Ken Yokoyamaがキャリア二度目となる日本武道館公演<DEAD AT BUDOKAN RETURNS>を3月10日に開催した。

◆Ken Yokoyama 画像

2008年1月13日に<DEAD AT BUDOKAN>と題した初武道館公演を行ったKen Band。実に8年ぶりとなった今回の公演は、2015年9月末からスタートしたニューアルバム『Sentimental Trash』を携えた全国ツアー<Sentimental Trash Tour>のファイナル公演として、アリーナがブロック指定のスタンディング形式という実にKen Bandらしいスタイルで実施された。

個人的には今回の武道館公演に対して、大きなテーマが2つ見え隠れしていたように思う。ひとつは、Ken Bandおよび横山健の今後だ。横山はライブ特設ページに下記のメッセージを寄せていた。

「今回、再び武道館に戻れることになって、言葉以上に嬉しさを感じていますが、「I Won't Turn Off My Radio」の歌詞にある通り、だいぶ遠くまで来てボロボロになった自分を実感してます。

恐らくオレがなにを言いたいか、もう皆さんに察していただけたと思います。

できれば多くの方に、都合をつけて観に来てもらいたいです」

2010年に開催された大規模ワンマンライブ<DEAD AT BAYAREA>の際に、横山は「きっとこれが最後の大舞台だ」と感じつつも、その一方で「武道館にはいつか戻りたいなぁ…」という思いがあった。そんな中でいろんなタイミングが重なり合って実現した今回の<DEAD AT BUDOKAN RETURNS>。2016年3月3日に更新された『横山健の別に危なくないコラム』でも横山は「この武道館の良し悪しで今後のKen Band は大きく左右されるだろう。Ken Bandというか……まぁ『横山健』っていう人だ。オレの存在の必然性や有効性が、この夜に大きく洗い出されるのではないだろうか?と自分自身は思っているわけだ」と述べており、そういう意味でも前回の初武道館とは大きな違いを持ったものになっていた。

そしてもうひとつは、これが東日本大震災後に行われる初の大規模ワンマンライブだということ。つまり前回の武道館公演では演奏されていない『Best Wishes』以降の楽曲が武道館で鳴らされるのだ。今の横山を語る上で、やはり震災以前/震災以降という考え方は切っても切り離せない。そういう意味でも震災からまる5年を迎える前日の2016年3月10日、彼が武道館で何を鳴らし、何を発するのか、個人的には大きな注目を寄せていた。

さて、前置きが長くなってしまったが、ここからは当日のライブの様子を紹介していく。

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平日の18時半開演にも関わらず、会場は早くも満員状態。ゲストのSLANGのライブが始まる頃には、スタンディングエリアのアリーナはほぼ人で埋め尽くされ、血気盛んな観客たちがこれから始まる歴史的瞬間を今か今かと待ち続けていた。そして18時半、暗転と同時に場内にはサイレン音がけたたましく鳴り響く。するとメンバーが1人、また1人とステージに上がり、会場は大歓声に包まれる。そのままKO(Vo)の絶叫にあわせて、バンドは重く激しいファストチューンからライブをスタートさせた。思えばSLANGが武道館のステージに立つという事実、これも「震災以降」の横山だからこそなし得たことなのかもしれない。しかし、そんな感傷的な思いとは裏腹に、SLANGは曲間もなく矢継ぎ早にファストチューンを連発。ときにはスローダウンして重々しいヘヴィナンバーを叩きつけ、マイペースにライブを進行していった。

数曲終えた後、KOは「SLANGです、よろしく。今日はありがとうございます。皆さん、<DEAD AT BUDOKAN RETURNS>おめでとうございます」などと簡単な挨拶を済ませると、演奏を再開。最初こそKen Band目当てだった一部の観客はキョトンとしていたものの、ライブが進むにつれて会場の熱気は高まっていき、「Black Rain」や「何もしないお前に何がわかる 何もしないお前の何がかわる」といった楽曲が披露されるとフロアにモッシュピットが発生し、クラウドサーファーも続出した。こうして約20分にわたるSLANGのライブは終了。SLANGは武道館という特別な場所でもいつもどおりのスタイルを貫き通し、その存在感をアピールすることに成功した。





その後、転換時間に突入すると、ステージではKen Bandの楽器セッティングが始まる。ドラムセットやギターアンプ、マイクなどが設置されていく中、黒幕が垂らされた武道館のステージ後方には、いつもどおり小さな手書きのバンドロゴが貼られている。特別な場所でいつもどおりのライブ。『横山健の別に危なくないコラム』で「今回の武道館は特別なサプライズ的なこともなく、普通にやるつもりだ」と事前に告げていたとおりのステージセットだ。いかにもKen Bandらしいくて、思わずニヤッとしてしまった。



