【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】第39回『ちょっと7インチ!その(1) ~Paul Simon / American Tune~』

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D.W.ニコルズの鈴木健太です。

昨年2015年はバンドが結成10周年を迎えて忙しかったり、一昨年の暮れに引っ越して以来、大量のレコードがダンボールに入ったままだったり、オーディオを一新したりと色々ありまして、しばらくレコードをちゃんと買えてなかったというか、あんまりレコード屋へ行けていなかったんです。

でもようやく色々と落ち着いてきて、先日久しぶりにレコード屋で隅から隅まで漁るってことができました。

LPも7インチもしっかり漁ったところ、ちょっと面白い7インチに何枚か出会えたので、今回から数回に分けて、ちょっと短いスパンで書いていこうかと思います。

まず今回は、その中からポール・サイモンの1973年のシングル「PAUL SIMON AMERICAN TUNE / One Man’s Ceiling Is Another Man’s Floor」のUSオリジナル7インチを取り上げます。

またポール・サイモン……。とことん僕は偏ってますね(笑)。
さてそれでははじめてみましょう。

1973年のアルバム『There Goes Rhymin' Simon(邦題:ひとりごと)』からのシングルカット、「American Tune(アメリカの歌)」。B面は「One Man's Celing Is Another Man's Floor」。

「American Tune」はソロになってからのサイモンの曲の中でも屈指の名曲。僕にとっては、子どもの頃から数え切れないほど聴いて慣れ親しんできた大好きな曲です。この7インチは盤質も良くて嬉しかった。COLUMBIAのカンパニースリーヴも付いています。




ジャケットの無い7インチ。国内盤やヨーロッパ盤などにはよく7インチ用の薄い紙のジャケットが付いていますが、US盤には基本的にそういったジャケットの類はありません。レコード盤が直接「カンパニースリーヴ」と言われるレコード会社のロゴが入った紙のインナースリーヴに入っているだけです。ただ、薄い紙でできているので傷みやすい。そのため古い7インチでは紛失されてしまっていることも多く、カンパニースリーヴの有無は価格にも影響があるようです。そしてこのカンパニースリーヴがまた年代によって異なり、それぞれの年代の洒落たデザインになっていて当時の雰囲気を醸し出すのに一役かっています。価値云々は置いておいて、付いていると嬉しいものです。

70年以降のCOLUMBIAのUS7インチは恐らくこのデザインがオリジナルと思われます。






幼少期から慣れ親しんだこの曲も、7インチで聴くのは初めてのこと。
ワクワクしながら針を落とすと、まず「ん?何か違うぞ」と思いました。僕がずっと聴いてきた「American Tune」とは何かが違う。……なんと出だしからパイプオルガン(?)が入っているのです。僕が聴いてきた「American Tune」はLPバージョンで、歌とアコギの弾き語りとベースで始まり、それがしばらく続くバージョン。それが染み込んでいる僕にとってはなかなかの違和感でした(笑)。最初からオルガンが入っているのといないのとでは大きな大きな違い。LPバージョンの歌い出しの素朴さとそこからジワジワと盛り上がり広がっていく雰囲気がとても好きだったので、ちょっとガッカリすらしてしまいました。

でもよくよく考えてみると、1973年のローリングストーン誌の人気投票で1位に選ばれたり、アメリカの独立200年の記念イベントで歌われたりと高い評価と支持を得ているこの曲。当時一般的に耳にされていたのはこのシングルバージョンのはずなんです。ということはつまり、多くの人にとってこのシングルバージョンこそが「American Tune」なのです。

そしてバッハの「マタイ受難曲」を元にサイモンが歌詞をつけて歌ったこの曲が、本国アメリカで第二の国歌と言われたこともあるほど支持された理由は、何より歌詞にあるようです。

しかしそれにしてもイメージがかなり違うという印象でした。
シングルバージョンではオルガンが入っていることで最初から音の隙間が少ない分、後半へ向けてのジワジワとした盛り上がりがあまり感じられません。それと、そもそもミックスが違うの か、7インチならではのパンチのある音質によってなのか、途中から入ってくるドラムがけっこう主張してきます。LPバージョンでは基本的にドラムは後ろの方で鳴っ ているという印象だったのですが、シングルバージョンではしっかりドラムが聴こえてくる上に特ににバスドラムの主張が強くて、なんだかサイモンの歌の素朴な雰囲気とちぐはぐな気がしてしまいます。

ただしそうは言っても、シングルバージョンもそれはそれで良いのも事実だし、7インチの押しの強い音像の「American Tune」もなかなかオツではあります。でも僕は、曲のイメージに合っているのはどうしてもLPバージョンの方だと思ってしまいます。それはただ慣れ親しんできたからという理由だけなのでしょうか……。

LPとシングルでバージョンが違うというのは今も昔もよくある話。シングルはラジオやテレビでふと流れたときに耳につきやすいように、より派手にアレンジされ るということが多いもの。また、素朴に始まってジワジワと最後へ向けて盛り上がっていくアレンジが生きない可能性も高い。そう考えると、出だしからオルガンを入れて耳触りよく隙間を埋めておく、というのは理にかなっているのかもしれません。

まあ何にせよ、この7インチを掘り当てたからこそ聴くことができたシングルバージョンの「American Tune」。これに出会えたのはファンとしてとてもとても嬉しいことでした。

7インチはこういうことがあるからまた楽しいのです。だからLPで持っている曲でも、好きな曲なら7インチで見つけたらついつい買ってしまいます。

夜な夜な、或いは休日の昼下がりなんかに、珈琲でも飲みながら7インチを次々に聴いていく、というのもとても幸せな時間の過ごし方です……。

さて次回も7インチを取り上げます。

オリ盤探求の旅はまだまだ続くのであります。

text and photo by 鈴木健太(D.W.ニコルズ)

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