【インタビュー】THE NEATBEATS、「ロックンロール」っていう言葉は選ばれし者だけが使えるワード

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── 洋楽カバー・アルバムを作るときって「この曲は誰でも知ってるから入れておこう」と考えるミュージシャンの方もいると思うのですが、そういうことは考えてなさそうですね。

MR.PAN:普通にロックをやっているバンドがカバーをやるとなると絶対選びがちなのが、なるべく有名な曲をやると思うんやけど僕らの場合は「当時のバンドがよくカバーしていた曲」で、それイコールヒット曲じゃなくて。60年代初期のバンドが良くやっていたであろう曲、という選び方ですね。

── アレンジは忠実に再現しているんでしょうか。

MR.PAN:曲によっては、忠実に再現しようというのもある。カバーというよりはリアルな再現というノリの方が大きいかな。

MR.GULLY:昔のビートバンドってレコーディングの時間が短かったから、オケが間違ってるやつとかもあるんすよ。そういうのも聴いてて発見したりできるんで面白いですね。

MR.LAWDY:「ここ、ベースライン間違ってる」とかね。

MR.PAN:「そのベースラインを間違えたままやるのかそれとも戻すか?」というのは議論したりする(笑)。あとは、“原曲はアメリカのR&Bの人やけど、やりたいバージョンは誰々のバージョン”とか、どのバージョンが一番カッコイイかを考えてね。自分たちにピッタリ合うのは長くやってるからわかるので。今回はそれに加えて今までやったことのないテイストに挑戦しました。例えば、バート・バカラックのバラードなんかは、こういうロックンロール・バンドはあんまりやらないから。60代以上の人はこれを聴いたらすごく喜ぶと思う(笑)。

── もちろん、60歳以上の人だけでなく若い人にも聴いてもらいたいと思うんですが(笑)、実際ニートビーツのライヴには若いお客さんが多いですよね。

MR.PAN:そうだね。来てくれるお客さんは、たぶんそういうかっこいいと思うポイント、例えばベンチャーズとシャドウズを比べるわけではないけど、「僕らはシャドウズの方ですよ」っていう感覚のノリとか、エルヴィス・プレスリーとクリフ・リチャードだったら「クリフ・リチャードの曲をカバーするのが僕らです」みたいなことをわかっている人たちが多いんじゃないかな。

MR.LAWDY:クリフ・リチャードはバックをシャドウズがやっていたりとか、イギリスのバンドはソロ・ボーカルの人でもバックバンドがめちゃめちゃビートの人が多くて。

MR.PAN:あれは面白いよね。フロントがすごく有名なポップ歌手だけど、バックバンドはマージービートのロックン・ロールの効いたバンドというか。そういうノリが面白いなと。

── 今回はメンバー以外にもミュージシャンが参加しているんですか?

MR.PAN:ホーンは、昔から参加してもらっていたサックスの佐田(智)君で、それとメルシーズというバンドをやってたボーカルのAKANEに2曲歌ってもらってる。まさにイメージとしては、ポップ歌手に俺らがバックバンドでついたノリでやっていて。(「AKANE WITH THE NEATBOYS」名義で7インチも発売している)これはビートルズが最初にトニー・シェリダンとやってたときに、「ビート・ブラザーズ」という名義で出したノリ。

MR.GULLY:AKANEちゃんはもうMR.PANの一番弟子ちゃう?

MR.PAN:唯一女子で、マージービートって言ってる子で。まだ20代なんやけど、たぶん日本で唯一くらいちゃうかな。

── 「YAKETY YAK」(ヤキティ・ヤック)はデュエットっぽいですが、誰と誰が歌っているのでしょうか?

