【レビュー】倉木麻衣、最新ライブ映像のプレミアムな楽しみ方

倉木麻衣の新しい映像作品が、1月27日にリリースされた。タイトルは『Mai Kuraki Symphonic Live -Opus 3-』。2012年から始まった、フル・オーケストラをバックに歌うプレミアム・ライブ・シリーズの最新作だ。収録は2015年9月12日、すみだトリフォニーホール 大ホール。指揮者・藤原いくろうによってアレンジされた、ヒット・シングルや隠れた名曲がたっぷり聴けるのがこのシリーズの魅力だが、加えて、倉木麻衣にとって2015年のライブはこれ1本のみ。当然プレミアム度は、これまでで最も高い。

◆倉木麻衣 画像

映像ならではの見どころは、いくつもある。当日、客席で見ていた時にははっきりわからなかった、衣装や表情の美しさ。前半の、黒とブルーを基調にした艶やかなドレスの、流れ星のように点滅する光のチューブ。月と星の映像が背後に浮かぶ「Like a star in the night」から、一転して朝のまぶしい光が差し込む「fantasy」への、鮮やかな場面転換。視覚的にはシンプル、しかし最大限の効果を生む演出。シリーズ3回目、ライブとしての完成度は毎回上がっている。


前半のハイライトは、「Cinema Music Special Medley」と題した、倉木麻衣が愛する映画主題歌のカバー。チャールズ・チャップリン『モダン・タイムス』からの「スマイル」と、1960年代英国ラブコメディ映画の古典『アルフィー』の主題歌という、王道ながらちょっと渋めの選曲がいい。そしてもう一つのハイライトは、新曲「My way」を披露したこと。“ここまでの15年間を振り返って、またここから、自分にしか歩むことのできない道を”というMCが、歌詞の内容をそのまま表している。これまでで一番緊張感高く、凛とした表情で歌う姿がとても美しい。

休憩後、第二部の衣装は白を基調とした清楚なロングドレス。ハンドベルの神聖な音色が胸に染みる「SAFEST PLACE」や、グロッケンシュピールの澄んだ響きが美しい「白い雪」など、アレンジの妙が冴えわたる。ゲスト・ヴァイオリニストの松本蘭が、ノスタルジックな和風音階を奏でる「儚さ」の、才色兼備の競演は華麗のひとこと。今回のセットリストはほぼバラードのみの構成だが、技巧を凝らしたアレンジと、1曲ごとにていねいに気持ちを織り込む唯一無二のエアリー・ボイスのおかげで、飽きるという感覚とはまったく無縁だ。


終盤は「Secret of my heart」「Reach for the sky」など、過去2回のシンフォニック・ライブでも歌ってきた定番曲を2曲続けて。圧巻は、パイプオルガンが荘重に奏でるバッハ「トッカータとフーガニ短調」からラスト・チューン「Love, Day After Tomorrow」へ、オーケストラ、パイプオルガン、歌が一体となった壮大なフィナーレ。曲調はスローだが、力強くうねる弦楽器の高まりは、どんなロックバンドも及ばぬほどにパワフルに心揺さぶる迫力だ。

アンコールは、この日唯一のアップテンポ「Wake me up」を、高らかにさわやかに。ラストを飾る「always」で、客席から自然発生的に沸き上がった拍手は、まるでウィーン・フィルのニューイヤーコンサート、「ラデツキー行進曲」の拍手を思わせるような、愛情あふれるもの。見ているこちら側にも、当日の会場のあたたかい空気感が伝わってくる。


2016年の倉木麻衣の活動は、1月7日のレコ直配信限定シングル「Serendipity feat. Sensation」のリリースから、すでにスタートしている。ライブの中で、“2015年は制作の年”と語っているということは、今年はきっとリリースの年になるはずだ。デビュー15周年を超えて新しいシーズンを迎えた倉木麻衣が、次にどんな世界を見せてくれるのか。『Mai Kuraki Symphonic Live -Opus 3-』を見ながら、楽しみに待っていたい。

取材・文◎宮本英夫



◆倉木麻衣 オフィシャルサイト