【対談】黒木渚×柴田隆浩(忘れらんねえよ)、チクショー!と歌う道を選んだふたりの人生哲学

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チクショーチクショーふざけんな。強烈な歌詞をとことんポップで明快なサウンドに乗せたニューシングル「ふざけんな世界、ふざけろよ」(4月6日発売)で、優しくものわかりのいい歌ばかり並ぶ音楽シーンに戦いを挑む黒木渚。きわめて私小説的な世界観で、30男の生々しい喜怒哀楽を恥ずかしげもなくさらけ出し、捨て身のパンクロックを歌い続けるバンド、忘れらんねえよの柴田隆浩。共に社会人経験を持つ二人が語り合う、音楽とは、そして人生とは? 注目の異色対談!

取材・文=宮本英夫

◆黒木渚×忘れらんねえよ柴田 画像

  ◆  ◆  ◆

■黒木さんのイメージは、女神みたいな人がみんなを先導してるドラクロワの絵(柴田)
■柴田さんの歌詞を見て思うのは、少年とおじさんのハイブリッド(黒木)

▲「ふざけんな世界、ふざけろよ」通常盤

柴田隆浩:“チクショーチクショーふざけんな”っていうひと節が、いいですね。これめちゃくちゃいい!

黒木渚:初めてお話ししたのが、<MINAMI WHEEL>(2015年10月11日)ですよね。まだこの曲はできてなかったんですけど、私がMCで“チクショー!”って言ったんですよ。そしたら、終わったあとに柴田さんが来て、“あのチクショー!に本気を感じた。俺はすごく共感した”って言ってくれて。それがすごく印象に残っていて、対談できたらいいなと思ったんです。

柴田:あのMCは本当にかっこよかった! 俺は勘違いしていて、オシャレな雰囲気できれいな世界観を歌う人だという勝手な思い込みがあったんだけど、見させてもらったら、なんというか、怒っているというか。

黒木:ブチ切れてましたね(笑)。

柴田:それがただの怒りじゃなくて、誰も私を理解してくれねぇ!みたいな。義憤に近いものを感じて、めっちゃかっこいいなと。

黒木:忘れらんねえよの曲を聴かせてもらって、歌ってるものが共通している時があるなと思ったんですよ。チクショー系。


── 新ジャンル出ました(笑)。チクショー系。

柴田:バカだらけですから。世の中バカだらけ。

黒木:社会人の経験があることも共通してるし。フラストレーションがあって、それを曲の材料にできるタイプというのも共通点で、それが曲に出てるなと。ベスト盤(『忘れらんねえよのこれまでと、これから』/2016年2月24日発売)に入っている「戦う時はひとりだ」とか、「世界であんたはいちばん綺麗だ」とか。歌詞の随所に、ルサンチマン的なものがふつふつと出ている感じがして。

柴田:腹が立つことが多いんです。ちょっとしたことでイライラしてる。行列に並んでる奴を見るのが大嫌いとか。

黒木:東京に住むのに適さないじゃないですか(笑)。

柴田:ラーメン屋に並んでる奴とか見ると、聞こえるか聞こえないぐらいかの声で“……バカじゃねぇの?”って言う癖がついてる(笑)。それがこの前、間違えて、仙台のラーメン屋で並んじゃったんですよ。深夜1時にラーメン食いたくなって、そこしか開いてなかったから、しょうがねぇかって。そしたら超イライラした。もう信じられないぐらいイライラした! じゃあ並ぶなよって話なんだけど(笑)。

黒木:なりたくなかった自分になってしまった的な(笑)。でも私も、行列には並ばないです。

柴田:ね。量産型ザクになってる感じというか。一番の侮辱が“この量産型が!”という、一番なりたくないものなんですよ。

黒木:テンプレ野郎ってことですね。いますね。世の中に溢れてる。

── 怒りが、曲の原動力になることは多いですか。

柴田:ああ~、でも最近は、あんまりそれだけに流されないようにしてます。僕の怒りの表現って、偏り過ぎているというか……今の話でも、笑いは取れるけど、あんまり共感を得られないと思うんですよ。歌にする時は、極力それを避けて、どうしても出ちゃうぐらいの塩梅がいいのかなと。だから黒木さんの「ふざけんな世界、ふざけろよ」を聴かせてもらって、僕の場合は愚痴に近いけれど、“チクショーふざけんな”は全然愚痴っぽく聴こえなかった。義憤というか、“これはどう考えても納得いかない。そうだよね?”と言ってる感じがあるから。

黒木:私が柴田さんの歌詞を見て思うのは、少年とおじさんのハイブリッドみたいな。

柴田:あははは。なんだそれ。全然可愛くない生き物じゃないですか!


黒木:自分の中に少年を温存できてる男の人って、少ないと思うんですよ。どうしてもみんな大人になってしまうから。じゃなくて、ハイブリッドというか、キメラ的というか(笑)。たとえば思春期の、下半身に基づく勢いというものがあって、それで幸せの尺度を測るというすごくシンプルで純粋な部分と、あとは河島英五さん的なおじさん観も同時にあって。今流行ってるスマートな男の子たちとは別次元にいて、同性に好かれる男の人。飲み屋でおじさん同士で飲んでて、すごい楽しそう、みたいな。

柴田:確かに僕らのライブ、おじさんが多い(笑)。

黒木:そのハイブリッド感がすごい絶妙だなと思っていて。ライブに来る少年たちやおじさんたちは、同じように私小説的な愚痴をそれぞれ持っていて、柴田さんが吐き出したものに共感して、“俺もそうだよ”って言ってるんだと思う。男同士だし、一緒にチクショーって言いながら酒でも飲もうみたいな、友情に近いような感じがあるのかな?と。

柴田:ああ~。はいはい。

黒木:うちのライブはちょっと変わっていて、私がステージの上で“コノヤロー、チクショーふざけんな”と言ってるのをみんなが見てる。“渚、もっとやれ!”って感じ。

柴田:あ、そう! 今話してて浮かんだのが、中世の絵で、女神みたいな人が先導してるドラクロワの絵。あれのイメージで、黒木さんがみんなを引っ張ってる。

黒木:「ふざけんな世界、ふざけろよ」は、民衆を率いるタイプだった女が、民衆の中に飛び込みかけてるんですよ。かつてはもっと民衆とかけ離れていて、ついて来ない奴は置いていく!という感じだったのが、今回はそんなにシリアスな感じじゃなくて、もう“ウケる”って感じ。この世はふざけすぎてて、マジウケるみたいな。だから踊ろう!って。


柴田:なるほど。だから明るい、抜けのいい感じになっているのか。

黒木:なんか、鬱陶しくなってきちゃって。怒り続けるのも疲れるじゃないですか。怒りが沸点に達すると、笑いが出てきません? なんでもそうなんですよ。怖い時とか、悲しい時とか、沸点に達すると笑いが出てきちゃう。結局人生は喜劇なんだから、笑えばよくない?っていうことなんです。

柴田:かっこいいなぁ。しかもその中に女性らしさがある。黒木さんのスタイルは、ぎすぎすしてなくて、鮮やかで、あでやかで、華やかな印象があるんですよね。男が歌うと悲壮になるようなものも、華やかさがついてくる。ライブも華やかだったし。

◆インタビュー(2)へ
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