そして会場が再暗転……するも、ステージ含め会場は再度若干明るめになり、ステージ袖からメンバーが登場する。Minami(G)、Jun Gray(B)、Matsuura(Dr)、そして横山健(Vo, G)……は首から風呂敷をかけて陽気な様子だ。『妖怪ウォッチ』のキャラクター・コマさんを意識したその出で立ちに、会場は早くも沸き上がる。そして風呂敷を下ろし、愛器The Kenny Falcon Jr.を抱えて「よく来てくれた、ブドーカン! Ken Band、8年ぶりに戻ってきたよ!」と告げると、そのまま「Maybe Maybe」からライブをスタート。と同時に、フロアの観客は一気に前方へ押し寄せ、モッシュ&クラウドサーフの嵐、さらに大合唱まで沸き起こる。いつの間にかステージ後方の暗幕が波や花びらをモチーフにした和風バックドロップへと変わっており、Ken Bandの晴れ舞台を演出。オープニングからクライマックスかと思うほどの盛り上がりを見せた観客は、続く2曲目「Save Us」、3曲目「Mama, Let Me Come Home」とさらに勢いを増していく。これが初武道館ライブとなるMinami、Jun Gray、Matsuuraも気持ち良さそうに演奏を続けており、その姿は普段ライブハウスで目にする彼らと何ら変わりはない。しかしその目線をステージから客席に向け直すと、そこには1万人を超える熱狂的なオーディエンスの姿が。横山はそんな観客の姿を目にして、他のメンバー同様に嬉しそうな表情を浮かべ、改めてKen Bandの4人で向き合ってから「Last Train Home」を演奏し始めた。

4曲終えると、横山は武道館の客席を見渡しながら「やっぱ絶景だなぁ。8年間ずっと待ってました。これは横山健のライブです。コマさんの話も下ネタも楽しんで帰ってください(笑)」と茶目っ気たっぷりに語り、そこから最新作のオープニングナンバー「Dream Of You」をプレイした。続く「I Don't Care」含め、最新アルバム『Sentimental Trash』の楽曲はKen Bandの音楽性の幅を広げただけではなく、ライブの雰囲気もさらにピースフルなものへと進化させた。しかもこれらの楽曲を武道館という大舞台で鳴らすことで、それぞれの楽曲が持つパワーと普遍的な魅力がより強まったのではないかと、個人的には感じている。



「This Is Your Land」を演奏する前には、横山が日の丸の旗を両手に高く掲げると、観客も持参したさまざまな国旗やフラッグ、タオルなどを高く掲げる。そして「次は土地にこだわった曲をやるわ」の合図とともに「This Is Your Land」へと突入すると、観客は拳を高く挙げてKen Bandのパワフルな演奏に応える。さらに「横山健そのものを表した曲やるわ。ゆっくり体を揺らして楽しんでくれ」と、最新作からブルースナンバー「Yellow Trash Blues」を披露。こういった楽曲が加わったことで、今のKen Bandのライブは以前よりも緩急のつけ方がダイナミックになったように感じる。また曲中に聞かせる横山のギタープレイもよりエモーショナルさを増し、楽曲の説得力はさらに強まっている。そんな新境地を感じさせる楽曲のあとに、普段のライブハウス同様に1万人以上もの観客から聴きたい曲のリクエストを募るのだから、大物すぎるというか天然というか、ただただ呆気にとられるばかりだ。





このパートでは横山が「Jun Gray兄さんを武道館に連れてきたかったんだよ!」と、51歳にして初めて武道館でライブを行うJun Grayを紹介。さらに「まっちゃんは若いから、この先まだ可能性があるかもしれないじゃないですか」とMatsuuraを諭してから、Minamiに対しても「Minamiちゃんを武道館に連れてきたかった」と感慨深げに話す場面もあった。そんな胸に沁みるやり取りを経て、観客から募ったリクエストから選んだ曲をメンバーに告げた横山は、1stアルバム『The Cost Of My Freedom』から「Running On The Winding Road」をプレゼント。この意外な選曲に喜ぶ観客だが、続くもうひとつのリクエスト曲のイントロが流れた瞬間、会場の空気は一変する。Ken Bandが演奏し始めたのは、Hi-STANDARDの代表曲のひとつ「Stay Gold」。8年前の武道館では演奏されなかったこの曲が鳴らされると、会場からはこれまでとは違った歓声とどよめきが鳴り響いた。そしてモッシュ&クラウドサーフはより勢いを増し、スタンド席の観客までもがそれに匹敵する盛り上がりを見せた。ほんの2分前後の出来事だが、武道館が何か大きな渦に巻き込まれたのを感じた人は多かったのではないだろうか。横山は演奏後、この曲をリクエストから選んだ理由について「Hi-STANDARDはまた最近、ちょいちょいライブをやったりスタジオに入ったりしてるから別にKen Bandでやる必要はないのかもしれないけど、でもこうやって武道館で鳴らす『Stay Gold』っていうのはきっと初めてだと思うんだよな。やれてよかったよ」と思いを吐露した。



