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