MR.PAN:これは、MR.LAWDYとMR.GULLYが歌っていて。コースターズというバンドの曲で、もともとボーカルグループだからみんなでデュオで歌うというスタイルがあって。マージービートで歌うのであれば、デュオ・ボーカルというのはマストな感じで、1つのマナーみたいな感じですね。

── そういう、誰のカバーかというのはCDのライナーノーツにMR.PANさんが書いているわけですけど、これは読み応えがありますね。ライナーを書くにあたって改めて調べたりしたんですか?

MR.PAN:思い出して書いてるのが多いかな。僕の中ではメジャーな方を選んでいて、そんなにすごくレアな曲を選んだ感覚も別にないんだよね。でも感覚のズレって聴く人にもあると思うから、「この曲はじつは隠れた名曲なんですよ」ということを説明できればなと思って。意外とみんな難しいことを考えるから、それを「あ、この人こういう人やったんや」というのを、なるべくわかりやすいように説明した方が入りやすいだろうなと。原曲を聴いてくれたらこちらとしては嬉しいけどね。

── 「HE'S SURE THE BOY I LOVE」の曲解説に、「リリース名義は「ザ・クリスタルズ」となっているものの、実際の録音は影武者役として「ダーレン・ラヴ・アンド・ザ・ブロッサムズ」が演奏を担当した」とありますが、こういう情報ってどうやって知るんですか?

MR.PAN:これはフィル・スペクターのマニアならみんな知ってる話なんですよ。フィル・スペクターがプロデュースしている作品というのは、結構そういうありえないことが多くて。

MR.GULLY:MR.PANが読んでいるフィル・スペクターの本があって、僕も持っているんですけど、全然読み進まないですね(笑)。何回もぺージを戻って「待てよ、これはこれで…」とか読み返して。大瀧詠一さんが監修しているやつで、すごく細かいんですよ。

MR.PAN:大瀧さんも山下達郎さんもそうだけど、結局フィル・スペクターの遺伝子みたいなものはこっちのポップスにもあるはずで。

MR.GULLY:そうそう。絶対日本人に合うはずだよね。

── ちなみにフィル・スペクター役をアル・パチーノが演じているテレビ映画『Phil Spector』って日本では未公開ですよね?

MR.PAN:ね? ああいう作品こそ日本でやれば良いのにね。

── 『黄金のメロディ マッスルショールズ』や『キャデラック・レコード』なんかは日本でも公開されて人気ですもんね。ああいう映画はみなさんにとっては嬉しいんじゃないですか?

MR.PAN:やっぱりスタジオとか映るからね。当時の現場記録とかを見ると楽しいね。

MR.GULLY:でもMR.PANは「あれは甘い」とか「あのマイクはあの時代にはない」とか、そういう楽しみ方をしているから(笑)。

MR.LAWDY:「あの時代のリトル・リチャードはこの曲をやってない!」とかね(笑)。

── 普通はミュージシャンの歌い方や見た目を再現できているかを気にして観ていると思うんですが、さすが観るところが違いますね(笑)。

MR.PAN:だから、それこそ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でマイケル・J・フォックスがギターでチャック・ベリーの曲を弾くじゃない? あの時代にあのギターはないからね。ギブソンの345は。

一同:(爆笑)。

── その説は初めて聞きました(笑)。そういうシーンでもチェックしているんですね。

MR.PAN:うん、あのギターが出たのは1956年かなんかだから。

MR.GULLY:うるさっ!(笑)。

── ニートビーツはそういうこだわりから当時の音を再現しようとしているわけですから、プレイヤーとしての技術はものすごく高いですよね。

MR.LAWDY:もう20年くらい同じことをやってますからね(笑)。

MR.GULLY:でも僕は最近思ったんですけど、当時は楽器も機材も新品じゃないですか?楽器って古い方が枯れて良い音がするから今の方がじつは良い音をしているんじゃないかなって思うときはありますね。当時のブルースマンなんかは50年の新品のストラトとかを使ってあんなにすごい音をしているわけだから、枯れてきた50年代の楽器を使ったら、じつはもっと良い音が鳴っているんじゃないかなって思いながらやってます。
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