ライブもいよいよ後半戦へ。横山はギターをつま弾きながら「今日はHi-STANDARDを知らずにKen Yokoyamaから入った人もいっぱいいると思うんだよね。Hi-STANDARDを覚えて帰って。そしてHi-STANDARDから入って、俺のことを追いかけてくれてる人たち。両方生きてます!」と話すと、「きっとこれを聴きに来たんじゃないかな……自分がキャリアを更新している証、そういう曲をやるわ」と最新シングル「I Won't Turn Off My Radio」を歌い始める。すると横山にあわせて客席からも大合唱が沸き起こり、バンド演奏が加わったと同時にステージの暗幕が降り、そこには巨大なLEDスクリーンが。メンバーの姿が映し出されたそのスクリーンを背に、Ken Bandは先ほどの「Stay Gold」にも匹敵する熱い演奏を聞かせ、会場も90年代と現在のアンセムの連発に興奮を隠せない様子だ。まさにクライマックスと呼べるひとときを経てもなお、Ken Band、そして観客の勢いは衰えることはなく、続く「Ten Years From Now」でもアリーナにはクラウドサーファーが続々と会場前方へと転がっていく。

曲のちょっとした合間に観客から「健さん、ありがとう!」という声が飛び交うと、横山も「こちらこそありがとう!」と返す。そして今日のライブで一緒にステージに立ってくれたSLANGに対しても拍手を求めると、「(Ken Bandの)3人もここに立たせてあげたかったけど、KOちゃんもここに立たせたかったんだよ」と告げるてから、「少しだけ時期が早いけど」と「Cherry Blossoms」を勢いよくプレイ。「We Are Fuckin' One」では再び会場中でさまざまなフラッグが掲げられた。さらにバラードナンバー「A Beautiful Song」では客席が煌びやかな照明で包まれ、この特別な時間が終わりに近づいていることを感じさせた。



「この倍くらいやりたいけど、もうちょっとで終わりの時間でね。またやりたいな?」と少し残念そうな横山。続けて「なんか不思議な気持ちになってきたよ。次の曲をやらなきゃって思うんだけど……降りたくないんだよ、ステージを」と素直な気持ちを告げ、「Walk」「Punk Rock Dream」といった楽曲を連発した。さらに「武道館がオールスタンディングでやれるんじゃないかと聞いて、最速でお願いしたら今日(3月10日)だったのな。明日であの日からちょうど5年。たまたまなんだけど、何かストーリーがあるんじゃないかって気になってくるよな? でも、東北の人から同じようなメールを何通かもらってさ。3月11日が近いんだから、3月10日は来れないっていうんだよ。俺は明日で5年経つから、その1日前の今日にやるってことになんとなくストーリーを感じてたけど、それどころじゃない人がいっぱいいるだよな。ちょっと考えてなかったなと思って……」と現在の複雑な心境を正直に語ってから、「震災後のパンクスの歌を聴いてくれ!」と「Ricky Punks III」を歌い始めた。最初こそセンチメンタルな空気が漂ったものの、演奏が激しくなると同時にそれを吹き飛ばさんばかりの盛り上がりで、観客は横山の思いに応えた。そして本編最後には「いつもはマイクを客席に投げるんだけど、武道館では危ないからって止められて。今日は守っただろ?(笑)」と話し、自身のマイクを客席のほうに向け観客の大合唱から「Believer」をスタートさせた。バンドも観客も余力をすべてぶつけ合うかのように、会場はさらに熱を帯びていく。そして盛大な大合唱とモッシュ&クラウドサーフとともに、武道館公演は終了。「サンキュー、ブドーカン! またすぐ会おう」と挨拶して、Ken Bandの4人は笑顔でステージを後にした。


