音楽・原作・脚本を担当するタカハシヨウと、漫画・イラスト・動画を担当する竜宮ツカサの姉弟からなる音楽ユニット「家の裏でマンボウが死んでるP」。ニコニコ動画を中心にボカロファンの圧倒的な支持を集める彼らが3rdアルバム『百鬼蛇行』をリリースした。漫画「浮かれバケモノの朗らかな破綻」を元にしたスピンオフ的なストーリーとなっているこのアルバムは、人間界に憧れる赤鬼・青鬼を狂言回しとして音楽のみならずボイスドラマも収録されており、ギャグ満載の娯楽作でありながら世の中への風刺も効いた作品となっている。VOCALOIDプロデューサーというネット時代を象徴する活動形態で存分に才能を発揮しているタカハシヨウに今作について、そして奇妙なアーティストネームについても話を訊いた。

◆家の裏でマンボウが死んでるP~画像~

■このアーティストネームは全然受け入れていないです。嫌ですよ、いまだに(笑)
■結婚するようなことがあったら、相手の親御さんにこの名前を言わなきゃいけない(笑)


――『百鬼蛇行』は、アルバムを通してストーリー性があって楽しめる作品ですね。アルバムが完成した今の率直なお気持ちを訊かせてください。

タカハシヨウ(以下、タカハシ):そうですね…ちょっとネガティブなことしか出てこないですけど…。

――なぜですか(笑)。

タカハシ:アルバムが完成するたびに、“もう二度と作りたくない”と思うんですけど、結果、3枚作ってくることができたので、今回も頑張って良かったなとは思います。今回は制作が今までの中で一番時間がかかったし、すごく難産な曲もあったので、無事完成して安心しました。別件で漫画の連載をやっていまして、それと絡めたアルバムだったのでそちらの漫画の最終巻の出るタイミングに合わせて出すことができたので良かったなと思います。


――インタビュー初登場ですので、まず「家の裏でマンボウが死んでるP」という名前の由来を教えてもらえますか?

タカハシ:もともとVOCALOIDを使って曲を発表していたんですけど、VOCALOIDの文化ってリスナーさんが曲の作者の名前を付けるんです。それが「P」というのが最後に付くプロデューサー名なんですけど、僕が「家の裏でマンボウが死んでる」という曲を発表したら、その曲名がそのまま名付けられてしまって、グループ名になりました。

――タカハシさんはそれを受け入れたんですね。

タカハシ:全然受け入れていないです。嫌ですよ、本当に嫌です、いまだに(笑)。まったく諦めはついていないですね。グループになったのはメジャーに行ってからなので、それまでは僕が“マンボウP”っていう個人名でやっていたんですけど、そうなると自己紹介するときもこの名前を言わないといけないし、けっこう堅い場でもこの名前を言わないといけないので。もしこのまま結婚するようなことがあったら、相手の親御さんに「家の裏でマンボウが死んでるPとして~」と言わなきゃいけなくなるとか、あらゆる面で支障が出るわけですよ(笑)。だから嫌で仕方ないです、本当に。

――でも自分でつけた曲名がもとになっているわけですから仕方ないですよね(笑)。その頃は、これで世に出ようみたいな感じではなくて?

タカハシ:全然、なかったです。別にプロでやって行こうという気持ちもなかったですし。高校のときに軽音楽部に入っていまして、そのときに友達同士でバンドをやっていて。それで作った遊びの延長の曲だったので、ここまでのことになるとは思っていなかったですね。


――楽曲を作ってお姉さんが絵を描くというのは、タカハシさんの中では最初から構想があったのでしょうか。

タカハシ:最初はとくになかったんですけど、ニコニコ動画で曲を発表していると、曲だけだと画がもたないんですね。歌詞だけだしても味気ないし、中には立派なPVを作っている方も多かったので、なんかイラストが欲しいなと思っていたときに、たまたま姉が絵を描けるので、「やってもらえない?」って言ったところから始まっています。そんなに深く考えて計画してやったわけではないんです。当初はプロを目指してやっていたわけではないので、それでこうして機会をいただけるのはありがたいことですけど。でもそれも、普通の人がやりたがらないことをしているから目立ったというだけだと思っています。