しかし一度燃え上がってしまった魂をすぐに冷ますことができない観客は、アンコールを求めるハンドクラップを続ける。するとKen Bandの4人はステージに再登場し、「ありがとう、もうちょっとやるわ!」と告げる。ステージ上手に座り込んでギターを弾きまくる横山が、アンコール1曲目に選んだのは「How Many More Times」。観客は高らかに拳を挙げ、ステージ上のバンドに向けて笑顔を送り続ける。そして「最後にKen Bandのテーマソングをやって帰るわ。ここにいる人たち、もし機会があったら次にやる曲で(横山が)こんなことを歌ってたよってことを、周りの奴らに教えてあげてくれないかな。そうやって日本のロックは続いていくんだろ? 続けていこう、つないでいこうって曲をやるよ」と叫び、「Let The Beat Carry On」に突入。「Believer」同様に観客の合唱から始まったこの曲でこの日、何度目かのクライマックスを迎えて、アンコールは大盛り上がりのうちに幕を下ろした。

だが、それでもその場を動こうとしない観客を前に、再びステージに現れた横山は「くそーっ、サイコーだな(笑)。もんげー!」と絶叫。「会場を明るくして、ハッピーにスカダンスをして帰ってくれ」と、会場の明かりがついた状況かで正真正銘のラストナンバー「Pressure Drop」を披露する。ステージ上はもちろんのこと、1万人以上もの観客が集まった会場中からもハッピーな空気が充満する中、みなが思い思いのダンスで今の気持ちを表現。こうして2時間以上におよぶ<DEAD AT BUDOKAN RETURNS>は、笑顔に満ちた素敵な環境下で終了した。



「2016年3月10日。Ken Band、SLANG、そして君ら。また会いましょう!」と挨拶をしてステージを降りた横山。最初に挙げた2つのテーマを通してこのライブを振り返ると……きっとKen Bandは近い将来、再びこの武道館のステージに戻ってくるのではないか。ここをひとつの通過点として、またさらに精力的な活動を続けてくれるのではないか。そう思えてきた。もちろんこの先、今までのようなペースでライブ活動を続ければ年齢的にも困難が生じることになるだろう。しかし、それでも自分自身と向き合い、闘い、みんなとの約束を守る……横山健はそういう男だと信じている。そして震災を経ての武道館公演、震災後に制作された楽曲が大きな日の丸の旗の下で鳴らされたこと。個人的には3月10日という日に開催されたこと含め、改めていろんなことを考えさせられた。もちろんそれはネガティブな感情ではなく、個人的には気を引き締め襟を正す大きなきっかけになった。あの日会場にいた皆さんはどうだっただろうか?

先に書いたように、この二度目の武道館は横山健、そしてKen Bandが今後も活動していく上でのひとつの通過点にすぎない。Ken Bandは早くも4月末、<ARABAKI ROCK FEST.16>のステージに立つ。まだ次のツアーは決まっていないが、恐らく年内には何らかのアクションを起こしてくれるはずだ。彼らがあの武道館で得たものをどう消化して、次につなげるのか。その答えは、今後のステージで見せてくれることだろう。

取材・文◎西廣智一
撮影◎Teppei Kishida/Yuji Honda/Jon

■Ken Yokoyama<DEAD AT BUDOKAN RETURNS>
2016年3月10日@日本武道館セットリスト

【SLANG】
01.十二月ノ業
02.黒煙の輪郭
03.焼却炉
04.SCUM
05.BLACK RAIN
06.SWINDLE
07.何もしないお前に何がわかる 何もしないお前の何が変わる
【Ken Yokoyama】
01. Maybe Maybe
02. Save Us
03. Mama, Let Me Come Home
04. Last Train Home
05. Dream Of You
06. I Don’t Care
07. Your Safe Rock
08. This Is Your Land
09. Yellow Trash Blues
10. Running On The Winding Road
11. Stay Gold
12 I Won’t Turn Off My Radio
13. Ten Years From Now
14. Cherry Blossoms
15. We Are Fuckin’ One
16. I Go Alone Again
17. A Beautiful Song
18. Walk
19. Punk Rock Dream
20. Ricky Punks III
21. Believer
encore
22. How Many More Times
23. Let The Beat Carry On
24. Pressure Drop


■6thアルバム『Sentimental Trash』

2015年9月2日発売
PZCA-73 ¥2,190(税抜)
01. Dream Of You
02. Boys Don't Cry
03. I Don't Care
04. Maybe Maybe
05. Da Da Da
06. Roll The Dice
07. One Last Time
08. Mama,Let Me Come Home
09. Yellow Trash Blues
10. I Won't Turn Off My Radio
11. A Beautiful Song
12. Pressure Drop

◆<DEAD AT BUDOKAN RETURNS>特設サイト
◆Ken Yokoyama オフィシャルサイト
◆PIZZA OF DEATH オフィシャルサイト