――漫画「浮かれバケモノの朗らかな破綻」の最初の方で、主人公たちがバンドを組むために楽器屋に行きますが、ああいうシーンはタカハシさんご自身の経験をもとにしているのでしょうか。

タカハシ:そうです。漫画を描かせていただくことになったときに、僕の専門ではなかったので、せめて自分にもわかる題材でやろうということで、学生時代に実際にやっていたバンドの話にしました。楽器屋さんに行くとかスタジオでの練習風景なんかは、自分の経験をまとめた感じです。

――タカハシさんはボーカルとギターをやっていたそうですが、それは誰かのカバーをやったりとか?

タカハシ:もともと、the pillowsさんが大好きで。コピーバンドをやろうと思って作ったバンドだったんですけど、結局the pillowsさんの曲を一曲もやることはなく。いまだに悔しいです。どうしてこうなってしまったのか…。

――「浮かれバケモノの朗らかな破綻」に理想のバンドストーリーを投影しているようなところもあるんでしょうか。

タカハシ:バンドをやっていたときは、「こうなりたい」という気持ちがないまま、ただ遊んでいた感じだったので。だから、漫画の登場人物たちには僕らよりはもう少し真面目にやらせようかなとは思ったんですけど、ギャグ漫画なので。結果、自分たちと似たような感じになったと思います。作中に、ライヴの演出を考えて「演奏中にボーカルの歯を磨こうか」というアイデアを出すシーンがあるんですけど、それは実際に高校のときに出ていたアイデアで。歌えなくなるという重大な欠点があったのでやらなかったですけど。そんな感じで実体験も生きていますね。


――だいたい実体験をもとにしていることが多いんですか?

タカハシ:いや、家の裏でマンボウが死んでいたこともないですし、クワガタにチョップしてタイムスリップしたこともないので(笑)。基本ゼロから考えています。2、3回実体験をもとにしたこともあるんですけど、自転車に轢かれて自転車を壊されたときの話とか。犯人を呪う曲(「おニューのかさぶた、ペットに食われろ」)を作ったとか、そのくらいで。2015年に作詞講座をやらせていただいたときにも話したことなんですけど、聴く人をどんな気持ちにさせたいかっていうところから始まって、一番作品の根っこになるものから段階的に作っていく感じですね。「人はどうやったらびっくりするか」って考えたときに、日常に非日常が現れたときに一番びっくりするんじゃないか、と。日常ってことは家にいるときかなって。じゃあ家の裏にマンボウが、みたいな感じで段階的に考えることが多いです。

――『百鬼蛇行』は赤鬼・綾と青鬼・唯を主人公にした「浮かれバケモノの朗らかな破綻」のスピンオフ的な作品ですね?

タカハシ:はい、漫画を読んでいないと楽しめないアルバムにはしたくなかったので。関連性はありつつ、別の主人公を立てて、全然時間軸も変えた違う話にしました。なので、漫画は高校時代で、アルバムは中学時代みたいな感じで分かれています。

――声優の柿原徹也さんと山下大輝さんがキャラクターの声を演じるボイスドラマが収録されているのが特徴的ですが、これはどんな発想から生まれたんですか?

タカハシ:2ndアルバムのときに一度ボイスドラマを作ったことがあって。その前に書かせていただいた小説「クワガタにチョップしたらタイムスリップした」の特装版に、スピンオフ・ドラマCDを付けてもらったんですけど、そのときに初めてボイスドラマをやらせていただいたんです。声優さんって声だけでパッと世界が見えるくらいに芝居で作ってくれるので、“これさえあれば”と思いまして。ストーリー性を作って、ずっと続きが気になるようにしたかったし、なるべく世界観が見えるようなものにしたかったんです。そうなると、歌だけではカバーできないというか、実際に人の声で演じてもらうことで世界が広がるという経験を、そのときにしたので。今回のアルバムでもぜひやりたいなと思ってこうなりました。

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